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おとをみつけるぼうけん  作者: 津山 みかり
8/8

8.みんなあつまれ

さあ、まおうをやっつけたぞ。みんな、あつまれ!ここにはみんながいる!そう、みんなが!

 二十時三十五分。

 ボロアパートの階段を登ると、見たことはないが何度も振動だけ聞かされていた音を出さないドラムセットが出されていた。

「ん? 何だ? 粗大ごみのシール……」

 そのサイレントドラムセットには粗大ごみのシールが貼られており、隣人が今日の間に廃棄して引っ越していたことを示していた。

 いよいよミュージシャンを諦めて帰郷するのか。それも人生の選択肢の一つだな。

 

 自宅に入り電灯をつけると目を疑う光景があった。



「……あれ? なんでこの絵本が今ここにあるんだ?」


 おとをみつけるぼうけん。


 テーブルの上にはA五サイズの絵本があった。おかしい。俺はこれを今日は事務所においてきたはずだ。


 なのに、なぜ――


 なんだ。


 おかしい。何がおこった。


 俺は周囲を見渡す。殺風景な部屋は何も変化はない。


 しかし、唯一感じ取れないものがあった。




 聴覚。




 冷蔵庫の音、換気扇のファンが回る音、俺の足音も何も聞こえない。


 バタバタとすがるようにリモコンを手に取るが、俺の足音も何も聞こえない。

 

 無音のリモコンでテレビに電源を入れる。


 砂嵐――

 

 チャンネルをどれだけ回しても砂嵐。


 しかも、何も――


 聞こえない。


 馬鹿な、俺の耳がいかれたのか?

 いや、そんなはずはない。急な難聴でもこんなことにはならないはずだ。


 すると俺の耳に何かが聞こえてくる。


 血液が流れる音。心臓が脈打つを打つ音。これは俺の音。


 一体、俺の身に何が起こっている?


 まさか、あの絵本か――


 俺は自分の身体をめぐる命の音だけを聞きながら、恐る恐る「おとをみつけるぼうけん」を手に取った。


 無機質なその絵本の表紙は音符を持った少年が笑っている。


 ページをめくる。何も変わりはないと思っていたが、最初の五ページまでにあった横書きの五文字目がじんわりと赤く浮かび上がっていた。


 とおいと"お"いおとぎばなし。

 ずーっと"と"おくいくにのおはなし。

 かみさま"の"とどけてくれたおくりもの。

 たくさん"な"かまをあつめてはじまるせかい。

 ひかりを"い"っぱいうけてたびだとう。

 どうくつ"や"もりやかわをこえてたんけんだ。

 おとをあ"つ"める。みんなのために。

 かなしい"こ"と、つらいことものりこえて。

 さあしん"ろ"はどっちだ。

 げんきに"す"すもう、おとのぼうけん。



 「おとのないやつころす」


 おとのないやつころす。

 これは――

 馬鹿な。そんなことがあってたまるか。


 「おと」のない奴殺すだと?


 音とは何だ?

 

 これが呪い――


 戸塚と最初に見た注意書きに書かれていた文字にハッとした。


 この絵本えほんむときはこえしてんでください。

 こころにおとひと

 をつけてきちんとこえしましょう。


 声を出して読むことがこの呪いの回避。俺はこの本を読んだとき、一切声を出さずに読んでいた。


 しかし、では、これを読んでいた戸塚と小野田編集長は――


 「お」も「と」もある。俺には「お」も「と」もない。

 

 俺の名前は池山弘樹(いけやまひろき)だ。そうか。こころにおと。

 つまり、名前に「お」か「と」がないとダメなんだ。

 今から声を出して読んで間に合うのか。しかし、俺の声は出ているのか?出ていないのか?


 絵本を最初から「声を出して」読むが、耳に何も聞こえない。これは一体どうなる――

 

 自分が倒れる感覚だけがわかった。「心音」が徐々に途切れ途切れになるのがわかる。

 

 俺は空になったキャメルのケースを握りつぶしながら、いよいよ「心音」がなくなる。


 俺の五感が消える。

 そして、何も、聞こえなくなっていた――

「みんなあつまれ」いかがだったでしょうか。

最期まで残る五感は「聴覚」だと言われています。そして、究極の無音は人を狂わせるそうです。

耳が聞こえているはずなのに、自分以外の音が聞こえなくなる恐怖もあっていいのではないでしょうか?実は各話にわずかなヒントをこめて「おとのないやつころす」の縦読みができるようにしたつもりです。(この後書きにもヒントあります)


これでこの物語は完結です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。他の作品「自転車の魔法使い」「鉄火、錆を研ぐ」「とある社畜の怪奇譚」も漏れなく頑張っておりますので、興味があればぜひご一読ください!

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