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神の再構築

玉座の間は、魔王が放つ圧倒的な瘴気で物理的に歪んでいた。



魔王の最大の強さは、その巨体と自己再生能力の高さにあった。


半端な攻撃は先程のようにすぐに再生される。


要になるのが平のガラクタのスキルであるが、

今の平のスキルでは魔王の巨体の半分を塵にして終わってしまうだろう。それではまた再生され、大きな隙を作る事になる。



イレイナは口にはしないが、そこまで予測ができていた。





ニーズホックが咆哮と共に城壁を突き破り、その巨大な巨体を玉座の間にねじ込む。


魔王は鼻で笑い、無造作に魔力を込めた拳を振るった。


ニーズホックの硬い鱗が弾け飛び、龍は悲鳴を上げて壁に叩きつけられる。


だが、それが合図だった。



「今よ、皆!」



イレイナの号令とともに、アクアが魔王の足元に触れた。大地がどす黒く変色し、猛毒の沼が魔王を飲み込む。



魔王がその毒を振り払おうと脚を持ち上げた瞬間、霧の中からフレアが幻影を織り交ぜて飛び出し、魔王の視界を真っ二つに裂く幻覚を植え付けた。




魔王が一瞬、虚空に向かって拳を振るうその隙を、巨大化したグリムが見逃さない。



トロールの怪力で魔王の胴を締め上げ、拘束する。


その間も、後方では華が癒しの光を奔流のように流し続け、限界を超えた負荷をかけている仲間たちの肉体を修復し続けていた。




「小賢しい……!」




魔王が全身から衝撃波を放つ。



グリムの肉体が弾け飛び、アクアが吹き飛ばされる。




だが、それは計算内だ。




魔王が衝撃波を放ち、守りが最も薄くなったその刹那。




イレイナは、全魔力を杖の先に集中させ、魔王の開いた口へと突撃した。




「さようなら、魔王。……私の全部、味わいなさい」




魔王は獲物を捕らえたと狂喜し、そのままイレイナを飲み込んだ。





次の瞬間、魔王の身体が内側から膨れ上がる。




イレイナは魔王の胃袋の中で、自身の魔力を限界まで超圧縮し、一点へ収束させていた。





「爆ぜなさい!」





轟音。玉座の間が光に飲み込まれた。





魔王の肉体は内部からの爆発に耐えきれず、臓腑を四散させて絶叫する。



城全体が崩落を始め、空間さえもひび割れた。




誰もが衝撃に身を歪める中、




平正夫だけは、瓦礫の雨の中で一人、ただ魔王の心臓があった場所を見つめていた。





塵となって舞い散る赤黒い肉片の中に、白く光る粒子を探す。




見つけた。





それはイレイナの構成情報。





「……再構築リ・ビルド




平の声が響く。




空中に舞う灰と微細な粒子が、磁石に吸い寄せられるように一つの形を成していく。



剥き出しの魔力、砕け散った魂の欠片を、平は神の如き権能で強引に編み上げた。




崩れる床の上、光が弾け、そこには息を呑むほど美しい、元の姿のイレイナが浮かんでいた。





彼女は驚きに目を見開き、そして涙をこぼしながら、倒れ込みそうな体を平に預けた。





「……やっぱり、あなたなら。あなたなら、私の最期を見届けて、迎えに来てくれると信じていたわ」




魔王の気配が完全に消滅し、世界を覆っていた禍々しい空気が霧散していく。







戦いの後。



スラム国王は、拘束され地面に這いつくばっていた。


彼はかつて奴隷たちを弄んでいた場所に、今度は自分自身が放り出された。


イレイナは冷徹な眼差しで、絶望する国王を奴隷たちの前に蹴り出す。


「こいつは新時代の奴隷よ。……あなたたちが味わった屈辱、思う存分返してやりなさい。殺すも、生かすも、あなたたちの自由よ」



奴隷たちの瞳に、怒りの炎が灯る。



かつての暴君の悲鳴が城内に響き渡った。


その隅で、明智と阿久田が死人のような顔で平の足元に縋り付いていた。



「平……っ、俺たちを、人間として扱ってくれてありがとう。本当に、本当にすまなかった……!」




阿久田もまた、泥に顔を押し付けて嗚咽する。


平は彼らを見下ろした。



かつてあれほど憎んだ相手だが、今の平の心には、彼らを罰する感情すら湧かなかった。ただの「過去の残滓」だったからだ。






世界に平穏が訪れ、イレイナ一行と、阿久田、明智は穏やかな風が吹く野原て皆佇んでいた。




鳥の囀りが聞こえ、花々が美しく咲き誇る。





平は華にガラクタスキルを使い、元の傲慢な少女に戻してやった。明智、阿久田と共に異世界を抜けて、日本に帰る為だ。




平和になった世界で、平もまた日本に帰る決断をしていた。




アクアとフレアは泣きながらそれを止めている。




「こっちで皆で楽しく暮らせばいいじゃーん。」




フレアは尻尾をふりながらダダをこねるが、イレイナは黙ったまま、意見をしなかった。




ただ冷静に水晶を映し、異世界から戻った後の事を説明し始める。




「これが貴方たちがいた日本という国ね。複数の学生が集団で神隠しにあう事件が続いている。と、ニュースが連日放送されているみたい。あのアホ国王のせいだわ。」




「あなた達の集団失踪も神隠しのひとつって事ね。ちなみに生還者は未だにゼロよ。」




明智が黙って頷く。




イレイナはそのまま続ける。




「この星から帰還した瞬間、貴方たちのスキルと記憶はおそらく全て消えるわ。」



「ただ、元いた場所に戻され、眠りから覚めると、きっと神隠しの生還者として扱われるでしょうねえ。」




「それで全員納得なら魔法陣を描き出すわよ?」





平正夫、明智、阿久田、そして華の四人は頷く。




イレイナにより魔法陣が展開されると、野原に亀裂が入り空間が広がる。


四人は光の向こう側に見える懐かしい日本の景色を見つめた。




背後には、涙を浮かべて見送る仲間たちの姿があるが、イレイナは最後まで涙すら見せず、冷静に腕組みをしている。





平は耐えきれず振り返り、イレイナを強く抱きしめた。




それは数ヶ月前の、ゴミと呼ばれた少年とは違う。


数多の死線と、神の力を手に入れた一人の男の抱擁だった。


 



イレイナの目から必死に堪えていた涙が零れる。




それはこの世の何よりも美しい雫であった。




二人は無言のまま深く、長く口づけを交わす。



互いの鼓動が重なり、ジュピター星での全ての日々がその一瞬に凝縮された。




唇を離したイレイナは、平の頬に手を添え、愛おしそうに撫でた。


その瞳は涙で濡れているが、誇らしげに輝いている。




「……あなた、本当に男らしい顔立ちになったわね。私の選んだ、最高の『神』よ」




イレイナは震える声でそう告げ、溢れ出る涙を指先で拭った。



平はただ優しく微笑み、3人と共に光の中へと足を踏み入れた。





フレアがその背中に向かって



「ここでの記憶無くしても、お前らちゃんと仲良くやり直せよ」



と忠告する。




振り返り笑顔で笑う四人の空間がゆっくり閉じて、





そして消えていく。






異世界の空には、平和を告げる一筋の光が差し込んでいた。









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