再会
翌朝。
カルデラの森の空気が冷ややかな朝露に包まれる中、イレイナ一行が陣を張る野原に、二つの影が歩み寄ってきた。
『大賢者』ムーと『大魔道士』メジア。
魔王軍最強の二人は、昨夜の「宴」を見てしまった恐怖で顔面蒼白だったが、それでも魔王の側近としての矜持か、震える声で告げた。
「……魔王軍、最強の二名として。あなた方に、手合わせを願いたい」
イレイナは焚き火の前で優雅に紅茶を啜りながら、小首を傾げる。
「感心ね。ねえ、素直に聞くけれど、私たちが怖くないの?」
ムーは深い溜息をつき、隠すことなく首肯した。
「……恐ろしいわい。主の魔力は、計測不能じゃ。しかし、逃げるという選択肢は我々にはない」
「そう。魔王の駒として、役割を果たして死ぬことを選ぶのね。……理解はできないけれど、その根性だけは認めてあげるわ」
「いいわ。こちらも二名で、正々堂々とお相手しましょう」
イレイナは平を指名する。
戦闘の火蓋はメジアの魔法で切られた。
イレイナに向けて放たれた闇の重力圧殺魔法。
しかしイレイナは指先でそれを弾き返し、攻撃はそのままメジア自身へと跳ね返る。
直後、ムーが再生魔法を唱え、メジアの肉体を瞬時に修復する。
この二人による「攻撃と再生の永久機関」こそが、数多の英雄を葬ってきた連携の極意だった。
ムー自身は強固な魔法結界に守られ、隙がない。
だが、この連携はイレイナと平の前では、あまりに拙い子供の遊びに過ぎなかった。
平とイレイナは毎夜の交わりで魔力と思考を完全に共有している。
互いの呼吸、思考速度、わずかな瞬きすらも連携の合図となっていた。
メジアが被弾し、ムーが再生魔法を唱えるために杖を掲げた、その僅かコンマ数秒の隙。
ムーの再生魔法が発動するより早く、平の指先がメジアに触れる。
「――ガラクタ、再構築」
魔力を根こそぎ抜かれた状態で再構築されたメジアは、糸の切れた人形のように崩れ落ち、魔法を使えぬただの肉塊へと成り果てた。
すかさずイレイナがムーの結界を指先一つで霧散させる。
結界を失い硬直したムーの胸元に、平の手が吸い込まれるように届く。
「塵になれ」
ムーの身体は、声を上げる暇もなく灰となって消滅した。
あまりに一方的な、秒殺劇。
メジアは虚ろな目でイレイナを見上げ、「殺してくれ」と懇願するが、イレイナは一瞥もせず、興味を失って背を向けた。
「魔力を持たない人形など、殺す価値すらないわ」
こうして、七魔天は全員殲滅、あるいは配下に下った。
いよいよ魔王城へ向けて、ニーズホックが咆哮とともに天へと飛翔を開始する。
一方、魔王城。
スラム国王の一行は、魔王の威圧感に足が竦みながらも、必死に和睦を懇願していた。
「このレベルの奴隷、毎週献上いたします! 我が国への進軍だけは、どうか……!」
スラム国王は地面に額を擦り付ける。
奴隷の檻に入れられた明智と阿久田は、その様子を金網越しに見ながら、ただ震えることしかできない。
自分たちが『消耗品』として魔王に差し出された事実に、人生の終わりを悟る。
しかし、魔王は鼻で笑う。
その咆哮だけで、城の壁が震える。
「……我に指図をするな。このジュピター星、全ては我の支配下にある。奴隷など、人体実験の材料にでもしてやればよい。モンスターとの配合で新たな魔獣を生むのも、退屈しのぎにはなるな」
魔王はニヤリと口角を吊り上げる。
「ちょうどたった今、七魔天が全員壊滅したところだ。新たな管理者が必要だったのだよ」
魔王が二本指を伸ばすと、スラム国王はまるで虫けらのように空中へつまみ上げられた。
「た、助けてくれぇえ! 金ならある、なんだってするんだ……!」
醜悪な悲鳴。
魔王が獲物を食い殺そうと巨大な顎を開いたその瞬間――。
城の窓を突き破り、巨大な閃光が走った。
ドォォォォンッ!!
魔王の手が吹き飛び、紫色の血が噴き出す。
空を舞うニーズホックの背から、イレイナと平正夫、そして配下たちが魔王の前に悠然と降り立った。
「……久しぶりねえ、魔王」
イレイナが不敵に笑う。
魔王は、千切れたはずの手を瞬時に再生させながら、心の底から嬉しそうに目を輝かせた。
「……よいよい、楽しもうじゃないか、イレイナ! 貴様だけは、この手でしっかり殺してやるわ!」
魔王城の玉座の間。
運命の決戦が、幕を開けた。




