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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第四章:そして何も見えなくなった
38/58

37.資料の読み込みは順調ですか?

User: TANAKA TORU [ID: JP-58D2Q7VA-C]

Date: 2030-12-11 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

15:22:38 — Incident records displayed.

15:22:38 — Vital signs within normal range.

15:22:38 — User focus confirmed. Verbal prompt deferred.

・・・

________________________________________


*****

User: HACHIYA KOSUKE [ID: JP-MZ4Q8P6A-E]

Date: 2030-07-18 (JST)

――――――――――

・・・

「――って感じでさ、蜂谷先生、あの子にどうやって告ったらいいと思う?」

「うーん、告白の言葉は自分の思いのままに言えば良いさ。そこは熱量の方が大事だからな」

「やっぱそうかぁ……」

「でも熱量が大事な時と、失言しない事は別だからな。そういう時はSOPHIAに恋愛アドバイス貰うのも1つの方法だぞ――」

・・・

「――お前、最近森咲先生と何かあったのか?学校で微妙な顔で見ていたが」

「ああ、日向ちゃんとも、ちょっと最近微妙なんだよね……」

「……また飽きた、とでも言うつもりか?どうでも良いが、学校に迷惑はかけるなよ」

「分かってるって、加賀美。そういや今日は久しぶりに『あい』ちゃんを呼ぶつもりでさ――」

・・・

――ピッピッピッピッピッピッ、ピロリ。

「ん?来たかな?…『あい』ちゃん、いらっしゃい!」

「こんばんはーハチヤさん。ご注文ありがとうございまーす」

「相変わらず可愛いねー!さ、入って入って――」

-プライバシーモードのため閲覧不可-

・・・

*****


「資料の読み込みは順調ですか?テツ先輩」

「……おう、中原。そうだな、事件の事は大体把握できたよ」


今日も今日とて目を皿のようにしながらログを眺めていたら、突然声をかけられた。

いやまぁ突然でもなく、隣のデスクで事務作業をしていた中原なのだが。それだけ集中していたという事だろう。

今日は日勤中に時間ができたから、調査に取り掛かったのだ。

そして順調かどうか、と言われると、俺としては全く順調じゃない。何も見つからない。だが表向き調査の事は言えないから、順調だと答えるしかない。


「というかそんなにログを細かく見る必要ってあるんですか?蜂谷の事件で問題になったのは、森咲の行動とデリヘルが来た時間ですよね?」

「それは結果論だ。俺達は高橋さんや鑑識が先にログを見て、『ここは関係無い』という情報を省いてもらっているから意識しなかったが、状況によっては調査が必要になったはずだ」

「まぁ、そうとも言えますね」

「だったら『なぜ関係無いと判断できるのか』、『逆にどんな状況なら関係あると言えるのか』を明確にしておく必要がある。だから一応見ていたんだ」

「……思ったより、真面目にやっていたんですね」

「『思ったより』が余計だが、当然だ。俺は私生活は胸を張れないかも知れんが、仕事は真面目にやっている。……いや多少ルーズだが、捜査はちゃんとやっているだろう。そんな目で見るな」


ちょうど良い、ひと休みしよう。中原が見ている前で、あまり堂々とログ精査はできない。

しかしやはり昼に作業すると集中度合いが違う。夜に比べて疲労も少ない。

だが昼だと周囲に人が多すぎて、見咎められる可能性もあるんだよなぁ。業務の呼び出しもあるし。


「研修資料はいつくらいに完成する予定なんですか?」

「別に急ぎとは言われていないが、時間かけ過ぎるのも良くないし、来年度の新人にも間に合わせたいしな。現実的には1月か2月頃が目処になるだろう」

「で、今は過去資料の読み込み中ってわけですね。私がお手伝いできるのはいつになる事やら」

「……ああ、そうだな、俺もさっさとその段階まで行きたいもんなんだが、何を書こうかと考え始めたら、キリがなくなってきてな」


これは本音半分、といった所だ。もちろん俺としても自分の違和感にさっさとケリをつけて、建前である研修資料作成もさっさと終わらせたい。

だが、未だに違和感の正体が掴めていない。だから先に進めない。


蜂谷のログを見返した所、桂や木本以上に発見が少なかった。当然だ、桂は事故、蜂谷は殺人。

ログ分析の細かさも、確認される情報量も比べ物にならない。

という事は翻って、再度ログを確認しても見つかる物は少ないという事だ。

先ほど得られた発見など、蜂谷が本当に学校で生徒に好かれていた、という事くらいだ。


いつまで停滞していれば、先に進めるのだろうか。

いずれは折り合いをつけて違和感を飲み込む事が必要になるのだろうか。

そんな考えも心の奥底からジワジワと滲み出て来る。


[田中様。大場様より、『今お時間ありますか?』と連絡が来ておりますが、いかがいたしますか?]


唐突に、それこそ先日の三宅事件の話を持ってきた時と同じく突然、連絡が来た。

一体何の用なのか。三宅事件はその後公式に事故として処理されたと聞いている。何か新事実でも出たのだろうか。

ほんの少し期待してしまう。


「今はちょうど作業に一区切りつけた所だから構わないが……用件は?」

[先日紹介できなかったバディを紹介したいから、だそうです]

「……ああ、なんだそういう事か。構わない、来てくれ、と返信してくれ」

[承知しました]


ダメだ、ここ数日事件の事を考え過ぎていて、懐疑的になっているな。

そりゃそうだ、三宅事件はすでに完了事件、その話を持ってくると考える方がおかしい。

仮に何か発見があったとしても、公式に口に出せないのだから、立ち話でも装って持ってくるはずだ。

思考をリセットしないと。


「田中さん、お疲れ様です。年の瀬のお忙しい所、度々申し訳ありません」

「おう、大場、お疲れ。気にすんな、ちょうど手が空いた所だった」


立ち上がって軽くストレッチをして凝り固まった身体をほぐしていた所、前回同様ピシッと制服を着こなした大場が顔を出した。

その後ろには同じく制服を来た女性を連れている。やや長めの髪を後ろでポニーテールのように結んでおり、女性にしては少し背が高い。

だが一番気になるのは、目線がやや泳いでいる事だ。


「紹介します、こちら今私がバディを組んでいる名倉澄香、今年から交通課に来た新人です」

「…な、名倉です。よろしくお願いします」

「刑事課の田中です。よろしくお願いします」

「同じく中原です。私も去年から刑事課に入った新米です、仲良くしてくださいね!」

「は、はい…」


どうやら、ちょっと気弱な所がある女性のようだ。

同性で年も近い中原はともかく、大場より更に年上である俺相手には明らかに緊張している。


「名倉、田中さんは私も過去お世話になった先輩で、頼りになる。何か気になる事があったら、相談して良い。…ですよね?田中さん」

「ああ、もちろんだ。…名倉さん、仮に思い過ごしだったとしても私は気にしないので、何か気になる事があったら、いつでも相談してください。同じ警察の仲間です、失礼とか考える必要はありません」

「は、はい!ありがとうございます!」

「すみません田中さん、ちょうど通りがかったので、ついでに紹介しておこうと思って。お時間取らせて申し訳ない」

「気にすんな。さっきも言ったがタイミングも良かったんだ」


と、そこで大場は俺のデスクのモニターに気付いた。そこには開きっぱなしだった蜂谷の情報が表示されている。


「……蜂谷浩介?あの事件は7月に終わったはずでは?」

「ああ、事件はもちろん終わったんだが、それを研修資料にしようと思ってな。情報を見返していたんだ」

「…(何か気になる事でも?三宅の件とも関わりますか?)」

「…(いや、残念ながら違う。来年の人事関係だ)」


小声で聞いてくる辺り、やはり大場もそこに引っ掛かるよな。

だが、残念ながら何も見つかっていない現状、こう返すしかない。


「そうでしたか。我々も別の事件で少し関わったので、驚きました」

「だが改めて見返してみても、女好きが確認されただけだったよ。死者に対してこう言っては何だが、動機に関しては納得するしかないな」

「わ、私も蜂谷は許せないと思いました!」


ん?突然名倉が声を上げた。だが若干声が震えているのを見るにまだ緊張しているのだろう。

頑張って自分の意見も言ってくれようとしているのだろうか。ならしっかり会話して、慣れてもらわないとな。


「確かに、色んな女性を口説いてはすぐ分かれ、男から見てもとんでもないな、とは思いました。女性の名倉さんから見たらお怒りもひとしおですよね」

「テツ先輩の言う通りです。女性の尊厳を考えない最低の行為だなと思いました。ですが個人的にはそれをどうでも良さげにスルーしていた加賀美も腹立ちましたけど」

「え、えっと、そうですけどそうじゃなくて……」


そうじゃない?てっきり蜂谷が女性をとっかえひっかえしていた事だと思ったのだが。

じゃあ、何だと言うのだろう。


「……名倉、そういえばお前、先日の事件で蜂谷の話を聞いた時も『許せません』と何度も言っていたな。何か知っているのか?」

「いえ、何か知っているとかじゃないんです。ただ――」


そして彼女が言い放った言葉は、雑談ムードだった俺の思考を一気に引き裂いた。


「ただ、蜂谷はSOPHIAを悪用していたに等しいです。しかもそれを思春期の高校生に教えていた。とても許せるものじゃありません」

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