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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第二章:闇の中の悪意と論理
21/36

20.他チームにも共有します

User: KOBAYASHI HISANORI [ID: JP-47B5Z2H8-A]

Date: 2030-07-19 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

09:34:01 — Conversation log saved and synced to server.

09:34:01 — Generating summary file.

09:34:02 — Summary file shared with relevant parties.

・・・

________________________________________


[要約ファイルの作成が完了しました。確認頂けましたら他チームにも共有します]

「詩織ちゃん、森咲日向が来る前にさらっと目を通して、何かあったら修正しておいてね。あと、森咲の聴取は君に任せるからよろしく」

「分かりました。…今は誰もいませんが、署外で『詩織ちゃん』はやめてください」


中原は再びギロリとこちらを睨んで来る。真面目だなぁ。

しかしすぐに視線を自分のタブレットに移すと、ファイルを読み始めた。しっかり者だなぁ。

あ、忘れる所だった。


「SOPHIA、備考として追記。加賀美はおそらく森咲に特別好意的な感情を抱いている。おそらく恋心。あくまで小林の感触とも付けておいて」

[了解しました。追記完了。確認してください]

「……参考までに教えて頂きたいのですが、どこからそう感じたんですか?」


今度は真剣な目でこちらを見ている。彼女は気付かなかったという事だろう。

とは言ってもこれは感覚的なものだから、口で説明するのは難しいんだよな…。


「そうだな…、詩織ちゃん、覚えておくといい。人を見るコツは、人そのものを見るんじゃなく、距離感を観る事だ」

「距離感…?」

「ああ。何にどのような距離感で接しているか。そして物理的な距離感と心理的な距離感が一致しているか。それを観るのが一番良い」


加賀美が森咲の名前を口にした時、一瞬で心の距離感が近づいた。蜂谷の話をしている時はずっと動かなかったのに、だ。

しかし表面上は蜂谷と同じ距離感を装っていた。このズレは隠している好意を意味していると考えられる。

…これはついでに、親友だと思っていたのは蜂谷の方だけだった、という事でもあるんだけど。


「…言っている事はわかりますけど、心理的な距離感ってどうやって見るんですか?」

「こればっかりは経験だねぇ」

「つまり最終的には感覚って事ですか。難しいですね」


でもこれこそがSOPHIAが代替できない、人ならではの役目ってやつだ。

並べられたデータからの合理的な正解なら、SOPHIAの方がよほど上手くできるのだから。


(だけど、それも上手くいかない事もあるんだけど)


チラリと中原を見る。彼女はタブレットに視線を戻し、確認完了の処理をしている。その整った横顔を見ながら少し考えてしまう。

偉そうに言ってみたものの、心理的な距離感が観えない人がいる。この中原詩織もそのうちの一人だ。

彼女は結構フランクに、特に田中には『テツ先輩』なんて言って接している割に、イマイチ心の距離感がどこまで近寄っているのか掴ませない。

だからわざと『詩織ちゃん』なんて呼んでみているんだけど、さっきみたいに諌めたりする割に心の動きが感じられない。


生活安全課でキャリアを積んでから大抵の人は観えるようになったつもりなんだけど、たまーにこういう人がいるんだよな。

中原だけでなく、あの捜査一課の高橋って人もそうだ。他にも数人程度出会った事がある。

そしてさらに一人――


「失礼します。…あの、教頭からここに来るように言われたのですが」

「はい、ありがとうございます。少しお話を伺いたいので、おかけください」


森咲日向が部屋に入ってきた。肩にかかる程度の黒髪に、丸顔で柔らかい印象の容姿。

自己紹介をしつつ見ているだけでわかった、彼女も”観えない人”だ。

今日だけで”観えない人”を三人も相手する事になるのか、面倒だ。厄日だなぁ。

みんなが田中くらい分かりやすくいてくれたら俺も楽なのに。


「この学校で英語教師をしている、森咲日向と申します。…あの、警察の人が何の用で…?」

「申し上げにくいのですが、昨夜、蜂谷浩介さんが何者かに殺害されました」

「……え?殺害?」

「そのため、蜂谷さんの恋人であったあなたに、お話を伺いたいんです」

「……嘘よ!そんな事あるわけない!」


森咲は大声を出し、中原に食って掛かっている。中原は冷静に宥めているが、森咲はジワジワと涙が浮かんできている。

きっと、警察が来ている事から徐々に事実を認識してきているのだろう。

…だというのに、本当にそうなのか、という疑念が拭いきれない。これだから”観えない人”は厄介なのだ。


「申し訳ありません、取り乱しました…」

「いえ、無理もありません。お気持ちお察しいたします。お辛い所申し訳ありませんが、お話を聞かせて頂けますか?」

「わかりました…」


森咲は何とか落ち着いたようで、まだ意気消沈しているものの話は聞ける態勢になってくれた。

さて、気を取り直して情報収集だな。中原と一瞬だけアイコンタクトを交わし、話を促す。


「では早速ですが、蜂谷さんとは恋人関係だったんですよね?」

「はい、今年の3月にお付き合いを始めました」


森咲が静かに語るには、彼女は去年からこの高校に赴任したばかりで、その頃から蜂谷も色々と世話をしていたらしい。

見た目も爽やかで表向き面倒見の良い加賀美に、森咲も徐々に惹かれていった。

そして3月に蜂谷から交際を申し込まれたとの事だ。


「最初は驚きましたが、私も、その…悪しからず思っていたので」

「学校では秘密にしていたんですか?」

「はい、浩介くんも『学校で知られると面倒になるかもしれないし黙っていよう』って…」


あー…多分別れた後の影響も考えていたのだろう。裏の顔を知っていると、そうとしか思えない。

中原もコメントに困っているようで、なかなか次の言葉が出ない。


「…話は変わりますが、加賀美さんについてはどうですか?」

「加賀美先生?冷静で頼りになる方、という印象です。彼は私が赴任したばかりの頃の世話係だったので色々とお世話になりましたし、浩介くんも『ドライな奴だけど頼りになる』って、親友だって言っていました。」

「彼がお二人の交際を知っていた事は、ご存知でしたか?」

「そうなんですか?…まぁ、浩介くんが話しても不思議ではないです。じゃあ、私達に気を遣って黙っていてくれたんですね。ありがたいです」


どうやら森咲は加賀美に対しては特になんとも思っていなかったらしい。逆に加賀美の方は世話係の期間中に惹かれてしまったんだろうか。

まぁ、これはどちらも俺の感覚だから、頭から決めつけるわけにはいかないが。


さて、ここからが問題だ。非常に伝えづらい事だが、言わないわけにもいかない。

中原に「俺が言おうか?」という意味を込めてチラリと視線を送ってみたが、軽く首を振り返してきた。


「では森咲さん。蜂谷さんが頻繁に性風俗を利用していた事はご存知でしたか?」

「…え?昔はよく行っていたけど、私と付き合い始めてからはやめたって…」

「言いづらいのですが、昨夜も出張風俗の方が入室しており、それが捜査上で問題となっています」

「……そう、ですか。やっぱり……」

「やっぱり?」

「なんとなく、最近彼の気持ちが私の方に向いていないな、と思ってはいたんです。表面的には変わらなかったんですが、こう、何となく遠いと言うか…」


分かる。心の距離感が離れていたのだろう。そういうのは伝わるものだ。

多分その焦りが加賀美の言っていた『態度に出ていた』に繋がっているのだろう。

そして更に『3か月も続くのは珍しい』。おそらく、蜂谷はそろそろ交際解消を考え始めていた。

ただまぁ、気持ちが離れたから風俗に手を出したのではなく、最初からずっと常習犯だったのだが。


「そういえば、蜂谷さん宅のダイニングテーブルはあなたが選んだ物なんですよね?」

「はい、ゴールデンウィークのお休みに一緒に買いに行きました。浩介くんは料理が上手なので、一緒に食べたり料理を教えて貰ったりするために」

「そして模様替えも一緒にしたとか」

「ええ…ただの嫉妬なんですけど、前の彼女も入った事あるって聞いていたので、その人達の知らない部屋にしてやろう、なんて思っちゃって…」

「いえ、自然な考えだと思いますよ」


結果的にそれが犯人を絞り込む要因になるのだから分からないものだ。

だが嫉妬心もある。ならデリヘルの事を知っていたとしたら、憎悪を向けてもおかしくない。

あの状況ならデリヘルキャストに疑いが向くのも確実だ。


「最後にあの部屋に行ったのは?」

「一昨日…7月17日の夜、泊まりに行きました。本当は今日も行く予定でした」


一昨日の宿泊ではいつも通り夕飯を家で一緒に食べ、そこから他愛もない話をしながら過ごしたとの事。

変わった事が無かったかと聞いたところ、深夜に掃除をしていたらしい。


「掃除?深夜に?」

「はい、23時半くらいに。…その、ちょっと…一緒に過ごしている時に、テーブルに置いていた飲み物を倒してしまって。ベッドの下にも零れちゃったので、全体的に拭いていました」


ああ、なるほど。心は離れていたくせに、やる事はやっていたのか。

ついでに、部屋がやたらと綺麗だったのにも納得。


翌朝は蜂谷の家から時間をずらして出勤、普段から森咲は早めに出勤しているらしく、教師や生徒からも疑われた事は無いはず、との事だ。

そして当然のように部屋の暗証番号も知っていた。

何気ない風を装って非常階段についても聞いてみたが、廊下の奥に扉がある事は知っておりおそらく非常階段だろうとは思っていたが、入った事は無いとの事。


「昨日の夜は何をしていました?」

「昨夜は加賀美先生との飲み会があると聞いていたので、行くのも連絡するのも遠慮して、家で一人で過ごしていました。多分23時半くらいに寝たと思います」

「分かりました。すみませんが、出せる範囲で、一昨日の宿泊時及び昨夜のログ提出をお願いいたします」

「…分かりました。その、恥ずかしいので、できれば見るのは女性の方にお願いします…」

「最大限配慮いたします。ご協力感謝します」


さて、森咲の聴取はこんなもんかな。あとは他の教師にも蜂谷の評判なんかを聞ければ、こちらは一旦終了だろう。


田中の方は上手くやってっかなぁ。夜の女達を相手に、井口が足を引っ張ってないといいけど。

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