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アイリスの瞳  作者: たけひろ
第二章:闇の中の悪意と論理
20/68

19.すぐに通達いたします

User: KOBAYASHI HISANORI [ID: JP-47B5Z2H8-A]

Date: 2030-07-19 (JST)

Active Module: POLICE


[LOG ENTRY]

・・・

09:01:32 — Public SOPHIA system detected: School.

09:01:32 — Connection refused.

09:01:32 — Conversation recording in progress. Shared with server.

・・・

________________________________________


「――小林さん…、蜂谷くんが殺された、という事は間違いないんですか?」

「状況的に殺人事件で間違いないと我々は考えております。そこで、何人かにお話を伺わせて頂きたい」


葵原中央高校で教頭を勤めている奥山恒夫(おくやまつねお)は、渋面で頭を抱えている。

まぁそりゃしょうがないよな、教師が亡くなっただけでも事件なのに、それが殺人ともなれば大騒ぎだ。


蜂谷浩介が働いていた葵原中央高校は、至って普通の進学校だ。

元々は違う名前の学校だったのだが、市町村合併で葵原市ができると共に名前が改められた。ちなみに俺もここの前身の出身だ。

残念ながら校長が不在だったので、一旦次の責任者である教頭に話を通している所だ。


「わかりました。ただし生徒や保護者にどのように伝えるかは校長と協議して進めますので、生徒への聴取や情報漏洩は可能な限り避けてください」

「はい、今の所は生徒さんにお話を伺う必要はありません。…SOPHIA、聴取中に教頭以外の人物が来たら警告を頼むね」

[承知しました。警察業務中に第三者の接近が確認されましたら、すぐに通達いたします]

「OK。あと、詩織ちゃんも気を付けてね」

「わかっています。…(小林さん、市民の前で『詩織ちゃん』はやめてください)」

「…(おっと、ごめんごめん)」


中原は「キッ!」と擬音が付きそうな目つきでこっちを睨み、小声で文句を言ってきた。

おお怖、最近はクソ真面目な井口と一緒だったからなんだか新鮮な反応だ。

今日は珍しく中原と一緒。田中が突然バディの交代を言い出したからだ。


どうせ『学校での捜査を見る機会』とか『女性である中原に被害者恋人の対応してもらいたい』とかだろうが、ちゃんと説明しろっての。そういう所が不愛想とか言われる所以なんだぞ。

アイツはあれで中々ちゃんと考えている奴だから了承したけど。まぁ中原もしっかり切り替えて真面目にやっているから良しとするか。


「では早速ですが、奥山教頭にも少しお話伺わせてください。蜂谷さんの校内での評判はどうでしたか?」

「そうですね…私の把握している範囲では、生徒に人気の教師だった、という印象です」

「人気?」

「ええ、男女問わず人気でしたよ」


奥山の話によると、蜂谷は見た目も良く会話も上手かったため、女生徒から人気が高かったようだ。

さらに男子生徒相手にも自身の経験を基にした恋愛テクニックを教えるなどで人気を集めていた。

女癖の悪さはしっかりと隠して、学校では明るくてカッコいい、良い教師として過ごしていたようだ。


「では殺害されるような心当たりは?」

「私は心当たりがありませんな。知っているとしたら、加賀美くんでしょう。蜂谷くんと仲良くしておりましたので。呼びましょうか?」


お、こっちから聞くまでもなく名前が出て来た。

加賀美は今日の目的の一人、これなら自然に呼び出せて好都合だ。


「ではお願いします。またその後、森咲日向さんにも話を伺いたいです」

「森咲さん…?どうしてですか?」


おっと、この反応は。


「いえ、直近で交友関係があったようなので、一度お話をお伺いしたいというだけです」

「そうでしたか、私は存じ上げず。では、お呼びしますので少々お待ちください」


奥山が部屋から出ていくのを見届けると、中原が話しかけて来た。


「…もしかして、蜂谷が森咲と付き合っていた事は、学校では内緒にしていたんでしょうか?」

「あの反応を見るにそうだろうね。少なくとも彼が知らないのは間違いないだろう」


ログでも学校では「森咲先生」、プライベートでは「日向ちゃん」と呼び分けていたから、その可能性は考えていた。

あとは同僚の人達がどう思っていたか、だが…まぁ、今はいいか。


「失礼します。教頭に言われて来たのですが」

「あ、どうぞどうぞ。呼びつけてしまってすみませんね」


と、そこで一人の男性が入ってきた。

自己紹介を行いつつ見てみると、男性にしては身長の低い、無表情な人物だ。その顔には片眼鏡が載せられている。

珍しい、片眼鏡型SOPHIAを使っている奴なんて最近では田中以外見ていないというのに。


「ここで科学教師をやっている加賀美と申します。警察が何の用で?教頭も教えてくれず」

「…単刀直入に申し上げますが、昨夜蜂谷浩介さんが何者かに殺害されました」


簡単に昨夜2時半に何者かが彼の家に侵入、殺害した事を告げた。

加賀美は軽く目を見開いたものの、ほぼ表情が変わっていない。単に無表情なだけなのか、それとも…。


「なるほど。蜂谷の急な欠勤、警察からの呼び出し。あまり良くない話だとは予想していましたが、ここまでとは…」

「お気持ちお察しいたします。そこで親友でもあった加賀美さんにお話を伺いたく」

「なぜ親友だと?…ああ、アイツのSOPHIAログか。僕としては親友の定義とは何だろうって疑問でしたけど、まぁよく話していたのは間違いありません」


友人が殺害されたってのに淡々としている。本当に仲が良かったのか?

だがまぁ男同士という事もあり、森咲にも話していない事ですら知っている可能性もある。


「まず、昨夜の家飲みと、それ以降深夜2時半頃までどのように過ごしていたか聞かせてください」

「アリバイってやつですか。家飲みは月曜から予定していて、特別変わった話もありませんでしたよ。その後は普通に家に帰って寝ていました。2時半なんて時間にアリバイがある方がおかしい…いや、トイレでも行けばSOPHIAが記録しているか。後でログを出せばいいですか?」

「はい、お願いします」

「どれくらいの時間分ですか?さすがに全部はちょっと」

「できれば飲み会から深夜3時までのログをお願いします」

「まぁいいか。分かりました」


警察はSOPHIAログを解析する権限を持っているが、無制限というわけにはいかない。市民全員にプライバシーってやつがあるからだ。

だから事件に関係ありそうな所を、あくまで任意で提出してもらうしかない。

100日間全部解析できるのは、被害者の物を押収した時や、裁判所の令状が出た時、自主的に提出して貰えた時くらいだ。


「次に、蜂谷さんが殺されるような心当たりはありますか?」

「正直に言いますが、心当たりしかありません」

「…と言いますと?」

「アイツは女癖が悪かったですから。3か月も同じ女性と付き合っているのは珍しい、という感じでしたよ」


お、これはマンション管理人が言っていた事か?


「もう少し詳しく教えて貰えます?蜂谷さんの女性遍歴について」

「そう言われても、お相手の素性までは知りません。今回はどんな女の子を落としたとか、飽きたから別れたとか聞いただけですから」

「…あなたはそれを聞いてどう思っていました?」

「別に何も。僕に実害はありませんし。『コイツいつか刺されるぞ』とか『こんな男に引っ掛かる女も馬鹿だなぁ』とは思っていましたけど」


随分と冷めた感想だ。だがまぁ、そういう所が蜂谷としても付き合いやすかったのかも知れない。

チラリと横目で見ると、中原の目が細くなっている。そりゃ真面目でしっかり者の君から見たら、蜂谷の軽薄な行動も加賀美の我関せずな態度も気に入らないだろうよ。


「『こんな男に~』との事ですけど、具体的にどういった所の事ですか?」

「どういったも何も、恋人をとっかえひっかえしている上に、特定の相手がいても風俗に毎週のように通う。そんな奴とよく付き合いたいと思うなぁと」

「身も蓋もないですね…」

「ついでに、料理上手なのも掃除をこまめにしていたのも、全部アピールのためですよ。『いつでも連れ込めるよう準備している』と自慢げに言っていましたから」


そこまで徹底しているなら一周回ってあっぱれだと思ってしまうのだが、口に出したら中原に怒られるだろうからやめておこう。

しかし蜂谷は本当に加賀美を信頼していたという事だな。ここまで赤裸々に話しているとは。


「ちなみに、蜂谷さんがデリヘルを頻繁に利用していた事をご存知でした?」

「ええ、もちろん。…ああ、まさか昨夜も呼んでいたのか、アイツ。じゃあ先に答えますが、非常階段を開けっ放しにして呼ぶのも知っています。2年ほど前、管理人が確認に来る習慣が分かったとか言って、それ以来常習犯です」

「暗証番号を教えるのも?」

「はい。暗証番号は僕も、多分過去の恋人達も知っていますよ。オートロックはさすがに開けてもらいますが、ドアは勝手に入っていいと。僕は家飲みのツマミを買いに行って戻る時とかに使っていました」

「……なるほど」


先回りして答えてくれるのは楽ではあるけど、なんだかやりにくいな。

しかしやはり蜂谷は気軽に暗証番号を教えていたようだ。

元恋人達や交友関係まで含めると、どこまで知られているのか計り知れない。


「ちなみに、今の蜂谷さんの恋人が誰なのかはご存知ですか?」

「…まぁ、ログで分かる事でしょうね。この学校の森咲先生です。3月頃に付き合い始めたって自慢してきましたから。前の彼女と別れたのは2月だってのに」


……ん?あれ、もしかして。


「学校内では知られていましたか?」

「隠していたようですが……蜂谷はうまく隠していましたが、森咲先生の方はちょっと態度に出ていたので、気付いた人はいたかもしれませんね」


へぇ、なるほど。そういう事ね。


その後は大した情報も無く、続いて森咲日向を呼んでもらう事にした。

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