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七月九日 狙われる理由②


 「なるほど。メールを読んだときはよく分からなかったが、少しは状況が見えてきたな」

 「最初からメールにそう書いてくれレバ良かったのニネ」

 「それも依頼人の指示です。協力してくれるか分からない段階の相手に、自分たちの個人情報をばらまくのは辞めてほしいと言われたのでね。もちろん、今ここにいる貴方たちには教えてもいいことになってますけど」


 依頼人の砂根兼汰。

 護衛対象の砂根稀香、そして羽田絵麻。


 まだ生きているこの三人に関してはメールに名前を記載できなかった。

 霊能力者などという怪しげな人間になるべく個人情報を渡したくないというのは自然な感覚なのかもしれない。


 「それで、砂根サンからはナニも役立ちそうな情報はもらえてないノカ?」

 「ええ。とにかく詮索せず、黙って子供たちを守りきれとの依頼です」

 「ノーヒントってわけネ。ナゼそんな依頼を請けちゃったノ?」

 「報酬額が凄かったのでね」


 率直な理由を聞かされて、リミディは大げさに溜息をつく。

 高上だって、こんなやっかいな案件と知っていればすぐに断っていた。


 「とりあえず今の話から考えられる可能性は二つあるな。一つは、高校生どもが犯罪まがいの何かをしでかして、結果として怪異の恨みを買っちまったってパターンだ。依頼人が詳細を伏せてるのは、しでかした内容を世間的に知られたらまずいからだろう」

 「きっとそうだよ。怪異の正体が雷神の類だとしたら、それが一番しっくり来ると思うな」


 照尾の挙げた一つ目の可能性に、一同が頷く、


 「もう一つは、依頼人の砂根がなにか恨みを買って、子供たちが標的になってるってケースだ。怪異に祟られたのかもしれんし、砂根を良く思わない誰かが怪異を差し向けてるのかもしれん」

 「ヤバイなソレ。そんなコトってニホンだとよくあるのカ?」

 「政界じゃ霊能力者を雇った政治家同士が、怪異の送り合いで潰し合ってるって噂もある。経済界でも似たようなことがあってもおかしくはねえよ。つっても雷を操る怪異を使役できるヤツなんて聞いたことねえから、可能性としては低いが」


 二つ目の可能性は、それまで高上の頭の中にまったくなかった。

 それでいて、確かにありえなくもないと思わせられる。


 例えば依頼人の過去の悪事かなにかで恨みを買った相手。

 例えば金銭、不利な契約締結などを要求してくる反社会的な輩。


 そういった連中から、怪異を指し向けられていたとしたら。

 そして怪異の矛先が、依頼人の娘周辺に向けられているとしたら。

 怪異に襲われるターゲットのことを依頼人が把握している点も、犯人から脅迫を受けていると考えれば辻褄は合う。


 おそらく照尾は、依頼人が資産家の砂根であるという情報をこの場で聞いただけで、そういった可能性に思い至ったのだろう。


 「まあ正直、そのあたりの背景はどうだっていいさ。依頼人が自分たちに不都合な事実を伏せてくるなんてのは、この業界じゃ珍しくもなんともねえしな。狙われる理由が把握できねえと対策しづらいが、それでも仕事のやりようはある」


 ベテランの照尾が周囲を鼓舞するように見回す。

 続いて権藤も、それに賛成とばかりに立ち上がる。


 「そうだよ。今回は照尾さんと私がいるわけじゃん。油断さえしなければどんな正体不明の怪異が相手でも、そうそう敗けないはず!」

 「さすが期待のニューカマー。頼もしいネ! ジブンもそこそこ頑張るヨ!」


 自信に満ちた権藤の言葉に、リミディも呼応する。

 それをみて高上は、幾分と気が軽くなるのを感じた。


 怪異の全容が現時点で全く見えないのはやはり不気味である。

 だが、要は討ち祓えればいいのだ。

 照尾と権藤が協力してくれる以上、失敗する確率は低いはずだ。


 特に照尾は、どんなタイプの怪異であろうと対応できることに定評がある。

 キリスト教信仰を力に変えるエクソシストの前では、あらゆる怪異が異端アンチキリストの一括りになるからだ。

 海外の怪異と相性の悪い、神道や仏教系の霊能力者との大きな違いだった。


 実力者である照尾の存在は、今回の案件を間違いなく成功に導くだろう。

 高上にはそんな予感があった。

 きっと他のメンバーもそうなのだろう。


 だからだろうか。

 怪異の正体も、その狙いも、全てが曖昧な想像のまま、話が進んでいる。


 そのことに、この場の誰も危機感を抱いていないようだった。


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