第11話 「魔女の国」
フレアは高い城門の前に進み出た。
すぐに衛兵がやってきた。
女性だった。
「何者だ! 何しに来た!」
「はい。フレアと申します。魔女の修行に……」
「魔女だと? 魔法が使えるようになりたいのか!」
「はい……」
「だったら、まずは魔女の国の女王さまに謁見せねばなるまい」
「女王さま? こちらにも女王さまがいらっしゃるのですか?」
「当たり前だ! 今から連れて行ってやるから、このホウキのうしろに乗れ!」
「はい!」
フレアは言われたとおり、衛兵が跨る長いホウキのうしろに座った。
「しっかり捕まっていろよ! それー!」
「きゃああああっ!」
フレアと衛兵を乗せたまま、ホウキがフワリと浮き上がった。
そのまま急上昇すると、あっという間に城にある高い塔のてっぺんまで飛んでいった!
――ズザザザザザーッ!
「高い! 恐い!」
フレアは目を瞑って衛兵に思い切りしがみついた。
足下がスースーして、あまりの高さに目を開けたらめまいで倒れそうだ。
――ぎゅううううんんんーっ!
ホウキは唸り声をあげて空中を急カーブで走り抜け、塔の窓から中へと入っていった。
――ドスンッ!
「おやっ! いきなり、なんだいっ!」
「女王さま! こやつが魔女になりたいと言って門の前までやってきました!」
「おや~っ? これはこれは……こんな髪色だけど、おまえは妖精の末裔だね? どうなんだい?」
「おいッ! 答えろ!」
「は、はいっ!」
フレアは突然、目の前に現れた魔女に面食らってしまった。
それの老婆は小柄で腰が曲がりひしゃげた三角帽子を被って曲がった古びた杖を持っていた。
大きな鋭い目と大きな鉤鼻、尖った爪はまるでおとぎばなしに出てくる魔女そのものだった。
「妖精が魔女になってどうするんだい!」
「あ、あの……わが王国が悪い魔女に占拠されたんです! わたしはどうしても、シャルルの心が取り戻したくて……」
「シャルル? シャルルとは何者だい?」
「わたしの婚約者です!」
「なんだ、男かい……この国に男はいないよ! 魔女に男は必要ないからね!」
「でも……シャルルはわたしの初恋の君です。心からわたしが愛している、この世でいちばん大切な人なんです!」
「おまえの名は?」
「申し遅れました。わたくしはフレア・バージニアと申します」
「フレアとやら……さっきから聞いていれば、あんたは自分のことばかりだね! 少しは国民や周りの人のことを考えたらどうなんだい!」
「国民……周りの人たち……それは……使用人たちのことですか?」
「それも全部、含めてだよ! シャルルっていうのは、あんたの大切な人なんだろ? その人の心を取り戻したたいなら、他の人たちの気持ちを取り戻すことを先に考えることだね! 民の幸せなくして、王族の幸せは成り立たないんだよ!」
「国民のことですか……確かに……わたしは自分が助かることばかり考えて、国民のことまでは考えが及びませんでした……。でも、シャルルは隣の王国の……」
「恋愛っていうのはあんたのエゴだろ? 自分がシャルルとやらと一緒になりたいだけだろう? いいかい! 上に立つ者はときには、自分の幸せを犠牲にしてでも下の者たちに尽くさなくちゃいけないんだよ。普段、贅沢しているんだから、それぐらいは我慢しろっていうものさ。それに、恋愛というのは本来、自己犠牲の上に成り立つものだよ。相手のために自分を殺すんだ。だから、あんたはそのシャルルが幸せになれることを第1に考えなくちゃだめだ。どうしたらその男が幸せになれるかってね? 場合によっては、あんたが身を引かなくちゃならないかもしれないよ。相手の幸せこそが自分の幸せだ。それが究極の愛だよ! だからあたしは恋愛が嫌いなんだ!」
「すぐには納得できませんが、たしかに女王さまの言う事は正しいような気がします……わたくしはまだまだ修行が足りないようです……」
「まあ、いいさ。あんたはまだ子供だ! そのうちわかる日が来るさ! ところで、どんな魔女になりたいんだ?」
「はい。善の魔女の元で修行をしたく存じます」
「善の魔女? 白魔術を修得したいのかい? じゃが、今この国に白魔術を扱う魔女はいない。隣の国の修道院に囚われてしまったのじゃ」
「修道院? もしや……従姉妹のネリーが居た修道院では? それは、東の国の孤島にある修道院ですか?」
「そうじゃ。知っておるのか? あそこに来たネリーとかいう娘が黒の魔術師と通じて修道院に悪をもたらしたんじゃ! たまたまあそこに滞在していた善の魔女が捕らえられた。あの修道院は今、封鎖されとる。誰もあそこから出ることも行くことも出来なくなってしまったんじゃよ!」
「なんですって! ネリーの預けられていた修道院が、彼女のせいで封鎖されてしまった……なんと恐ろしいことに……」
「フレア! おまえの知り合いの犯した罪だというなら、おまえが行って正して来い!」
「わたくしが? わたくしにそんな力は……」
「じゃが、おまえは妖精の血を引く娘。必ずや打開策が見つかるはずじゃ。もう、我らは万策尽きて困っておる。ぜひ、おまえが代わりに行っておくれ!」
「そんな……」
「ただとはいわん。成功したらおまえが魔法を使えるようにしてやろう。それでよいか?」
「魔法を……おばあさまたちに言われた使命だったわ。怖気づいてばかりいてはだめね! がんばらなくちゃ! はい! わかりました! しっかりがんばります!」
「では、修道院に送ってやろう! マントラマントラマントラ……」
魔女の女王が呪文を唱えた。
「きゃああああーっ!」
たちまち小さなつむじ風が起きて、フレアの体を高い塔の窓から連れ去った!




