第9話
ペルが進化してから約1カ月が経過した。
後から適正診断で調べたところによると、ペルはランクが一つ上がったことで猫又からEランクの魔物である化け猫へと進化したようだ。
それにより、体格などの見た目の変化だけではなく、潜在的な能力もある程度上昇した。その一つとして、単語程度ならば話せるようになったことが、ベルーゼにとっては最も良かったことと言える。
今のところ、滑舌が悪過ぎて意味が分からないことがほとんどだが、溺愛しているペットと話せることは、それだけで彼に至上の幸福感をもたらしていた。
しかし、進化したことで彼らにとって予想外の部分へ悪影響が出ていた。
これまで防御力の低さを敏捷への適性の高さで補ってきたペルだったが、身体が急に成長したことでバランスが取りにくくなったらしく、動きがどうにもぎこちなくなってしまったのだ。
以前はすいすい避けられていた兵士たちの魔法も、当たることが多くなった。
そのため、ロシンの提案でせっかく習得した魔力吸収の魔法もままならず、ランクを上げるための魔力を集められないでいる。 訓練にこだわらず、兵士がペルの展開した魔力吸収の魔法へ攻撃魔法をわざと当ててやれば良いとも思うが、それはペルのプライドが許さないらしく、本人が強く拒否した。
そのため、仕方がないので魔法習得を一時中断し、全ての時間を回避訓練と身体能力向上のための運動時間に充てているのが現状だった。
「あんありぇ、ぺう!」(頑張れ、ペル!)
「ぐるるる」
今日もベルーゼの応援に応えようと身体を動かすペルだったが、避けきれなかった魔法が次々と身体へと当たってしまう。
そんな、思うように動かない自分の身体に、ペルは悔しそうに唸る。どうも、以前の感覚がなかなか抜けないようで、どうしても体が頭に追いつかないらしい。
ペルは、大賢者のスキルのおかげで同ランクの魔物と比べて格段に頭が良い。その分、身体よりも頭で考えて行動してしまうらしく、今やっている訓練のような反射的な運動は苦手なようだ。
しかし、以前ならそれでも足の速さや身軽さでカバーできていたため、その癖が抜けておらず、どうしても体格に見合った動きを咄嗟にすることが出来ない。
本人もそのことには気がついているようで、考えずに行動しようと努力していたのだが、どうにも性に合わないらしい。
結局、脊髄反射で動くことは諦め、以前のように素早く動けるよう身体能力を鍛える方向に決めたようだった。
そんな四苦八苦しているペルの様子に心を痛めながら、ベルーゼもベルーゼで滑舌よく話す練習に苦戦していた。
ベルーゼも必死で練習しているのだが、相変わらず身体の未熟さに邪魔をされ、中々舌が回らないでいる。
そのことにベルーゼもペル同様に焦りを感じていたが、そのことを表に出せばペルまでより落ち込んでしまう可能性があるため、なるべく外に出さないよう努力していた。
「よし!こうあここまえにひよう」(よし!今日はここまでにしよう)
「グルルルッ!」
「めーよ、むいしあえ、かりゃりゃをいためうあけあ。こうあもうやしゅもう。ね?」(駄目だよ、無理したって、身体を痛めるだけだ。今日はもう休もう。ね?)
「マラ、エイウ」(まだ、出来る)
ベルーゼの制止の声に対してペルは不服そうに答える。しかし、見るからによろよろしているため、意地を張っていることがみえみえだ。
ベルーゼはそんなペルの態度に苦笑を浮かべながら宥め、ダスターが待っている執務室へと戻る。
「お帰り、ベルーゼ」
「ん、たりゃーまもりょいまーた」(ん、ただいま戻りました)
戻って早々にベルーゼはいつものようにダスターへと抱き付く。しかし、その表情は優れない。
悲しそうに父親の胸元へ頭を押し付ける様は、何とも言えない哀愁を漂わせていた。
ペルも落ち込んでいるらしく、自慢のフサフサした尻尾が萎れている。
そんな一人と一匹の様子を、家臣たちが遠巻きに心配そうな表情で見つめていた。
彼らとしては、ここ最近元気のないベルーゼたちを励ますために何か声を掛けたいのだが、ダスターですら元気付けられないというのに、自分たちが話しかけても意味が無いのでは?と、不安に思い、皆口を噤んでいる。
(これは悪い兆候だな)
このまま放置していては城全体の空気が悪くなりそうだ。
そう考えたダスターは、前々から計画していた案を実行することを決めた。
隣で控えているロシンへと目線で計画実行の意志を伝えると、ダスターは膝の上でぐずっている愛息子へと優しく話かけた。
「ベルーゼ、明日は城下町の視察へ行くことになったぞ」
「っ!しょうかまちにょ?」(っ!城下町の?)
ダスターの言葉に、それまで俯いていたベルーゼががばりと顔を上げる。その反応に、どうやら目論見は成功したようだとダスターは内心でほくそ笑んだ。
その横で、視察のための準備を進めるために書類を整え始めていたロシンや家臣たちも、ベルーゼが久々に見せた明るい表情に頬を緩める。
これで、何とかしてベルーゼたちに喜んで貰うことが出来ないものかと、忙しい国政の合間を縫って密かに計画してきた苦労が報われるというものだ。
「ああ。城に籠もってばかりでは民の生活に疎くなるからな。本来は月に一度視察に赴くことにしていたのだ」
「あ、れもおりぇがうまれたかりゃめーてたにょ?」(あ、でも俺が生まれたからやめてたの?)
「そうだ。赤子を連れて歩いているとなにかと問題が有るからな。だが、お前はもう自分でしっかり考えることが出来るから問題ないだろう」
ダスターのその言葉に、ベルーゼの心は大いに弾んだ。生まれ変わってからはずっと城から外へ出ることが出来ていなかったため、これが初の外出だ。それで浮かれない筈がない。
「わーい!うといてみたかたんら!しゃそくえかけうしゅんひしなきゃ!」(わーい!ずっと行ってみたかったんだ!早速でかける準備しなきゃ!)
「おいおい、出掛けるのは明日だぞ?」
「あ、そか。めーなしゃい、うれしかたかりゃちゅい…」(あ、そっか。ごめんなさい、うれしかったからつい…)
浮かれていることを指摘され、ベルーゼは照れくさそうに頬を染める。そんな愛らし姿を、ダスターたちはデレデレと見つめた。
彼らの様子に何か楽しいことが有るらしいと感じたのか、それまで興味なさげに黄昏ていたペルが「なに?なにかあるの?オレにも教えて?」というようにベルーゼへすり寄ってくる。
「ぐるぅ」
「よしよし。ぺりゅ、あしたはおれかけらしょ~」(よしよし、ペル、明日はおでかけだぞ~)
「オエカヘ?」(お出かけ?)
「ふふふ、きとたのしーよ?おしりょのにわよりしょとはうーとひりょいんらから!」(ふふふ、きっと楽しいよ?お城の庭より外はずっと広いんだから)
「グルル」
優しくペルを撫で返しながら楽しそうに満面の笑みを浮かべて語るベルーゼに、ペルも気分が高揚してきたのか久方ぶりに機嫌よくゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
翌日。動きやすく、それでいて可愛らしい服に着替えた(使用人により服は決められているため、ベルーゼには選択権も拒否権も無い)ベルーゼは、ペルの背中に乗せて貰ってダスターの隣を歩いていた。
以前はベルーゼと同じくらいの大きさだったが、ペルは進化によってベルーゼを乗せても全く問題が無い大きさに成長していたため、長距離を移動する際には乗せて貰うようになっていた。
ペルの身体能力強化の訓練が目的という名目にはなっているが、ようは体力のないベルーゼがへばることを防ぐための対策である。
情けないため、ベルーゼはなるべく自力で歩くようにしているのだが、己の体力の無さも自覚しているため、視察中に倒れることを防ぐべく、今日は大人しく愛猫の背中を借りることにした。
「ぺりゅ、おもくにゃい?らいしょーふ?」(ペル、重くない?大丈夫?)
「アイオウ」(大丈夫)
「そう?れもおもかーらいってにぇ?」(そう?でも重かったら言ってね?)
力強く頷いたペルの首筋を、ベルーゼは労わるように撫でた。 すると、それに気を良くしたのか、ペルが嬉しそうに喉を鳴らし始める。
そんな一人と一匹の様子を、微笑ましそうに見やるダスター。
そこだけを見ればなんとも穏やかな光景だが、周りで護衛している者たちまで目を向けると、なんとも物々しい雰囲気が漂っている。
なにせ、王妃暗殺以来初めての王と王子の外出だ。暗殺者が捕まっていない以上、充分に警戒しておかなければならない。
そのため、ダスターたちの周りはグルリと警備の兵に囲まれ、警備をしている兵士たちの間には鋭い空気が流れていた。
それをちらりと見やり、ベルーゼは「これじゃあ動物を見つけるのは無理かもなあ」と、内心ため息を吐く。
しかし、そのことは残念ではあるが、ベルーゼとて彼らの心情が理解出来ないわけでは無いし、せっかくのおでかけなのだから楽しまなければ損だろうと、気持ちを切り替え、周りの風景へと目線を移すのだった。
城下町へ出ると、そこはとても活気づいていた。
ドワーフが多いお国柄のせいか、鍛冶屋が多く。建物の中からは炉の熱気が溢れ出ている。
「うわー、しゅこい!みてみて、ぺりゅ。うきがたくしゃんありゅよ!!」(うわー、凄い!見て見て、ペル。武器がたくさんあるよ!!)
「ウキ?」(武器?)
「ん?うん、うきらよー。これれてきをこうえきしゅりゅんら。ものによてはすれれこうえきしゅりゅよりもつおいこうえきあらしぇたりしゅるんらよ」(ん?うん、武器だよー。これで敵を攻撃するんだ。ものによっては素手で攻撃するよりも強い攻撃が出せたりするんだよ)
「っ!ウキ、ホシィ」(っ!武器、欲しい)
「え、うーん、ぺりゅにちょうおいいうきかぁ」(えっ、うーん、ペルにちょうどいい武器かぁ)
ベルーゼの言葉に何故か瞳を輝かせたペルは、おねだりするようにベルーゼを熱意の籠もった眼差しで見つめる。
その瞳の力強さに、どうやらよほど武器に興味があるようだと悟ったベルーゼは、どうしたものかと頭を捻る。
どうして武器に興味を持ったのかは良く分からなかったが、ペルは頭が良いため、きっと深い思慮あってのことなのだろう。それならば、下手なモノを選ぶのは良くない気がする。
しかし、武器など持ったことがないベルーゼには、どの武器がペルに相応しいのか検討もつかなかった。
(ぶきがあったらもっとつよくなれる。つよくなったらべるーぜがよろこぶ)
実際には主を喜ばせたいという単純な理由であることも知らず、ベルーゼはペルのやる気に答えるべく一生懸命品定めをする。
けれど、今彼らが居る店は人間が営んでいるとは言え、この世界の流通を担っている商人ギルドの支店だ。
更に、鍛冶屋の多いこの国の店ということもあり、多種多様な装備品が揃っている。
武器なんて城の兵隊が持っているのを見たことがあるくらいで、触ったこともない(前世の選択体育は柔道だった)ベルーゼには、どれもこれも良さそうに見えて一向に決まる気配がない。
「ふむ。まずは攻撃力よりも扱い易さで選んではどうだ?ペルのその手では扱 える武器は限られてくるだろう」
うなり声をあげる息子を見かねて、ダスターが助言をする。
素人のベルーゼが選ぶよりも、武器の目利きに慣れているダスターが選んでやる方が良いものを与えることが出来るのだろうが、折角息子が頑張っているのだからと、彼は助言だけで手を出さないことにした。
父親の意図を汲み取ったわけでは無いが、無意識の内にペルへ与えるモノは自分で選びたいと考えているベルーゼは、ダスターへ任せることなど考えもせず、父親の助言を受けて、更に思案する。
確かに、言われてみれば猫の手では物を掴むという行為その物が難しい。それならば、掴まずに扱えるような手甲系が無難だろう。
「ありあとーましゅ、ちーうえ」(ありがとうございます、父上)
「いや、気にしなくても良い。それよりも、武器をじっくり見比べる良い機会だからしっかり考えろ」
「あい!」(はい!)
ダスターの言葉へ元気良く答えると、ベルーゼは目の前にある武器たちへと再び目線を移した。
そうしてまた時間をかけてじっくりと考えた結果、ベルーゼは一つの武器を手にする。
「うーん、このなからとこれかにゃあ」(うーん、この中だとこれかな)
数ある武器から選んだそれを、店員頼んで大きさを調整して貰い、ベルーゼ自らペルの手へと着けてやる。
それは、シンプルな造りの手甲だった。だが、見た目の質素さとは裏腹に強力なマジックアイテムとなっており、魔力を通せば拳に風を纏うことが出来る。
更に、そのまま拳を振るえば風の刃を打ち出せるため、遠距離攻撃も可能となっているという中々便利なものだ。
鉤爪というのも考えたベルーゼだったが、ペルには既に自前の鋭い爪がある。人工的なものよりも生まれた時から扱っているものの方が獣である彼には良いように思えたため、それよりは防御力の低さを補えるようなモノの方が良さそうだと考えた結果これに決めた。
ペルは嬉しそうに自分の手に着けられた手甲を眺める。見た目は決して豪華では無いが、始めて主人から送られた品だ。
ペルにしてみれば、他のどんな立派な武器よりも素晴らしいものに見える。
ペルの上機嫌な様子に、どうやら気に入って貰えたようだとベルーゼは安堵のため息を吐く。
「きーいた?」(気に入った?)
「ウン」
「よあた。しりょにかえたりゃしょれのつかいかたもえんしゅうしようにぇ」(よかった。城に帰ったらそれの使い方も練習しようね)
「エンシュ、スウ」(練習、する)
やる気に満ちた顔で答えるペルに、俺も練習頑張らなくちゃとベルーゼは気を引き締めた。
その姿を見て、ダスターは安堵の表情を浮かべた。最近は練習や訓練という言葉に憂鬱そうな顔をしていたベルーゼたちが、楽しそうに練習をすることを口にしている姿は、良い方向へ彼らの心境が変化ことを表していると感じたからだ。
これで、ここ最近城内へ流れていた重い空気も変わるだろう。
きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいるベルーゼたちを、ダスターと兵士たちは暫し目を細めて見守ることにした。
満足して店を出たベルーゼたちは、そのまま商店街を歩くことにした。
商店街に並んでいる商品はドワーフたちが作り出した装備品なだけあって、どれも質が良さそうにベルーゼには見える。
金色に輝く鎧や、呪われていそうな禍々しい槍など。見るもの全てが新鮮で、ベルーゼは気になるものを見かける度、あれは何?これは?とダスターへ質問を繰り返した。
それに丁寧に答えてくれる父親へ、彼は流石だなと尊敬の念を強くする。
中には知らない商品もあったようだが、それについては直ぐに店主へ説明を求めて自らも学習しようとする。
そんな勤勉さに恐らく国民は惹かれるのだろう。父親の姿に、自分も見習わなければと、ベルーゼは教えて貰う情報を必死で覚えようと努力した。
彼のその様子を、周りのドワーフたちは「流石はダスター様の子供だと」感心したように見ていたのだが、覚えることに必死だった本人はその視線に気付くことは無かった。
商店街も終わりに近づいた頃、ベルーゼはあることに気がついた。
「ろうふちゅがいにゃい」(動物がいない)
ベルーゼは務だった頃、無意識の内でも動物を見つけることが出来た。だというのに、城下町に出てからというもの、犬はおろか猫すらも見かけない。
見かけた動物といえば、偶に空を飛んでいる鳥くらいのものだ。
これだけ周りに威圧感を放つ兵士を引き連れていれば、動物たちが近づいて来ないだろうことはベルーゼも初めから予測していた。
しかし、遠目にすら姿を見ないというのはいくらなんでも想定の範囲外だ。そのことにベルーゼが首を傾げると、ダスターがふむ、と顎へ手を当てる。
「この辺りは鍛冶屋が近くて暑いからな。どこか涼しいところに集まっているのだろう」
「むー」
「そうむくれるな。・・・そうだ、ペルに探して貰ったらどうだ?こいつなら匂いで場所が分かるかもしれん」
「そうれしゅね!ぺりゅ、たのめう?」(そうですね!ペル、頼める?)
「ウー」
ダスターの提案に、ベルーゼは膨らませていた頬を元へ戻すと、早速ペルへ頼む。
しかし、何故か機嫌の悪そうなペルは半眼で唸りながらベルーゼを見つめ返してきた。
ペルはそのまま暫く、訳が分からず首を傾げるベルーゼを見つめていたが、ほどなくして人間臭いため息を一つ吐くと、くるりと踵を返して歩き始めた。
その態度に、気分を害したのかと慌てたベルーゼだったが、匂いを嗅ぎながら歩いているあたり、どうやら動物を探してくれているようだ。
先ほどの態度が少し気にかかったが、ベルーゼは動物に会える喜びに胸が踊り、黙ってペルの後へ着いて行くことにした。
暫く歩くと、ペルが路地裏へ入り込んだため、それに続いてベルーゼも入り込む。勿論その後にはダスターが続いた。
その事に護衛の兵士たちが慌て始めるが、ベルーゼはもうすぐ見れるだろう楽園に思いを馳せていたため気にも留めなかった。
ペルの先導の元路地を歩くことしばし、ぱっと先が明るくなったかと思うと、ちょっとした広場へと出た。そして、そこには沢山の猫が集まっているという、ベルーゼが夢に見ていた光景が広がっていた。
ああ、正にモフモフパラダイス。
その場所へ近づこうと、ベルーゼは夢遊病患者のようなふらふらとおぼつかない足取りで踏み出す。
しかし、あまりに興奮していたためか、ベルーゼは昔なら猫に近づく時に立てなかったような大きな足音を立ててしまった。
そのせいで、彼の目前に迫っていた楽園が蜘蛛の子を散らすようにパッと去って行く。
「ああー、おりぇのもふもふぱららいしゅあ~」(ああー、俺のモフモフパラダイスが~)
そう嘆くベルーゼの側へ誰かが寄ってきた。それは、気配からいってペルだろう。
そのことに気づいてはいたものの、意気消沈していたベルーゼは振り返ることすらしなかった。
「オエ、イアナイ?」(俺、いらない?)
「えっ?」
そんな時にぽつりと聞こえてきた消え入りそうな声に驚き、ベルーゼは慌てて振り返る。
すると、ペルがジッとベルーゼを見つめていた。
その表情は、いつもと変わらないように見える。しかし、何故かベルーゼには泣いているように見えた。
「ホカ、ネコ、ホシィ。オエ、イアナイ?」(他、猫、欲しい。俺、いらない?)
言葉に詰まるベルーゼへ、今度こそ、泣きそうだと分かる震えた声ペルは内心の不安を吐露した。
それとともにしゅんとへしゃげた耳と尻尾が、ベルーゼの罪悪感を盛大に煽る。愛するペットにこんな表情をさせてしまうなんて、ペット愛好家の風上にもおけない行為だ。
そう自分を叱りつつ、ベルーゼは精一杯誠意を込めた表情で頭を下げる。
「おめん、ぺりゅ。らいしょうふ、ぺりゅのことしゅてたりなんきゃしにゃいから!」(ごめん、ぺる。大丈夫、ペルのこと捨てたりなんてしないから!)
「ホウト?」(本当?)
「ほんとうらよ!おりぇはぺりゅがいちあんらよ」(本当だよ!俺はペルが一番だよ)
ベルーゼは急いで愛猫のもとへ駆け寄ると、自分の倍の大きさはあるその身体をギュッと抱きしめた。すると、ペルの身体が小刻みに震えていたことに気づき、ベルーゼはますます心を痛めた。
(そうだよね、普段はお兄ちゃんぶっているけど、この子は甘えん坊なんだ。そりゃあ自分意外の動物に俺の興味が行っちゃったら寂しいよね)
「おめんにぇ、ぺりゅ。しゃみしいおもいおしゃせて」(ごめんね、ペル。寂しい思いをさせて)
「ヴー」
「あにょにぇ、おりぇはろううちゅあらいしゅきらから、こりぇかりゃもきょうみたいに、ほかのろううちゅにきょうみあいちゃうことあありゅとおもう。れも、しょれれぺりゅのこときあいになたりしゅてたりなんてことはしにゃいかりゃ」(あのね、俺は動物が大好きだから、これからも今日みたいに、他の動物に興味がいっちゃうことがあると思う。でも、それでペルのこと嫌いになったり捨てたりなんてことはしないから)
だから機嫌直して?そう言ってベルーゼはペルの顔を覗き込んだ。
すると、ペルは涙を溜めた瞳で恨めしそうにベルーゼを見つめ返してきた。
それはまるで、お前は何も分かっていないと言っているようにベルーゼには感じられ、居心地の悪さに身体を揺する。
そんな主のことを長い時間ジッと見つめていたペルだったが、ふと笑みを浮かべた。
それは、表情筋のあまり発達していないペルが浮かべられる、精一杯の笑顔。
その表情に、機嫌を直してくれたのかとベルーゼも表情を明るくした。
(べるーぜ、うわきもの。でも、すき。べるーぜ、ちかづくやつ、なくす)
しかし、実際には機嫌を直した訳ではなく、主に近づくやつは全て排除してやる。そんな、物騒な決意を込めた肉食獣の攻撃的な笑みであったのだが、そんなことを知る由もないベルーゼは、ペルに許して貰えたことを純粋に喜び、これからはもっとペルのことを構ってあげようと考えるのだった。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
今回は更新が遅れてしまって申し訳ありませんでした。
ここまでベルーゼは勉強とか歩行訓練とかで働きっぱなしな感じがしたので、今回は閑話休題と言いますか、番外編的な感じで遊びに出掛ける話にしてみました。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。




