第四話
「おい、そこの人間。なぜオークを連れている? 説明しろ」
俺は両手を広げ、敵意がないことを示す。心拍数は一定。思考は冷静に
「このオークは俺の専属護衛だ。最近、街道で噂されている野盗団を撃退するために雇った傭兵ですよ」
野盗の存在など確認してはいない。だが、噂話という保険をかけておけば、仮に実態がなくても「用心に越したことはない」で通じる。衛兵は眉をひそめ、隣の相棒と顔を見合わせた。
「護衛だと? オークがか?聞いたことがないぞ」
衛兵の疑念は根深かったが、俺の堂々とした態度が彼らの迷いを生んでいた。やましいことがある者は、これほど真っ直ぐに人の目を見ない。
俺は一瞬だけ衛兵たちの装備に目を走らせた。
使い込まれた槍の柄、鎧の擦れ具合。そして何より、彼らの纏う「ピリついた」空気感だ。
(……装備は揃っているが、どこか疲弊している。単なる門番の暇つぶしなら、もっと気楽なものだ。街道沿いでトラブルが増えていると見て間違いない)
俺は確信を持って、彼らの「業績」に訴えかけた。
「衛兵さん、最近この辺りの街道でも物騒な事件が増えていると聞く。……上から対策を急かされているんじゃないか?」
衛兵は一瞬、ハッとして言葉に詰まった。図星だったらしい。
「俺たちがこの街に入れば、オークの護衛を連れた異色の新参者として当然注目を浴びる。野盗どもは『あの街にはオークを使いこなす猛者がいる』と警戒し、手出しをしなくなるだろう。つまり俺を通せば、君たちは『オークを管理下に置き、野盗への抑止力として利用した』という治安維持の実績を手に入れれるし、業績にも箔がつく。報告書にどう書くかは君たちの自由だぞ?」
俺はさらに、将来への投資として揺さぶった。
「俺はこれから冒険者ギルドに登録しに行く。近いうちにこの街で大きな成果を上げる予定だ。もしここで無下に追い返して、後日俺が街の功労者になった時――『あの時、あの男を門前払いした』という事実は、君たちのキャリアにとってどう響くかな?」
衛兵たちが顔を見合わせ、気まずげに囁き合うのが聞こえる。
「……どうする。追い返して後で問題になったら、俺たちの評価に関わるぞ」
俺は最後に、最も効果的な安心材料という名の賭けに出た。
「それに何か問題が起きたら、俺が全ての責任を負い、この首を差し出そう。ただ今は、街の利益のために英断を下すべきだと思わないか?」
長いため息とともに、衛兵が槍の穂先を下げた。
「……いいだろう。ただし問題を起こせば、あんたの首どころじゃ済まさん。通れ」
門が重い音を立てて開く。俺は涼しい顔で通り抜けたが、背後でオークの戦士が低く口笛を吹いた。
「……おいおい。実績だのキャリアだの、そんな言葉を吐いて……お前、詐欺師の才能あるな」




