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最弱営業マンの異世界開拓記。最強の交渉術で最強の相棒を口説き落とす  作者: 有世剣斗


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第一話


過労死、と呼ぶにはあまりに呆気ない幕切れだった。

大手クライアントの無理難題を押し付けられ、接待の帰りにふらりと入った横断歩道。そこで俺は、信号を無視してきたトラックに跳ねられた。

最後に考えたのは、家族のことでも、やり残した趣味のことでもない。

「あの契約書の、捺印をもらうための修正プラン」だった。


俺、相葉誠の人生は、常に「数字」と「合意」のためにあった。


次に目を開けたとき、俺は真っ白な空間にいた。

目の前には、金髪の神々しい翼を携えた女神のような姿をした何かが浮かんでいる。


「相葉誠様。不慮の事故により逝去されました。……貴方には、異世界への転生権が与えられています。使われますか?」


「……なるほど。異世界転生、か」


俺はネクタイを整える仕草をしてから、淡々と切り出した。

ウェブ小説や漫画で散々読んできた、あのテンプレ通りの展開だ。現実味は皆無だが、死んだ直後という非日常の中では、案外すんなりと受け入れられるものらしい。


「一つ確認したい。その異世界とやらには、現在『経済活動』や『市場』は存在しているのか? 以前の部署での経験を活かせる土壌があるなら検討の余地はあるんだが」


「……はい? いえ、そこはご自身で開拓していただくのが一般的かと……」


「なるほど、先行投資が必要な案件というわけだ。了解した。では、即時転生で頼む。余計な特殊能力や加護は不要だ。……俺が使い慣れた『手法』さえあれば、それでいい」


「は、はあ……。では、そのままお送りしますね」


女神が呆気にとられたような表情をした瞬間、視界が光に包まれた。


ただの転職、あるいは他部署への異動。そう解釈することにした。



目を開けると森の開けた場所に俺は転送されていた。

(まずは状況把握だな、闇雲に動いても仕方ない)

持ち物は支度金として渡された金貨5枚、そして僅かな食料と水。


「異世界転生のお約束も確認しとかないとな…」


異世界のテンプレその1

「ステータス」

つぶやくと、視界に半透明の青いウィンドウが浮かび上がる。

職業、種族、そしてパラメーター。現代の現場で培った『現状把握こそが商談の鍵』という信条に従い、俺は静かに数値を読み解いていく。


【名前:相葉誠】

【種族:人間】

【職業:営業職(元)】

【LV:1】

【ステータス】

・STR(筋力):1

・VIT(体力):1

・INT(知力):50


「……相変わらず、ひどい数字だ。歩くことすらままならない、文字通りの『雑魚』か」


STRもVITも1。

しかし、俺の目は、さらに下の『技能』の項目に釘付けになった。


【技能:交渉術(EX)】

・効果:対話を通じて、相手の心理的ハードルを無効化する。成功率は相手の理性に依存。

・分析:なるほど。要するに、相手が会話可能であれば、どんなに警戒されていても「話を聞く姿勢」までは強制的に作れるということか。営業としては最強の導入スキルだな。


【技能:傾聴(A)】

・効果:相手が抱える『真のニーズ』や『隠された欲求』を言語化して聞き出す。

・分析:これはいい。相手が自分でも気づいていない不満や不便をあぶり出し、そこへ「解決策」という名の提案をぶつけるための情報収集スキルだ。


【技能:クロージング(B)】

・効果:決定的な局面で相手の背中を押し、合意サインを取り付ける。

・分析:Bランクか。まだ洗練されてはいないが、条件交渉が整った後の「最後の一押し」には十分だろう。



「戦うための数値は皆無。だが、逆に言えば『戦闘に参加する意志がない』という強力なアリバイにもなる」


俺はウィンドウを指先でスワイプして消した。

異世界転生のテンプレを一通り確認し終えた今、やるべきことは決まっている。


営業において、事前の市場分析を怠る奴は死ぬ。

俺はネクタイを締め直すような仕草で首元を正し、少しだけ笑みを浮かべた。


「さて。この森の生態系、そして魔物たちの抱える『悩み』をヒアリングしに行くとしようか」


森の奥から聞こえてくる、獣の唸り声。


一般人なら恐怖を感じるはずのその音を、俺は『商談の合図』として心地よく受け入れ、一歩を踏み出した。


(……さて。ここが俺の最初のプレゼン、というわけだ)


俺は心の中で、小さく見積もりを立てる。

最悪、この交渉術(EX)が機能せず、殺される可能性だってある。


その時は即座に命乞いに切り替えて、交渉術と傾聴のスキルをフル活用し、相手の慈悲を誘って隙を見て逃げるしかない。


だが、もしこの相手にも通用しないようなスキルなら、この異世界での俺の命は、どの道長くはないだろう。最初からその程度の「事業コスト」だと思えばいい。


俺はネクタイを緩める仕草をしながら、そのオークの正面へ歩み出た。


森の奥から聞こえてきたのは、獣の唸り声というよりは、金属が擦れるような荒々しい咆哮だった。


「……なるほど。お出ましか」

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