第4話 山登り
日曜日、僕は秋峯さんの元へと言った。
「早速来たね、じゃあバスに乗ってもらおうか」
「え?」
どういう事だろう。バスで移動するのかな。そんな事を思う暇もなく、「レッツゴー」と、駅前のバスに乗せられた。
。
どこに連れていかれるんだろう。そう、疑問に思う。感じからすると恐らく遠出することとなる。
ICカードの残高大丈夫かな。
バスはどんどんと走っていく。もう、十分くらいは走っているが、段々と山の方に向かっている感じがする。
「ねえ、どこまで行くの?」
「それは、着いてからのお楽しみかな」
楽しみと言われても。
僕には不安な気持ちしかないんですが。
だけど、僕は秋峯さんには逆らえないことは分かっている。
「分かった」
だから僕は、諦めたようにそう言うのだ。
「カメラの充電はマックスだよね」
「うん」
「なら安心だ」
そう言って、窓の外を見る秋峯さん。
相変わらず変なところに連れてかれるんじゃないか、なんて不安な気持ちが襲い掛かってくる。
だけど秋峯さんの事だ。きっと、秋峯さんがバえるような場所に連れて行ってくれるのだろう。
僕はどうせ家では暇だ。
というよりも、家にはむしろ居たくない。
だからこそ、連れ出してくれるのはむしろありがたい事か。
そして、1時間ちょっとバスに揺られ、
「ここ、降りるよ」
そう言って秋峯さんはボタンを押した。その瞬間、『次、止まります』というおなじみのアナウンスがする。
周りの景色は大分田舎模様だ。
こんなところで何をするのだろうか。
とはいえ目的地に着いて安心もした。
何しろ、どこに行くのか分からなかったから。
バスが止まり、僕は秋峯さんの後ろをついて行ってバスを降りた。
「ここ! ここに行きたかったのっ!」
そう、元気よく叫ぶ。
「ここ、どこなの?」
「山」
「山?」
どうやらこの辺りに山登りの名所があるらしい。
そこを登ってみたいという事らしい。
山かあ、秋峯さんには悪いが、あまり登りたいものでもない。というのも、僕はそこまで体力がない。
頂上まで登り切れる自信という物がないのだ。
とはいえそんな事を考えていても仕方がない。
まずは、ある程度の場所まで移動するために、乗り物に乗るらしい。そう、あれだ。
代金は大人一人400円だったが、秋峯さんが一括で払ってくれた。
往復800円。これが、入山料みたいなものなのだろう。
「いえーい!!」
ロープウェイの中、秋峯さんはピースをする。
僕はそんな彼女の姿をカメラに収める。
「ここいいね、景色が素晴らしいよ」
そう言って秋峯さんが笑い、「頂上が楽しみだね」と言った。
確かにここの時点で外の景色は最高だ。なら、頂上から見える景色もきっと素晴らしいのだろう。
そして、山に到着した。
「これを上るのか」
僕は小さくため息をついた。僕たちが今から登るのは1時間半コースだ。
それはかなり長い距離を上ることとなる。
家から学校までの25分の距離でさえしんどいのに耐えられるだろうか。
「長いなあ」そう、小さく愚痴を吐く。
「私の写真、撮りたくないの?」
撮りたいに決まっている。
撮りたくないの?なんて 言われてしまったら登らないわけにはいかない。
ずるい人だ。僕の弱みをしっかりとわかっている。
僕はそっと山の一段目に足を踏みしめる。
意外だったのは、僕よりも先に秋峯さんが根を上げたという事だ。
「ちょっと休ませて」
第一の休憩スポットであるベンチで、ミルクティーを飲みながら秋峯さんはそう言った。
しかし、山登り中にミルクティーって逆に喉が渇くんじゃ、と思ったがあまり深くはツッコまないことにした。
ちなみに疲れて、さらに厚いのか軽く胸元のボタンを外す秋峯さんの姿は写真映えがした。
「やっぱり普段の運動不足はきついね」
「秋峯さんって運動が出来ないんだったっけ」
「出来ないよー、中学まで運動のうの字も知らなかったから」
「そうだったんだ」
それは正直初耳だ。今まで聞いたことがなかった。
「秋峯さんは勝手に運動できるものだと思ってた」
「私を何だと思ってるの? わたしなんて苦手な事ばかりだし。だって、テストも毎回赤点ぎりぎりだし」
不登校だったからな。逆に赤点を取っていないことがすごい。
「私は不完全な人間なんだよ」
低い声で彼女は言った。
「じゃあ、行こっか」
それから十分ほどたった時、彼女は立ち上がった。
それに僕も続く。
さっきの秋峯さんの発言で心なしか安心している僕がいる。
秋峯さんが先に疲れたから休む、と言ってくれたおかげで、僕も休みたいと言いやすくなった。
ありがたい事だ。
そのまま歩き続ける。幸い少し歩いてきたら段々と疲れには慣れてくるもので、
段々と休憩なしで歩ける距離が増えてきた。
そしてそれは、秋峯さんも同じなようで、彼女もまた元気よく歩いて行っている。
ただ、秋峯さんは相変わらず体力がないみたいで、ぼくよりも先に「疲れたー」と言って休むのだが。
そしてついに頂上までついた。
苦節1時間50分。目的の時間からは20分オーバーだが、ついについた。
「はあ、やったよ」
秋峯さんはその場に寝転がる。土の上だ。正直汚いと思う。
だけど、彼女の爽快そうな笑顔を見ると、ほほえましく思える。
「体力のどれくらい使ったの?」
「もう、12割は使ったかな」
10割を超えている。12割ってもう、立てないんじゃ。
「僕は9割五分だ」
「なら、まだ余裕だね」
「もう、五分しか残ってないよ」
そして僕も近くのベンチを目指し歩き、そこに座った。
そして、少し呼吸を整えてから、秋峯さんの姿をカメラに捕らえ写真を撮った。
よし、写真写りよし。
疲れ切って満足そうな顔の秋峯さん。
何枚とっても足りないくらいだ。
「あれ」
秋峯さんが中々起き上がってこない。
僕は秋峯さんの元へと行く。
すると彼女は、寝ていた。
そう、まさにぐっすりと眠りについていた。
まるで、某プリンセスみたいにふかふかと眠っている。
楽しそうに。
あまり起こしたくはないが、土の上に眠りこけていては風邪を引く可能性がある。
僕なんかが彼女の体を触っていいのかは分からないが、とりあえず彼女の体をお姫様抱っこして、ベンチの上に運び、そこに下ろす。
これで些かましだろう。
「ふう」
僕は汗を拭きとる。
そして、秋峯さんの体をじっと見る。
今の僕がやっていることはまさに変態的な行為と言われても言い訳が出来ないだろう。しかし、彼女の体の線を見るには今しかないのだ。
しかし相変わらず奇麗な体をしている。
美という側面から見たらなんて美しいのだろうか。
これはあくまでも僕のいい訳ではあるんだけど、僕が秋峯さんの体をじっと見ているのは決して変態的な気持ちがあるわけではない。
ただ、美という側面で眺め、写真を撮るだけだ。
僕は彼女の全身をくまなくとった。
勿論、変な写真などは取っていない。
そして、僕は彼女が目覚めるのを待った。
起きない。流石にもう30分は経っている。
流石にそろそろ起きてくれないと心配になる時間だ。
本当に眠っているだけなのだろうか。
もしかして、風邪でも引いていたりとか、体調でも悪いのだろうか。
僕は彼女の額に手を乗せる。
冷たい。
その後僕の額にも手を当てる。やはり僕の額よりも冷たい。
という事は、病気ではない。僕はほっとしたが、流石にこのままにしておくわけにはいかない。
今の時間は15時。流石にまだ帰らなければならない時間ではないが、そろそろ起きてもらわないと。僕は彼女の体を優しくゆすった。起きない。
僕はもう一度ゆする。先程よりも少し強い力で。
すると、彼女は無事に目を覚ましてくれた。
「ん、あれ」
「寝てたんですよ」
「え?」
そして顔を赤らめる。
「ええええええ???」
「そんな動揺しなくても」
「え、てことは私、男子の前でぐっすりと寝てたの?」
「……そうなりますね」
「マジかぁ」
そして、ため息をついた。
それも深い深いため息だ。
「私寝言とか吐いてなかった?」
「たぶんなにも吐いてなかったと思いますよ」
「そう、じゃあ良かったー」
そう言って秋峯さんは胸をなでおろした。
「ごめんね色々。待たせちゃったでしょ」
「それは大丈夫ですよ、秋峯さんの寝顔を撮ってたから」
「え、どんな、それって大丈夫なやつ」
「気にらなかったら決していいですよ」
「う、うん」
そして秋峯さんは、僕の取った写真をじっと、一枚ずつ見ていく。
どうしよう。もし、彼女の気に障って、いらないなんて言われたら。
「全部許します」
「良かった」
僕はほっと胸をなでおろした。
「それにしても、わたしを襲わなかったんだね。盗撮ストーカーさん」
「それは言わないで欲しい。それに、ぼくは君をがっかりさせたくなかったから」
「そっか。あっ! てか、そろそろだよ」
「そろそろ?」
僕は首をかしげる。
「起こすのナイスタイミングだったよ」
「というの――」
そう言いかけたところで僕は空を見た。
そこには陽がきれいに浮かんでいた。夕焼けだ。
「これは凄いな」
「でしょ。これと私を取って欲しくてここにしたの」
なるほど。それは名案だ。
この陽の光。秋峯さんと一緒に写したらきっと奇麗なものになる。
「流石だな」
僕がそう言うと、「私をもっと褒めて」と、秋峯さんは上機嫌だ。
そして僕はパシャリと一枚、夕日を取る。
「私も入れてね」
「分かっている。これは趣味だ」
そして僕はもう一枚写真を撮った。
夕陽と共に移る秋峯さんは美しかった。夕陽と秋峯さんが相互作用しあって、互いに良さを引き立たせていた。
中々素晴らしい物だ。
カメラの写真の段階でここまできれいなら、現象した場合、それはどんなに良くなるのだろうか。今もわくわくが止まらない。
楽しみなのだ。写真を実際に現存するのが。
僕はふうと、息を吐く。
今日はここに来てよかった、そう確実に言える。




