第八章 降下猟兵隊発隊記念式典での一幕
「ああ、こいつは焼けたから、皿に乗っけてテーブルの方へ持ってってくれ」
「あ、はい」
胡麻化された様な気もするが、焼けた魚を炭にするわけにはいかない。
言われたようにテーブルに持っていくと、ロバーツ様とグラディス様がいた。
「お久しぶりです。皆さんお元気そうで何よりです。お陰様でマーブル染めの売れ行きは上々です」
わざわざ、中の原まで来てくれたおかげで評判はかなり良い。生産量が少ないから、町で見かけるのはまだまだ少数だが、徐々に増えてきている。
それにしても、来賓なのに山賊と一緒になって川魚の焼いたのを齧っているとは驚きだ。
「驚いたのはこちらですよ。名誉隊長なのに魚に塩をまぶしているんですもの」
「泊めて貰う代わりに、朝ご飯の準備を手伝う約束をしたものですから」
「なんだ。わざわざ泊ったのか?」
「遅れてはいけないと思いましたので」
平坦地の畑から帰る途中で、皆と別れて泊ったのだ。
「ところで、閲兵式とか初めてなんですが、何をやるんですか?」
「なんだ、聞いていないのか。では、楽しみにしておけ」
六人揃ってニヤニヤしている。
嫌な予感がする。
こういう時は、大体何かやらされる。
「す、座って見ているだけでいいんですよね?」
軽く牽制してみたのだが……。
「おーい。名誉隊長! 魚が焼けたから運んでくれ」
どう考えても邪魔をした、としか言いようのないタイミングで声がかかる。
「名誉隊長。魚が焼けたそうだぞ。早く行け」
ほらほら、と追い立てられてしまった。
なんとか、全員分の朝ご飯が終わり、準備した山賊と一緒になって朝ご飯を頂く。
野菜のスープが素晴らしい。
ハトのガラと人参や玉ねぎを入れて煮込んで作った塩味のスープに、炒めた玉ねぎや大き目の人参を入れて煮て作ったらしい。食材は自前だ。
アンジェリカさん仕込みだそうだが、コクのある味に野菜の甘さが程よくミックスされ、浮かんでいる細切れの乾燥香菜や固く炒めたパンの欠片の歯ごたえも良く、本当に美味しかった。
だし汁は大量に作っておいて冷凍させたのを氷室に保管出来るそうなので、今度是非一七五の会の店のメニューに加えよう。フィオナをアンジェリカさんの料理教室に送り込んでも良いかも知れない。
「食い終わったら着替えてくれよな。皆、名誉隊長の騎士杖を持った晴れ姿を楽しみにしてんだぞ」
少々気恥ずかしいが、公式行事だ。
「はい。用意してきましたので準備してきますね」
「これを渡しておくから目を通して置け」
渡された羊皮紙には、一番上に中の原猟兵隊発足記念式と大きく書かれていて、その下に段取りが書かれている。
内容は、隊長訓示、名誉隊長挨拶、来賓挨拶、各班演目披露、総評、となっている。
演目披露と言うのは、剣やら弓やらで何か競うのだろうか?
いや、それ以上に挨拶だ。
式典の挨拶なんかやった事が無い。
「あの、挨拶と言っても、皆さんどのような事をおっしゃってるんですか?」
聞いてみると、心配するな、と返って来た。
「猟兵隊の挨拶は、短く簡潔に、がモットーだ。長々と喋られては寝ちまうからな。適当に、名前を名乗って、呼んでもらった礼を言って、最後に今後の猟兵隊のご活躍をお祈りします、とでも言っておけ」
なるほど。それなら簡単だ。良い事を聞いた。
流石にそれだけでは短いので、日頃の活躍を軽く褒めておこうか。




