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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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第六章 平坦地の事前調査

 キツネ退治が終わってハンスさんに報告すると、アドルフさんの所へ行けと言われた。一旦戻って、マルセロさんと一緒に行く事にする。


「東の原に行くの?」

「どうだろう? 近々、王国軍が西の原に行くのは知っておるな?」

「山賊退治だっけ?」

「そうじゃ。西の原駐屯部隊を中心に、中の原と海の原からも援軍を出しとる。総勢千人を超えとるみたいだ」


 魔法使い二人の話を聞く分には、もう山賊退治ではなく戦争だ。

 わざと進軍を知らせて、敵が逃げるのを計算しているらしい。投降した者は、重犯罪で掴まって懲役だが、反抗すれば殺される。上手く分裂すれば楽にすなるのだろう。


「その間、猟兵だけが魔物への防壁じゃ。東の原で大規模な作戦をするには、兵力が不足しておるのではないか」


 まさか、私達が援軍と言うわけではあるまい。確かに三人の上級魔法使いと、なったばかりとは言え中級魔法使いがいる。こと魔法だけを見ると、戦力としては大きいが、それでもたった四人だ。援軍と呼ぶには程遠いだろう。




「良く来てくれたな。まあ、座ってくれ」


 今回来たのは、マルセロさん、パウルさん、ベアトリクス、ボニーに私だ。リュドミラは農作業が忙しく、アンジェリカさんは店番だ。


「今回は何をするの?」

「中の原の山砦と東の原の山砦の間に平坦地があったろう? この度、あそこを開拓する事が決定したのだが、何か所か洞窟があるらしい。そこの調査をやって欲しいのだ。魔物が居たら洞窟の周辺も併せて退治してくれんか」

「魔物って、何がいるの?」

「今のところ見つかっとるのはコウモリくらいだそうだが、何が出て来るかは分からん」


 またドラゴンがいたらどうしよう。ロバーツ様やジェームズ様がいたのにあんなに苦戦したんだ。私達だけでは倒せないだろう。


「その平坦地の北に砦を作っているらしいが、順調なのか?」

「中の原猟兵隊の半数が関わっている。今のところ順調だそうだ。何より、その砦が抜かれたら開拓の話も無くなる。つまり、調査も必要無くなる」


 アドルフさんの話では、北の砦が完成したら、まずは平坦地に砦を作り、猟兵の一部が進出するらしい。

 今回の調査は、その工事のための事前調査なのだそうだ。


「水が無いと砦には出来んぞ」

「うん。分かっている。北の砦は南側斜面にため池を作って雪解け水を貯めておいた。しばらくはもつだろう。今回の調査も、魔物だけではなく、洞窟の中の水気の状態を調べて欲しいのだ」

「念の為、ロビンソンとゴブリンを出しても良いか?」


 そう言えば、洞窟の専門家がいた。今は二本目の水道管を掘っている。実はヘンリー様達がやっていた土木工事がそれで、ゴブリン達は上から、人間が下から穴を掘っている。エレノア様がいれば、穴を掘ったうえで、掘った土をブロックに変えられる。かなり重宝したらしい。


 中の原の猟兵隊には、既にアドルフさんと王国軍の隊長から、ゴブリンの話をしているそうだ。

 北部領域の情報の大半はロビンソンさんとゴブリンがもたらしたものだ。既に何人かが巣穴に行き、戦闘術や斥候の技術を教えているらしい。


「良いだろう。ただし、両方出すのは週の半分にしてくれんか。北部の警戒が必要だ」

「ならば、儂がお椀で送り迎えをしてやろう」

「そうしてくれれば助かるな」

「北はそんなに切迫してんの?」

「いや、そうでは無いが、念の為だ。暖かくなってきて、魔物の活動が活発になるからの」


 報酬は、一つの穴に着き一人金貨一枚になった。退治した魔物については規定の討伐報酬が出るらしい。

 ロビンソンさんとの話し合いで、ゴブリンの取り分は何人出しても人間一人分と決まったようだ。私達の中では獲物の実入りを私達とロビンソンさんを加えたゴブリン達との折半と決めているので、頑張ってゴブリンの役に立つ魔物を退治したいものだ。




 一週間の準備期間をおき、出発する事になった。

 ゴブリンには申し訳ないが、人目をはばかるので、樽の中に入って貰った。

 樽ごと中の原から猟兵隊の山砦に、テレポートで移動する。


「なんだあ、お前らあ! どっから来やがった!」


 見張りの山賊がお出迎えだ。

 毎度毎度、ご苦労様な事です。


「お久しぶり。元気?」


 ベアトリクスは、前回も初回以外はこんな感じで押し通したらしい。


「おう! 久しぶりだな。元気にしてたか? 聞いたぞ、メディオランドで騎士に叙任されたらしいじゃねえか」


 もう知っている。中の原でも知っている人は自警団くらいのはずなのに、流石は一流斥候集団だ。


「ジャンヌはメディオランドのお貴族様だから、丁重に扱わなきゃだめよ」

「ははっ。ジャンヌ神官騎士様。ご機嫌麗しく。良くお越し下さいました」


 畜生、半笑いだ。神官騎士なんて職名は無いだろうが。騎士杖で頭小突いてやろうか。


 牢屋から出て、樽の蓋を開ける。六人のゴブリンが出て来た。片っ方の肩に引っ掛けた揃いの緑マーブルを着て、皆弓と矢筒を持っている。聖水入りの矢筒だ。


「よう、お前達も来たのか。あれ、一人増えているな。デビューしたのか?」


 新人に声を掛ける。

 もう見分けがついているらしい。

 通訳された新人は、緊張してコクコク頷いている。

 こういう所は優しいんだよね。


「なあに、心配いらねえよ。ドラゴン・キラーのジャンヌ神官騎士様が一緒なんだぜ。何かあっても守ってくれるさ」


 うむ。やっぱり、山賊はやらしいな。

 ロビンソンさん。通訳しなくていいですからね。




 案内として中の原猟兵隊が参加してくれた。現場要員が足りないらしく、ルイス隊長直々だ。

 猟兵隊はお椀に乗るのは初めてだろう、と思っていたら、いつの間にか朝市や五月祭りで乗っていたらしい。流石は一流斥候集団だ。


「やあ、ジャンヌ。遂に猟兵隊に入隊する気になってくれたんだね。歓迎するよ」


 相変わらず面倒くさい。

 お椀でびっくりしていた方が良かった。

 チュルリをけしかけると、突かれながら頭を抱えて逃げて行った。


 猟兵隊からはもう一人参加してくれている。ベテランで、魔王軍の敗残兵退治をやったときに、ルイスさんと一緒に最初に道案内をしてくれた人だ。副官らしい。

 手招きするので近づくと耳元でささやかれた。


「今回は、アンジェリカさんやハンナさんは来ないのか?」


 どいつも。こいつも……。

 仕事なんだから、八位の私で我慢しろ。


「今回は不参加です。でも今日のお弁当はアンジェリカさんが作ったやつですよ」

「本当か! そ、そうか。楽しみだな」


 嬉しそうにルイスさんに伝えに行くと、ナイス・スマイルを向けて来た。

 流石は鬼の……もとい、マドンナ・アンジェリカだ。中の原猟兵隊の胃袋を完全に支配している。これを予想していたのか大目にお弁当を渡されている。




 最初の洞窟を案内して貰った時点で、ナイス・ミドルのリクエストにより、早めのお弁当になり、その後ニコニコ顔の山賊と共に周囲の偵察になった。


 まずはチュルリとロビンソンさんが集めた小鳥達で空中偵察だ。


「キツネとイノシシですね」

「ならば放っておこうか」


 ロビンソンさんとパウルさんが話し合って、洞窟探索を優先する事になった。アドルフさんに言われたとおりだ。


 猟兵隊の二人が呆気にとられている。


「凄いな。アドルフ殿に聞いてはいたが、これほどとはな。本当に野生の鳥を自由に使えるのか」

「餌が必要ですけどね」

「洞窟内はどうするのだ」

「蝙蝠がいたら、まずは中の様子を聞いてみましょう。使える動物がいなかったら、ゴブリンの出番です」

「そうか。お前達、無理はするんじゃないぞ」


 ルイスさんが、パンパン、と一人ずつの肩を叩いている。


「何かあったら、直ぐに逃げて来い。中の原猟兵隊名誉隊長のジャンヌ神官騎士殿がいるからな。何が居ても我々は見ているだけで済むぞ」


 新人に向かって大真面目な顔で言っている。

 チュルリの籠を取り出したら、逃げて行った。




 めぼしい洞窟は四つあるらしくて、最初に案内してもらったのは、南の山地に近い、こぢんまりとした岩山の崖にあった。崖から少し離れたところは森になっていて、そのまま山まで繋がっている。

 岩の高さは三階建てくらいだ。幅は百歩くらいだろう。私の歩幅なら二百歩かも知れない。岩の南は崖になっているのだが、灰色の縞々の岩肌の途中に口を開けていた。



 猟兵隊の簡単な調査では、洞窟は岩の裂け目の様になっていて、すり抜ける様にして潜り込んだら、中は意外と広かったらしい。下りになっていて結構深いかも知れないそうだ。


「入り口が小さいし、周囲には何もないから、オーク共はいないと思う。夕方に普通の蝙蝠が飛んでいるのを確認した」


 蝙蝠がいればコウモリはいないだろう。後は中に入って探索するだけだ。

 外の監視を猟兵隊にお願いして、早速中に入る事にした。


 ルイスさんにチュルリと芋虫の袋を預ける。


「や、やあ、チュルリ。是非とも仲良くしようか。僕はこう見えてもジャンヌと一緒に戦ったんだよ。だから、僕と君は味方同士なんだ」


 早速仲良くしてくれていた。




 パウルさんのお椀……ほぼ縁が無いからお皿だな……に乗って入口まで行く。

 先行するのはゴブリンだ。次いでロビンソンさん、私、パウルさん、ベアトリクスの順で入って、殿はボニーとマルセロさんだ。


 狭い岩の裂け目に沿って体を横にしてすり抜けていく。

 胸がつかえているベアトリクスが苦労している。こういう時は、リュドミラとお揃いなのは便利だ。こういう時だけの様な気もするが……。


 と、部屋と言っても良い空間に出た。

 裂け目が広がったような感じで、縦に細長い。

 ゴブリンをびっくりさせない様に、光量を弱くしてライトで天井を照らすと、大きなゲジゲジが一杯湧いている。思わず背筋が寒くなった。


 足を広げたら人間の胴体くらいの大きさのやつがガサガサ動いている。光から逃げているから魔物化しているかも知れない。


 ゴブリンが捕まえて食べるのか、と思ったら首を横に振られた。


「最近は虫を食べないんだ。狩りも出来るし、工事の収入もあるからね。お陰で病気をせずに済んでるよ」


 それは良い事だ。デューネとも仲良くしているし、湖の守り手として頑張って貰おう。


「じゃあ、やっつけちゃおう」


 早速、フレイムの実戦投入になった。

 数が多いし動きも素早い。洞窟の中だから火事にもならない。焼き払うのが一番だ。

 皆一旦裂け目に避難して、先頭になったベアトリクスが右手を天井に向けて突き出し詠唱を始める。


「フレイム!」


 右手から炎が迸り、天井全体を焼いた。

 ボタボタと火が落ちて来ているのは、燃えたゲジゲジだろう。

 流石は中級魔法だ。一発で片がついた。


「決まりだな」

「そうですね」


 パウルさんとマルセロさんが頷き合っている。

 どうやら、ここは魔物になったゲジゲジの巣の様だ。




 一旦、外に出て対策を練る。


「ルイス隊長。多分ここはゲジゲジの巣だ」

「ゲジゲジ? ならば大丈夫か」

「いや、魔物化しとる。このくらいの大きさのやつがおった」


 両手で自分の胴体と同じくらいの輪をつくる。


「奥にもっと大きいのがおるかも知れん。念のために調べて来る」

「しかし、ゲジゲジを倒して報酬が出るのか?」

「分からんな。しかし、連中は蜘蛛と同じで虫を食べるだろう? 大きくなったら人や家畜を襲うかもしれんぞ」


 クモは人間の大敵だ。大きな巣を作られたら軍隊が出動する騒ぎになる。実際、その調査がきっかけで、ロビンソンさん率いるゴブリン達に出会ったのだ。


「パウルさん。ゴブリンが言うには、大きくなり過ぎたゲジゲジは動物を襲うそうですよ。だから、野外で見つけた時は放っておいても、巣の中で見つかった時は、小さいうちに殺してしまうそうです」

「ならば、決まりだな。報酬は後回しで良い。出来るだけ退治しておこう」


 ゲジゲジ退治か。出来ればやりたくなかった。ていうか、見たくなかった。


「ジャンヌが照らして、儂が足止めして、残り三人で止めを刺す。こんなところかの?」

「そうですね。ジャンヌにしっかり照らして貰わないといけないですね」


 マルセロさんが悪戯っぽく笑っている。

 人が苦手なのを分かっているようだ。

 照らした瞬間に目が合ったらどうしよう。

 夢に出てくるかもしれないな……。




 ゴブリンの話では、巨大ゲジゲジは岩陰に潜んでいて、突然襲い掛かってくるらしい。

 通常の斥候では危ないそうだ。

 まずは、蝙蝠を探して中の様子を確認する事にした。


 先ほどの部屋に行き、ロビンソンさんが右手を奥へ続く裂け目に向けると、二匹飛んで来た。

 ベアトリクスが即興で描いた色々な大きさのゲジゲジ……よくも描けるものだ……と比較用の人間の絵を蝙蝠に見せると、中に大きいのがいるらしい。

 縦で人間サイズだ。足を広げたら横幅は人間の五倍以上ある。

 これはもう、倒さないといけない大きさだ。


 蝙蝠を避難させないといけないので、飛んで来た二匹にロビンソンさんが指示を出すと、一旦中へ行き、十匹ほど連れて出て来た。

 そのうち、一匹だけを右肩にくっ付けている。


「随分少ないな。もっといても良いはずだぞ」

「ゲジゲジにやられたみたいですよ」

「ならば、倒さんといかんな」


 ゲジゲジを倒せば、蝙蝠がコウモリになるかも知れない。どっちが良いか分からない。


「蝙蝠とは意思疎通出来とる。ゲジゲジは無理だ。まずは、ゲジゲジ退治だな」


 なるほど、そういう事か。

 上手く操って陽の光を浴びさせれば、一生蝙蝠のままかもしれない。


「どういう風にやっつけるの?」

「フレイムは後何回使える?」

「一回かな」

「ならば、まずはファイアー・ボールをぶち込んでくれ。マルセロに止めを刺して貰おう」


 入口は裂け目だったが、奥に進むと段々広くなってきた。なんとか、前後の入れ替わり位は出来そうだ。


 広いところはファイアー・ボールを飛び回らせて様子を伺い、何も出て来なかったら進んで行く。

 荒っぽいやり方だが、岩陰に潜んでいるやつに不意打ちされるよりはマシだ。

 ベアトリクスが二番手に上がり、ゴブリンとパウルさんが後ろに下がった。


 途中でロープを何本か継ぎ足しながら幾つか広くなったところを通過したのだが、その度にゲジゲジがいた。大きさは最初の部屋にいたのと同じくらいだから不意打ちされても毒が無ければ死ぬことは無いと思うが、あんなのが顔に張り付いてきたら、と思うとぞっとする。

 それにしても、一体何を食べているのだろう。


 五つ目の部屋でそれが分かった。今までのとは違い横幅がある。

 それまでは壁と天井ばっかりにいたので、ベアトリクスも地面は狙っていなかったのだが、そこでは地面の隅に群がっていた。


 ギチギチと変な音がするのでライトで照らして見ると、一斉に壁登って逃げ始めた。後には半分ほどになった個体が三つほど転がっている。

 共食いだ。

 胴体から外れた脚だけが、何本もぴくぴく動いている。

 吐きそうになった。折角食べたお弁当が勿体ない。

 ゲーゲー言いながらながら懸命に逃げた先を照らしていると、ベアトリクスがファイアー・ボールを連発して片づけてしまった。




「しっかりせんか。ゲジゲジがなんだ」

「すみません」


 パウルさんに怒られてしまった。

 ゲジゲジ以上に、共食いの現場に遭遇したのがショックだったのだが……。


「共食いなんざ、いざとなれば人間でもする。神官なんだろう? しっかりしろ」


 人間が? 嘘でしょう?


「本当よ」


 えっ?


「ベアトリクス……」

「私は……き、聞いた事があるのよ」


 慌てた様に目を逸らして、半分食われたゲジゲジにファイアー・ボールを飛ばして、死骸を燃やし始めた。


 パウルさんの話によれば、飢饉が続いた年の冬に、死んだ人の肉を食べた記録が幾つかの国にあるらしい。私達が小さい頃、三年連続飢饉になったそうだ。戦争中だった事もあり、特に他国の農奴はかなり悲惨だったらしい。

 大陸ではもっと酷く、死人はおろか、生きた赤子を殺して食べた、という酷い噂話が残っているとの事。


 この島では魔法が使えるから、大陸と違ってかなり裕福らしいが、それでも、疫病や天候不良、大雨による水害といった災難は防げない。加えて戦争や魔王復活だ。それらが重なって皆が飢えた場合、貧乏人から順に死んでいくのだろう。


「一家全滅よりはマシだ。ようは腹の括りようだ」

「そういう事を無くすために、この国のエライ人やアドルフさん達は頑張ってくれてんのよ。あんたも神官なんだからしっかりしな」

「そうね。分かったわ」


 経験豊富なパウルさんは兎も角も、そう言う生死にかかわる事を、同い年のベアトリクスが知っていて私が知らないのは神官失格だ。もっとしっかりしないといけない。


「よっしゃ! 分かったところで、ゲジゲジを倒すぞ」


 パウルさんが明るく声を掛けてくれたのに救われた。




 進んで行くと、蝙蝠がキイキイ言い出した。どうやら大物が近いようだ。

 先はやや広くなっている。

 天井はだんだん高くなってきているので、上がどこまで続いているのかは分からない。


「ベアトリクス。火球を分裂させられるか?」

「一回だけなら大丈夫。でもファイアー・ボール一杯使ったから、多分フレイムが使えなくなるわ。使うならどっちかね」

「ならば、ジャンヌ。ホタルを飛ばすぞ。ベアトリクスはフレイムの準備をしておけ」

「はい」

「分かった」


 ゲジゲジがこっちに向かって来ない様に一つを頭の上に漂わせて穴に向かって光らせる。もう一つをパウルさんの風の魔法で穴の奥に飛ばし、光量をあげて全周囲を照らす。


 ガサガサ言う音が近い。

 すぐ近くにいるようだ。


「壁のすぐ向こうにいるぞ! 右側だ!」


 そのまま進んでいたら、先頭はあの長い脚に捕まっていたかもしれない。

 パウルさんの指示通りに右側を照らすと、逃げていく音が聞こえる。


「ベアトリクス。フレイムだ。焼き払え!」


 詠唱を終えたベアトリクスが両手のひらに赤い光を作っている。


「オッケー。いくわよ……フレイム!」


 前に進み出ると、火炎を迸らせた。

 両手を使った目一杯だ。

 手を八の字に動かして、上下左右にうねうねと蛇行させている。


 魔法が途切れた頃には、動いている何かが燃え上がっていた。命中だ。


 ホタルで照らすと、細長い胴体が燃えていた。人間の背丈くらいあるので、脚を広げたら人一人簡単に捕まってしまうだろう。

 壁を登ろうとして落ちてきたのか、外れた細長い脚が何本かビクビク動いている。

 駄目だ。慣れない。

 オークのレヴァナントの方がよっぽどマシだ。




 ホタルを床に落として、床で光らせる。

 視界に入る範囲には何もいない。

 音もしない。


 念のためにマルセロさんがテレポートでホタルのすぐ近くに跳んで行き、何回かホーリーを放ったところで、OKが出た。

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