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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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第六章 マーブル染めの用途

 春になって魔物退治も安定してきた。

 アドルフさんの計らいで、ネズミ退治に加え、中の原周辺のキツネとイノシシも監督なしでも出来るようになった。人手不足の時は応援を貰う事も出来る。


 基本的に私とベアトリクスとボニーの三人が固定で、キツネ退治はパウルさんと週に一回薬草採取のメアリーが、イノシシ退治にはパウルさんとマチルダが加わって、こなすようになってきた。


 オークやドラゴンのレヴァナントとの戦いが実って、私はピュリフィケイションを覚え、ベアトリクスは十六歳にして中級魔法使いになり、火属性魔法のフレイムを覚えた。


「お給料が上がったのはいいけど、こんなに使い勝手が悪いとは思わなかったわね」


 森や林では山火事になるかも知れないから使えない。ネズミ退治では有効なのだが、集まったネズミ全てに同時に当たるわけでは無いから、一、二匹逃げられてしまう。幸いなことに、初級魔法を無詠唱で唱えられるようになったし、威力が格段に上がったから、雷の魔法で麻痺させる時間は長くなった。


「お給料が上がったんだからいいじゃない。私はまだ初級よ」

「ピュリフィケイション覚えたからウィルソンさんの天敵になっちゃったわね」

「メルみたいに閉じ込められたりして」


 一日が終わって、ベアトリクスの部屋で二人して笑っていると、メアリーがデザインを持ってきた。


「ベアトリクス。これチェックして。グラディス様に送るやつ」


 見ると濃い赤の地にピンクや黒の線が胸元から流れるように色付けされているワンピースだ。


「随分、大胆な所攻めたわね」


 肩が丸出しだ。

 神官じゃなくとも人前ではちょっと着れないな。


「この布を肩に掛けて完成よ」


 白地の地に薄い深緑と濃い深緑をマーブルで色付けした布の絵柄を出して来た。


「これほとんど緑マーブルじゃない。野戦服じゃないのよ」

「でも、肩が丸出しだから、隠した方がいいかと思って」

「肩出したのと、肩隠したのと、両方送ってグラディス様に選んでもらった方がいいんじゃない? 肩出してるのは、着るとすればお貴族様くらいよ」

「この布は?」

「要らないと思うけど……一応付けとけば?」

「やっぱり大胆過ぎるかなあ……」

「いっその事赤い無地にすれば夜着になるかも知れないわね。それか晩餐会の玉の輿ファッションか」


 ちょっと待て。いい事思いついたぞ。


「ねえ、その布だけど……」

「ジャンヌはあった方がいいと思う?」

「そうじゃなくて、野戦用に使えるかも」

「緑マーブルの上に緑マーブル被るの?」

「頭や顔を隠したり、緑マーブル持ってない人が被って身を隠したり、荷物覆ったりさ」

「無骨だわ」

「実用的と言ってよ」


 あくまでもファッションを重視するメアリーには呆れられてしまったが、こちらは基本野戦服だ。


「大きさとか分かるの?」


 ベアトリクスに聞かれたが、丁度良い具合に専門家が孤児院にいる。翌朝聞きに行く事にした。




 孤児院では朝ご飯の後に一時間の自由時間がある。その時に行くと丁度聞けるだろう。


「おはようございます」

「あら、ジャンヌ。おはよう。今日はどうしたの?」


 ジェニファー先生が応対に出てくれた。


「ヘンリー様達にお聞きしたいことがあって」

「今は、リュドミラと一緒に畑の水やりをやって下さっているわ。裏に回ったらいらっしゃるはずよ」


 もう、働いているのか。勤勉だな。


 裏の畑に行くと、リュドミラ他三人が種を撒いた野菜に水やりをしている。

 元農奴のウィルソンさんが指導しているだけあって、堂に入っている。なにせ、リュドミラが教えて貰っているくらいだ。


「おはようございます。朝からお疲れ様です」

「おう、ジャンヌではないか。どうした?」


 皆緑マーブルを着ているが、その内二人は王族だったりする。


「一つ教えて貰いたいことがありまして」

「もう少しで、水やりが終わるからな。しばし、待て」


 今週末に五月祭りがあるのだが、それまで三人は中の原に滞在する積りだ。なにせ三人共お金を持っていない。アドルフさんを通じて土木作業を請け負い、日銭を稼いで食費と滞在費を孤児院に支払っているのだそうだ。その気になれば豪勢な場所にタダで泊まれるだろうに、主義に反するらしい。


 おかげで、ベアトリクスの誕生パーティーにメルを読んだ時は早速ウィルソンさんの膝に座り、丁々発止の口喧嘩を、楽しそうに展開していた。

 ちなみに、三人の正体を知っている人間はごく僅かで、作業現場では作業員と一緒になって同じお弁当を食べているそうな。


 水やりが終わったようで、こちらに来る。


「お疲れ様です」

「いやいや、このくらいはしておかんとな。格安の宿に泊めて貰っておるからの」


 孤児院は宿屋では無いのだが……。


「時にどうした?」

「実は……」


 緑マーブルの布地を作ったら、野戦で使えるかどうかを聞いてみた。


「ふーむ。良い工夫だと思うぞ。ウィルソン、どう思う」


 お目当ての専門家に説明をする。


「俺が思うに、緑マーブルの野戦服は、着ている人間が動き回っていてはあまり意味が無いと思うぞ。だから、あまり動かない分野の兵士が使う分には良いだろう」


 騎兵には向いていないという事か。


「重装騎兵と重装歩兵だな。この兵種は敵を威圧せねばならんから、目立った方が良い。使うとすれば、何といっても斥候だ。あと、弓兵や魔法兵といった軽装兵は緑マーブルの方が良いな」


 王国軍の全兵士に売れると思ったがそうでも無かった。皮算用が大分目減りしてしまうな。


「つまり、普段目立っている連中が被れる大きさの布を携行出来る様にすれば良いのだ。例えば、シーツ代わりにくるまって眠れるような大きさが丁度いいんじゃないか。そうすれば、伏兵として潜んでいる時も使えるだろう」


 そう言う事か。そうすれば、王国軍全員分を作って売れる。シーツサイズの麻生地なら簡単に手に入るし、織機があれば自作出来る。


「荷物とかはどうしましょう?」

「今から考えなくても良いと思うぞ。必要ならば向こうから大きさを指定して来るだろう。その後で言われるままに作った方が生地を無駄にしなくて済む。ああ、個人用を作るなら、四隅にひもを付けておけ。そうすれば木に縛り付ければ目隠し用に使えるし、頭上に張れば雨よけにもなる」


 流石はヘンリー様のお墨付きだ。凄く納得できる説明を頂いた。


「なんなら、儂の方から当代と兵団総長に話しておこうか?」

「是非、お願いします」


 ヘンリー様が嬉しい事を言ってくれる。直にお伝え出来るのなら、採用されてから作れば良い。




「あらあら、随分と楽しそうですね」


 ジェニファー先生が勤勉な四人のために、井戸水を汲んで来てくれた。

 エレノア様が立ち上がってお椀を配るのを手伝っている。


「おお、ジェニファー、すまんな。今、ジャンヌと例の緑マーブルの話をしておったんだ」


 ヘンリー様が、今しがたの話をジェニファー先生にしてくれる。


 アドルフさんの口利きで、中の原で作る緑マーブルの講師と合否判定は、ジェニファー先生になった。町の財政から月に金貨一枚出るそうだ。

 少ないながらも孤児院の財政に貢献できるし、工作所に人を集めて作業が出来る。子供達もいるから小さい子を抱えたお母さんも安心だ。


「まあ、ジャンヌ。ありがとう。困っている人達のためになるだけではなく、卒業した後も孤児院の財政の事を考えて貰えるなんて、本当にありがたい事ですわ」

「いえ、日頃の教えを実行しているだけですから」

「ジェニファー。王都でジャンヌに聞きましたよ。困っている人のためにお金を使えるようになれ、と教えているそうですね」

「すべては院長先生のお陰ですわ」

「謙遜ね」


 エレノア様も嬉しそうだ。ジェニファー先生は王都に居る時に国王様やロバーツ様と一緒に院長先生の教えを受けた、とエレノア様が言っていた。私とはいわば相弟子になる。


「ところで、皆様は今日も土木工事ですか?」

「そうじゃ。日銭を稼いで今週末までの滞在費と王都へ帰る旅費を工面せねばならんでなあ」

「無理はしないでください。お体を労って」

「すまんのう、気を付けるよ」


 和気あいあいと話している三人を眺めていたら、リュドミラが、帰ろう、と袖を引っ張って来た。


「じゃあ、ヘンリー様、エレノア様、ウィルソンさん、また週末にお会いしましょう」

「ああ、楽しみにしておるぞ」

「メルも来るのか?」

「昼間はメディオランドのお祭りに顔を出すから、夕方以降になるそうです。お祭りの後で、うちでパーティーを開きますから、皆さん是非来てください」

「そうか、分かった」

「是非、行かせて貰うわ」

「マーブル染めの方は任せておけ。また、週末に会おうぞ」

「ありがとうございます。では失礼します」




 無事に専門家の意見も貰い、イノシシ退治をするためにマルセロ商会に顔を出すと、ウォー・ハンマーを背負ったマチルダが待っていた。


「遅えじゃねえか。皆、待ってるぞ」


 時間どおりに来ているのだが、狂犬はせっかちだな。


「ベアトリクスはちゃんと来てるの?」

「ああ、寝てたからベッドから引っぺがして来た。待ちくたびれて、そこで寝てるよ」


 狂犬に叩き起こされた魔法使いが、テーブルに突っ伏している。

 待ちくたびれて寝ているわけではあるまい。いつもの事だ。


 そこへ、パウルさんとボニーがやって来た。

 朝早くから、イノシシの餌をお椀に乗って落としてきたらしい。


「皆、揃うたの。では行こうか」


 最近の流行りは餌を仕掛けて、お椀で奇襲する作戦だ。山の幸亭で分けて貰った残飯にリュドミラ農業試験場で採れた麦や豆を混ぜたものだから、元手も探す時間もかけずに数を稼げる。

 その分、一七五の会のお店に顔を出せる寸法だ。


 未だオープンはしていないが、週末のお祭りで宣伝をして、翌週の土曜日のオープンに間に合わせなければならない。

 皆、仕事の後で準備をしているから、一番時間のある私が頑張らないといけないのだ。


「よっしゃあ、行くぜ!」


 マチルダがベアトリクスの首根っこをひっつかむようにして起こすと、そのまま引きずっていく。


「では、行こうか。ハンスには先に話しておいたから、そのまま行こう」




 大通りを歩くと、午前中から開けるお店が開店の準備をしていた。


「よう、ジャンヌ神官騎士。今日は何退治だい?」


 いつもお昼ご飯を食べているパブの御主人が声を掛けて来た。最近自警団の武闘派連中は、私の事を謎の職名で呼んでくる。止めてくれと何度言っても、分かった、と言って次に会ったらやっぱり呼んで来る。同じことの繰り返しなので諦めた。


「今日はイノシシです。北西の森に行きます」

「そうか、じゃあ、山の幸亭に行けばイノシシ肉が手に入るな」

「はい。期待しててください」

「今度店をオープンするらしいが、仕立屋連中と話はついたのかい?」

「はい。先週挨拶に行ってきました」


 マーブル染めの服を売るから、ベアトリクスとメアリーを連れて、先週町の同業者に挨拶回りをしてきた。

 みかじめ料でも要求されるのかと思っていたのだが、うちで扱うのは若い女子限定のマーブル染めとアクセサリー類だ、と言うと、それで食っていけるのか? と逆に心配されてしまった。


 ベアトリクスが、五月祭りの時に同業者同士で場所をまとまって借りて、在庫処分市でもやろうよ、と提案したら、大いに賛成して貰えた。このところ、ベアトリクスは打ち合わせと称した飲み会で忙しい。五月祭りは、うちのお披露目も兼ねているので、オッサン殺しのスキルは本当にありがたい。上手くいけば、イベントの度に開けるかもしれない。


 町の端まで行くと、シーツを被せたパウルさんのお椀に乗って、いざ出発だ。


「今日わあ、今まで行ってない湖の西に餌を撒いて来たからあ、結構いるかもしれないよお」


 ボニーが地図を片手に場所を教えてくれる。空中偵察が出来るようになったから、広範囲の地図が作れるようになった。イノシシ退退治の範囲もかなり北まで行く事が出来る。


「大分、開墾も進んでますね」

「うむ。イノシシ退治の範囲が広がったからな。いままで放牧地にしか出来んかったところも麦や豆を植えることが出来る様になった」

「オオカミは来ませんか?」

「来るかも知れんが、放牧に出しとった羊がやられたいう話は聞かんから、大丈夫だろう」

「なんでえ、来ねえのか。オオカミが来た方が面白いのにな」


 狂犬が物騒な事を言っている。


「ならば、来週はクマでも狩りに行くか?」

「いいねえ。まだクマとはやり合ってねえからな。一回挨拶しとかねえとな」


 お互いに二回目は無いと思うのだが、大丈夫だろうか? 引き分けに持ち込めるような相手じゃないぞ。


「あっ! いた。六匹いるよお」


 目の早いボニーが早速見つけた。残飯に群がっているせいで顔が見えない。上からでは木が邪魔になるから狙えない。


「ベアトリクス、起きて。居たわよ」


 ベアトリクスが起きた頃には、やや離れた所に着地した。


「ボニーとジャンヌは左に回り込め、ベアトリクスは右だ。マチルダ、止めは任せた」


 若葉が茂ってきているので、背の低い木立に紛れて風下から進み、ゆっくりと半包囲する。


 ざわざわと木の葉が音を立てた。パウルさんの合図だ。お椀を少しゆっくり解除したのだろう。

 それを合図に、聖水の矢が連射され、ホーリーとエナジー・ボルトを連発する。


 動く物をひたすらに狙い、相手が恐慌状態に陥って逃げ出すのを待つが、やはり一匹は踏みとどまっている。


「来やがれ!」


 ウォー・ハンマーを構えたマチルダが吠えた時点で、一対一だ。遠距離組はその一匹には手を出してはいけない。後でこっぴどく叱られる。

 既に一匹は動けなくなっている。

 後は殿を仕留めるだけだ。


 唸り声を上げながら突っ込んで来るイノシシの眉間を、マチルダが一歩右に躱しざまに振りかぶったハンマーで気合い一閃ぶん殴る。足元のふらついたイノシシが、勢い余ってマチルダが背にしていた木に衝突し、足が止まったところに二発目を後ろ頭にぶち込んだ時点で、その日の狩りが終わった。




「段々避けるのが上手くなってきたな」

「そうか。このところベイオウルフの吶喊を受けているからな」


 パウルさんに褒められて嬉しそうだ。

 最初はウィンド・バリアに衝突した奴を横合いから出て来て仕留めていたのだが、それでは物足りないと言い始めて、衛兵隊で何日もボロボロになるまで訓練を受けて対決し始めた。


「なんか、狩りっていうよりは戦いね」

「そうだろう。だから、いいんだよ」


 ベアトリクスは皮肉ったのだろうが、全く通じていない。


「よくも衛兵隊に入らなかったものだな」

「人は殺さねえ。殴るだけだ」


 やはり狂犬だ。普通は口で文句を言うだろうに。


「しかし、自警団には入っておるのだろう?」

「売られた喧嘩は仕方ねえ。でも、こっちからは売らねえ。戦争は嫌いだ」

「なるほどの。なんにせよ、良くやった。血抜きをしたら、倉庫に送って引き上げるとするか」


 血抜きをしている間、皆で薬草を採る。

 今日は、イノシシ二匹を退治した。

 明日はネズミ退治だ。

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