ダンジョンとマグナム
地下都市の商業区、大型ダンジョン装備店『鉄鋼の牙』。
重武装オークを狩った翌日、俺は武器の新調にやって来ていた。
目的は、破壊力マシマシのメイスと、オークの鎧と脂肪と筋肉をぶち抜ける威力のハンドガンだ。
探索者には、銃器をメイン武器としている者もいるらしい。
が、ダンジョンのモンスターの肉体は物質化した魔力で構成されており、ダメージを与えるには魔力をまとった攻撃を加えなければならない。
これまで俺が無造作に狩りを行えてたのも、自然と武器に魔力を通せていた為なのだ。迷宮適性のある者は、これが出来る。Aクラスだと、その破壊力がより大きくなる。だからこそ、俺はソロで重武装オークも狩れちゃった訳だ。
が、銃器となると話が違ってくる。銃弾に魔力を込める事は可能だけれど、それは微々たるものになる。ましてや、アサルトガンやマシンガンの様に連射する銃弾には、ほとんど魔力は込められない。込めるヒマがない。
では、どうするか?
砕いた魔石を成型して弾頭にするらしい。
そうすると、最初から魔力の込もった弾丸が出来る。が、他の用途の為に砕かれた破片を使っても、9ミリ弾1発が1万円かかってしまう
重武装オークを1体倒すのに、何発の銃弾を消費するか。
何体倒せば、精力剤や中級ポーションをドロップするのか。
そして、噂レベルではあるが、銃器でモンスターを倒すとドロップ率が下がるなんて話もあるらしい。
お金はたっぷりかかるというのに、儲けが少なくなるという話ばかりだ。
よって、銃器は緊急時のサブ武器として使われる事がほとんどらしい。
俺も、ハンドガンをメインに使う気はない。
Aクラスのドロップ率があれば、ハンドガンでも十分に儲けが出せるかも知れないが、重武装オークあたりならハンドガンなしで勝ててしまうからだ。
だから、あくまで緊急用である。
銃器コーナーに向かうと、強化ガラス製のケースの中に、様々なカラーリングが施された銃器がズラリと並んでいた。
ここで売られている銃器はダンジョンでの使用に特化しており、そのほとんどが最初からサイレンサーと一体化して作られているらしい。ダンジョン内には洞窟エリアや遺跡エリアなど閉鎖的な場所も多いので、耳がやられない様にとの配慮だという。
そんな特殊な作りのせいもあって、ここで売られているのは日本製ばかりだ。
なんと、サイレンサー構造のリボルバーまで普通に売られている。回転式の弾倉の隙間からガスの抜けるリボルバーは、サイレンサーを付けるのに向かない筈だ。完全に無音になってる訳ではないとしても、そこは日本の精密な工作力の表れってとこなのだろう。
俺の目は、やがて1丁の銃に縫い留められた。
クロシマ『アギト』357マグナム。
やけに無骨なフォルムのリボルバー拳銃だ。
カッコ良かった。アラカンの厨二心が刺激されまくる。
しかし、357マグナム弾だと・・・あ。1発3万円ですか。そうですか。
でも、気に入ったんたから、買っちゃうよねー。
吐血しそうだわ。
メイスは、前のよりちょっと重くて、魔力伝導率の良い物を買った。
これまで使っていたのは、初心者用のゴブリン鉄の合金製だったらしいが、今度は黒鋼製になった。威力が数段変わるというお墨付きだ。楽しみである。
翌日。
またペースが早くなるが、俺はダンジョンにやって来た。
どんどん出勤日が増えていく。
ハンドガンとメイスの武器登録を済ますや、俺は駆け足でオークの待つ荒れ地エリアを目指した。駆け足なんて何年ぶりだろう。あんまり息が切れてないのが、自分でも不思議だ。これも迷宮適性のお陰か。
「待ってろ、オークちゃーん!」
前々日にも会った三人組と挨拶を交わし、更に奥に進む。
「あの三人も、熱心だなぁ」
言いながら、足を弛める。
そろそろ、重武装オークの出番だろう。
腰のホルスターから『アギト357』を抜き、銃弾が装填されているのを確かめる。
まずは、銃の試し撃ちだ。
視界の隅で、何がキラリと太陽の光を反射した。
来た!
腰を半ば落とし、両手で銃を保持し、オークに狙いを付ける。
頭を狙うウデもないし、銃の威力を試す為にも、分厚い鎧で覆われた胸に向かって───。
バスッ!
くぐもった音とともに、オークの胸で煙が立つ。
驚く程に発射音は小さかったし、反動も少なかった。
が、オークは前進を止め、ふらふらとよろめいた。鎧は撃ち抜けたが、一撃で倒すまでには至らなかったらしい。
もう一発撃とうかと思ったが、3万円かかる事を思い出し、メイスを手にする。
グリップを強く握ると、なるほど、魔力がよく通るのが分かった。
真正面からオークに近づき、肩口に一撃!
激しい金属音とともにその巨体が地に沈んだ。
前回までのメイスと全然手応えが違った。
これなら、重武装オークの乱獲も難しくないだろう。
その確信は、誇張でも何でもなかった。
次に現れた個体も、さらにその次も、俺はほとんど同じ手順で仕留めていった。【縮地】チャクラムで動きを鈍らせ、距離を詰めてメイスで叩き潰す。たったそれだけの単純作業だが、武器の性能差と俺自身の魔力の乗り方が段違いで、重武装オーク相手でも危なげがない。メイスの一撃には、【縮地】をかける必要もない。
5体目を倒したあたりで、さすがに息が上がるかと思ったが、むしろ体は軽いままだった。心臓はドクドクと高鳴っているのに、不思議と疲労感が薄い。
「……これ、やり過ぎてないか?」
自分で自分にツッコミを入れつつ、6体目を仕留める。
ドロップも上々だった。魔石の質が明らかに良いし、精力剤もぽつぽつと落ちる。極めつけは、8体目で出た中級ポーションだ。小瓶に入ったそれを見た瞬間、思わずニヤけてしまった。
「……これは、今夜が楽しみだな」
誰に聞かせるでもなく呟く。
10体目を倒した頃には、さすがに周囲のオークの気配が薄くなっていた。これ以上粘るより、一度戻って換金した方が効率がいいだろう。
俺は戦利品をまとめ、帰還ゲートへと足を向ける。
事務所での査定額を見た瞬間、思わず二度見した。
「……え、こんなに?」
いつものお姉さんが苦笑する。
「本日はかなり良い内容ですね。重武装オーク十体以上に加えて、この魔石の品質……。Aクラスの方でも、ソロでここまで安定して持ち帰る方は多くありませんよ」
軽く世間話のつもりだろうが、こっちは内心ガッツポーズである。
最終的に提示された金額は、これまでの稼ぎとは一桁違っていた。
財布も、そして別の意味でも、満ち足りている。
その夜。
地下都市の商業区は、昼とはまるで別の顔を見せていた。ネオンが灯り、酒場や飲食店の喧騒が通りに溢れ出している。
俺はロッカールームで念入りにシャワーを浴び、少しだけ身なりを整えてから外に出た。鏡に映る自分の顔は、どこか血色が良く、目に力がある。
「……悪くないな、俺」
アラカンとは思えない、とまでは言わないが、少なくとも昨日までの自分とは別人だ。
1本だけ売らずにおいた精力剤の小瓶をポケットに忍ばせ、俺はゆっくりと夜の通りを歩き出した。
呼び込みの声が飛び交い、艶やかな衣装の女性たちが視線を投げてくる。そのひとつひとつに、以前なら気後れしていたはずの俺が、今は自然と足を向けているのだから不思議なものだ。
「お兄さん、いい店あるよ」
「お一人? ゆっくりできるとこ、紹介するわ」
声をかけられ、軽く笑って応じる余裕すらある。
結局、俺は路地を一本入ったところにある、落ち着いた雰囲気の店の扉の前で足を止めた。派手さはないが、どこか品のある佇まいだ。
「……ここにするか」
小さく呟き、扉に手をかける。
重武装オークを10体以上屠ったその腕と、懐の厚み、そして久しく感じていなかった体の熱を引き連れて。
俺は、静かに夜の町へと踏み込んだ。




