二つ目のスキル
新居への引っ越しは、問題なく終わった。
なお、家具や家電も一式購入する必要があり、張り切った真桃ちゃんが俺を引っ張り回してくれた。
お陰で、俺のセンスでは有り得ないオシャレな住居が出来上がった。当然、お金の方も盛大に飛んで行った。
なお、いくつかある部屋の一つは真桃ちゃんに完全に占領され、彼女の私物が運び込まれている。
もちろん、合鍵も奪われた。色っぽい空気はないままに。
俺はダンジョン探索を週二日に増やした。
さすがに、経済的に不安になったのだ。
そして、今日もオーク狩りに来ている。
が、今日は失敗だ。他のパーティーが一つ、同じようにオーク狩りに来ていたのである。そのパーティーはまだ若く、20代前半に見える男女の三人組だった。
刃長が1メートルはありそうな大剣を背負った大柄な男に、弓矢を持った軽装の男、それに魔術士っぽい女という組み合わせだ。
弓矢と魔術で遠距離からダメージを与え、大剣持ちがオークをぶった斬るという攻撃的な戦法で、なかなかのペースで狩りをしている。
これでは、いつもの様な数を狩れそうにない。
場所を変えるしかないか?
草原エリアに戻って、チームでいるゴブリンを乱獲するか、荒れ地エリアを奥に進んでもっと重武装のオークを狙うかだ。
ゴブリンは正直、気が乗らない。ドロップがショボい上に、数が増えれば単純に手数が痛い。
重武装のオークは、【縮地】のメイス攻撃さえ効くなら、普通のオークと同じ手順で戦える筈だ。
俺は、試しに荒れ地の奥を目指す事にした。
新居探しより武器の新調が先だったと思わないでもない。
奥へと歩き出す俺に、パーティー大剣持ちが声をかけて来た。
「オジサン、ソロで奥へ行って大丈夫か?」
俺は何も言わず、笑って手だけ振っておいた。「初めて行く」だなんて答えたら、心配されてしまうだろう。
しかし、あのパーティーがここに留まっているって事は、重武装オークの守りがそれだけ堅いという事を意味している。
うーん、やっぱり無謀だったかな。
2〜3発殴って効果がなかったら、【縮地】で逃げるしかない。
でも、あっさり逃げ戻る姿を見られるのは、イヤだな。
頑張れるだけ、頑張ってみよう。
色々と逡巡していると、やがて重武装オークが見えた。
金棒持ちより、ちょっとデカい。そして、サビの浮いた金属の鎧を身に着けている。重そうだ。足は遅いだろう。
腰には一丁前に剣を吊り、左手には四角い金属盾。頭には兜を被っている。
なるほど、守りは堅そうだ。
とりあえず一戦仕掛けてみるか。
手順は、金棒持ち相手と変わらない。
まずは。
俺の姿を認めてのしのし近づいて来るオークに、【縮地】をかけたチャクラムを投げつける。
オークが盾を構える前に、その顔面に食い込む円環。
続いて、もう一枚。これも、狙い違わず顔面に突き刺さる。
これで、オークの視力を潰せたか?
俺はオークに駆け寄ると、左手で金属盾を押し下げ、【縮地】つきのメイスを兜越しに叩き込んだ。
ドガッ!!
重い音を発して、兜が歪む。
これは、効いたか?
反動で跳ね返って来たメイスを、もう一度【縮地】をかけて叩き込む。
重武装オークは、棒の様に倒れた。
オークの剣が届かない位置まで下がり、残心。もちろん、周囲への警戒も忘れない。
残骸と化すオークを見て、ようやく呼吸を弛める。
なんとか、ヤれる様だ。
後には、ビー玉より一回り大きい魔石が残った。これは、金棒持ちのより1000~2000円高かったりするのかな?まだ重武装オークとやる予定じゃなかったせいで、何をドロップするのか、そしていくらぐらいになるのか、予習出来ていないのだ。
そこから夕方までかけて、5体の重武装オークを狩った。
数が少ないのは、やはり、慎重になってしまったせいだ。実際、一度はチャクラムで視界を潰すのに失敗して退散したし。
ドロップは、魔石が5個に精力剤が1本、初級ポーションより色の濃いポーションが1本、剣が1振り。
そして、最大の成果は二つ目のスキルが生えた事だ。
頭の中には【仙人みかん】という名前が浮かんでいる。
その名前の由来は謎だが、効果は、目の前に手のひら大の穴が開き、その中に物を収納出来るというものだ。俗に言うアイテム・ボックスって奴だ。ただ、収納スペースは直径50センチ程の球形で、あまり広くない。使っているうちに広くなるとは思うけど。
役には立ちそうだが、戦闘向けのものじゃないのが残念。
とりあえず、オークの剣を放り込んでおいた。
さて、帰ろう。そして、もう少しゴツいメイスとハンドガンを買おう。
ダンジョンを出たら、いつもの如く事務所でアイテムの売買手続きだ。
魔石と色の濃いポーションを見た事務所のお姉さんが、明らかにギョッとした表情を浮かべた。
「こ、これ、三烏様が?ソロですよね?」
「そうですけど」
考えてみたら、俺もパーティーを組んでも良いんじゃなかろうか。
お姉さんがノギスを持ち出して、魔石の大きさを測り始めた。
「やっぱり・・・」
「え、何か?」
「このサイズの魔石てすと、1個3万円になります」
「え?えええっ!?じゃあ、俺には1個で2万4千円入る?」
「そうです。そして、こちらの中級ポーションは60万円です」
なんと、色の濃いポーションは、中級ポーションであった。
「と、すると、魔石が5個と精力剤に中級ポーションが1本ずつで・・・」
スマートゴーグルが即座に計算してくれた。840,000円也。
一度記憶したアイテムは、スマートゴーグルが次からきちっと見分けてくれる。これが、簡易鑑定だ。
しかし、倒した数が半分以下でも儲けがほとんど変わらないとは、重武装オーク恐るべし。
俺は何か言いたそうなお姉さんに手を振ると、事務所を出た。
シャワーと着替えを済ませると、『はるか』に向かう事にする。
今日は真桃ちゃんはレッスンがあるそうで、部屋には来ない。真桃ちゃんも忙しいらしく、思ったよりは俺の部屋に入り浸ってはいない。
基本的に空いてるのは金土日ぐらいらしいし、週末には芸能の仕事が入る事もある様だ。彼女の場合はモデル業である。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ」
いつもの女将の艶っぽい声に迎えられて、俺は『はるか』のカウンターに着いた。
「今日はクラーケンの活きのいいのが入ってるわ」
「クラーケン!?なんか馬鹿デカそうだけど・・・」
「クラーケンて名前の普通のイカですから」
「じゃ、じゃあ刺し身で」
酒はクラーケンに合うっていう『涼水』を頼んだ。
まだ日本酒の味が分かって来たとは言えないが、雰囲気だけは味わえる様になった気がする。
イケオジへの道は、まだまだ遠い。
今のところは、クラーケンの味を楽しめれば良いか。
「何かご機嫌そうですね」
「そう?」
「この間のお嬢さんと関係ありかしら?」
「いやいや、それは関係ないよ。探索の方が一段上に行けただけ」
「それは、おめでとうございます。まだ、こちらにいらっしゃって間もないのに、順調そうですわね」
「そうなのかな。やっと人並みに行ける様になったって気分なんだけど」
「今は最前線にいる様な方でも、芽が出るまでは結構時間がかかったりしたものですよ」
30~40代にしか見えない女将が言うには、ちょっと不自然な台詞だったが、同時に納得出来る話でもあった。
「三烏さんは、もっと上を目指してらっしゃるの?それとも、現状満足してらっしゃる?」
「うーん、ある程度上には行きたいけど、最前線とかまでは目指してないなぁ」
だいたい、ソロの俺が最前線まで行くのは無理だ。
「そうですか。無理に上を目指す必要はないですからね」
優し気な瞳で俺を見やる女将。
店に来るお客さんの中にも、上を目指して・・・そして帰って来なかったり、大怪我をした人がいるのかも知れない。
「うん。無理はしないよ。まだまだ、ここの料理を味わいたいしね」
俺は女将に笑いかけた。




