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12/12

12 箱庭

 椿の花が落ちるように、異都の冬は唐突にやって来る。

 昨日まで茂っていた植物は枯れ、洞の壁は氷と同じ温度になる。外には灰に似た雪がしんしんと降って、音も生命の色もかき消していった。

「今年も冬が来たな」

 名那は顔を上げていろりの向こうの黒耀を見た。敷布に片膝を立てて座っていた黒耀は、鍋の煮え具合を見ながら言う。

「またずいぶんと寒い。それに長いだろう。……さ、もっとお食べ」

 黒耀に勧められて、名那は椀に口をつけた。鼻先にきのこの香ばしさが漂う。あと数日で植物はしおれて、これも食べられなくなるだろう。

 二口ほど飲んで、名那は椀を下ろす。みつめる黒耀の視線を感じながら、名那は口を開いた。

「黒耀さまは覚えている?」

 黒耀は首を傾ける。名那は眉を寄せて言った。

「出会った頃のあなたが思い出せないの」

「私はどんなささいなことも覚えているよ。だからお前が覚えている必要はない」

 黒耀は立ち上がって名那の横に席を移すと、彼女の隣からいろりの火を見やる。

「お前は何度も赤子からやり直して、何度となく私から離れていった」

 うつむいた名那に、黒耀は苦笑する。

「長い時の中で、お前と共有できないことはたくさんあると知った。だがお前と同じでないから、一緒にいられる」

「黒耀さま?」

 名那の手から椀を下ろして、黒耀は彼女の手のひらを眺める。

「私はお前にいろいろなものを贈ったな。きらめく宝石も、至福に酔う氷菓子も。……けれど今世だからこそ、お前に贈ることができるものがある」

 黒耀はうなずいて、名那の手を自らの手で包んだ。

「綺麗なだけの箱庭の世界。中身のない、空っぽの底の国」

 黒耀は身を屈めて名那に口づけた。

 名那を胸に収めて、黒耀は背をさする。

「ここはどこにも逃れられない地獄で、何に怯えることもない楽園なんだよ。……もう少しだけ、ここで私と共に過ごそう」

 黒耀が口づけたとき、名那の体は奥底がうずいた。

 少しずつ変わりながら時を重ねて、今この時に至っている。

 暗い歓喜のような矛盾した感情の間で、名那は黒耀の体に身をすり寄せる。

 ……結局、結ばれたのはいつで、眠りに落ちたのもいつだったか。

 名那は邪神の彼と、今も箱のような世界で共に過ごしている。

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2023/09/16 17:22 退会済み
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