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「「「グルォォォォォォォ」」」
腹に響く鳴き声と共にワイバーン達が迫り来る。目を瞑り地面に丸くなっているとものすごい風と共にワイバーンが上を通りすぎるのを感じた。
顔をあげ辺りを見回すと「うわ~」とか「きゃ~」といった悲鳴は聞こえるが何かがぶつかったりする音や呻き声なんかは聞こえないので怪我人はいないと思いたい。
肝心のワイバーンはどうしたのかと探してみると領主軍を追いたてて遊んでいるように見える。その気になれば簡単に倒せるはずなのに領主軍の上空を飛び、市場から追いたてているようにも見えた。
「う、うわぁぁぁ!」
「に、逃げろ!」
「ちくしょぅ~!」
追いたてられた領主軍はバラバラにフレイの町へと逃げていった。ある程度離れていくとワイバーン達は口から何かを出していた。それは白く輝く光線のような物だったり、目に見えない風の塊? のような物だったりした。
「す、凄い!」
「あれはなんだ? 魔法か?」
「もしかしてブレスってやつじゃないか?」
「ブレスってドラゴンブレス?」
最初は怖がっていた孤児院の子達はワイバーンがこちらに攻撃してこないと気づくとワイバーン達を観察し始めた。ギルド関係者の護衛の冒険者達はワイバーンの攻撃を観察してるみたいだった。
そうか、あれはドラゴンブレスっていうのか。って、ドラゴン??? あれ? ワイバーンってドラゴンだったっけ? 俺はワイバーンをじっと観察した。すると、『鑑定』が発動した。
『風竜』
って、ワイバーンじゃなくて竜じゃん! あぁっ! よく見ると身体もいつも見てるような皮じゃなくて鱗が付いてる! それにワイバーンよりも全然大きいじゃん!
「みんな! あれ、ワイバーンじゃなくて風竜だよ!」
「何!?」
「えっ? えっ? ワイバーンじゃないの!?」
「龍!?」
俺が『鑑定』を使える事はみんなわかっているのでワイバーンでない事はどうやら皆に伝わったと思う。確かにワイバーンなら見る機会はあるだろうが、風竜や風龍を見たことのある人はほとんどいないらしいので、鳥の形の大型モンスターをワイバーンだと勘違いしても仕方がないと思う。俺達も竜を見るのは初めてだから言葉だけで『風竜』と伝わったかは微妙だ。
しかし、ワイバーンだと思ったモンスターが風竜だったからといって、俺達は何も出来ずにいることに変わりはない。周囲を警戒しながらギルドの人達と怪我人がいないか確かめながら風竜達を見続けた。
「お、お前達、ワイバーンくらいさっさと倒せ!」
「なっ、無理言わないでください! ワイバーンにこの人数で勝てるわけないじゃないですか!」
「うるさい! お前達は黙って私の言うことを聞いてればいいんだ!」
俺達は風竜に攻撃されていないから落ち着いて状況を把握する事が出来たが、現在進行形で風竜に襲われてパニックに陥ってる領主軍にまともな判断は出来ないようだ。というか、ほんとにワイバーンだったら勝てるつもりなのかな? おじいさんがポンポン狩ってくるけど素材が高く売れるって事はそれだけ貴重、手に入りにくいってことだ。その手に入りにくいってのはワイバーンが強いから倒すのが難しいということ。そんなワイバーンを倒せって領主軍じゃあ無理でしょうに。
だが、私兵やごろつきはほとんど逃げ出してしまったが、側近らしき人物達は領主の命令に嫌々ながら従い風竜達に攻撃しようとした。
「グルゥゥゴァァァァァァ!」
その時竜の森から今まで以上に腹に響く鳴き声が聞こえてきた。




