270
その後もこの場所での商売は順調にいった。大商店も買い占めなどをせず、大物の獲物の取引や大口の取引などを担当し、新人や行商人達は数は少ないが仕入れもしっかり出来るようで露店の集まる場所は定期的にお店が変わっていた。
さすがに宿は作るのが戸惑われたのか未だにテント村だったが、食べ物の屋台はたくさん増えた。ただ、野菜が少ないのが少し気になるかな。
どこかの景気が良くなれば代わりにどこかの景気が悪くなる。竜の森の市場が賑わえば賑わうほどフレイの町の活気は失われていった。もちろん最低限の経済は回っているはずでうちも大商店の人達も日用品や食料品なんかを町で販売している。しかし、そういった物にまで新領主は税を掛けているので町に住んでいる人達の生活は少しずつ苦しくなっているそうだ。
「どうやら領主が兵を集めてるらしいぞ」
「ギルドにも依頼して冒険者を集めようとしたらしい。まぁ、ギルドに断られて出来なかったみたいだけどな」
「なんのために集めてんだ?」
「そりゃあ、ここを支配するためだろ? ここが出来てからあの町は住み辛くなったしな」
夜の屋台を手伝っているとギルドの人達や冒険者達が酒を呑みながら色々な情報を話していた。明らかに声が大きいのは院長先生に伝えろってことなのかな?
ならばとサービスでお酒やつまみを出すと色々と教えてくれた。
聞いた話を纏めるとこんな感じか?
竜の森の市場が大きくなったからか、重税のせい、どちらが原因かは微妙なところだが、町の収入が落ちてきた。領主にしてみれば原因は市場なのだろう。そして領主は考えた。竜の森の市場を支配しようと。領主は兵を集め竜の森に向かおうとしたが、ほとんどの兵士が「戦争でもないのに人間相手に戦えない」と反対したそうだ。
雇い主の領主にそんな事してもいいのかと思ったが、数が多いために処罰も出来ないんだろう。
兵士が使えないならと私兵を集めたのだが、こちらは人数が少ない。話によると30人位なので質にもよるが竜の森の市場を制圧するには足りないだろう。主な原因は狼達なのだが……。
で、足りない戦力を冒険者を雇って補おうとしたようなのだが、「緊急時でない限りそのような依頼は受けられません!」と冒険者ギルドに断られた。情報源は冒険者ギルドなので間違いないだろう。
まぁ、確かに戦争でもないのに集落を襲うから手を貸せと言われて「はい!」なんて言う冒険者はいないよな。むしろ戦争を仕掛けるようなもんだ。
で、兵が足りない領主は町のゴロツキを集め始めたって話だ。ある程度集まったら何かしら動きがあるかもな。
そんな情報収集をした数日後、早速動きがあった。領主からの使者がやってきたのだ。使者は昔から領主の下で働いていた為、院長先生やギルドの人達、商人達のなかにも知っている人がいる人物だった。
「大変申し訳ないのですが、これが領主様からの手紙になります」
本当に申し訳なさそうに使者は院長先生に手紙を渡した。それを読み、使者以外のメンバーで話し合いをした。それから返事を使者に渡し、使者は帰っていった。使者は何度も頭を下げて帰っていった。
「結局何しに来たんだ?」
使者が帰ると孤児院の仲間が集まって何があったのかを聞いてきた。俺も隠れて聞いていたので詳しいことはわからないが、領主が税金を払えと言ってきたみたいだった。
「なんで税金なんか払わなきゃいけないんだよ!」
「領主が言うにはここは領主の土地だからだって」
「ん? なぁ、前に門場のおっちゃんがここはどこの土地でもないって言ってなかったか?」
おおっ、クルスくんよく覚えてたね。
「そう、ここはアーゲイル王国の土地じゃないよ。ギルドの人にも確認したから間違いない。でも、誰の土地でもないなら自分の土地だって言うことも出来ちゃうんだよね……」
「じゃあ税金を払わなきゃいけないのか?」
「いや、国が領土として認めてないのに払う必要は無いよ。ないんだけど、何をしてくるかわからないからなぁ……」
俺達の不安は数日後、現実となって現れることになった。




