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「俺は負けねぇ~!」
「ハッハッハッ!」
天気のよい昼下がりクイーンとクルスくんが競争をしていた。クルスくんは走って、クイーンは狼車を引いて。もちろん狼車には軽くなる補助魔法を使ってある。でないとさすがにクイーンでもクルスくんには勝てないからね。
なぜ競争などしているのかといえば、俺達が熊の行商人の村に向かっているからである。走る理由にはなっていないのだが、クルスくんが暇していたのと、今走っているのが街道から逸れた道なき草原を進んでいるからだ。
クイーンが本気で走ったら狼車が壊れるかと思ったのだが、魔法で強化したのに加え竜の森の木材が想像以上に丈夫だったために出来た芸当だ。
「ほら、クルス、しっかり走りな!」
「くい~んがんばれ~」
「頑張って……」
狼車から妹ちゃん達の声援が飛ぶ。
今回の旅はいつもの四人+サクヤちゃん、おじいさんと熊の行商人、クイーンとぴーちゃん、それと新しい従魔がメンバーだ。他は港町でお留守番だ。
昨日はカニを食べながら話し合いをしたのだが、やっぱり商人ギルドは時間がかかると言われたそうだ。
また、猫族の二人も病み上がりということで旅に連れていくのに少し不安が残る。それならばと少人数で熊の行商人の村に行き、帰ってくるのはどうだ? と提案してみたのだ。最初は皆に反対されたが港町での待ち時間等を考えなんとか認めてもらえた。
「クソッ、勝てなかった」
いつの間にかクイーンとクルスくんの競争はクイーンの勝利で終わっていた。俺達の乗った狼車なのに勝てるとは……クイーン、恐ろしい子だ。
競争後、休息を取り出発する。狼車を引くのはなぜかクルスくん。なんでも負けた罰なんだとか。
「うぉぉぉぉぉぉ」
魔法で軽くなってるとはいえ狼車を引いて走るとはクルスくんも強くなってるんだなぁ。と思いつつ時たまおじいさんが魔法を解除して狼車を重くし、クルスくんを鍛えているのを眺めていた。
今回少人数ということで街道ではなく最短距離に近い所を走っている。その為途中で狩りが出来ると期待していたのだが、出会うのが兎や鳥ばかりなのでぴーちゃんと新しい鳥の従魔、シーキャットが早期発見、討伐してしまい出る幕が無かった。
このシーキャット、海にたくさん飛んでいた海鳥なのだが、離れた所で行動することになったので伝書鳩代わりにしようと従魔にした鳥の魔物である。
たくさんいるから簡単に捕まえられるだろう、そう思っていたのだが、思いの外従魔にするのは大変だった。というのもこのシーキャット、レベルが高かったのだ。そのせいで、ただでさえ飛んでいるモンスターへの対抗手段の少ない俺達は苦戦してしまった。
そして現在良いライバルが出来たとばかりにぴーちゃんはシーキャットと狩りをしている。見た目あまり攻撃的ではないシーキャットだったが、レベルの高さとこれまでの経験で十分ぴーちゃんと渡り合っていた。
さて、このシーキャット、なぜレベルが高いのかと考えていた所、とある事に気付きその理由が判明した。それは猫族の二人がレベルアップしていたことだ。二人は小さいので当然ながらレベルが一や二だったのだが、カニを茹でる手伝いをしていたらいつの間にかレベルが上がっていたのだ。
カニとはいえロッククラブというモンスターなので倒せば当然経験値が貰えるのだが、カニを茹でる行為も攻撃に含まれるとは思ってもいなかった。
森では動物や植物が、空では鳥がモンスターとして存在するのならば海(川)にも魚のモンスターがいてもおかしくない。むしろ漁師さん達のレベルの高さにもうなずける。初めて会った漁師さんの銛を構える姿が堂に入ってたのは幾度となく魚達と戦った経験からだろう。
漁で捕れた魚達を調べてみるとやはりモンスター、魔核を持つものが数が少ないが存在していた。漁師さんに許可を取り、解体、捌いてみたのだがゴブリンのよりも小さかったのでもしかしたら漁師さん達もモンスターとは気づいていなかったのかもしれない。
そんなこんなでシーキャットのレベルの謎が判明したので、留守番組には出来る限りで良いので猫族の二人に手伝いをしてもらい、旅に耐えられる位には鍛えておいてくれるように頼んである。なんとか10レベルになってくれれば嬉しいのだが……。




