表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のレッテルを貼られた『雨女』ですが、隣国の農業特区で豊穣の女神と勘違いされています!  作者: くうちゃんママ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話 美味しいご飯と優しい雨、ずっと二人で

王都の大聖堂は、見渡す限りの花と緑で飾られていました。


ステンドグラスから差し込む光が、私の着る純白のドレスを柔らかく照らしています。

祖国にいた頃のような、コルセットで息もできないほど締め付ける窮屈なドレスではありません。

軽やかな絹の布地は歩きやすく、私の動きを少しも邪魔しませんでした。


「緊張しているか、クロエ」


隣を歩くレオンハルト陛下が、私の手を取りました。

今日の彼は、泥だらけのシャツではなく、アグリア国王としての威厳に満ちた礼服を纏っています。

それでも、私に向ける金色の瞳の優しさは、畑で一緒に土にまみれていた時と何も変わりません。


「いいえ。少しだけ、お腹が空いているだけです」


私が正直に答えると、彼は肩を揺らして低く笑いました。


「君らしいな。式が終われば、君が特区で育てた野菜を使った大宴会だ」


控室での身支度中、侍女たちから風の噂を聞きました。

ローゼン国は干ばつによる飢饉と経済の崩壊で、完全に衰退したそうです。

王家は責任を問われて失脚し、ジュリアス殿下もミアも平民へと落とされたと。


かつての私なら、その知らせに胸を痛め、同情の雨を降らせていたかもしれません。

けれど、今の私の心に波風は立ちませんでした。

彼らは彼らの選択の果てに、その結末を自ら選び取ったのです。

私にはもう、関係のない過去でした。


荘厳な鐘の音が鳴り響き、聖堂の扉が開きました。


私たちが祭壇へ向かって歩き出すと、参列した人々から割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こりました。

貴族たちだけでなく、特区で一緒に汗を流した農夫の皆さんや、国境の村の人々の姿もあります。


「女神様、万歳!」

「新しい王妃様に祝福を!」


笑顔、笑顔、笑顔。

私を忌み嫌う冷たい視線は、ここには一つもありません。


神父様の前で誓いの言葉を交わし、レオンハルト陛下が私のヴェールを静かにめくりました。

彼が身を屈め、誓いのキスが交わされます。

唇に触れる優しい熱に、私の胸の奥がじんわりと温かくなりました。


式が終わり、聖堂の外にある広場へ出ると、すでに盛大な宴の準備が整っていました。


「さあ、皆さん。今日はたくさん食べてくださいね」


私はドレスの裾を少し持ち上げ、自らお玉を握りました。

大鍋には、私が特区で育てた野菜をふんだんに使ったスープが湯気を立てています。

王妃自らが料理を取り分けるなど、他国では考えられない光景でしょう。

でも、これが「美味しいご飯」を愛する私の、この国での在り方なのです。


「王妃様のスープだ! ありがてえ!」


農夫のおじさんが、嬉しそうにお椀を受け取ります。

彼らの笑顔を見ていると、私まで幸せな気持ちでいっぱいになりました。


フワリ、と。

風に乗って、冷たくて心地よいものが頬に触れました。


空を見上げると、雲一つない青空から、キラキラと輝く水滴が舞い落ちてきました。

太陽の光を浴びて、まるで空から金色の花びらが降ってきているようです。


「また降ったな」


スープのお椀を持ったレオンハルト陛下が、私の隣に並びました。


「はい。嬉しくて、幸せで……また降らせてしまいました」


「最高に美しい雨だ。この国への、何よりの祝いの品だよ」


天気雨に濡れながら、広場の人々は歓声を上げて踊り始めました。


私はもう、完璧な令嬢を演じる必要はありません。

泣きたい時に泣き、怒りたい時に怒り、笑いたい時に腹を抱えて笑う。

そのありのままの感情が、愛する人を、そしてこの国を豊かに潤していくのです。


「クロエ」


レオンハルト陛下が、空いた手で私の腰を引き寄せました。

彼は私の泥のついていない綺麗な頬に、そっと額を寄せました。


「愛している。君と君の雨に、永遠の忠誠を誓おう」


「私もです、レオンハルト様。ずっと一緒に、美味しいご飯を食べましょうね」


明るい日差しの中で降る優しい雨が、私たちの未来を祝福するように、いつまでもキラキラと降り注いでいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ