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大魔法使いの血筋でありながら魔力を持たずして生まれ落ちた出来損ないを体よく処分し、妹の我儘をかなえてあげられる。これほどまでにヴィレオン家にとって都合の良い機会はもう二度と訪れないだろう。18年の間ずっと持て余していた、存在してはならない長子がようやく消えてくれる機会だ。
私が死ねば結婚自体はなかったことになり、フローラとフェリノスには新しい伴侶が国王によって選ばれるだろう。
まさに一石二鳥とはこのことだ。
「奥様……? 大丈夫ですか?」
「手紙の内容をあなたは知ってるの?」
「いえ、すべては知りませんが……」
「そう……。お夕飯、ごめんなさい、全部は食べきれなくて……味はとても美味しいのだけれど」
「大丈夫ですよ。そういう時もあります。早めに湯浴みをなさいますか?」
「そうするわ」
フェリノスが迎えに来るにはまだ時間がかかりそうだからと、私は首を縦に振った。
リナリアが浴室へ案内するために私の肩に触れた瞬間、険しい顔で勢いよく私の方に振り向く。
「奥様、身体が冷えておいでです……! 急いで温めないと」
「窓際にずっといたからだわ。一人で入れるから、あなたは戻って」
「今日こそはお手伝いを……」
「ごめんなさい」
リナリアの言葉を遮るように、ただ簡潔に拒否の意思を告げる。リナリアはそれ以上何も言わず、頭を下げて部屋を出て行った。
かわいそうなことをしたかしら。だけど、もう、心に余裕を持つことができない。
手紙の、父親の筆跡をなぞりながら、何度も文章を目で追う。嫌な文字だ。これ以上見たくなくて、私は速足で浴室に向かった。適当に服を脱ぎ捨て、リナリアが温めてくれた湯に浸かって大きく息を吐きだした。
「通報したのはお父様だったのね」
役人がここへ来た理由がわかった。
家族から裏切られ、罪人に仕立て上げられる気持ちを代弁できる語彙力を持ち合わせていない。
もし役人が私を捕まえたら、それだけで死罪が確定したようなものである。
「――殺されたくない」
口をついて出た言葉は自然な思いだった。
だって私は望んでここへ来たわけじゃない。拒否権などなかった。この婚姻を回避するために、私ができることなんて何一つなかった。
最初から国に通報されたら死罪になると理解はしてたし、家を守る為だと、相応の覚悟はしてきた。
だけど、家を守りたくて命を懸けてここに来たのに、その家に裏切られて、言いなりになったまま死罪を受け入れるなんてできるわけがない。
「黙って虐げられるのは、もう辞めてやる……っ!」
バスタブの中で勢いよく立ち上がる。こうしちゃいられない。
フェリノスの言うことを聞いている時間はない。
とっとと逃げなければ。
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