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「は?」
「フローラちゃん!? あなた何を言って――」
「だって、私と姿形が瓜二つで、声だって大して変わらないでしょう? いくらでも誤魔化せるわよ」
「……魔力量は誤魔化せないですよ」
自信満々に意見を述べるフローラに、おそるおそる声を掛けた。
彼女は「ああ、そうよね」と、意地の悪い笑みを見せた。
「お姉さま、魔力が〝ゼロ〟ですものね。そのせいで使用人の真似事をさせられているんだってこと、忘れてましたわ」
次いで母親が、フローラの嘲笑に便乗するように、わざと大きなため息を吐く。
「王国の鎮守を担う大魔法使いの一族の長子なのに、魔力を持たないで生まれてくるなんて恥知らずも良いところだわ」
「その点、フローラは我がヴィレオン家の当主にふさわしいだけの魔力量を持っている。歴代でもっとも優秀な魔法使いになるんじゃないか?」
父親がフローラを褒め称えて、彼女の白銀の髪を優しく撫でた。
フローラがはにかんだ笑顔を父親に向ける。
その光景があまりにも眩しくて、妬ましくて、私は視線を床に落とした。
(私だって、好きでこんな身体で生まれてきたわけじゃないのに……)
水の入ったボトルを抱きしめるようにして持ち直した。待機場所である壁際に、一緒になって並んでいる他の使用人たちの視線が、ちらちらとこちらを窺っているのが気配でわかる。
妹がお行儀悪くフォークをこちらに向けて、話を続けた。
「お姉さまは寒いのは平気でしょう? 子供の頃にエルヴノール領でやったパーティーの時も、普通の顔をしていたものね」
フローラの言うパーティーは、四半期ごとにそれぞれの領で行われる子供同士の交流パーティーのことで、既に使用人として妹の世話役を担っていた関係で参加させてもらったことがあった。交流会が開かれた季節は真冬であり、分厚い雪化粧を施した城は、内部でどれだけ部屋をあたたかくしても冷え冷えとした空気が消えていなかったのを覚えている。
そこの当主であるフェリノスは、私たちより2つ年上で、あまり社交的ではない性格だったと記憶している。
雪のような淡い青白の色をしたストレートの髪を短く切りそろえ、深く澄んだ湖を思わせるコバルトブルーの瞳。常に無表情で寡黙でありながら、柔らかい雰囲気を纏っている。なんとも不思議な人だった。
私はあのパーティー以来会っていないけど、印象は大きく変わっていないことから、きっとあのまま大人になったんだろう。
フローラが立ち上がって、私の目の前に立った。
「私の代わりに、エルヴノール家へ嫁いでくださるでしょう? 魔力量なんていくらでも誤魔化せるんだから、平気よね?」
「魔力量を、誤魔化すって……どうやって」
「だからなんとでもなるのよ! しつこいわね。どうせ説明したってわかんないでしょ。とにかく、一か月後に婚姻の儀が行われるの。その薄汚い恰好をなんとかして、私に成り代わって結婚しちゃってよ」
「だけど、」
「逆らうの? また磔にしてあげましょうか? 葉っぱみたいな模様が皮膚の上に浮かび上がるの、あれとってもきれいだったからまたやりたいと思ってたのよね」
フローラが右手を持ち上げる。その動きだけで私の身体は緊張で硬直した。唇をかみしめて、視線を足元に移す。
壁に磔にされ、電気を流されるという拷問を受けた記憶が蘇って、思わず胸のあたりで拳を握り締めた。目をぎゅっと瞑り、身体が勝手に震えるのをなんとか押さえつける。
声も出ないぐらいに妹を怖がっている私の姿に満足したのか、フローラはくすりと笑ってさらに距離を詰めてきた。
「いい子ね、お姉さま。ま、無理して私の性格を演じることはないわ。私も議会では誰とも喋らず大人し~くしていますから、お姉さまのように寡黙な方でも誰も見分けはつかないでしょう」
「…………」
「家の格を守ってちょうだい」
フローラが私の肩を握り締めながら耳元でささやく。
その言葉に心臓が派手な音を立てながら早鐘を打つ。両親の方に目を向けるが、据わった目で私を見つめ返すだけで何も言わなかった。
もうこうなったら私に拒否権はない。
無言を肯定と受け取ったフローラがスキップしながら席に戻った。
「よろしくね~」
先ほどの空気とは打って変わって、賑やかな時間が訪れる。まるでさっきまでの話はなかったことになったみたいに、もう違う話題で盛り上がっていた。
青い顔をしているのは私だけだ。
フローラはいとも簡単に私に身代わりになれと言ったけれど、それはすなわち、王命に逆らうということだ。
(そうなれば死罪は免れない……)
手が震える。私はもう逃げ出せない。どんなに出来損ないだったとしても、ヴィレオン家に生まれた人間として、腹を括らねばならない。
ここで揉め事を起こせば、アーランディア王国の鎮守を担う家としての秩序が乱れ、魔物が王国を襲うかもしれない。
たかが「寒いのが嫌だから」という理由で王命に背いたとあらば、ヴィレオン家の存続にも係わってくる問題だ。
「家の格を守る為よ……アリアストラ」
胸を抑えながら誰にも聞こえないような声量で自分に言い聞かせる。
拒否もできない、逃げ出すこともできない、ならば家を守る為に王命に背くしかない。
嘘はいずれ公になる。
その時まで……自分の役目を果たせばいいだけだ。
そして私は、身代わりとしてエルヴノール家へ嫁ぐことになった――。
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