イケメンすぎる冒険者、邂逅を果たす①
「いつまでも感情に任せて、対応するほどガキじゃないからな。」
そう返すと、口もとだけで笑うのが見えた。
「そのセリフをもっと前に言えてたら、違う人生を歩めていたかもしれんな。」
「皮肉か?」
「そういうつもりじゃない。」
「冒険者に向いてない、別の仕事に就いた方がいいと何度か言われたのをおぼえている。」
「・・・確かに、そんなことを言ったな。おまえの顔は冒険者向きじゃないという意味だが。」
「この顔で向いている仕事って何だ?男娼か貴族のご婦人方のおもちゃか?当時はふざけたこと言いやがって、と何度も思ったものだよ。」
この男はダニー。
本名はダニエルで性はない。
スラム街の出身で、物心ついた頃から冒険者を目ざして活動し、今やそれなりに有名なクランのリーダーだ。
クランというのは複数の冒険者パーティが加入し、より大きな依頼を受けたり、互いに情報共有を交わす互助組織のようなものである。
「今でもそう思っているのか?」
ダニーは俺が冒険者になりたての頃に世話になったパーティのリーダーだった。
パーティに所属する女性冒険者同士が俺のことで争い、そいつらに気があった男性冒険者からは妬まれといった状況となり、パーティは崩壊寸前にまでなったという笑えない話だ。
ダニーはその状況を招いた根源として、俺をメンバーから追放した。
今となってはどうということのない話だが、当時は相当にショックだったことをおぼえている。
身寄りのいなかった俺にとって、ダニーは兄のような存在だったのだ。
「今ではもう悟っている。あんたにもいろいろと世話になったと、当時の自分の言動や態度なんかを恥じているさ。」
「そうか。そう思えるようになったというのは、大人になった証拠だな。」
「やってることは大して変わらないけどな。」
「まだ冒険者を続けているようだが、ソロだと頭打ちだろう。」
「心配しなくても、あんたにもう迷惑はかけない。」
そう言って、早々に立ち去ろうとした。
「よかったら久しぶりに飲まないか?」
「やめとくよ。食い慣れない物を過剰摂取して、胸焼けがひどいんだ。」
俺はひらひらと手を振りながら、その場を立ち去った。
ダニーはただ思い出話をしたいわけじゃないのだろう。
もしかすると、仕事の話かもしれなかった。
まあ、今さらクランへ勧誘されるとも思えなかったが、もしそうなら以前のように迷惑を掛けてしまうかもしれない。
ここは懐かしくても、あまり深入りすべきではないと思ったのである。
定宿に戻る途中、夜遅くまで開いてるカフェがあったので立ち寄った。
ブラックコーヒーを飲みたくなったのだ。
カルーアミルクで大量にコーヒーリキュールを摂取したのじゃないのかと言われそうだが、アレとコレとではまったく別物である。
ひと口啜ると苦味と酸味が口内に広がり、鼻から特有の香りが抜けていく。
甘味で胸焼け気味だったのもおさまり、胃も落ち着いたように思えた。
冒険者として野営をするときや、数日間の馬車の移動時には必ずコーヒー豆を持参する。
あれを小型のミルで挽いて飲むと、ある程度の疲労感も吹き飛ぶのだ。
酒は酒で飲むが、コーヒーはまた違ったリラクゼーション効果をもたらしてくれる。特に酔えないシーンでは重宝するため、愛飲する冒険者も少なくはなかった。
「相席、かまわないか?」
あまり周囲に気を配っていなかったせいか、そいつが近づいてくるのに気づかなかった。
店の出入口とは別の方角を向いて座っていたこともあるが、一悶着起こした身としては警戒が足りなかったと反省する。
「どうぞ。」
他にも席は空いていたが、こちらも会話を交わしたかった相手である。ちょうどいい機会だと思うことにした。
「いらっしゃい。」
マスターが目の前に座った男の注文を取りに来ていた。
初老だが無駄のない動きをする。
この人もかつては冒険者だったと聞いたことがあった。
趣味が高じて、引退後にカフェを開業したらしい。あまり話したことはないが、毎日楽しそうにしているのを見ると羨ましいかぎりだった。
俺も冒険者を辞めて、こういった店を営むことはできるだろうか。
そんなことを考えながら、コーヒーを口に含む。
「プリンアラモードをデラックスサイズで。あと、ミックスジュースもメガサイズでくれ。」
「ぶふっ!?」
まだ食うのかコイツは。
俺は正面に座るSランク冒険者マイク・バルカンを、化け物でも見るかのようにガン見した。




