恋バナとやらをしましょう。(2)
ようやく本格的に始まったお茶会。
大きなテーブルを取り囲み、最近の流行のドレスだったり…宝石だったり、お菓子など…女の子らしい会話をしている。私は頷くのみだが、楽しそうに話しているのを見るのが楽しい。
黙っていながら聞いていると、令嬢達の声が急に色めき立った。
「この前…お茶会で出会った方が…お優しくて」
リタの隣に座っていた令嬢が頬を染める。この表情は、恋する女の子の顔だ。
「貴女の近くにいた令息ですね?すごく気を使ってくださってましたものね」
ツェツィーリアも楽しそうに会話に混ざる。
「ツェツィーリア様っっ。そうなのですっっ…子爵家の次男だそうで…。私…もう少しお近づきになりたくて」
恋する乙女は可愛らしい。皆んなで令嬢のために、彼に近づくための対策を練っている。
「リタ様のところはどうですか?」
「ローラン様、身長が高くてスマートですものね」
「エッゲルト侯爵家の血を色濃く受け継いでいますものね」
「私のところですか…?」
リタの相手となると、皆前のめりだ。
エッゲルトという名前は聞いたことがある。王国の南を守護する騎士の家系だ。因みにだが、ジークフリートの生家であるクラウスハール家は北を守護する家系だ。そのエッゲルトの息子といえば、かっこいいと人気の一人だ。王都の学園に通いながらも、南に危機があればすぐさま駆けつけ、誰よりも戦果をあげる程の力がある。それほどまでに強い彼…ローランは幼い頃からリタの婚約者らしい…というのは、先ほどの会話から聞き取った。
「…その…会う度に抱き締めてくださいます」
リタは恥ずかしそうに答え、皆は黄色い声を上げる。
確かに今のはキュンキュンするかも。リタは私と同い年で、ローランは彼女の三歳上。成長期の彼は背が高いらしく包み込まれるらしい。
正直言って羨ましい。
ルートヴィヒも年頃になってきて、身長が伸びて来たがまだまだ十三歳だ。同い年である私とほんの少ししか身長が変わらない。ヒールを履いて隣に並ぶと、目線が同じか私が少し高くなる。彼女のように包み込まれることはないだろう。
「ローラン様は…その…」
リタは何かを言い出そうとしている。それを皆んなが固唾を飲んで見守っている。
「体格が良いのです。む…胸が…厚くて…」
言いたいことはわかる気がする。筋肉が頬に当たるのだろう。
こういう話は聞いてるだけで楽しい。前世で行っていた恋バナのようだ。
「ツェツィーリア様はどうなのですか?」
リタの話がひと段落した後、誰かがツェツィーリアに訊ねる。
私の記憶が正しければ、彼女にはまだ婚約者はいない。ツェツィーリアの家であるハインツェは伯爵という位でありながら、この国の重鎮に近い。だが、大きな商談と関わりがあるハインツェ家の娘でありながらも、未だに相手がいないのが珍しいのだ。
「私はそういった方はいません。いつか出来れば…と思いますが、今は自分磨きで精一杯なのです」
質問に嫌がる素振りを見せず、ツェツイーリアは淡々と答える。
それに…彼女は今でも綺麗なのに、これ以上磨くのか。向上心がすごい。
「そうですか…申し訳ございません」
「いいえ、大丈夫ですよ。それより、メルはどうなのですか?」
上手い具合に話を変えてきた。しかも、私に話を振ってきた。
「…え…」
「メルクーア様は殿下の婚約者なんですよね?」
リタや他の令嬢は待ってましたと言わんばかりに、目がキラキラと輝いている。
そんな期待されても…リタ以上のものは出せる気がしない。
「えっと…はい。そうなんですけど」
皆んなから見られていると焦ってしまう。背中から汗が汗が湧き出ている。
「そうなんですけど…?」
「皆様の期待にお答えすることができるかどうか…」
前世から恋バナとやらに縁がなかった私だ。
こんな…眼差しを向けられて…正直困るけど…。けど、ワクワクしているのは確かだ。
「大丈夫ですよ。私たちはメルクーア様のお話を聞きたいのです」
リタがそう言ってくれて少し安心する。それもあり、私はとうとう口を開くのだった。
「以前…私が熱を出した時なのですが…」
今日から半年ほど前の話だ。
王妃教育の疲労からか、体がパンクして熱が出てしまった。その時ちょうど王宮にいた私は、王宮医から城内に泊まるように言われた。熱が出てしまったことが、ルートヴィヒの耳に入り、彼が私の元にやって来て眠るまで傍にいてくれたのだ。その時に、彼はベッドの近くで私の手を握りながら一緒に眠っていたのだ。彼より早く目が覚めた時に、私より少しだけ大きな手が、私の手を包み込んでいるのを見て、胸がキューンと鳴ったのです。
「今のは…すごく良いです」
「好きな方が傍で寝ているのって…良いですよね」
「男女の体格差…ですねっ」
私が話し終えると、皆んながワクワクしながら話を広げる。
不安だったが、彼女たちの満足には達したようだ。
こうも話題にあげられると、なんだか恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたい。
「流石、殿下ですね」
「メルクーア様のことを大切にされているのですね」
「理想の恋人ですわ」
「あ、ありがとうございます」
あまりにも言われるものだから、頬の熱が全く消えない。
”理想の恋人”
”大切にされている”
そう思ったのなら、私の努力が報われているのかもしれない。
「メルクーア様は殿下のことを好いてらっしゃるのですか?」
リタの一言に今日一頬が赤くなる。
私は小さく頷く。照れてしまっていると、周りが穏やかな笑みをこちらに向けている。
「え?えっと…」
「メルクーア様は綺麗だけでなく、可愛いも兼ね揃えておられるのですね」
「そんな…」
「もっと…お話ししましょう」
ツェツィーリアの言葉で、ようやく私からそらされる。
彼女たちは、尽きないほど恋バナを持っているようだ。
先程までの緊張はなく、私も彼女たちの話に参加することができた。
恋バナをしていると、ルートヴィヒに会いたくなってきた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
また、誤字脱字報告もありがとうございます!!