誕生日会当日(1)。
「お嬢様…やはりお美しいです」
メイクを終えたベルは鏡に映る私を見て感動している。そんな彼女を見て思わず微笑んでしまう。
「ありがとう。こんなことを言ってくれるのは、ベル…貴方ぐらいだわ」
なんて返せば、ベルは眉を下げて悲しそうな表情を浮かべる。
「じゃあ行ってくるわね」
鏡に映る自分を確認してから立ち上がる。
ベルが言った通り、本当に美しい。
半オーダーメイドのドレスに合うように、サファイヤのネックレスやピアスがワンポイントとして飾られている。
アクセサリーよりも、自分が一番輝いている。
今の私は戦闘服を着ているようだ。
◇◆◇◆◇◆
家族とはまた別の馬車で王宮へ到着する。
降りた場所にいたのは、ルートヴィヒ……ではなく、ギルベルト。
「あいつは、今日の主役だから。俺で申し訳ないけど、広間までどうぞ」
「なるほどね…と言いたいところだけど、こういう会で初めてエスコートされなかったわ」
「でもそのおかげで、俺と一緒に行けるけど?」
「貴方のその冗談、私は好きよ」
場を和ませようとしてくれているみたいだ。
本当…こんないい人だなんて。
「今日、ヒルデは来ているの?」
ギルベルトにエスコートされながら、目的の人物の存在を訊ねる。彼女の名前を出すと、眉を潜めるものだから、来ているんだと納得する。
「フリルがあしらわれたセンスのないドレスを着てたよ」
そこまで言うなんて気になるんじゃないか。
あとで余裕があれば観察しそう。
「そう言えば、今日は私のこと褒めないのね」
ふと思い出した。
ギルベルトは数多の令状を口説いてきた。そんな彼は呼吸をするかのごとく、令嬢が蕩けるかの如く褒めてる。
以前も私のことを褒めてくれてたのに…今日はないみたい。
「え?あぁ…まぁ今日は…うん。褒めるとしても後でだね」
歯切れの悪い彼に不審がっていても仕方ない。
後でというなら、しっかり聞いてから帰ろうか。
談笑しつつ歩いて会場の広間へと到着する。すでに、シュテルンベルガー家やクラウスハール家、リーシュ家が揃っている。
ギルベルトに連れられてやってきた私を見て、貴族たちは何やらこそこそ話している。
本当…噂が好きね…ここの人たちは。
冷めた目で見ていると、ラッパの音が響く。そちらを向くと、王家の人たちが登場した。
ルートヴィヒは、私と同じシルクの衣装。ワンポイントに紫色…アメジストの宝石が添えられている。
「皆…私、ルートヴィヒ・ノイエンドルフのために集まってくれてありがとう。本日は楽しんで行ってくれ」
彼の一言で会場がワッと盛り上がる。
冷めた視線と拍手を送っているのは、私ぐらいだろう。
いつものように王族への挨拶を終えると、ルートヴィヒからダンスのお誘いを受ける。
「メルクーア、そのドレス…似合っているよ。着てくれてありがとう」
「こちらこそこんな素敵な贈り物…ありがとうございます。それと…私からのルーイへのプレゼントは気に入っていただけましたか?」
「うん。帝国の神学についての書籍…嬉しかったよ。大切に読ませてもらうね」
私からの贈り物は書籍。それも手に入りにくい帝国の物の中でも、より手に入りにくい物だ。
多神教の帝国の神学は面白いらしく、私も読んでのめり込んだ。
最後の贈り物になると思って、特別いい物を送らせてもらった。それを気に入ってくれたのならよかった。
「ぜひ、擦り切れるまで呼んでくださいね」
私をダンスを終えた彼は今度は王女殿下と踊る。
いつもならヒルデがここぞとばかりに入り込んでくるのだが、大人しいのは男爵に監視されているのか。
桃色の髪を追いかけると、余裕の笑みを浮かべてこちらを見ているヒルデと目が合う。
何…あの笑み。
背中からゾワゾワとしたものが湧いてくる感覚に陥る。
「ねぇ…ギルベルト様…ヒルデの方を見ましたか?」
二番目の相手はいつものようにギルベルト。そんな彼の耳元に口を近づけ内緒話を始める。
「見たよ。何か企んでるね」
「…怖いわ」
「これから何かあるのかな?とりあえず、様子を見よう」
「…わかった」
落ち着くギルベルトを見て、こちらもとりあえず落ち着くことにする。
それでも、彼女の笑みを片隅に入れながら。
ある程度ダンスが終了した後は、ルートヴィヒにエスコートされながらホールの中央にやってくる。
貴族たちはヒソヒソと話を始める。
「まさか…結婚の報告ですか?」
「ついに…メルクーア様が王太子妃になられるのですかね」
なんて会話が耳に入ってくる。
隣に立つルートヴィヒを見上げると、そのウワサ話が耳に入っていないのか、涼しい顔をしている。
こちらの視線に気づいたのか、優しく微笑んでいる。
「陛下、この場を借りてお話ししたいことがあります」
彼にしては珍しく、張った声がホールに響く。
隣に立つ私は心臓がバクバク鳴っている。落ち着いて…ギルベルトも言っていたし。
貴族たちの楽しそうな声が漏れて聞こえてくる。
それを無視するかのように彼は続ける。
「私と…メルクーアとの婚約を破棄していただきたいのです」
高らかと宣言する彼の言葉に、鈍器で頭を頭を殴られたような感覚になる。
想像していた発表とは異なり、周囲はザワザワとしている。それと同時に、こちらを好奇の目を向けてくる。
待って…婚約破棄は…私の誕生日でされるんじゃなかったっけ。
だめだ…酸素がうまく入ってこなくて、頭が回らない。
「なぜだ。メルクーア嬢が何かしたのか」
「いえ…特に何かしたわけではありません」
「ではどうしてだ」
「私は本当の愛を見つけたのです」
クライマックスに入ります。




