艶やかな姿の裏の顔が気になる(2)。
授業終わりに図書館へ本を返そうと廊下を歩いていると、前から急いで早歩きをしている水色の髪色が見えた。
その人物は私を見つけると名前を呼ぶ。
「こんにちは、ギルベルト様」
進めていた歩みを止め、彼に簡略的なお辞儀を行う。
「こんにちは、メルクーア嬢。えっと…」
呼吸を整えながら、言葉を詰まらせる彼の言いたいことが分かった私は口を開く。
「もしかして、ルートヴィヒ様ですか?残念ながらお見かけておりません。そう言えば…お二人は本当に仲がよろしいのですね」
口元に手を当ててクスクスと笑うと、目の前にいる彼は”違うんだ…”とため息をつく。
「いや…違うわけではないんだけど…。ルートヴィヒを探しているのは本当だし、仲が良いのも本当だけど…彼は…その…」
「エーレンバーク様関係ですか?」
眉を下げながら訊ねると、ギルベルトは申し訳なさそうに頷く。
彼から話しかけてくるから予想はしていたが、やはりか。
ギルベルトは重く閉ざされている口を開いて、今日の話について話し始めた。
ヒルデはギルベルトや、ルートヴィヒと同じクラスになったこと。学園について何も知らないヒルデは、慣れるまでルートヴィヒに傍にいてもらうように先生からお願いされたこと。
それを聞いたギルベルトは、ルートヴィヒに他の令嬢を割り当てるように伝えたこと。
それは勿論、私という婚約者がいるから。
だけど、ルートヴィヒは教師に頼まれたからね。と言って提案を断られたことを一言一句漏らさず伝えた。
それを聞いて、私はただただ苦笑するしかなかった。
教師に言われたのなら仕方ない。彼は優しいから…頼られたら断れなかったのだろう。
そこが彼のいいところではあるのを理解はしている。
だけど少しは断る素振りを見せて欲しかったのが本音だ。
私という婚約者がいるのだから。
彼らのことは気にはなるが、まだこちらの方が有理ではあると思っている。
だから…彼女が慣れるまでは、黙ってようと思う。
「ルートヴィヒのことは、見張っておきます。別の事で何かありましたら…すぐに報告してください」
ギルベルトは胸に手を当てて軽く腰を折る。
私はそれに反応するように、優しく微笑みお礼を伝える。
「ギルベルト様、すごく頼り甲斐がありますね。ぜひ、困った時は頼らせてください」
彼と話し終えた後は、目的の場所であった図書館へ向かう。
用事を済ませた後は、静かな廊下を歩く。すると、庭の方から可愛らしい声が聞こえてきた。
「ルートヴィヒ様、見てくださいっ。こんなに広い庭園がっ」
そんな可愛らしい声は、私の婚約者の名前を呼ぶ。
悪いことをしていないのに、息を潜めて柱へ咄嗟に隠れた。
「エーレンバーク嬢は、花が好きなの?」
「はいっっ。花を育てると、心が落ち着く気がするんです」
「いいね。僕も花を見ていると…心が落ち着く気がするな」
「私と同じですね」
優しい声でヒルデに話しかけるルートヴィヒ。
私に話しかける声とはまた違った声色。
それを聞いて、勝手に浅くなる呼吸を聞こえないように抑えるよう努める。
彼らに背を向けているからか、表情は全く見えないが、声だけを聞いてると楽しそうだ。
「この黄色の薔薇…ルートヴィヒ様の髪色と似ていますね」
「本当かな?」
「本当です。私、黄色の薔薇…好きなんです」
確信犯なのか…天然なのか…。
彼らの会話を聞いて背中がひんやりと冷える。
何も知らない人からすれば、あの二人が恋人のように見えるだろう。それくらいの雰囲気が漂っている。
「そう言えば…ルートヴィヒ様の婚約者の…メルクーア様?はどんな人なんですか?」
ヒルデは私の名前に疑問符をつける。
そんなに覚えにくい名前ではない気がするけど。
「優しくて、芯が強い人だよ」
思考した後、彼は詰まることなく答える。
その声はどこか、冷ややかというか…他人事というか。
十年を共にして来た婚約者のことを言うにはどうも、愛情がないように思える。
私は彼がどんな表情でものを言っているのか気になり、柱から少しだけ顔を出す。しかし、ルートヴィヒは柱と背中合わせになっているようで、顔を見ることが出来ない。
その代わり…。
「ルートヴィヒ様に優しいって言ってもらえるなんて、メルクーア様は本当に幸せなお方なんですね」
その代わり、彼と向かい合うヒルデの表情はバッチリ見えてしまう。
彼女は可愛らしい表情の下にある、馬鹿にした表情を隠せておらず滲み出ている。
その彼女は、柱に隠れている私を見つけるとニッコリと微笑んだ。
柱にもう一度隠れるように身を隠す。
胸の音が聞こえるんではないかというくらい鳴っている。身を潜めていると、この場から遠くなっていきこの場を離れて行く。
音が聞こえなくなると私は小さく声を漏らす。
ヒルデは私のことを…敵対視しているのだろう。
このまま彼女が勝って、彼をとられてしまうのだけは避けなければならない。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きますので、ぜひ楽しみにお待ちください(^-^)




