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落ちこぼれ騎士の学園反逆記  作者: あねものまなぶ
最低教室のカヴァリエーレ
9/11

09

翼の羽ばたきがリース達を襲う。


「すまんなぁ、これを使うと好戦的になっちまうんだよ、だから...」

ローレットから紡がれる言葉に意識を取られたその時。


「死んでくれるなよ?」

音が消えた。

リースの耳には静寂の中にはっきりとローレットの声のみが聞こえた。


(なっ!....俺は確かに先生を捉えていた...)

思考をする暇さえ惜しい。


「っ! ...くそがっ!」

リースの中にあるのは理解不能の怪物からの逃走のみ。

危機を察知した生物としての本能だろうか。

咄嗟に、左へ重心を傾け、大きく踏み出す。距離を取り構え直そうとしたその時、ローレットの右手がリースの右側頭部を捉えた。


常人では追いつけない速度。

ローレットは上体を捻り、力任せにリースを右方向に押し投げる。


(なんだよっ!あの速度っ..マジモンの龍を相手にすると、考えないと....)

僅かな瞬間でさえ思考をしなければ倒せないと思わせるほどの怪物。

放り投げられながらも受け身を取ろうとするが、余りの風圧に身動きが取れないまま壁に激突する。


その瞬間、舞い上がる土煙の中に向かって駆けこむ影が。


「リースっ!!」

淡い緑色を拳に纏いながら、メディックが駆ける。

しかし、それを見逃す程、ローレットは優しくない。


「やはり、メディックが居ると厄介だな..眠っておけ」

リースとメディックの間に割り込むような形で瞬間的に移動する。


「奥の手を切るっ! ホウントは準備をっ!!」

「お前がやる気になるとは、珍しいな」

「龍を相手にするんだっ! 少しはやる気にもなるさっ!」

右ポケットから小さな粒を取り出し、そのまま右手に握りこむ。


(龍を相手に通用するかは賭けだけど....)

前傾姿勢を保ったまま、ナイフを構え飛び込む。


「ほう、私相手に接近戦を...魅せてくれメディックのやる気をっ!」

翼を大きく羽ばたき、瞬間的な突風を発生させる。


それに体勢を崩しながらも、潜り込むようにしてローレットの股下に移動する。

そのまま、飛び上がるように両手のナイフで首元目掛けて切りかかる。


しかし、2つの白刃は細く綺麗な手に阻まれた。

「さて、ここからどうするんだ?」

ニヤリと笑い、純粋にこの後の展開を楽しみにしているようだ。


「我は森なり! 弾けて、伸びろっ!!」

瞬間、ローレットの股下から、樹木が飛び出してくる。


想定外の事態に、一端、距離を取り、様子を観ることにしたローレット。


(ちっ! リースを回収されたか...)

後方の瓦礫に埋まっていたはずのリースは、樹木を挟んだ反対側。メディックの傍に倒れ伏していた。

右手を翳し魔方陣を展開。魔方陣から発する淡い緑色がリースを包む。


「まさか、メディックがこんな隠し玉を持っているとわね...しかも、操作と同時にリースの回復も行えるとは。お前ひとりでも十分戦えるじゃないか?」

「冗談はやめなよ。さっきのは初見だったから上手くいったけど。次は見逃してはくれないでしょう?」

「良く分かっているじゃないか?」


両の手を前方に向ける。


「龍に対して、どれくらい相手できるのか分かんないけど....」

先程の場所から更に、2本の大樹が一瞬の内に出現する。


両手をゆらりと左右に揺らす。

それに合わせるかのように大樹の枝分かれした無数の幹が波打つ。

メディックの指揮が始まった。


右手を軽く弾き、中央に引き戻す。

そうすると、右に生える大樹がゴムのようにしなりそのままローレットを襲う。


大質量の突進。

余りの速さに目で追うのがやっとだ。

防御態勢を取れぬまま、横なぎに払われる。

(はっ....はやいっ!!)


その衝撃に内臓の一部が持っていかれたのか、口から大量の血液が逆流する。

鮮血と共に、左方向に舞うローレット。


しかし、まだ終わらない。

メディックの左手が大きく横に弾かれた。

指揮者は、更なる大樹にローレットの追撃を命じた。


ローレットが吹き飛ばされる方向に先回りをするように伸ばされた大樹。

意識が朦朧としてきたローレットでさえ、メディックの考えが読める。


(あいつ....根性悪いだろ...)

目隠れの指揮者に毒づく。

本来ならば、迎撃体勢を整えたい所だが、意識も体力も付きかけている。


(メディックには驚かされた....でも、まだまだ終われないなぁ)

脳裏には、まだ、奥の手を切っていないホウント、エドガール、リース、そして大和の表情が。


(これは、まだまだっ! ギアを上げなきゃなぁぁぁぁぁぁ)

空中で反転し、体勢を整える。

両手を腰に携えて、雄たけびを上げながら力を込める。


「はぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

変化は劇的だった。

先程の様に、光や突風は発生しない。

でも、先程以上の衝撃が一同を襲う。


「ありゃ、もしかして、起こしちゃったかも....」

その姿を観て、優位に立つメディックが冷や汗をかく。

ローレットの背中には、赤く染まる翼がはっきりと見えていた。

先程とは違い、空気にどうかして見えるといった不確かなものではない。赤黒く染まる鱗に覆われ、先端に鋭い爪、深い緑の翼膜がはっきりと視認できる。


翼を大きく羽ばたき、目の前に迫る大樹に突っ込む。


(どんな思惑なのかは知らないけど...このチャンスを不意にはしないっ!!)

全ての大樹に対して指令を出す。

両手を勢いよく合わせる。両手の間に龍を挟むかのように。


質量の暴力。大抵の生き物はこの質量の圧力には耐えられまい。

しかし、攻撃を放ったメディック本人の緊張は解かれていない。


「大和、エドガール、リースっ!! 時間を稼ぐっ!! 何とかあの龍を止めてくれっ!!」

鬼気迫る声を上げる。

メディックの予想はその人影を観て確信に変わった。


「やれば出来るじゃないか? だが、教師に対してこの仕打ちはあんまりじゃないか?」

口から夥しい量の赤色をまき散らしている。白いワイシャツにも赤い花が咲いている。


「その割には、随分喋りますね...もしかして、回復してます?」

またもや、嫌な予感がする。


「流石に鋭いな。確かに先程の臓器へのダメージは回復しているな」

「それはそれは....」


緊張の糸が緩んだであろう一瞬を狙い右手を動かす。

メディックの指揮に従い大樹が一斉にローレットを襲う。


「メディック...話の最中だろうがぁっ!」

雄たけびと共に迫りくる大樹を次々と殴りつける。

拳に負けた大樹たちがメキメキと音を立てて飛ばされていく。

残ったのは、倒壊した大樹と女教師のみ。


「成程、さっき迄の好戦的な雰囲気が鳴りを潜める、翼の視覚化。先生は、また一つ、龍に近くなった、ギアを上げたんですね....」

奇襲が通用しなくなり、後ずさりをしながら。


「そうとも、さっきは済まんかったな。どうにも中途半端な状態になると、つい好戦的になってしまってな...」

「ついでになんですけど、俺の予想ではまだまだ、ギアが上がりそうなんですが、今は何割の力なんです?」

「そうだな...今の状態で」


「2割だ」


突然の蹴りに対応できず、飛ばされる。

(これだからっ! 化け物はぁぁぁっ!!!)

飛ばされながら、ちらりと確認する。


「ホウントッ!! 出番だぁぁぁ!!!!」


追撃を掛けようと踏み込むローレットを黒い影が襲う。

「おっと、その姿を観るのは、久しぶりだな....ホウント」

黒い靄を両肩程まで、纏ったホウントが居た。


「えぇ、久しぶりですね。先生」

ホウントの姿がブレた瞬間、ローレットの腹部に拳が突き刺さる。


大気が振るえるほどの衝撃。

「ギアを上げておいて正解だった....」

ホウントの拳と自分との間に手を滑り込ませ、何とか直接的なダメージは防いだようだ。

力の拮抗を示すかのようにグラグラと揺れ動く拳達。

どちらにも振り切れない力と力の押し合いが続く。


その拮抗を破ったのは、ローレットの背後からの一撃だ。


すかさず、じゃが見込み躱す。そのままホウントの足をう。

ホウントはそれを宙返りの要領で躱し、後方に飛びのく。


ローレットの視線の先には、大和がいた。

「ここで来るか...てっきり最後の最後に来るもんだと思っていたが....吹っ切れたのか?」

意味深に笑う。

視線の先には、大和が持つ刀の柄。その紋章は1つだけ赤く染まっている。


「我が背には常に天の息吹が」

静かに紡ぐ。

大和の周囲に優しい風が巻き起こる。同時に柄には赤く染まる紋章が2つある。


「行きますっ!!」

その瞬間、ローレットは理解した。


(大和は何を背負っているっ!!)

大和の背後に蠢く何かを感じ取った。


(なんで、うちの生徒は何かを纏わりつかせるんだっ!!)

黒い靄を両手に纏うホウントしかり、その背に何かを纏わせる大和しかり。


大和の出方を伺おうと、両手を自由にし迎撃態勢をとる。

(速度は変わらず...いや、少しだけ速くなったか..だが、対応できないわけではないっ!)


懐に飛び込んでくる大和目掛けてその強靭な拳を振るう。

大樹をも砕く拳を生身で受けたとなるとひとたまりもない。


(捉えたっ!!)

僅かに残る疑念を払拭するかのように大きく、速く、鋭く拳を繰り出す。


次に瞬間にローレットを襲うのは、虚無感だった。


(っ! 完全に捉えたはずっ...)

頭の中を様々な可能性が駆け巡る。

行きつく答え。


(あの背負っている何かだな....)

先程、感じた大和が背負う何か。それがこの虚無感を生んでいる。


その正体を確かめるべく、視線を向ける。


「大和君、合わせて」

「はいっ!」

ホウント、大和。2人の共同戦線が張られた。

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