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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
51/159

第51話 フリーの頼み

こんにちは。

ブックマークや評価していただいた方、有難うございました。

嬉しいことにアクセス数30000PVを超えました!いつも有難うございます。

第51話になります。宜しくお願いします。


 次の日の朝、久しぶりに全員で顔を合わせた。宿屋の1階でパントースト、ベーコン、ポテトやオートミール等の朝食をそれぞれ好きなように食べている。周りには、眠そうな顔をしながらカチャカチャと音を立てて食べる冒険者たちが数人いた。


「さてユウ、今日は僕の頼みを聞いてくれるかい?」


 フリーがスプーンを口に運び、もぐもぐしながら言う。


「なんだ?今度はフリーとデートか?」


 フリーが椅子からこけそうになる。


「いやいやいやいや!それはないよねぇ」


「えふんっ!」


 アリスが咳払いをした。そしてフリーは手を止め言う。


「僕はねぇ。ユウの本気が見たいんだよ」


「どゆこと?」


 ポテトをかじりながら聞いた。


「ユウは僕らのリーダーだよね」


「まぁそうなんだろうな」


 フリーはニヤニヤしながらアリスとレアに問いかけた。


「ねぇ皆。リーダーの本当の実力、知りたくない?」


「知りたい!」


 レアが食い気味で即答した。


「それは…………確かにそうね。でもユウの本気を受け止められる人なんていないわ。多分この世に」


 アリスが哀れみのこもった目で俺を見た。


「いる!それは多分いっぱいる!」


 そこまで化け物じゃない自覚はある。


「だから3人でさ。戦ってみない?僕らダンジョンで強くなったでしょ?」


「「あぁなるほど!」」


 アリスとレアが手を叩いた。


「3対1をするってこと?いじめか」


「それは面白そうね」


 ドSか。


「こないだはまだ魔力操作を扱えてなかったからねぇ。今ならどれだけユウに近付けるのか知りたい。まぁ個人的にユウに勝ちたいのもある。ついでに氾濫に備えてってとこかな?」


「氾濫はついでかよ!」


 フリーも真面目に考えてたんだな。だがかなり武人肌だ。


「ただ本気はなぁ…………さすがにできない。お前らが危険すぎる」



「「「えー!?」」」



「僕、昨日頑張ったよねぇ?」


「う…………!」


 ここでそれ持ってくるか?まぁ、確かに昨日フリーとレアはアリスと俺のために走り回ってくれてた。


「何の話?」


 アリスが不思議そうに聞いてくる。それを見てフリーは嫌らしく笑った。


「ふひひ、良いのかい?」


 このやろう…………!


「はぁ…………」


 俺のため息を肯定ととったのだろう。


「当たり前だけど、僕だけじゃユウの相手は無理だから、もちろん2人にも参戦して貰うよ?」


 そう言ってフリーはレアとアリスを見る。


「任せて。ボッコボコにしてあげる」


「そんなことならいつでもいいよ!」


 アリスがニヒルに笑えば、レアが腕まくりをする。


「んー、じゃあ本気を出させることができたら、お前らの勝ちな?」


「よしっ!」



◆◆



 場所はギルドの訓練場に決まり、朝飯を4人で食べた後ギルドへ歩き出す。するとフリーが俺の腰に下げている剣に気付いた。


「あれ?剣を買ったのかい?」


 そう、俺はとりあえずオッサンの店で買った普通の長剣を腰に差していた。黒い刀は装備するには鞘がないし、アイギスは借り物なのでいざというときに使おうと決めていた。ただ、それだとやはり腰が寂しいので形だけでも揃えることにした。


「ああ、火竜の時に折れてそのままだったからな。まぁこいつはサブ武器だ。メインにはこないだ良い刀が手に入った」


「え、いいなー?」


 レアがどこに持っているのかと、キョロキョロする。


「今は持ってない。あれ手に入れるの命懸けだったんだからな?」


「ユウが命懸けだなんて一体どんな武器だい?」


「見たい見たい!」


「気になるわね」


 3人が食い付いて来るが


「どうも狙ってるやつも多いらしくてな。今は無理だ。また氾濫の時に出すよ」


「ええ~?」


「それに気軽に触れたら危ないんだ。刀に認められた俺以外が触ると魔力を吸われて死ぬぞ?」



「「「どんな刀!?」」」



◆◆



 そうしているうちにギルドへ到着した。


「空いてるなぁ」


 そう。いつもはフロアを埋め尽くすほどなのに、ギルド内はダンジョンが封鎖されたためか今日は冒険者の人数も少なかった。


「さて、一応他の冒険者を巻き込まないようにしないとな。ギルドに一応伝えておくか?」


「そうだね。むしろギルドが崩壊しないか心配だよ」


「おいおい、その辺はちゃんと影響が出ないようにするって」


「むしろ、氾濫の前にあなたが本気でやったら町ごと吹っ飛ぶんじゃないかしら」


「それはない!」


 受付で訓練場で試合をしたいと申し出た。ギルドは氾濫に手を割いているのか職員の姿はいつもの3分の1だ。対応してくれる受付嬢は確か、ギルドに夜食を差し入れに来た時対応してくれた人だ。相変わらずあほ毛が2本ぴょこんと跳ねている。


「CランクとBランクですね。かしこまりました。訓練でしたら今後申し出は入りませんよ?」


 ニコッと愛想よくそう言うが、多分この人のイメージする試合とはおそらく違う。


「そうなのか。まぁいろいろ壊したりしたら悪いと思ってな。じゃあ遠慮なくやらせてもらう」


「ええ、どうぞご自由にご利用ください」


「ちょっ!ちょっと待って!」


 すると、たまたま俺らの話が聞こえていたのか別の職員が走ってきた。


「え?」


 事情が飲み込めていない様子のあほ毛受付嬢。ネームプレートには銀色でステラと書かれている。ステラは背が低くかなり若い見た感じ15歳くらいだ。


「ステラ、この人たちをランクで判断しちゃだめよ!」


 そう言うこの人は俺が一度ここでブルート相手にブチギレた時に、受付嬢をやってくれてた人だ。


 あの時は粗相までさせて申し訳なかった。


「どうしてですか?」


「いいから着いて行きなさい。そして何かあった時はすぐに連絡し対応すること」


 俺らこの人の中じゃ、どんな扱いになってんの?


「は、はい!」


 先輩受付嬢に勢い余って敬礼すると、俺たちに向き直った。


「そ、それではこちらへどうぞ!」



◆◆



 冒険者で成り立つ町だけあって、コルトよりも地下の訓練場は広かった。東京ドームなんかよりもずっと広い。その広さを支えるために極太の石柱が7本立っている。


「あれ、フリーさんじゃねぇか?」


 訓練場の入り口近くにいたパーティが、俺らに気付いた。


「おいおい、ワンダーランド全員集合してるぞ。何が始まるんだ?」


「ならあのひょろいのがリーダーのユウか。ここに来て早々にブルートを半殺しにしたとか言う…………」


「そこまで強そうには見えねぇけどな……」


 俺らってけっこう有名になってんのか?


 受付嬢付きの俺らが入ってくると、訓練場がザワザワし始めた。


「おや、こないだ一緒に飲んだ人たちがいるねぇ」


「お前、なんだかんだ目立ってんな」


 フリーは元Aランクパーティの副長をやってただけあって、カリスマ性でもあるのかすぐに覚えられている。


「あの…………あなたたちは何者なんです?」


 ステラがおずとずと尋ねてきた。


「ワンダーランド」


「はぁ」


 ステラは俺らのことを知らないようだ。


「で、3対1だが全力ってことはもちろん魔法も解禁か?」


 3人に問う。


 今までの模擬戦じゃ、ほぼ使うことはなかったからな。


「当たり前じゃない」


「わかった」


 ギルドへと話が広まったのか、続々と冒険者たちが様子を見に降りてきている。


「おい!」


 俺は周りの冒険者たちに向かって声を張り上げる。


「今から俺たちで試合をする。巻き込まれたくなければ、できるだけ距離をとれ」


 冒険者たちは慌てて壁際まで下がっていく。物わかりが良くていい。おかげでだだっ広い空間を俺たちで自由に使えるようになった。


「ねぇ、初めは僕だけでやらせてほしいな。2人は途中からで頼むよ」


 フリーか。


「「了解」」


 冒険者のいない隅っこでフリーと10メートルほど距離を空けて向かい合い、上半身をひねってストレッチをする。フリーも深く息を吐いて、集中しているようだ。


「始めは素手かい?」


「剣くらい使わせてみろ」


「ははは、任せてよ」


 フリーがニコニコと答える。


「ちょっ、刀相手に素手なんですか!?」


 ステラが止めさせようと入ってくる。


「ああ、いいからいいから」


「あのっ!でも!」


「ステラさん、大丈夫だから邪魔はしないでね?」


 フリーが注意すると、しゅんとなった。今回フリーはマジだ。


「ねぇアリスちゃん、今さらだけどユウに魔法解禁はまずい気がしてきたよ…………」


「そ、そんなこと言っても、今さら遅いわよ!」


「で、では私が開始の合図をします。2人とも用意はよろしいですか?」


 ステラがギルド職員らしく、レフェリーにつく。


 フリーが左足を前に、刀に手をかけ腰を落とし、半身になる。


「いつでも」


「ああ」


 賢者さん。


【賢者】はい。


 ごめん、今回は賢者さん抜きでやってみようと思う。


【賢者】わかりました。



「それでは、始め!!」



 ステラの意外と凛とした声が響き、俺は小手調べに軽く走り出す。フリーの顔面へ向け、振りかぶった右拳を振るう。


 常人なら消えて見える速度に目を見開いたフリーは、刀の間合いの内側に一瞬で入られたことを理解し、防御が間に合わないと判断。体を右足を引き、膝、腰、首を反らし上体を後ろに傾ける。そのように体の可動箇所を同時に使って大きく動き、頬を少し切る程度ですませた。

 そのまま、フリーはたたらを踏んで後ろに下がった。


「はぁ…………予想はしてたけど、信じられない速度だね」


「俺に本気を出させるんだろ?お前がまず本気にならなくちゃあ、なっ!!」


 フリーの利き手とは反対に回り、手刀を首めがけて振るう。今度はちゃんと反応した。フリーも刀で迎撃し、手刀と刀が衝突。フリーが後方に5メートルほど吹っ飛ばされるも、着地した。


「ほんと馬鹿げた身体能力だねぇ」


 そう言って、フリーの体から魔力が消費されていく。


 対面してわかる。もう相当身体強化をものにしてきているようだ。


 その瞬間、先程の動きを遥かに上回る速度でフリーが斬りかかってきた。


「いっ……」


 大上段から振られた刀を手刀で弾こうとするも、押しきられ掌を斬られ、一瞬だが血が出た。町で決闘したあのモーガンよりも力も速度もある。


「やるな」


 だが、その一言を言い終わるまでに傷はふさがった。


 今の俺の防御力と斬撃耐性を上回って俺の肉体を斬れることは自慢して良い。


「素手で受けておいて、冗談もほどほどにしてほしいねぇ」


 フリーはまた向かってくる。


「まぁ待て、俺も剣でやろう」


 そう言うとフリーは一旦立ち止まった。


「な、なんで素手で刀が弾かれるんです!?」


 ステラが目の前で繰り広げられる理解できない戦いに目を丸くする。その声が聞こえてきたのか、興味本位でチラホラと覗きに来る冒険者も増えてきた。


「ねぇレア、ユウって剣も得意なの?」


 アリスがレアに聞いている。


「ユウは体術より剣術の方が遥かに上手だよ?」


「うそ?オークジェネラルの体素手でぶち抜くのに!?」


 おっさんの店で買った長剣を抜く。ランクはB-だがなかなか良いものだ。それを、肩に担ぐように構えた。


「ふぅ…………」


 フリーのあごを伝って落ちた汗が地面にシミをつくっていく。


「一体どうなってるんだ。隙が…………!」


 フリーと俺に技術的にはそこまで差はないはずだ。ただフリーが剣を持っただけの俺にビビっているだけ。昨日、フリーには世話になったみたいだから全力で答えてやる。


「いいからかかってこい」


「ふぅ……後悔しないでよ!」


 吹っ切れたのか、攻撃後に隙の大きい突進からの突き技で来た。しかも身体強化に強弱をつけて俺の間合いの手前で急加速、コマ送りの枚数が急に半分になったかのように、飛び飛びに感じる。


 対面するとこう見えるのか…………。この技、見た目は地味だが、剣士相手ならばかなり有効だ。初見じゃ対処できないだろう。成長したな。だが、俺なら防げる。


「お前、やっぱり変態だな!」


 剣の鍔に近いところで受け流した。もはやフリーもこれで仕留められるとは思ってなかったんだろう。そのまま続けて剣を引き、切りかえそうとするが、突きの後だ。体が流れ、隙だらけ。


 これで終わりだな。


 俺の顔の下で伸ばした腕を引き戻そうとするフリー目掛け、袈裟斬りに振りかぶる。


「いくわよ?」


「うん!アリスちゃん」


 なるほどね…………。


 2人から氷と風の刃が鋭く飛んできた。


「っとお!」


 上半身を反らして避け、バックステップで距離をとる。


 フリーが捨て身で攻撃してきたのはそういうわけか。



 ゴウッ…………!!



 初めから風を纏った全力のレアが走ってくる。


「いきなりかよ!」


 俺の魔力は村ひとつ覆えるレベルだ。このドーム場の訓練場程度どうってことない。


 レアを俺の魔力が拘束する。


「やっ!? これ、ユウの魔力!」


 さらに魔力支配でレアの魔力の操作を奪い風の纏いを解除。


「へ!? なんで!なんで私の風が?」


 風を失って混乱するレアを空中に拘束する。


「さて、と…………。アリスはどこだ?」


 …………いた。隠れてもいない。


「フリーさん、アリスちゃんごめん。もう捕まっちゃったよ」


 レアは耳をペタンと寝かせてしょげている。


「もう用意できたから大丈夫。全力で行くわ」


 アリスの魔法に備え、火属性の魔力を準備する。


「来い」


 アリスからはキラキラと透き通る水色の魔力が立ち上っている。そして、アリスは俺に向け大魔法を行使した。


「凍れ!」


 訓練場内にアリスのひんやりとした魔力が吹き荒れると



 …………パキン!



 一瞬で白銀の世界となった。壁から天上、床までもが凍りつき、その対象はもちろん俺を中心としていた。太陽ばりの炎の魔力で体を覆うことで防ぐことに成功した。

 一気に凍てつくような寒さになり、冒険者たちは肩を震わせ腕をさする。


「へぇ、そうやって防ぐのね。でもまだよ!」


「ん?」


 魔力感知によると、訓練場を覆い尽くす氷にはアリスの魔力が残っている。


「いけっ!」


 足下の床から太さが2メートルはある氷結晶が3本俺を貫こうと飛び出した!


 パキパキパキパキ!!!!


 俺はジャンブし氷を飛び越え体をひねってかわす。


「うおっ!?」


 飛び上がった直後、真横の訓練場を支える柱からも複数の結晶が生え、俺を襲う。


 こりゃ、避けきれん。


 俺は重力魔法を使い、訓練場内を飛んで逃げる。壁や天井から伸びた結晶がひたすら追い掛けてくる。


 バキバキバキ!


「おいおいおい!」


 て、あれ?レアは?


 アリスがこの部屋を凍らせた瞬間レアの拘束を解いてしまっていた。アリスの氷を躱し、地面に着地する。


「レア、フリー!追い込み完了よ!」


 後ろに魔力の高まりを感じた。


 やばっ!今の作戦かよ!


「レアちゃん、行くよ?」


「はい!」


 レアの剣には濃密な風の魔力と、フリーの刀を覆う研ぎ澄まされた魔力。そしてその2人が凍りついた床の氷を踏み砕きながら、走って来る。


 目の前にしてわかった。レアの一振りで細切れになるのは、あれをくらうと、内側で魔力が解放され、一瞬で体を切り刻むのだろう。絶対に当たるわけにはいけない。


 2人の前に1枚ずつ結界を発生させる。


 あの魔法ならギリギリ防げるだろう。


 がしかし、あの2人をなめていた。


「い!?」


 レアはあのひねりを加えた縮地を連続使用し、通り抜けるように結界を回り込み抜けてきた。そして、フリーは目の前の結界を斬り裂いた!


 ちょっと下がるか?


「どこ行くの?」


 アリスだ。声が聞こえ、後ろを振り返ると、避けようとした反対側にはアリスの巨大な結晶10本以上が剣山のように迫ってきていた。

 

 3人に正三角形に取り囲まれ、3方向から必殺の攻撃が迫る!


「やばっ!」

 

 勝機が見えたのか、3人の目が生き生きとする。


「…………とまぁ、ここまではさすがだ」




「「「へ?」」」




 アリスの氷剣山へ火魔法Lv.10に達した俺のファイアバレットを放つ。


 ドッ…………!


 レアの足下の地面から土魔法で太さ5メートルはある柱を一瞬で生やす。


「きゃああああ!」


 レアが悲鳴を上げながら天井近くまで飛ばされていった。


 そして斜め上から振り下ろされるフリーの刀を剣で受け止める。


 …………ガシャアアアアアアァァァァァン!


 木っ端微塵に砕け散り、アリスの氷の欠片が光を反射しながら降り注ぐ中、フリーとつばぜり合いで向かい合った。


「隙なさ過ぎないかねぇ?」


「俺もこないだので成長したんだよ」


「へぇ?」


 フリーがふっと力を抜き、屈んだかと思うと回転し超ローキックで俺の足下をすくわれた。


 突如来る浮遊感に右に傾いていく体を理解し、剣から右手を離しその手で地面に手を突き、振り下ろされるフリーの刀を左手に持ち替えた剣で受け止めた。


「うそっ?」


 両足が宙に浮き、自由になっていることを利用して蹴りをフリーの腹にぶちこむ。


「うっ…………!」


 フリーが腹を押さえて、よたよたとよろめいた。その間に俺は地面についた右手を弾いて立ち上がる。


 剣術レベルは拮抗していても、積み重ねた実践経験が違う。俺の馬鹿げた身体能力がなけりゃ危なかった。


「あれ、あいつらは…………?」


 真っ白で透明な雪に染まる巨大な結晶だらけの訓練場にレアとアリスの姿を見失った。


「おりゃああああああああああああ!!」


「あ?」


 見上げると、レアが降ってきていた。


 あぶっ!


 後ろにバックステップで避ける。



 ドゴンッ!…………バキバキバキバキ!



 レアの着地と共に、足下の氷へ派手にヒビが入る。

 

「アリスちゃん!」


「ええ!」


 その瞬間、真上から30本以上の氷の槍が降り注いだ。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


 冷気のもやを風魔法で晴らす。


「なんで当たらないの!?」


「重力魔法で誘導しただけだ」


「どんだけよ!」


「言ってていいのか?」


 水魔法を発動させ、水球の中に顔だけ出した状態でレアとアリスを個々に捕まえる。


「ぐっ…………」


 アリスとレアが水の牢獄に捕らわれ動けなくなった。


 後は、フリーだけだな。


 そう思った瞬間、


「…………おりゃああああああああああああ!」


「まじっ!?」


 レアが体から全開にした風の魔力を放出し、水を吹き飛ばして俺の水の牢獄から抜け出した。


「はぁはぁ、やっぱりユウは強いね」


 レアがふらつきながらも、話し掛けてくる。


「まぁな。でもレアたちも大分強くなった」


「うん」


 レアが武器だけでなく、全身の風を高めていく…………。


 ゴウっと訓練場内に風が吹き荒れ、レアに集まっていく。周囲の氷の破片すら巻き込み、吸い込んでいく。そして、嵐となったレアは俺に向かって突進してきた。


 俺は、剣を納め雷の魔力を体に纏った。濃密な雷は俺の体からときどき漏れだし、地面を焦がす。

 そして、それを拳に収束する。俺の右手はバチバチと光り輝いている。


 そしてレアを迎え撃った。


「やぁああああああああ!!!!」


「おらああああああああ!!!!」




 ゴォッッ……………………!!!!




 同心円に広がる衝撃波が氷の結晶を砕く!


 訓練場内を覆い尽くしていた氷が一斉に剥がれ、地面へと落ちる。



 ガシャアァァァァァ…………ン!



 俺の拳とレアの剣が拮抗する。


 だが、それも一瞬のこと、俺の拳はレアの剣を弾き飛ばし、レアも吹き飛んだ。


「きゃあっ!」


 レアは訓練場の柱に衝突。意識を失ったようだ。


「後は…………」


「僕だね」


 フリーはアリスが作り出した氷柱の影からゆらりと歩いてくると、立ち止まった。刀を両手で握るとそれを振り上げ、魔力をフリーの最大限まで込めていく。刀がゆらゆらと揺らめき始めた。


 フリーは保有魔力はそれほど多くはないものの、出力は大きい。そのため一撃の重さは目を見張るものがある。難点はすぐに魔力が尽きてしまうことだろう。


「いいだろう」


 俺も剣に魔力を込める。ただこの片手剣、それなりのものではあるが所詮はランクがB-である。俺が無理に込めれば砕け散ることは必至。だからフリーの斬撃を相殺するレベルまでで調整する。


「はあっ!」


 そして、フリーは刀を全力で振り下ろした!


 これはダンジョンでデーモン相手にフリーが放った技だ。飛ぶ斬撃を魔力を込めた刀でより肥大化させ放つフリーの大規模必殺技とも言える技だ。


 目の前にはフリーの縦斬りが幅2メートルにまで巨大化し、地面に溝を掘りながら確かな速度で突き進んで来る。


 だが、今までのフリーの剣撃よりかは、いささか速度が劣る。


 これなら…………十分狙える。


 三日月型の斬撃を威力の弱い、上の角の部分を狙って抑え目に魔力を込めた剣で斬撃を飛ばす!


「せっ!」


 ギギギ……ギィン!!


 衝突した途端、俺の斬撃は弾かれるも、


 ガガガガガガガガガ!!


 すると、バランスを失ったフリーの斬撃は、地面を削りながら方向を変えると、天井へとすっ飛んでいった。

 

「ふう…………っ!?」

 

 斬撃を凌いだあと、ひと息つく前にフリーが目の前に現れていた。


 技を放ってすぐ、斬撃の後をついて走っていたのか。


「くっ!」


 フリーの刀を受け止める。


 ドゴォォ…………ン!!


 フリーの飛ぶ斬撃が天井へ激突したのだろう。2~3メートルクラスの瓦礫の破片が降ってくる。


 あれ、上のギルド大丈夫か?崩壊してたりしないよな?


 俺の心配を他所にフリーとの近接戦が始まった。


 剣を右下から斬り上げると、それを刀でいなし、そのままの動きで流れるように肩口をカウンターで斬り込んでくる。左に体をひねり、かわす。背中側をフリーの刀が通りすぎる。ジャンプし、フリーの真上を頭同士がくっつくくらいのスレスレを飛び越える。

 フリーからは俺が一瞬消えたように見えたはず。

 そして着地する寸前に体重をのせた斬り下ろしを放つ。


 ギィンッ…………!


 フリーは勘で察知したのか、後ろを向いたままギリギリ頭の上で受け止めた。金属同士が衝突する硬質な音が鳴る。


 俺の剣の方がフリーの刀よりランクは劣る。剣が今ので少し欠けたようだ。


 フリーは振り返りながら、俺がいるだろう位置に向かって横凪に刀を振った。


 俺は回転しながら字面に平行の体勢を保ちつつジャンプする。フリーの刀が俺の下をぶれることなく、真っ直ぐに空気を斬り裂き突き進んでいく。

 フリーが刀を振りきった。俺は着地する体勢を整えながら落ちていく。そして、隙を見せたフリーの腹を真横に斬り裂くべく、左に剣を引き絞って構える。


 俺の狙いに気付いたフリーが、出来るだけ素早く動くために刀を手首のスナップで上に投げた。そして、膝から曲げたまま上半身を地面スレスレに反らしていく。俺の剣が、フリーの着流しを引きちぎりながら進んでいく。だが、フリーの肉体に当たることなく剣は空を斬る。俺は地面に右足から着地し、フリーは落ちてきた空中の刀を再度掴むと、後ろ向きに跳ねて距離をとった。


「曲芸士かよ!」


「どっちが…………!」


 フリーが距離をとると、突きを放つ。見えない斬撃が飛んでくる。こちらも同じ突きを放つ。斬撃同士が衝突し、弾けとんだ両方の斬撃が周囲を斬り刻み、深い傷をつくる。それを気にせず突っ込む!


 フリーも同じく突撃し、互いに袈裟斬りを放つ。中央で剣と刀が衝突し、衝撃波が発生する。身体強化されていてもやはり、力比べとなると地力は俺の方にかなり分があるようだ。

 

 剣が触れた状態でゼロ距離の体当たりを送る。


 ズンッ…………!


「ぐうっ!!」


 フリーが凄まじい勢いで吹き飛んでいく。


 それを走って追いかけ、フリーが着地する前にさらに下から体をひねった斬り上げを放つ。それに気づいたフリーが空中で体勢が悪いまま受け止めるも、さらに加速し後ろに吹き飛んでいく。


 そうしてそのまま壁に激突した。


 ド、メキャ…………!


 土埃が舞う。


「はぁ、はぁ」

 

 フリーのもとへと歩いていく。土埃がなくなると、あの勢いをもろに受けボロボロのフリーがうつ伏せに倒れていた。


 がっ……!


 フリーの右手が地面を掴む。そして刀を支えに震える膝で立ち上がった。


「…………まだ、僕はやれる…………ねぇ」


 次で最後だろう。フリーは腰を落とし、刀を鞘に入れ、そのまま構えた。


 これか、抜刀術。フリーの剣に対する今までの研鑽の集大成。いいだろう。誘いにのってやる。


 フリーはそのまま身動きひとつせず、見物人の冒険者たちも一言も発さない。皆が固唾を呑んで見守っている。


 フリーは剣以外のスキルは使っていない。だが、剣術と経験値、気合でステータスの差を埋めてくるフリーは天才か。フリーの今の最高の技がいったいどれほどのものか見てみたい。


 俺は歩いて近づき、フリーの間合いの手前で立ち止まる。


「ふーーーーっ!!」


 深く息を吐いて、思考加速、並列思考、空間把握を発動。両手で長剣を持ち、そしてそのまま今日一の踏み込みで、フリーの全力に答える。


 フリーの間合いの入った瞬間、フリーの右手が煌めいた。


 速っ!?


 ステータスじゃない、技術で本人の限界の速さを越えてきた。だが…………。


 キンッ!


 甲高い音が短く響く。


 右手に衝撃が走った瞬間、剣を握った右手の力を抜く。そして、勢いを利用し、一回転するとフリーの首に剣を突きつけた。


 ああ、ダメか…………。


「引き分けだ」


「なに、言ってるんだ」


 ドサッ…………。


 フリーはそのまま地面に倒れこんだ。


「はぁはぁ、状況を見て、よ…………」


「お前こそ俺の剣を見てみろ」


「?」


 よく見ると、俺の剣には亀裂が生じていた。


 パキッ!


 そして刀身が半ばから折れた。


 正面からぶつかれば、間違いなく剣が折られ負けていた。だから受け流そうとしたが、ダメだった。


「お前の抜刀術を受けたときだ」


「納得、できないね…………」


 フリーは心底嫌そうに断る。



 パチ……パチ、パチパチパチパチパチパチ!!



 いつの間にか増えていた冒険者からは拍手が起き、水魔法が解けたアリスが駆け寄ってきた。


「お疲れさん」


 俺は神聖魔法でフリーとレアを回復させてやる。レアはしばらくしたら目を覚ますだろう。


「あの、凄すぎて何が起きたかわからないんですけど…………」


 ステラがおずおずと挙手をしながら言った。


 そう言うステラに周りの冒険者たちから鋭い視線が突き刺さった。


「ひっ!」


 ステラは思わず肩をすくめる。


「で、あたしたち3人との勝負はどうなの?ユウに全力は出させたの?」


「うーん、そうだなぁ」


 ぶっちゃけ、まだまだ全力ではなかった。種族レベルが上がる前の俺の本気となら、かなり良い勝負にはなったと思う。でも、危ないと思ったシーンも正直他にも防ぐ方法はいくらでもあったし、直撃したところで怪我くらいすぐに治せる。俺が3人に比べて成長し過ぎていた。


「3年」


「「3年?」」


 3人は揃って聞き返した。


「俺に本気を出させるのは3年早かったな」


 そう言うと、フリーとアリスはガックリと肩を落とした。


「あ~、良いところまでは行ったと思ったんだけどねぇ」


「そんなの実際ユウが本気を出せば全員一瞬でペシャンコじゃない」


「あはは、今思えばそうだねぇ。それだけ手加減されてたってことだねぇ」


 すると、バタバタと上から階段を下りてくる音がした。


「ん?」


 ジャンや他のギルド職員が大勢下りてきた。そして、訓練場を見て言った。


「なっ、何事だい!?」


「ちょ、ちょっと試合してただけだけど?」


 ジャンは、ボコボコの地面に氷だらけの変わり果てた訓練場を見回した。

 



「どんな試合!?」




こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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