第50話 2人の奮闘
こんにちは。いつもありがとうございます。
ブックマークや評価いただいた方、有難うございました。
世間ではコロナが流行しておりますが、皆さん大丈夫でしょうか。どこにも行けなくてもイライラせずに、こういう時こそ家でゆっくり物語でも読んでみてはいかがでしょうか。
今回はのんびりとしたお話になります。それでは、第49話よろしくお願いします。
「思ったより長いな」
ギルドの扉の真横で待つこと数分、
バタンッ!
扉が勢いよく開いた。
「あーもう疲れた……」
髪を払いながらフラフラ出てきたのはアリスだ。続いてレアとフリーが出てきた。
ダンジョンの強者を倒したというだけでここまでもてはやされるなんて、さすがダンジョンの町だ。大分長いことワイワイしてたみたいだ。
「にししし。まぁまぁアリスちゃん。皆の奢りだったし、別にいいじゃんねぇ?」
フリーがなだめているが、彼もだいぶ酒が入っている。何がそんなに楽しいのか、ニヤケ面が止まらないようだ。
「はぁ、そこはいいのよ。ただ、あの人たち姉御姉御って、あの呼び方なんとかならないのかしら」
「別にいいじゃん。新しい財布ができたと思えばいいのさ」
フリー、なかなかエグいな。
「そんなことより、アリスちゃんはもっとグイグイ行かなきゃ!」
グイグイとグーの手で走るように腕を振るレア。
「ほらグイグイ!」
レアは元からあんな奴だから酔ってんのかわからない。
「いったい何の話よレア」
「しかしユウ1人だけ仲間外れというか、逃げ仰せたのは許せないねぇ。ねぇユウ?」
嫌な笑みを浮かべたかと思うと、フリーが扉の影にいる俺に、ヒラヒラと手を振った。
バレてた。
「おつかれさん。大変だったみたいだなぁ」
「ユウなんでいなくなったの! 一緒に飲みたかったのにぃ!」
レアがポコポコ俺を叩いてくる。
「いや、ああいう絡まれ方嫌だし。新たな舎弟とかできたらめんどいし……てか、事実できてただろ?」
「おかげさまでね」
「だとしてもユウ、あたしたちに謝るべきじゃない?」
俺の胸ぐらを掴んだアリスがグイッと顔を近付けて言う。
近くで見れば、目が虚ろで顔が火照ってるようだ。こりゃ大分飲んだな。
「はい、逃げてすみませんでした」
「あたしたちがどれだけあの人たちに振り回されたと思って…………」
アリスの文句の途中でポンポンと肩を叩かれ振り向くと
「こうは言ってるけどユウ、実はアリスちゃんはユウと一緒に飲みたかったんだよねぇ」
フリーはケラケラと言い、アリスはフリーに向かって短剣を抜いた。
「そこのフリー、1回くたばってくれないかしら」
「あはは、どこのフリーだい?」
笑って茶化すが、パキパキパキと笑顔のまま凍り付いていくフリー。
「フリーさああああん!!」
それを見てレアが慌てる。それをスルーしてアリスか続ける。
「さて、どう落とし前つけてくれようかしら」
マフィアみたいだ。
「わかったわかった。1つ言うことをきくから許してくれ」
これくらいなら容易いご用だ。なぜならメイン武器を手に入れた今、俺は最高に機嫌が良いからだ……!
「お、奮発するねぇ」
アリスにやられた氷をよっこらせっと、パキパキ落としながらフリーがノってきた。
こいつ、ほんとタフだよな。
「やたっ!」
「確かに聞いたわ」
レアは小さく拳を握って喜ぶと、アリスもほくそ笑んでいる。
するとレアが余計なことを言い出した。
「じゃあまずは明日、アリスちゃんに1日町を案内してほしいな」
「「はぁ!?」」
レアの提案に、アリスと俺の声が被った。
「だって今日は、僕たちをスケープゴートにして町を遊び歩いてたんだよねぇ?」
じとっとフリーが俺を責め立てる。
「そりゃ、そうだけど…………なんでアリスと?」
トントンと、レアに肩を叩かれて振り返ると、良い顔で、ビシッと親指を立てていた。
「いやもうめんどくさいな……!?」
「ちょ、ちょっと待って! なんでよレア。自分で決めるわよ」
「まぁまぁまぁ」
途中で止めに入ろうとしたアリスをレアが押さえる。手で口を押さえられモガモガ文句を言っている。アリスはレアになら強く出れないようだ。
まぁ今回は俺が悪かったから、1日くらい機嫌取りに付き合ってやるか。
「じゃあアリスちゃんはそれで決定。僕たちの分はまた考えておくから、今日は各自解散にしようよ」
「お、おい1人1個なのか!?」
「「当たり前」」
「わかったわかった。降参だ。わかりました。でも今日は疲れたから帰るぞ」
黒刀のせいで本気で疲れてる。
「僕たちはもう少しブラブラしてから帰ろうかな?」
フリーがチラリとレアを見た。
「そうだね!」
「え? でも……そろそろ」
アリスは帰りたそうにしているが、レアがそうはさせなかった。
「行こうよ! アリスちゃん!」
レアがアリスの腕をがっちりとホールドする。
「え、ならユウは?」
「ユウはいいの! 疲れてるんだから」
レアはアリスの背中を押して、どこかへ連れ去っていった。
「え? わ、わかったわ」
◆◆
そうして3人は揃ってどこかに消えた。
俺は宿に帰ってから水魔法で体を洗い、寝る用の服に着替える。そしてベッドに寝転がってゴロゴロし始めた。
1人は気楽だが少し静かだな…………しかし今日はまったくもって濃い1日だった。
ーーーー
どれくらい経っただろうか。まだ夜は浅いというのに、知らないうちに寝てしまっていたみたいだ。がやがや声がすると思うとドアが開いた。
「…………お、おかえりフリー」
寝転がったまま声をかける。
「やぁ、ごめん起こしちゃったみたいだね」
「ふぁ……いんや。寝落ちしてただけ」
ぼーっとしていると、隣のレアとアリスの部屋からも、賑やかな声が聞こえてきた。
そうしていると、フリーはふぅと言いながらベッドに座った。
「そういやユウ、明日のプランは考えてあるのかい?」
「プラン? いや、なんも考えてない」
「それで大丈夫かい?」
「あー、アリスは女の子だし、ショッピング的な……」
まだ半覚醒状態の頭で考える。
町歩きしながら買い物できたらいいな。アリスなら案外プレゼントとかも喜んでくれそうだ。
「お、さすが。何か買ってあげなよ」
「ああそうする」
「あとはそうだねぇ。この町には立派な教会があってね。そこは荘厳華麗な良い雰囲気みたいだよ?」
なんかフリーのやつ詳しい。教会か、良いな。俺も見てみたい。
「へぇ…………」
「シュタイン大聖堂ていうらしい。町の北側にあるみたいだから行ってみなよ」
そういやジャンも大聖堂が名物だって言ってたな。
「そうだな。行ってみるよありがとう」
「明日に備えてそろそろ寝ようか。明日は頑張ってねぇ」
なんでアリスと買い物するだけで頑張らないとだめなんだ……。
◆◆
次の日、町の広場の噴水前に落ち合うことになっているので、お昼前にそこに向かった。
予定時間すこし前に噴水前に着いたがまだ誰もいないようだ。それから少しして、ベージュ色のベレー帽をかぶった色白の女の子が袖を引っ張ってきた。
「ユ、ユウ」
「ん、誰だ?」
なんで俺を知ってる?
「あたし。あたしよ」
「なんだあたしあたし詐欺? …………ってアリスか!?」
アリスは白いゆるふわのロングスカートにパステルカラーのボタン留めのシャツを着て、いつもの何倍も可愛くなっていた。ヒールを履いていてスラッとスタイルが良く、モデルのようでいつもと全然印象が違う。
そして、口紅で赤みがかった艶のある唇が、可愛さの中に大人っぽいアクセントになっていた。
「ど、どう?」
そんなアリスがおずおずと見上げながら聞いてくる。
「良いんじゃないか……?」
どうもいつもと違いすぎて気恥ずかしくなった。
「はっきり言いなさいよ」
そう楽しそうに小さく笑った。いつものアリスだ。
あ、そういうことか。やっとフリーが頑張れって言った意味がわかった。初めからこれを計画してやがったな。
「じゃあ、まぁ……飯でも食うかぁ」
「ええ、そうね」
ただ並んで歩いてるだけなのに、なんだこの緊張感……。
店はいつの間にかリサーチしていたフリーに教えてもらったパウエルというパスタ屋だ。1日の流れは早起きした本気のフリーに何故か叩き込まれた。
あいつ、ちゃんと早起きできるんじゃねぇか。
パスタ店はシーリングファンが回っている。冒険者の町には珍しく、落ち着きのあるカジュアルさとアーティスティックな感じを織り混ぜたお店だ。木造の温かみある内装が外の喧騒を遮断し、アリスも気に入ったみたいだ。
「あたし、こんなお店初めてくるわ」
「ああ。ここはチーズとベーコンのパスタが旨いってよ」
というフリーからの情報だ。
「じゃ、あたしはとりあえずそれで」
それからフリーやレア、そしてアリス自身のことについて、他愛ない話をした。
どうやらアリスは物語を読んだり、絵を見たりするのが好きで、俺と似た趣味を持っているようだ。アリスは小さい頃、魔力を制御できずに人を避けて育ったからだろうか。
そういや今までこういう話はしたことがなかった。
「美味しかった! またフリーとレアも呼んで4人で来ましょう」
「だな」
相当美味しかったのか、アリスのテンションが高い。店を出てくるくると回りながら言った。スカートの裾がふわりとなる。
いつも険しい顔で何か考えているアリスがここまで楽しそうにしてくれると、こっちまで嬉しくなった。
「そんな気に入ってくれるとはな。よし、次行きたいところはあるか?」
珍しくはしゃぐアリスを掴まえて聞く。
「そうねぇ。あたしこの町詳しくないから……オススメの場所はある?」
ここはフリー先生が教えてくれた情報だな。
「シュタイン大聖堂という教会があるらしい。この町一番の観光スポットになってるみたいだから行ってみないか?」
「ああ、昨日ギルドで話してたわね。まぁ神様とかはわからないだけど。ほら、あの先っぽが見えてる建物」
と、アリスら他の建物に隠れずに見えている塔の先端を指差して言う。
「あれ、よく目に入るから気になってたのよ」
「あー、言われてみれば確かにそうだな」
この辺にいると、ちょくちょく見えていた塔の部分。屋根のそれほど高くない住宅や店舗に反し、めちゃくちゃ高い建物がニュッと頭を出していた。
「前から見てみたいと思ってて……なんて言うか、大聖堂のすごく神聖な雰囲気が好きなの」
「わかる。詳しくは知らないんだけどな。雰囲気がな」
「ええ、あんまり宗教はわからないんだけどね」
ふふっとアリスは笑った。
「よし、行くか」
見えてる塔に向かって歩き始める。近そうに見えて歩けばけっこうかかりそうだ。
すると、また人を呼ぶような声が聞こえた。
「喧嘩だよー!」
バタバタと人々が2つ先の角を右へ曲がった方へと走って集まっていく。
どっかで聞いたことある声だな。
「なんだ?」
「喧嘩多いわね。この町は」
覗き込むと、人だかりが出来ていてその奥では喧嘩が始まりそうな感じだ。誰と誰がやるのかは人で見えない。
まぁ、今回は関わるのは止めとこう。
また、スルーして歩き始める。
「アリスは今まで、コルトの町を出ようと思ったことはなかったのか?」
「うーん、そうねぇ。ソロでやってるといろいろと限界があってね。レベル的にもあの町でも十分だったし。それこそモチベーションが低くて惰性的だったの」
「へぇ、コルトを離れてどうだ?」
「良かったわ。なんて言うか、開放的になれた気がするの。もっと色んなことを知りたいって思えるようになったわ。せっかく生まれたんだもの、世界中を見て体験してからじゃないと勿体なくて死ねないわ」
「それなら良かった。確かにこの世界には想像もしていなかったものがたくさんあるな」
「そうね。あたしは、あたしが見たいものを見て、知りたいことを知って、やりたいことをやって死ぬわ。だってそこに生まれた意味があるもの」
「まぁな。他人を気にせず、自由に生きてこその人生だ」
「ええ。だからあなたに着いていくわ。あなたといれば退屈はしないでしょう?」
「まぁ……退屈はしないかもな」
「あなたも案外いろいろ考えてるものね」
「逆にな」
「何が逆なのよ。あ、ほら見えてきたわよ?」
アリスが見上げるそこには、ドイツのケルン大聖堂を思わせる壮大な教会がそびえ立っていた。普通の中世の町並みに突如現れた、巨大なゴシック様式の重厚感ある石造り建築だ。正面の入り口上の壁には10メートルは有るステンドグラスの窓があった。
「すご……存在感がデカすぎる」
「……ただただ圧倒されるわね。人間ってこんなものも作れるの? 上を見ようとしたら首が痛いわ」
この大聖堂の左の塔は鐘塔になっているらしく。ジャンと行った大時計台とこの鐘塔で町中に時間を知らせ、かつ外に出ている冒険者にも音色を届かせる役目を持っているらしい。
見上げていると、鐘塔の方に小さな人影があった。
鐘を鳴らす仕事の人がだろうか。
「じゃ……入ってみるか?」
「入りたい!」
巨大な石造りの門をくぐると、複雑な彫刻が施された外壁と何トンもありそうな屋根がある。聖堂内部にはその屋根を支える巨大な17本の柱、壁の絵画、さらには天井にまで絵が描かれていた。
印象的なのは大きなステンドグラスから取り込まれる太陽の光で、聖堂内が色鮮やかな空間に染まっていたことだ。
「「うわぁ…………」」
2人とも内装とその空間の雰囲気に息を呑んだ。
そして、ちょうど外が快晴になったのか、強い光がステンドグラスを通過して射し込み、堂内がさらにカラフルな色に包まれる。それは俺たちが入った直後、まるで狙ったかのような完璧なタイミングだった。
「すごい……神様が祝福してくれてるみたいだ」
その時、一瞬だがステンドグラスに人影が写った。
ん…………いや、見間違いか。さすがにあんなところに登る人はいないか。
「ここ、絶っっ対に一生に一度は来るべきね」
「来ないと人生損してるな」
それから聖堂内を2人で見て回った。
「ねぇねぇ、この絵、凄く引き込まれない?」
アリスが言う絵は壁の隅に掛けられていた。
そこには貴族を思わせる裕福な格好をした女性に、孤児の男の子がリンゴを渡そうとしている絵だった。近付いて見上げてみると、貴族の女性はリンゴと引き換えに積み上げた金貨を渡していた。2人とも優しい表情をしている。
「これ、でもどういう意味なのかしら?」
「貧乏な少年はリンゴが全財産なんだとしたら、この貴族の女性は、彼からリンゴを買うにはこれだけの金貨を支払うべきだと思ったとか?」
「うーん、それだと色んなものの価値が崩壊しないかしら」
「その辺は少年の優しさとかが付加価値になるんだろ」
「そんなの、この女性がどう感じるか次第じゃない。自己満足よ」
「だな。まぁ、世の中大体そんなもんなんじゃないか?」
とか言いつつも俺もよくわからない。
「言えてるかもね」
アリスと歩く。
聖堂内は歩くとコツ、コツ…………と静寂の中に足音が響く。身が引き締まりそうな空気だ。
「ん?」
数十メートルは上の天井の方から視線を感じた。
「どうしたの?」
いや、気のせいか。
「うううん、何でもない」
正面奥には、長椅子が並べられており、最奥には頭からローブを被り、両手を胸の前で合わせた女性の像があった。その像には背から3対の白い翼が生えている。礼拝はその像に向かって行うようだ。
「救魂者ミリム」
像にはそう名前が掘られてあった。
「良き行いは魂を救い、悪しき行いは魂を汚すね。ふーん。なんと言うか…………」
「わかりやすいけど、ありきたりだな」
「あはは。言っちゃったわね」
魔法もあるこの世界、神様だって実在するのかもしれないな。
それから礼拝を行った。毎日14時には讚美歌が歌われるようで、それも見ていった。子供たちの歌声が教会内に響き渡り、純粋にきれいだと思った。アリスも感動で涙ぐんでいた。
「良かったな」
「うん」
礼拝が終わってから余韻に浸り、教会を出る。すると、アリスが何かを見つけたのか、テンションを上げた。
「ユウあれ! あれ見ていかない?」
アリスが指差すのは協会前の広場で行われていた火のついた棒でするリンボーダンスだ。
「おお、面白そうだな」
人だかりの隙間から覗くと、小太りの男とひょろ長い男が棒を持ち、もう1人中肉中背の男が上半身を反りながら少しずつくぐっていく。全員白塗りで丸い赤っ鼻でピエロのメイクをしていた。
「あっ、もう少し」
そして、背中を地面すれすれにまで反らし、ついにのけ反った状態でアゴ先が通った。
「「「「「おお~!」」」」」
パチパチと声援が上がり、置かれたシルクハットにコルが投げ入れられていく。
「はい、我々の芸は、全く魔法を使用しておりません! 純粋な技がなすこの妙技。いかがだったでしょうか!」
背の高いピエロがしゃべり慣れた様子で解説をする。
「さて、次は…………この火のついた棒をわたくしが飲み込んで差し上げましょう」
そしてピエロは上を向き、大きく口を開ける。
「ねぇ、あれどうやってると思う!?」
アリスが楽しそうに聞いてくる。
「どうってなぁ、それがわかれば俺がやって…………ん?」
口を開けたままのピエロと目が合うと、固まった。そして、慌てたようにピエロはズボォッと燃える棒を飲み込んだ。
「「「早っ!」」」
観客たちが口を揃えた。
「はい、ありがとうございました。も、申し訳ありませんが私どもは急用を思い出しましたので、こちらで失礼します」
そう早口でまくしたてた。
「えーーー!?」
驚く観客たちと事情がわからない他2人のピエロたち。
「ああもう! 今度はあいつらかよ! ヒューズ、モッシュ行くぞ!」
そう言って荷物を鞄に詰め、走り去った。
「今、ヒューズって言ったかしら?」
「言ったな。確かに…………」
「あはは、ピエロってあの3兄弟だったのね」
「芸達者だなーあいつら」
まだ夕食までは少し時間がある。走り去ったあいつらを見送りながらアリスに聞く。
「なぁ」
「なに?」
「遅くなったけど、アリスは魔力のコントロールが大分上手くなっただろ? お祝いに欲しいものはないか? 服とかアクセサリーとか」
「うーん、そうね。でもいいの?」
とどこか弾んだ声だ。
「ああ、遠慮なしで」
「そうねぇ。じゃあアクセサリーで。ちゃんと効果のついたやつね!」
「了解!」
アクセサリーで、しかも戦闘でも使える方が良いとなれば……。
◆◆
「おい、オッサン。また来てやったぞ」
俺たちは町をうろうろしながら、ウォーズ通りのあのオッサンの屋台へ来ていた。相変わらず同じ場所に陣取って商売しているようだ。
「おお、お前さんか! 昨日はありがとうな!」
「今日はアクセサリーがほしい。ちょっと見せてくれ」
「おう、ちょっと待っとれ」
オッサンが店にあるアクセサリー棚を見やすいようこちらに移動させようとしてくれている。と、アリスに肩を叩かれた。
「お店の人、知り合いなの? いつの間に?」
「昨日、他の客に絡まれてるところを助けたんだ」
「あなた、どこへ行っても事件に巻き込まれるわよね」
アリスが心底気の毒そうな目で見てくる。
「俺のせいじゃないんだけどな……」
そうしているとおっさんが戻ってきて口を開いた。
「ん? そういや今日はキレイな嬢ちゃん連れてるな。コレか?」
小指を立てるおっさん。
「違ぇよバカ!」
そう言いながらもオッサンが目ぼしい物を持ってきてくれた。
「はっはっは! この辺のでどうだ?」
「いっぱいあるな。どれどれ」
出してきてくれたのは、木でできたアクセサリー棚だ。全部で20種類以上のアクセサリーが棚にかかっている。
「可愛い! これよくない?」
アリスが指差すそれはシルバーのハートの右側が大きく膨らんだネックレスだった。アシンメトリーに出来ていて可愛い。
「おっ、いいな。でもまぁ待て。俺にも選ばしてくれ。…………なぁこっちは? アリスっぽくないか?」
俺が見つけたのは透明な水色の雪の結晶の形をした、アクセサリーがついたネックレスだ。
「あたしぽいって何よ。でもホント、可愛いわね。それならユウが選んでくれた方にしようかしら」
「はいはい」
「ユウのはそうねぇ……あっこれ!」
そう言ってニコニコしたアリスが目の前に持ってきたのは、革のヒモを通した2つシルバーの指輪がついたネックレスだった。
「おお、カッコいいなこれ」
「でしょ! これにしてよ!」
アリスがふわふわのスカートを揺らしながら俺の目の前につき出す。
「わかったわかった。これとそのネックレスで頼む」
「毎度あり~!」
オッサンは楽しそうにご機嫌で袋に入れて渡してくれた。
「そう言えば効果はどうなんだ? 見てなかった」
おっさんが説明してくれる。
「ああ、嬢ちゃんのネックレスは火属性の攻撃の威力を少し抑え、氷属性の効果を高める。ユウのは魔力強化だったはずだ」
「へぇ、アリスにぴったりだな。オッサンありがとう!」
「おう! 彼女は大事にしろよ!」
「彼女じゃねぇ!」
「あははは!」
そう言う俺に、アリスは手で口を押さえながら笑っていた。
それからウォーズ通りをぶらぶら歩いて武器を見て回った。女の子と2人で武器屋を見て回るなんてどうかと思ったが、俺たちは冒険者だ。だからか案外楽しめた。それでもアリスの女の子らしい白いロングスカートがこの通りじゃ浮いていた。
そして少し日が傾いてきた。夕日に照らされるこの通りもいい感じだ。徐々に仕事帰りの冒険者たちも町に溢れ出す。
「この町って物騒だけど、好きよ」
アリスがつぶやいた。
「そうだな。ほんとに物騒だけどな」
「昨日のギルドでの事も、あたし実は嫌じゃなかったの。今思えばけっこう楽しかったわ」
「ははっ、今さらかよ」
あたりは夕日が沈みだし、少し暗くなってきた。お店はブルートにおすすめの宿を聞いた時、ついでに教えてもらっていたこれまた、知る人ぞ知る路地裏にあるステーキのお店だ。店の外にまで香ばしいお肉の焼ける匂いが薫ってくる。
「めちゃくちゃ旨そうな匂いだ。この匂いって無料なのか?」
「何言ってんのよ」
お店に入ると、この世界に来てからは珍しい個室タイプのお店だ。席はフリーが俺の名前で予約してくれていた。
アリスと2人で入ると、なんとここからは夕日に照らされ、力強く紅く燃えるシュタイン大聖堂を見るベストスポットだった。
フリー、あいつなんでモテないんだろうな。
「きれい…………」
俺は夕日に照らされたアリスの横顔を眺めていた。
そうだ。
「アリス」
「なに?」
「ネックレス。着けようか」
俺はネックレスを取り出すとアリスの後ろへ回る。黒く真っ直ぐでサラサラな髪を避けてやると、うなじが見えた。
アリスって首細いなぁ。
そんなことを思いながらネックレスをアリスの前を通し、後ろで留める。
「よし」
自分の椅子に座ってアリスを見てみる。アリスと目があった。気のせいかもしれないが、目をチラチラ泳がせて何か言ってほしいみたいだった。
「良いな。似合うじゃん」
「あはは。うん、ありがとう」
アリスの最高の笑顔が見れた。正解だったらしい。
すぐに扉をノックする音が聞こえた。
「はーい」
ウェイターだ。料理が運ばれてきた。熱々の黒い石の上に置かれた肉は分厚く、肉汁が流れ出している。肉は繊維が柔らかく、ほとんど力を入れることなく切れていく。旨すぎて夢中でステーキを頬張った。
食べ終わると、アリスが俺を呼んだ。
「ユウ、ほらこっち」
「なんだ?」
席を立ち、アリスのそばにしゃがむとアリスが俺に近づいて、ネックレスをかけてくれた。俺の鼻をくすぐるアリスの髪から良い匂いがしたーーーー。
◆◆
そうして宿屋へ戻った。
アリスは自分の部屋へと戻っていった。宿屋へ戻るとレアとフリーが息を切らして部屋にいた。
おい、なんでレアまでこっちにいる。
「やぁ……おつ、かれさん」
「ぜぇ…………はぁ、お、お疲れだよー」
「なんでそんな息切れしてんだ」
「いやぁ、ちょっと軽いトレーニングでね。町中を走り回りながら観光してたんだよ」
「へぇ、そうかそうか」
やれやれと手でパタパタ仰ぐフリーとレア。
「……………………お前ら、俺らの後ろ着けてただろ?」
ビクッと反応した2人は、そっぽを向いて、鳴ってもいない口笛を吹き出した。
「「ふゅ~、ふゅ、ふー!」」
ドゴン!
とりあえずフリーは1発デコピンしておいた。壁に頭が埋まった人型のオブジェが出来た。
「はわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!」
レアの目が狂ったように泳いでいる。
「ま、お前らのおかげで楽しめたこともあるし、これくらいにしといてやる」
「わ、わははー! そだよー、私らだって頑張ったんだからねー!」
開き直りやがって。
「何してたんだ?」
「えーとぉ、まずは昨日アリスちゃんの可愛い系の服を買いに行ったでしょー?」
やっぱりあの後3人でどっか行ったのはそういうことか。アリスは何も言わなかったが、どうせ昨日の飲みの席でそんな話でも出たんだろう。
「で、今日はアリスちゃんをナンパしようとずっと後ろを着けてた2人組がいたから、フリーさんが決闘を申し込んでボコボコにしたの。見つかりそうだったから、私が頑張って人を集めて見えないようにしたんだよ?」
「あれ、フリーだったのか……!」
「あとは他の場所でやっていたあの3兄弟の芸をこれでもかと邪魔して大聖堂の広場まで追いたてたりー、夕食の窓側個室の席を確保するために予約客を買収したりー、料理は私達が扉の前でウェイターさんを留めてたからあのタイミングで運ばれたんだよー? 完璧だったよね! あぁ楽しかったなぁー」
久々にこんなにしゃべるレアを見た気がする。
「へぇ、そうなのかぁ……」
「しかも聞いてよユウ! 大聖堂でユウたちが中に入った途端、フリーさんなんて急に大声出して外から大聖堂に登りだしたと思ったら、ステンドグラスの前で苦手な光魔法を使って太陽の光を強くしてね? 中はどうだった? 絶対キレイだったよね! 戻ってきた時なんて、決死の覚悟で魔力の出力上げたからか鼻血がスゴかったんだよ?」
「あいつ…………馬鹿過ぎるだろ」
壁に埋まったフリーを見る。
魔力の訓練の成果そんなとこに生かすなよ。いや、今日はお前らのおかげなのかもな。
「私も中で見たかったなぁ」
「お前ら、最後まで着けてたのか?」
「うううん。先に宿に戻らなきゃいけなかったから、途中までだよ。どうだった? アリスちゃんとは仲良くなれた?」
「お陰さまでな。それはそれで……よしレアそこになおれ」
「へ?」
ビリィ!
「あばばばばば!」
レアの尻尾の毛が静電気で逆立つ。
雷魔法で強めの静電気を発生させ痺れさせた。床にコテンと横になるレア。
「ひ、ひどいよユウ~」
「早く寝ろ馬鹿猫」
読んでいただき、ありがとうございました。
皆さん、お体には何卒お気をつけください。
いつの間にやらもう50話です。今後とも頑張って更新していきますので、『ワンダーランド』をよろしくお願いします。




