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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
47/161

第47話 ガランとモーガン

こんにちは。

ブックマークしていただいた方、有難うございました。

また、いつの間にかアクセス数23000PVを超えていました。いつも有難うございます。

第47話になります。


「ヒュドラ?」


 聞いたことがある。昔見た海外映画のモンスターで、多数の首を持つ竜だ。千里眼で穴の底を見ると、確かに鱗のある折り重なる首が見えた。だが、


「眠ってるみたいだねぇ」


 そう、フリーの言う通りまったく動く気配がない。石像のようで、むしろ封印されているようにも見える。


「好都合だ。今のうちに早く調査を終えよう。さすがにあれが動き出したら僕たちもただじゃすまない」


 ジャンの言葉を聞いて、皆が静かに頷いた。


「待って!」


 まだ穴の底を覗いていたアリスが俺らを呼び止める。


「どうした?」


 だがアリスは黙って下を見つめている。つられて皆が下を覗き込む。


「様子が、おかしい…………」


 

 ……………………ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!



 足元の石ころがカタカタと振動し出した。


「なんの地鳴りだ?」


 皆キョロキョロと周りを見回す。

 


 ドォォォオンッッ……………………!!



 その音は真下、穴の底から聞こえてきた。


「あそこよ!」


 アリスの指差す先、ヒュドラのいる穴底の脇から、漏れ出した大量の水のように大勢の魔物が勢いよく溢れだした。このダンジョンで見てきた様々な魔物だ。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!


 穴から漏れだした魔物の黒い塊は、下のフロアを埋めつくし、どんどんとかさを増していく。ヒュドラも魔物に覆い尽くされ見えなくなった。


「あれだ! あれが氾濫の兆候、魔物の洪水だよ!」


 ジャンが叫ぶ。


「やっば…………!!」


「どんだけいるんだ?」


「…………あんな規模! 前例がないっ!!」


 ジャンたちが顔面蒼白になっていた。


「ジャン! 今から地上に戻って準備が間に合うか……!?」


 槍使いの男が焦った顔でジャンを見る。


 確かにそうだ。ここから戻っても十数日はかかる。氾濫が起きる方が早いかもしれない。町に被害が出てしまう……!


「だけど戻るしかない! とにかく急ごう!」


 ジャンが焦りを見せながら、上階への道を指して言った。


 ただ手がないことはない。


「待ってくれ。それだと時間がかかる。こっちから行かないか?」


 俺はヒュドラが眠る縦穴を指差した。

 そう。この縦穴は下にも伸びているが、()()()伸びている。


「ユウ、縦穴の壁をよじ上るのは無理だ。落ちてしまえば、あの魔物の中に飛び込むことになるんだよ?」


「いや、大丈夫だ。壁は使わないし、落ちないから」


 飛べばいいだけだ。


「まさかまた…………いや、そんな! いやよ!」


 いち早く気付いたアリスが首をブンブンと横に振りながら後ろに下がっていく。

 そんなアリスを無視して皆に近づくと、俺は魔力を一気に広げた。そして全員をしっかりと落ちないように包み込む。


「な、なんだ!?」


「ユウ! これどうなってるだい!?」


 突然動けなくなり、ジャンたちが騒ぐ。アリスとフリーはすでに暗く遠い目をしていた。


「だいじょうぶ。じっとしてればすぐだから」


 そして全員を掴んだまま縦穴に飛び込んだ。






「「「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ…………!!!!」」」」」






 ジャンたちが騒ぐ。

 一瞬の浮遊感の後、一気に重力魔法で浮上を開始した。浮かび上がった反動でガクンと揺れる。


「怖い怖い怖い怖い怖い…………!」


 耳元で風を切る音に交じり、悲鳴が聞こえる。俺の魔力は透明で見えないが、完璧に固定しているから落ちることはない。


 ずっと上昇すると天井が見えてきた。さらに近付くと、天井の脇にダンジョンの通路へと続く道が見えた。


「そこだな」


 俺はその道目掛けて飛び込み、そっと地面に着地する。


 ジャンたちは膝から崩れ落ち、アリスとフリーも顔色が良くなく、しゃがみこんでいた。

 しばらくしてガバッとジャンが上半身を起こした。


「ユ、ユウ! こういうことをやるなら先に言ってくれないかい!?」


「わかった。次やる時はまた呼んでやるよ」


「違う、そうじゃない…………っ」


 賢者さん、ここ何階層?


【賢者】4階層です。


「よし、ここは4階層だ! これなら今日中に町に戻れるな!」


 皆どこかげっそりと疲れていたが、とにかく切り替えて俺たちは地上に向け進み出した。この辺の階層になると、強い魔物でもC~Dランク止まりなのでハイペースで進むことができる。


 そうして、体感で丸一日、俺たちは地上へ向けて進み続け、ようやくダンジョン入り口の太陽の光が見えた。



============================

名前 アリス 15歳

種族:人間

Lv :51→58

HP :665→750

MP :3010→3430

力 :422→480

防御:361→420

敏捷:761→880

魔力:3258→3780

運 :18→19


【スキル】

・剣術Lv.3

・探知Lv.5→6

・魔力感知Lv.8→9

・魔力操作Lv.3 New!

・解体Lv.4


【魔法】

・水魔法Lv.5

・風魔法Lv.3

・氷魔法Lv.8→9


【耐性スキル】

・痛覚耐性Lv.6

・恐怖耐性Lv.6→7

・混乱耐性Lv.4

・打撃耐性Lv.2


【補助スキル】

・魔力回復速度アップLv.5→6


【加護】

・氷の加護(制御不可)

============================



============================

名前 レア 16歳

種族:獣人

Lv :51→59

HP :820→940

MP :1380→1590

力 :595→690

防御:460→565

敏捷:1320→1500

魔力:1708→1970

運 :607→650


【スキル】

・剣術Lv.5→6

・縮地Lv.6

・立体起動Lv.3→4

・魔力操作Lv.5→6

・解体Lv.5

・探知Lv.5→6


【魔法】

・火魔法Lv.1

・水魔法Lv.1

・風魔法Lv.5→7


【耐性スキル】

・打撃耐性Lv.2→3

・恐怖耐性Lv.2


【加護】

・風の加護

============================



============================

名前 フリー

種族:人間

Lv :69→74

HP :1202→1290

MP :590→750

力 :1623→1710

防御:1390→1470

敏捷:1860→1910

魔力:970→1290

運 :395→400


【スキル】

・剣術Lv.8

・抜刀術Lv.6

・縮地Lv.2→3

・天歩Lv.1

・解体Lv.5→6

・探知Lv.5→6

・魔力操作Lv.3New!


【魔法】

・火魔法Lv.3

・風魔法Lv.3


【耐性スキル】

・斬撃耐性Lv.7

・打撃耐性Lv.4→5


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.5→7


【加護】

・刀の加護

============================



============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.2

Lv :11→27

HP :4055→5455

MP :10500→14560

力 :3650→4720

防御:3420→4580

敏捷:4635→5700

魔力:12030→16100

運 :178→207


【スキル】

・剣術Lv.8→9

・体術Lv.3→6

・高位探知Lv.3→4

・高位魔力感知Lv.2→4

・魔力支配Lv.4→5

・隠密Lv.9

・解体Lv.4

・縮地Lv.4→5

・立体機動Lv.5

・千里眼Lv.6→7

・思考加速Lv.3

・予知眼Lv.2→5


【魔法】

・火魔法Lv.8→9

・水魔法Lv.6→7

・風魔法Lv.8→9

・土魔法Lv.9→10

・雷魔法Lv.9

・氷魔法Lv.7→8

・重力魔法Lv.10→超重斥魔法Lv.1NEW!

・光魔法Lv.4→5

・神聖魔法Lv.1→2


【耐性】

・混乱耐性Lv.6

・斬撃耐性Lv.6→7

・打撃耐性Lv.5

・苦痛耐性Lv.9

・恐怖耐性Lv.8

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.4

・氷属性耐性Lv.2New!

・重力耐性Lv.2NEW!


【補助スキル】

・高速治癒Lv.9→再生Lv.1NEW!

・魔力高速回復Lv.8


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.4

・賢者Lv.2→3

・空間把握Lv.3

・空間魔法Lv.1→2

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・竜殺し

============================



 このダンジョン遠征で皆かなり強くなった。レベルが上がったこともあるが、魔力操作を鍛えたおかげで魔力関係が大幅に上がり、身体強化を実戦で使えるようになったことは大きい。


 まずアリスが魔力操作をレベル3まで上げた。これなら実践レベルで十分に使えるだろう。

 フリーは元々魔力を使うことが少なく、もて余していたが良い使い道ができた。元々レベルが高かったので伸び悩んでいたこともあり、かなりの強化になった。

 レアはもうすぐレベル60にも届きそうだ。風属性魔法の使い勝手が良く、攻守ともに優れている。魔力操作のスキルレベルも高いのでワンダーランドのナンバー2はレアかもしれない。


 俺は他の3人と比べてもレベルの上がり幅が大きい。ステータスも加速度的に上がっている。

 デモンドラゴンの時か、重力魔法が超重斥魔法に進化していた。神聖魔法に続いて魔法の進化だが、攻撃魔法の進化は初めてだ。どれほどの威力を秘めているのか、気になって仕方がない。

 また高速治癒が進化して『再生』になったことで、自己治癒力がさらに高まり、切傷程度なら数秒で完治する。しかも、部位欠損ですら徐々に再生するというので驚きだ。これに加えて神聖魔法も持っているので、圧倒的に死ににくい身体を手に入れた。


 そして、知らぬ間に賢者さんのレベルが上がっていた。


 ちょ、言ってくれてもいいだろ?


【賢者】些細なことでしたので、お伝えしませんでした。


 どう変わったんだ?


【賢者】まず、計算能力が10倍になりました。思考加速をリンクさせることで思考速度も10倍にできます。また並列思考もさらに倍になりましたので、128個の脳で同時に考えることができます。


 それ些細なことなの……?


【賢者】いえ、お伝えするほどのことではありませんでした。


 いや、いやいやいや。次からは教えてほしい。


【賢者】承知しました。


 めちゃくちゃパワーアップしていた。

 確かに最近は鬼気迫るような戦いがなかったからな。



 ◆◆



 ダンジョンを無事に脱出すると、入り口に立ち入り禁止の看板が立てられていた。冒険者の姿は少なく、受付の小屋に加え、もう1軒監視用のやぐらが組まれている。

 俺たちがダンジョンから出ると、ギルド職員が駆け寄ってきた。


「待ってましたよギルド長!!」


 ジャンが女性の職員に呼ばれ、何やら話を始めた。

 へクターたちの報告をギルドはすでに受けていたのだろう。これから忙しくなりそうだ。


「よし、じゃあ俺たちはとりあえず町に戻って休むか!」


「だね! 疲れた~。早く横になりたいよ」


 レアがドロドロに汚れた服を払いながら言う。


「そうだな。今後は氾濫対策にかかりっきりになりそうだし…………おーいジャン!」


 ギルド職員と話しているジャンに声をかけた。ジャンがこっちを振り向いた。


「ジャン、今度またギルドに顔出すから今日のとこは帰っていいかー?」


「そうだね! 今日はありがとう。またよろしく頼むよ!」


 ジャンはそう言いながらブンブンと大きく手を振った。


「はいよ!」


 レアたちに向き直って、


「そんじゃ、帰るか!」


「「「おー!」」」


ーーーー


 宿に戻って、すぐに寝た。

 やはりダンジョンにいると時間感覚がわからなくなってしんどい。


 宿に着いたのは早朝だったが、夕方になって目が覚めてみると3人ともまだ死んだように眠っていた。帰りはかなりのハイペースだったので相当疲れがたまっていたのだろう。これは朝まで起きそうにない。

 寝かしといてやろうと思うが、俺はここから朝まで寝られるほどの猛者じゃない。暇だし、ブラブラして飯でも食うことにした。



 ◆◆



 外に出ると、茜色の夕陽が町を染め始めたところだった。

 夕方は冒険者たちが1日の仕事を終えて帰ってくる時間帯だ。そのためか、すれ違う冒険者たちは多い。だが急きょダンジョンが立ち入り禁止になったために手持ち無沙汰になった冒険者たちも多いようだ。そのような輩は、ギルドや居酒屋で早くも飲み始めていた。


「なんか町が久しぶりだな」


 俺は知らない町を1人で探険するのがけっこう好きだ。ダンジョンにこもりっぱなしだったので久々の町歩きをぼーっと満喫していると、突然脇から飛び出してきた奴にぶつかられそうになった。


「あぶなっ!」


 そいつは悪びれる様子もなく、そのまま走り去っていった。フードを目深に被っていて顔はわからなかった。


 あの野郎……。


 悪態をつくも、すでに氾濫で頭の中はお腹一杯だ。これ以上の厄介事は抱えたくない。


「ふう、運が良かったな」


 そしてまた歩きだそうとすると、同じ路地裏からどこか聞き覚えのある声がした。


「兄貴! 本当にこんな町に隠し子なんているのかよ! あいつ、嘘言ってるんじゃねぇのか?」


 路地裏を覗き込むと、20メートルほど先でこそこそと話をする3人組が見えた。


 どっかで見たことあるような……。

 あ、思い出した。道中で会った3兄弟だ! この町に来てたんだな。なんの話をしてるんだ?


 とりあえず隠密を使ってそろりそろりと近づく。


「それはわからんが、あいつの狙いがその子供なら一筋縄ではいかんだろう。ワーグナーの人々は仲が悪いようで、あのジャンという男で繋がっている。ほぼ一枚岩だ。完全に部外者の俺らを頼るのはわかる」


 ジャン?


「だからって、情報提供だけで50万だと?」


「それが謎だ。バックに何者がいるのか知らんが、リスクがどれだけか不明だ。関わるのはよそう」


「だな」


 どうやら話には乗らないらしい。だが、さすがに聞き捨てられない話を聞いた。


「なんだ。止めとくのか」


 と、ヒューズの真横で声を出してみた。


「なっ………!」


 ゴンッ。


 ヒューズが驚いて壁に頭をぶつけた。


「あっ! てめえ!!」


「何してんだお前ら。ジャンがどうしたって?」


 何か企んでそうなのはこの町に来る前に俺らの馬車ときみまろを盗んだ3兄弟だった。


「なんでもねぇ!」


「まぁまぁ。で、無事に盗賊からは解放されたのか?」


「ああ、あんたのおかげだ!」


 小太りの三男であるモッシュが答える。


「モッシュうるせぇ! 別にこいつに言うことねぇだろ!」


 何故か次男のヒューズには嫌われてるんだよな。


「いや、だって実際この人のおかげだし…………」


 気の弱そうなモッシュがもじもじと言う。


「で、今度は何を企んでんだ?」


「何もない。早く去れ」


 細身のノーブルが言った。


「つれないな。飯くらい一緒に食おう。奢るぞ?」


「断る!」


 ノーブルはめちゃくちゃ嫌そうだ。だから無理やり肩を組んで言う。


「遠慮するなって、さっきの話聞かせてくれ。てか話せ」


「…………はぁ」


 ため息をついて仕方なくといった様子で了承された。今の時間帯、食堂のような場所は飲んだくれで溢れているので、少し高そうなレストランに入る。


「なんでも食えよ。出所祝いだ」


 そう言いつつ、丸テーブルにどかっと座る。


「どこまでも勝手なやつだ」


 とノーブルが言いながらも、その横でモッシュがこれでもかと注文し続けている。

 先に飲み物が届いたので話を始めた。


「で、さっきの奴は?」


「知らん。勝手に人探しを頼んできただけだ」


 人探しか……別にキナ臭さは感じないな。


「誰を探すんだ?」


 ノーブルは周りをキョロキョロと見回す。


「大丈夫。聞き耳をたててる奴はいない」


 そう言うと、一息ついて答えた。


「2人いる」


 ノーブルは指を立てながら話した。


「1人はとある武器。そして、もう1人はある子どもだ。情報提供だけで武器に関しては10万コル、子どもで50万コルだとよ」


 武器と、子ども…………?


 俺の表情を見て、ノーブルが手招きする。どうやら、顔を寄せろとのことらしい。



「探しているのは、()()()()()()だ…………!!」



「はぁ…………?」


 すると、ノーブルがすっと立ち上がった。


「おい待てよ!」


「これで本当に借りはチャラだ。行くぞお前ら」


「まだ料理が…………」


「馬鹿! 早くしろ!」


 モッシュがヒューズに怒られながらも、お店を出ていった。


「…………この町に何があるんだ?」


 そこから考えようとすると、モッシュの頼んだ料理がどんどんと運ばれ、テーブルを埋め尽くしていく。


「げっ…………ちょっと考え事に集中したいな」


 飯は他のお客にあげることにして、向かいの落ち着いた雰囲気のバーへ向かった。ここは飲食店街だから飲み屋が密集していて良かった。


ーーーー


 俺が店に入ると、アンティークな雰囲気のなかステージの上ではハットを被りきれい目な格好の男が鍵盤楽器を弾いていた。この世界で見るのは初めてだ。テーブル席は3席のみで満席のようだ。と、そこでカウンターに立つマスターが声をかけてきた。かなり背が低く、カウンターに隠れて顔しか見えない。そういう種族なのだろう。


「カウンターでもいいか?」


「ああ。蜂蜜酒を頼む」


 マスターは黙って俺の席に酒を置いた。席に着く。蜂蜜酒を飲みながら考える。


 国王の隠し子がこの町のどこかにいて、それを狙っている奴が情報を集めている。

 この氾濫が起きるタイミングで? 氾濫はそれに関係するのか? 狙っている人物がマードック伯爵の可能性は? もしくは全く別事件なのか…………?


【賢者】関連付けるにはまだ情報が不足しています。


 だよな。しかし武器の方も気になる。そっちの方こそ敵が求めている危険なものであることは……? それらも一度調べてみる必要があるだろうか。


 そう考え事をしていると


「口に合わん!」


 この落ち着いた静かで大人の雰囲気の店内に男の大声が聞こえてきた。


 カウンターに座る隣の2人組の男が文句を言っているようだ。

 聴こえてくる話によれば、どうやら安い店がいっぱいで、仕方なくこの店で飲んでいたが口に合わずむしゃくしゃしていたらしい。

 なんてはた迷惑な奴だ。


「モーガン。仕方ないだろ? 高い酒はお前が飲み慣れてないだけだ。味わって飲めば遥かにうめぇぞ?」


 そう言いながら、40歳くらいのおっさんがエールを一気にあおる。渋く良い声だが、落ち着いた店内での飲み方ではない。


「っかぁ!! うめぇ!」


 ダンッ! と木でできたジョッキをカウンターにおく。


「あぁ? 俺にはこんな酒、泥水とかわんねぇ」


 モーガンと呼ばれた男は、嫌そうに横目で酒の入ったジョッキを見る。


「それは言いすぎだモーガン。お前だってそれなりに儲かってるなら、こういう味も知っておくべきじゃ」


「俺は俺の好きなものしか飲まん!」


 そう腕を組んで断言する。


「相変わらず頭が硬いのう。はっはっは!」


 もう1人がモーガンと呼ばれた男をなだめている。

 普段なら気にも止めないが、この2人……たぶんジャンの次くらいに強い。


 町ではトップクラスだろう。

 俺はまだこの町について知らないことが多い。今は情報を得るためにも、こういう奴らとの繋がりは持っておいた方が良いかもしれない。


「なぁ、おっさんたち。一緒に飲まないか? この町に来たところでいろいろ教えてほしいんだ」


「ああ? 俺は今虫の居所が悪いんだ。帰れ若造」


 モーガンと呼ばれた男が俺のことを見もせずに断る。


「ほぉ、お前さん若いのになかなか…………ええぞ。何が知りたい?」


 そして、もう1人の男は俺を値踏みするように見た。彼はモーガンという男よりも、さらに頭1つ抜けて腕が立ちそうだ。


 ガンッ!


 モーガンが突然カウンターをグーで叩く。その音で店内の音楽が止まり、しーんとなる。


「何勝手に決めてんだガラン。俺は羽虫と飲むつもりはねぇ」


 男の体躯で殴られたカウンターの表面は凹んでいた。


「本当にこやつは羽虫かの? モーガンお前はもっと見る目を鍛えた方がええ」


「けっ、どいつもこいつもゴブリンみたいなもんだろう。ひと薙ぎでバラバラになっちまう」


「あんた、そのおっさんの言う通り相手を見て言った方がいいんじゃないか?」


 モーガンがギロリと俺を横目で見た。


「なんだと小僧」


 ガタンッとモーガンと呼ばれる男が立ち上がった。


 この男、背はかなり高い。2メートル近くある。そして、全身が分厚い筋肉に包まれている。二の腕は丸太みたいだ。大きめの鼻で、決してイケメンとは言えない仏頂面と灰色の短髪。今はシャツ1枚の軽装で、筋肉でパツパツになっている。

 巨人族のゴードンほどではないが、明らかなパワータイプだ。


「そこまで気に入らないなら、確かめてみるか?」


 俺は座ったままモーガンを見上げると、挑発も込めて言った。


「かっかっかっ!!」


 ガランと呼ばれた男は大口を開けて笑っている。止める気はないようだ。彼も俺の実力を測るつもりだろう。


「上等だ!」


 大音量がビリビリと店を震わす。

 すると、それを上回る大声がカウンターから聞こえた。



「表でやれぇい……!!!!」



 小柄なマスターが激怒していた。


「「すみません」」


 マスターの剣幕に皆揃ってヘコヘコ頭を下げた。


ーーーー


 店の前の通りは道幅5メートルくらいでやり合うには少し狭いくらいだ。俺とモーガンはそこで向かい合った。



「決闘だーーーーーー!!」



 騒ぎに気づいた周りの店の客が、声を張り上げ煽ると、続々と他の飲み屋から人が集まりだした。


「おいおい、あのガキ誰が相手かわかってんのか? 町で10指に入るモーガンだぞ?」


 そんな声が聞こえてきた。やはり有名人らしい。これはありがたい。この町の冒険者のトップ層の実力が分かれば今後の氾濫の想定もたてやすいだろう。


「おい」


 モーガンはその辺の男にあごをしゃくる。


「はいよ」


 男が引きずりながら持ち出してきたのは俺の背丈と同じくらいの大剣だ。これがすべて金属でできているとは、一体何キロになるんだろう。


 モーガンは大剣を受け取ると片手で持ち上げ、肩にドカッと担いだ。


「やるな」


 口に出すと、連れのガランがニヤニヤとして声を上げた。


「ははは、これは楽しみだな! いい退屈しのぎになるのぉ!」


 外は魔石灯があり、店の明かりと相まってそれなりに明るい。野次馬たちも増え、すでに100人を越す。俺とモーガンの試合場を作るように人垣が円を作ると、やいやいとヤジを飛ばし始めた。後ろに下がるなと背中を押される。


「俺がジャッジをする。俺はこいつの知り合いだが、公平に判断することを誓おう」


 飛び交うヤジのなか、ガランがそう宣言した。


 モーガンが背負うほどの大剣を正面に構える。戦闘体勢に入ったモーガンは自信に満ち溢れ、さらにでかく見えた。


「あのモーガンと、無名の冒険者だあああ!」


「始まるぞ! 下がれー! 下がれー!」


 その声で人が離れ、さらに場を広く空けていく。


「小僧、丸腰か?」


 剣を俺に向けモーガンが聞いてきた。


「ああ。心配すんな。こっちも得意だ」


 そう言いながら拳を構える。


「ここまで来て言い訳は聞かんぞ?」


 モーガンの目に怒りが灯った。

 正中に構えていた大剣をより、力が乗りやすいように振りかぶって構えなおす。



「それではーーーーっ! はじめぇえええっ!!」



 ガランが合図をした。


 よし、1対1は実験にちょうどいいので思考加速を使ってみようと思う。

 賢者さん曰く、これを使えば1秒が100倍に引き伸ばされて感じることができるとのこと。


 モーガンが突っ込んでくる。あの巨体だとは思えない速度だ。肩越しに振りかぶると、俺めがけて降り下ろした! 


 これ、普通の冒険者なら当たると死ぬだろ……!


 それくらいに速ければ重さもある。

 そこで思考加速を発動する。途端に周囲の動きがゆっくりになり、少し光量が落ちたように感じる。


 観客たちは止まっているかのように見えるが、モーガンの剣はこの遅くなった視界の中を、明らかな速度で大気を斬り裂きながら突き進んでくる。


 さぁ、どうなる…………!


 俺は右手を剣の前に差し出した。そして刃を指で掴み、ぎゅっと力を込めて剣を受け止めようとしてみる。


 ぎゅううううう…………!!


 おおっ、一度やってみたかったんだが、想像よりキツイ! だが、できなくはない!


 止まっ…………た!!



「なんだと…!?」



 モーガンの大剣は俺の右手の人差し指と親指で挟まれ、停止していた。


 野次馬たちですらヤジを忘れて静まり返る。


「モーガンの大剣を…………?」


 さすがにガランも予想外の結果に狼狽えた。


「おいモーガンふざけてんのか!」


 1人の客が言った。


 だがモーガンはふざけていない。今も顔を真っ赤にして、プルプル震えながら体重を乗せた全力の力を大剣に込め続けている。


「お、おまえなにもんじゃい!」


 審判をしていたガランがたまらず、警戒心のこもった目で問い掛けてくる。


「コルトから来たC級の冒険者だ」


「C級だと!?」


 途端に馬鹿にするなとモーガンの眉間にシワが入る。そして彼は両手で剣を握りなおした。


「ふんっ!」


 上腕と前腕の筋肉が盛り上がり、さらに圧力が増す……!


「ぐっ……!」


 重いっ!


 ビキキキッ…………!


 俺の足元の地面にヒビが入る。しかし、これでもなお拮抗した。


 余裕な顔を見せているが、実は全力で指に力を入れてる。

 ステータスは、常にその通りの出力を出せるわけではない。デコピンよりも蹴りの方が威力が高いように、指で摘まむよりも、両手で止めた方が当然楽だ。


 むしろ、なんでこれを指で止めようと思った馬鹿!

 それ程この男は強かった。だが、これで負けたらここまで見栄を張ったのがダサすぎる。なので勝たせてもらおう。


 そのまま大剣ごとモーガンを俺の方へと引く。


「うおっ!」


 前に体が崩れかけた瞬間に手を離し、体をひねり腰を入れた左拳を顔面にぶちこんだ!


「ぶっ飛べ……お、らあっ!!」


 メキメキメキ…………。


 拳が顔面にめり込み、そのまま振り抜く。



「ぶほああっ!」



 モーガンは空中に鼻血の跡を残しながら、勢い良く吹き飛んだ!

 野次馬たちはサッと屈むと、その頭上をモーガンの巨体は飛び越えた。さらに10メートルほど宙を舞い、街灯の明かりの範囲から出て見えなくなった。


「モーガン!」


 ガランがモーガンを追って行った。

 

 まぁ、あいつなら大丈夫だろう。


 野次馬たち全員がガランを目で追い、結果を待つと、ガランがすぐに戻ってきた。


「気絶している。モーガンの負けだ」



「「「「うおおお!!!!!!!!!」」」」



 客が盛り上がり、俺に群がってくる。


「モーガンの一撃を片手で止めやがった!! すげぇな!」


「それだけじゃねぇ……1発だぞ!?」


 皆に背中をバシバシと叩かれる。一気に人気者になった気分だ。


「あだだだだ」


 頭を粗めにわしゃわしゃされる。


「おい、これでも飲んでけよ!」


 知らないうちに酒をたくさん手渡された。さっきの店の小柄なマスターも不機嫌そうにしながら、店の扉にもたれ掛かって小さく拍手してくれていた。


「お前、見たことない顔だね。どこから来たんだ?」


 店のテラスに腕を組んで立っていた凛とした佇まいの髪を後ろでまとめ、前に流している女性が聞いてきた。


「コルトから」


「へぇ、そうかい」


 それだけだった。この女性も腕が立ちそうだ。


「おい、モーガンは大丈夫だったか?」


 心配になって連れのガランに聞いた。


「大丈夫だ」


「そうか。それは良かった。加減を間違えたかと思ったんだが」


「あれで加減してたのか? それより、してお前、モーガンを煽りよったな? 悪人ではなさそうだが何が目的で、何者だ?」


 ガランはよく見ているし、頭もキレるようだ。


「この町にいるのは……ジャンから氾濫が起きるから手伝ってくれと頼まれたからだ。たまたま強そうな2人がいたんでな、氾濫前に実力が気になったんだ」


 氾濫と聞いて周りの奴らが反応する。


「おいおい馬鹿にすんな」


 気に入らなかったのか野太い声の冒険者が野次馬の中からずいっと前に出てくる。


「頼まれただと? 氾濫くらい俺らは何度も乗り越えてきた。余所者が偉そうにでしゃばるんじゃねぇよ」


 そう剣呑な目付きで言う男。


 ごもっともだ。だが、ガランの見解は違う。考え込んでいる。


「なんならモーガンの野郎が弱くなっ…………」


 別の男が続けて言おうとすると、ガランがその発言を遮るように一喝した。



「だぁあっとれえええぃ……!!!!」



 ビリビリ……。


 ガランの迫力に場は萎縮し一瞬で静かになってしまった。 


「ジャンから頼まれたか。ここじゃなんだ。場所を変えて飲まないか」


 ガランが誘ってきた。


「ああ、ぜひお願いしたい」


「さぁ、終わりだ! 引き上げろお前ら!!」


 ガランが民衆を帰れ帰れと両手であおぐ。



◆◆



 その後、ガランと2人で1本隣の通りにある居酒屋へ行った。

 ここは店主の趣味なのか、様々な魔物の剥製のある変わった店だ。初めて見るミノタウロスや水槽入りのスライム、店内ど真ん中にはワイバーンの頭部までもがある。剥製の独特の臭いを感じながらテーブルへ向かい合って座った。モーガンはそのまま道に放置してきた。


 適当に飲み物を頼んでから話し始める。


「面白い店じゃろ?」

 

 ガランがニッと案外人懐っこい笑顔で言った。


「ここは普段は見られない魔物が見られると町の人に人気でな? まぁ、逆に冒険者はあまりここには来ん」


 なるほどな。だから選んだか。


「確かに、面白い店だな」


 そう店内を見回しながら答えた。


 ああいう剥製は冒険者から買い取るんだろうか。もしくは店主が狩ったとか?


 そして正面のガランを見る。

 モーガンほどではないが、がっしりとした体格で、戦国武将のような凛々しい顔立ちをしている。先程の周りの反応を見ても、かなりの実力者であることは間違いない。


【賢者】おおよそですが、ガランはBランク冒険者の最高レベルにいると言えます。魔力操作や加護を得なければこれ以上はありません。


 なるほど。逆に言えば、切っ掛けがあればAランクにい上がれるレベルってことか。


「で、お前は何者じゃ?」


 ガランはジョッキの中身を飲み干して問う。


「俺はワンダーランドのユウだ。ここへはコルトから王都へ行く途中に寄っただけだ」


「はて、あの町にお前のようなやつはいたか? コルトと言えば……Aランクのアイツだ。斬炎のカイルだろう?」


「ああ、カイルのパーティは解散した。もうあそこにAランクはいない」


「あの野獣のような男がか? ……何かあったのだな?」


「話せば長くなるから止めとくが、いろいろとあったな」


 そう、斜め上を見て思い出しながら答えた。


「ああ、カイルでいうと、アイツのとこの副長、俺が引き取ったからまた今度会わせてやるよ」


「副長と言えばフリー。それは優秀な奴を引き抜いたな。……っと、マスター同じのもう1杯追加で」


 ガランが酒を飲もうとして、空になったのに気付き注文する。


 よく呑むなと思いつつ、俺も酒を煽って追加を頼む。


「まぁ、うちの仲間は皆優秀だな」


「それは羨ましい。それで、お前はジャンとも知り合いなのか?」


 ほんとみんなジャンのことを知ってるな。


「会ったのはホントについ最近だ。ダンジョン絡みで少しな。町の防衛を手伝うことになった。氾濫のこと、町の人たちは知ってるのか?」


「当たり前だ。氾濫前はいつものことだが、ギルドからの案内に加えてダンジョンが封鎖されたからの。そのことでギルドからこの町の有力なパーティに声がかかった。もちろん俺のところにもな。明後日その集まりがある」


「なるほど」


 ここは冒険者の町、コルトのような衛兵はおらず、ギルドが町の治安を維持している。冒険者だけで魔物を迎え撃つのだろう。


「今回の氾濫について何か知っておるのか?」


「俺も詳しいことは知らんが、今回はいつもと違うそうだ。心しておいた方が良い」


「いつもと違う…………?」


 ガランが顎に手を当て考えている。


「なるほど。それでジャンの様子が違ったのか…………ん?」


 ガランが偶然視線をあげると俺の後ろの方を見て、何かに気付いたようだ。


「どうした?」


 ガランが見た方を振り返ると、少女が店内の隅っこの丸テーブルに座っていた。対面に座っている相手はこちらに背を向けフードを深く被っていてわからない。

 少女は10~11歳くらいだろうか。いくらなんでも酒を飲むには早い。


「あれ?」


 というかあの子じゃないか? 俺たちがこの町に来た時、屋台の果物を盗んでた奴だ。前見た時とは違い、大きめの白色ダボダボシャツを着ている華奢な少女だ。


「あいつはウルじゃ。こんなとこで何をしとる」


 ガランが首を伸ばして覗き込む。


「ウル?」


「ああ、ジャンがギルドで面倒を見ている娘でな。元々ギルド職員の娘だったが、前の反乱でそいつが死んじまいよった。ジャンに育てられたおかげか、今や10歳でBランク冒険者になった100年に1人と言われる天才だ」


「10歳で!?」


 まじで冒険者だったのか。しかも10歳とは。


 振り返って見ると、キャップを脱いでテーブルの上に置いている。肩に届かないくらいの緩いウェーブのかかった茶色の髪をして、どこか不機嫌そうだ。


「というか、相手の野郎は誰だ?」


 ガランの目付きが厳しくなる。


 確かに、10歳の女の子とこんな店か。相手はガタイからして男だろう。ややこしい話でなければいいが。


「心配なのか?」


「…………まあな。俺らからすりゃ娘くらいの年齢だからな。だがウルはしっかりした子だ。大丈夫だろう」


 ガランは少し照れるように言った。


「おっさん、子どもは?」


「おっさんじゃない。ガランと呼べ。ユウ」


 おっさんと言われてムッとする。


「わかったよガラン」


「娘が2人いる。この町にな。だから今回がどんな氾濫になろうと、俺はなんとしてもこの町を守りきるぞ? 1匹たりとも町へは入れん!」


 ガランは闘志を燃やしてそう言った。


 この人は信用できそうだ。嫌いじゃない。

 

 それからしばらく2人で飲んで今度またギルドで会う約束をして飲み屋を出た。



◆◆



 その飲み屋からの帰り、ガランとも別れ、時刻は深夜1時を回った頃だろうか、目の前をフラフラと歩く男が見えた。


 あれは…………。


「ジャン?」


 後ろから声をかける。フラフラと疲れたように歩くのはジャンだった。髪はボサボサ、振り返った顔にも、やつれたような表情が浮かんでいる。


「あれ? ユウじゃないか。どうしたんだこんな時間に」


 ジャンは俺を見てニコッとした。


「それはこっちのセリフだ。お前、大丈夫かよ。あれから帰って休んだのか?」


「あはは……やらなきゃいけないことは山積みだからね」


 そう笑うが、空元気のようだ。


 ダンジョンから戻ってから、俺が寝て食べて飲んでる間もずっとギルドで仕事をしてただろうか。


「ちょっとは休め馬鹿。今から家に帰るのか?」


「いや、ちょっと食べ物の買い出しにね。ギルドの皆が頑張ってくれてるんだ。僕だけ休むわけにはいかないよ」


 本当に馬鹿なんだろうか。


「ジャン、氾濫の前に倒れるぞ?」


「そうはいかない。倒れてる暇なんてないからね」


 今度は空元気もなく、ひきつった顔で笑った。


「はぁ…………」


 俺は頭をかいた。


 こういう、どこまでもお人好しで自分を犠牲にするタイプはたまにいる。悪く言えば、人にものを頼むのが苦手な奴。

 まぁ俺もどちらかと言うとそれかもしれない。だからこそ見ていられない。


「ジャン、戻れ」


 俺は少し高圧的に言った。


「な、なんだい?」


「ギルドに戻って寝てこいって言ってんだ」


「それは…………」


 ジャンはその提案に言いよどんだ。


「いいから! 買い出しくらい俺が行くから!」


 ジャンの背中を押して、ギルドに帰そうとするが。


「ダメだ。これは僕の仕事だからね」


 ジャンが俺を振り払った。


「お前……!」


「ほら、早く行かないと皆が待ってるんだ!」


 この頑固者…………あぁ、もう実力行使。


「すまん」


 そう言いながらジャンの首に延髄チョップする。


 ドッッ!


「うっ!?」


 ジャンがガクンと崩れ落ちるのを支え、そして背中に背負った。

 普段のジャンならこの程度かわしたかもしれないが、今の彼には見えてもいなかった。


「やっぱり限界だったんだろ…………さて、ギルドへ向かいますか」


 そうしてギルドへ向かって歩き出す。


 そもそもこんな時間にどこに買いに行くつもりだったんだよ。運の良いことに、買い出しに行かずともダンジョン探索の食料として買ったものがまだ大量に残っている。


 ギルド前に到着したが、まだギルド内は明々と魔石灯の明かりがついているようだ。

 屋台メシを空間魔法からわんさか取り出し、ギルドの前に積み上げてから扉を開ける。


「おーい、差し入れだぞ」


 ギルド内には職員が過去の資料から氾濫状況を整理したり、どこどこに援軍を頼むとか、町の冒険者をどこに配置するとか、誰のパーティの戦力はどれくらいだの、防壁をどうするだの、慌ただしく動き回っていた。


 誰も俺に気が付くことはない。


「おい皆! 手を止めろー!」


 俺が再び言うと、俺と背負われたジャンに気がついたようだ。


「誰? …………って、ギルド長どうされたんですか!?」


 皆、背負われたジャンに気付き、キョトンとしている。


「忙しいところすまん。ジャンは働き過ぎだ。寝かしてやってほしい」


「はいっ!」


 背中からジャンを優しく下ろすと、ギルド職員たちが運んで行く。


「あの、ここまで運んでいただきありがとうございました!」


 そう言って、あほ毛の目立つ女の子のギルド職員が頭を下げた。


「いいから。あとこれ、ジャンからの差し入れだ」


 積み上げた飯を見せてから続けた。


「こんを詰めても仕方ないだろ? 全員今の作業を止めて一旦メシにしてくれ! これもジャンが言ってた!」


「いや、でも食べてる暇なんて…………!」


 そういうギルド職員たちは相当天パっている。俺はギルド内全員に聞こえるように声を張り上げる。


「あのな、フラフラの状態でやるより集中してやった方が効率がいい。全員休憩をとって作業はそれからだ! …………わかったか!?」



「「「「「「は、はい!」」」」」」



「じゃ、俺は行くから。ジャンも目が覚めたら、飯を食わせてやってくれ」


「あ、あの、差し入れありがとうございます!!」


「じゃあな」


 それだけ言って自分の宿へと向かった。こっそり窓から宿の部屋に戻ると


「ユウ、出掛けてたのかい?」


 フリーが起きていた。


「すまん。起こしてしまったか」


「いや、たまたま目が覚めてたんだよ」


 フリーにしては珍しいな。


「フリー、俺はこの町を守るぞ?」


「ははっ、何を言ってるんだい。当たり前だろう?」


 寝言のようにそう言ってフリーはまた寝た。俺も酔いが回ってかそのまま寝てしまった。

こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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