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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
47/159

第47話 ガランとモーガン

こんにちは。

ブックマークしていただいた方、有難うございました。

また、いつの間にかアクセス数23000PVを超えていました。いつも有難うございます。

第47話になります。


「ヒュドラ?」


 聞いたことがある。昔見た海外のアニメ映画のモンスターで、確か多数の首を持つ竜だ。千里眼で穴の底を見ると、確かに鱗のある折り重なる首が見えた。だが、


「眠ってるみたいだねぇ」


 そう、フリーの言う通りまったく動く気配がない。むしろ石像のようになって封印されているようにも見える。


「好都合だ。今のうちに早く調査を終えよう。さすがにあれが動き出したら僕たちもただじゃすまなさそうだ」


 ジャンの言葉を聞いて、皆が静かに頷いた。


「待って!」


 まだ穴の底を覗いていたアリスが俺らを呼び止める。


「どうした?」


 だがアリスは黙って下を見つめている。つられて皆が下を覗き込む。


「様子がおかしいわ…………」


 

 ……………………ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!



 足元の石ころがカタカタと振動し出した。



「なんの地鳴りだ?」


 皆キョロキョロと周りを見回す。

 


 ドォン……………………!!



 その音は真下、穴の底から聞こえてきた。


「あそこよ!」


 アリスの指差す先、ヒュドラのいる底の脇から、漏れ出した大量の水のように大量の魔物が勢いよく溢れだしてきた。今までこのダンジョンで見てきた様々な魔物だ。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!


 穴から漏れだした魔物の黒い塊は数を増す。下のフロアを埋めつくし、どんどんとかさを増しながら貯まっていく。そしてヒュドラすら魔物に覆い尽くされた。


「あれが氾濫の兆候、魔物の洪水だよ!」


 ジャンが叫ぶ。


「やっば…………!!」


「ど、どんだけいるんだ?」 


「…………あんな規模!前例がないっ!!」


 ジャンが一瞬で顔面蒼白になる。


 なかなかヤバイみたいだな。


「ジャン!俺たちが今から地上に戻って準備が間に合うか…………!!」


 槍使いの男が焦った顔でジャンを見る。


 なるほど。ここから数週間かけて普通に町に戻ってもあいつらに追い付かれるか、情報が間に合わず町の備えが不十分で被害が出てしまう。

 どうしようか。うーん…………1つだけ手はある。


「間に合うかわからないが、急いで地上を目指そう」


 ジャンが元来た道を戻るように言った。


「待ってくれ。それじゃ時間がかかる。やっぱりこっちから行こう」


 そう言って俺はヒュドラが眠る縦穴を指差した。この縦穴は下にも伸びているが、上にも伸びている。


「ユウ、縦穴の壁を上るのは無理だろう?落ちてしまえば、あの魔物の中に飛び込むことになるんだよ?」


「いや、大丈夫。壁は上らない」


 思わずニヤッとなってしまった。ここからが楽しいんだ。


「まさかまた…………いや、そんな! いやよ!」


 アリスが気付いたのか首を横に振りながら後ろに下がっていく。ニヤニヤして皆に近づくと、俺は魔力を一気に広げた。そしてそれで全員を包み込み、しっかりと掴む。


「な、なんだ!?」


「ユウ!これどうなってるだい!?」


 突然動けなくなり、ジャンたちが騒ぐ。アリスとフリーはすでに魂の抜けた遠い目をしていた。


「だいじょーぶ。じっとしてりゃすぐだ」


 そして全員を掴んだまま縦穴に飛び込んだ。






「「「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ…………!!!!」」」」」






 ジャンたちが騒ぐ。一瞬の浮遊感の後、ガクン!と俺は一気に重力魔法で浮上を開始した。下の魔物の大群に動きはない。


「怖い怖い怖い怖い怖い…………!」


 耳元で風を切る音に交じり、悲鳴が聞こえる。俺の魔力は透明で見えないが、しっかりと固定は完璧だ。俺が重力魔法で空を飛びながら魔力操作で皆を掴んで引っ張っている。


 ずっと上昇すると天井が見えてきた。天井の脇にダンジョンの通路へと続く道が見える。


「そこか」


 俺はそこに目掛けて飛び込んだ。


「よっ!」


 俺はそっと地面に着地する。



 ドサッ、ドサドサドサ。



 ジャンたちは倒れるように着地した。しばらくしてガバッとジャンが上半身を起こした。


「ユウ!こういうことやるなら先に言ってくれよ!?」


「楽しかっただろ?」



「「「お前だけな!」」」



 さて賢者さん、ここ何階層?


【賢者】ここは4階層です。


「よしお前ら喜べ!ここは4階層らしいぞ!これなら今日中に町に戻れるな!」


 そう言って振り返ると元気なのは俺だけだった。皆げっそりと疲れていた。

 とにかく切り替えて、俺たちは地上に向け進み出した。この辺の階層になると、強い魔物でもC~Dランク止まり。ノンストップで走り抜けられる。


 そうして、体感で丸一日、俺たちは地上へ向け、走り続けた。


「外の明かりだ!やっと助かる!」


 ようやくダンジョン入り口の太陽の光が見えた。



============================

名前 アリス 15歳

種族:人間

Lv :51→58

HP :665→750

MP :3010→3430

力 :422→480

防御:361→420

敏捷:761→880

魔力:3258→3780

運 :18→19


【スキル】

・剣術Lv.3

・探知Lv.5→6

・魔力感知Lv.8→9

・魔力操作Lv.3 New!

・解体Lv.4


【魔法】

・水魔法Lv.5

・風魔法Lv.3

・氷魔法Lv.8→9


【耐性スキル】

・痛覚耐性Lv.6

・恐怖耐性Lv.6→7

・混乱耐性Lv.4

・打撃耐性Lv.2


【補助スキル】

・魔力回復速度アップLv.5→6


【加護】

・氷の加護(制御不可)

============================



============================

名前 レア 16歳

種族:獣人

Lv :51→59

HP :820→940

MP :1380→1590

力 :595→690

防御:460→565

敏捷:1320→1500

魔力:1708→1970

運 :607→650


【スキル】

・剣術Lv.5→6

・縮地Lv.6

・立体起動Lv.3→4

・魔力操作Lv.5→6

・解体Lv.5

・探知Lv.5→6


【魔法】

・火魔法Lv.1

・水魔法Lv.1

・風魔法Lv.5→7


【耐性スキル】

・打撃耐性Lv.2→3

・恐怖耐性Lv.2


【加護】

・風の加護

============================



============================

名前 フリー

種族:人間

Lv :69→74

HP :1202→1290

MP :590→750

力 :1623→1710

防御:1390→1470

敏捷:1860→1910

魔力:970→1290

運 :395→400


【スキル】

・剣術Lv.8

・抜刀術Lv.6

・縮地Lv.2→3

・天歩Lv.1

・解体Lv.5→6

・探知Lv.5→6

・魔力操作Lv.3New!


【魔法】

・火魔法Lv.3

・風魔法Lv.3


【耐性スキル】

・斬撃耐性Lv.7

・打撃耐性Lv.4→5


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.5→7


【加護】

・刀の加護

============================



============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.2

Lv :11→27

HP :4055→5455

MP :10500→14560

力 :3650→4720

防御:3420→4580

敏捷:4635→5700

魔力:12030→16100

運 :178→207


【スキル】

・剣術Lv.8→9

・体術Lv.3→6

・高位探知Lv.3→4

・高位魔力感知Lv.2→4

・魔力支配Lv.4→5

・隠密Lv.9

・解体Lv.4

・縮地Lv.4→5

・立体機動Lv.5

・千里眼Lv.6→7

・思考加速Lv.3

・予知眼Lv.2→5


【魔法】

・火魔法Lv.8→9

・水魔法Lv.6→7

・風魔法Lv.8→9

・土魔法Lv.9→10

・雷魔法Lv.9

・氷魔法Lv.7→8

・重力魔法Lv.10→超重斥魔法Lv.1NEW!

・光魔法Lv.4→5

・神聖魔法Lv.1→2


【耐性】

・混乱耐性Lv.6

・斬撃耐性Lv.6→7

・打撃耐性Lv.5

・苦痛耐性Lv.9

・恐怖耐性Lv.8

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.4

・氷属性耐性Lv.2New!

・重力耐性Lv.2NEW!


【補助スキル】

・高速治癒Lv.9→再生Lv.1NEW!

・魔力高速回復Lv.8


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.4

・賢者Lv.2→3

・空間把握Lv.3

・空間魔法Lv.1→2

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・竜殺し

============================



 さて、このダンジョン遠征で皆かなり強くなった。レベルが上がったこともあるが、魔力操作を鍛えたおかげで魔力関係が大幅に上がり、身体強化を実戦で使えるようになったことは大きい。

 そして、まずアリスが魔力操作をレベル3まで上げたことだ。コルトですでに魔力操作のスキルの取得はできていたが、ここまでくれば実践レベルで使えるだろう。

 また、フリーは元々あまり戦闘で魔力を使うことがなく、もて余していたが良い使い道ができた。元々レベルが高く伸び悩んでいたが、魔力の使い道が加わることでかなりの強化になった。

 レアはもうすぐレベル60にも届きそうだ。風属性魔法の使い勝手が良く、攻守ともに優れている。魔力操作のスキルレベルも高いのでワンダーランドのナンバー2はレアかもしれない。


 そして俺は他の3人と比べてもレベルの上がり方がおかしい。前にも増して、ステータスの上がり幅が大きく、どんどんと強くなっている。

 おそらくデモンドラゴンに止めを差した時か、重力魔法が超重斥魔法に進化していた。神聖魔法に続いて魔法の進化だが、攻撃魔法の進化は初めてだ。どれほどの威力を秘めているのか、実践で試していきたい。

 また高速治癒も進化して再生になった。再生は高速治癒よりもさらに自己治癒力が高まり、切傷程度なら数秒で完治する。さらにスゴいのは、部位欠損ですら徐々に再生するというので驚きだ。これに加えて神聖魔法も持っているのだから、俺はかなり死ににくくなった。この回復力は、もはや人間なのかも疑わしい。

 神聖魔法の方は、未だに回復魔法の強化版という以外に特徴は見られない。

 そして、知らぬ間に賢者さんのレベルが上がっていた。


 ちょ、言ってくれてもいいだろ?


【賢者】些細なことでしたので、お伝えしませんでした。


 どう変わったんだ?


【賢者】まず、計算能力が10倍になりました。そのため、こちらとスキル思考加速をリンクさせることでさらに10倍の速度での思考が可能となります。また、並列思考もさらに倍になりました。つまり、128個の脳で同時に考えることができます。


 ちょっ、ちょっと待って?それ、些細なこと?かなりスペック上がったんじゃない?


【賢者】いえ、言うほどのことではありませんでしたので。


 いやいやいやいや、次からは教えてくれよ?


【賢者】承知しました。


 めちゃくちゃパワーアップしていた。確かに最近は鬼気迫るような戦いがなかったから、それほど使用することはなかった。だから余計に気付かなかった。


【賢者】また、ステータスからは分かりにくい各個人の強さを数値化できるようになりました。これはステータスだけでなく、スキルレベルや戦闘経験等、私のデータから算出したものになります。必ずしも100%ではありませんが、参考になればと。


 なにそれ?試しにレアたちはどうなの?見せて。


【賢者】かしこまりました。以下になります。単位はBPです。1BPでBランクに成り立て、いわゆるBランク下位に当たる冒険者1人当たりの強さです。ユニークスキルのあるなしで大きく変動します。Aランク下位冒険者1人でBランク冒険者100人に相当です。


レア :580 BP

アリス:555 BP

フリー:560 BP


 なるほど。分かりやすいな。これは助かる。やはりレアは攻守ともに優れているので、頭一つ抜けているようだ。


【賢者】なお、Bランク冒険者が100BPに達することはありません。それだけ種族レベルの違いは大きいのです。ユウ様ほどの規格外の才能や、魔力の操作、レア様たちのような加護、もしくはユニークスキルを持たねばあり得ません。


 いやいや、それほどでも。


【賢者】ちなみに加護持ちのカイルはあの時、すでに1500BP以上ありました。相性もあるので一概には言えませんが参考になりますでしょうか。


 ああ。ちなみに俺は?


【賢者】ユウ様が全力を出されたことがないのでわかりませんが、ユウ様の普段の力から想定しますと、軽く10000BPを超えるでしょう。


 まじで? 俺、すでにAランク冒険者100人相当!?


【賢者】魔法の火力だけで言えば、それを遥かに上回ります。


 ほ~おー。



 ◆◆



 ダンジョンを無事に脱出すると、入り口に立ち入り禁止の看板が立てられていた。冒険者の姿は少なく、受付の小屋に加えてもう一軒監視用のやぐらが組まれている。

 俺らがダンジョンから出ると、ギルド職員が駆け寄ってきた。


「待ってましたよギルド長!!」


 ジャンが女性の職員に呼ばれ、何やら話をしている。おそらくへクターたちの報告がすでに行っているのだろう。これから忙しくなりそうだ。


「よし、じゃあ俺たちはとりあえず町に戻って休むか!」


「だね!疲れた~。早く横になりたいよ」


 レアがドロドロに汚れた服を払いながら言う。


「そうだな。今後は氾濫対策にかかりっきりになりそうだし…………おーいジャン!」


 ギルド職員と話しているジャンに声をかけた。ジャンがこっちを振り向いた。


「ジャン、今度またギルドに顔出すから今日のとこは帰っていいかー?」


「そうだね!今日はありがとう。またよろしく頼むよ!」


「はいよ!」


 レアたちに向き直って、


「そんじゃ、帰るか!」


「「「おー!」」」




 宿に戻って、すぐに寝た。やはり、ダンジョンにいると時間感覚がわからなくなってしんどいな。


 宿に着いたのは早朝だったのが、夕方になって目が覚めてみると3人ともまだ死んだように眠っていた。やっぱりかなりのハイペースだったもんな。疲れは相当たまっていたのだろう。


 これは…朝まで起きないな。寝かしといてやろう。かといって俺はここからさらに朝まで寝られるほどの猛者じゃない。暇だし、ブラブラして飯でも食うか。


 ◆◆


 外に出ると、茜色の夕陽が町を染め始めたところだった。夕方は冒険者たちが一日の仕事を終えて帰ってくる時間帯だ。そのためか、すれ違う冒険者たちは多い。

 だが、急きょダンジョンが立ち入り禁止になったために手持ち無沙汰になっている冒険者たちもいるようだ。そのような冒険者たちは、ギルドや居酒屋で飲み始めていた。


「なんか町が久しぶりな気がするな」


 けっこう知らない町を一人で探険するのが好きだ。ダンジョンにこもりっぱなしだったので久々の町歩きをぼーっと満喫していると、突然脇から飛び出してきた奴にぶつかられそうになった。


「あぶっ!」


 そいつは悪びれる様子もなく、そのまま走り去っていった。フードを目深に被っていて顔はわからなかった。


 あの野郎…………。


 悪態をつくも、すでに氾濫で頭の中はお腹一杯だ。これ以上の厄介事は抱えたくない。


「ふうっ、運が良かったな」


 そしてまた歩きだそうとすると、今の奴が飛び出してきた路地裏から、どこかで聞いた声がした。


「兄貴!本当にこんな町に隠し子なんているのかよ!あいつ、嘘言ってるんじゃねぇのか?」


 路地裏を覗き込むと、20メートルほど先でこそこそと話をする3人組が見えた。


 どっかで見たことあるような……。お、あの盗賊の時の3兄弟か。この町に来てたんだな。なんの話だ…………?


 とりあえず隠密を使ってそろりそろりと近づく。


「それはわからんが、あいつの狙いがその子供なら一筋縄ではいかんだろう。ワーグナーは町人の仲が悪いようで、あのジャンという男で繋がっている。ほぼ一枚岩だ。完全に部外者の俺らを頼るのはわかる」


 ジャン?


「だからって、情報提供だけで50万だと?」


「それが謎だ。バックにどれだけのやつがいるが知らんが、リスク部分が不明だ。関わるのはよそう」


「だな」


 どうやら話には乗らないらしい。だが、さすがに聞き捨てられない話を聞いた。


「なんだ。止めとくのか」


 俺はヒューズの耳元で声を出す。


「なっ………!」


 ゴンッ。


 ヒューズが驚いて壁に頭をぶつけた。


「あっ!てめえ!!」


「何してんだお前ら。ジャンがどうしたって?」


 何か企んでそうなのはこの町に来る前に俺らの馬車ときみまろを盗んだ3兄弟だった。


「なんでもねぇ!」


「まぁまぁ。で、無事に盗賊からは解放されたのか?」


「ああ、あんたのおかげだ!」


 小太りの三男であるモッシュが答える。


「モッシュうるせぇ!別にこいつに言うことねぇだろ!」


 何故か次男のヒューズには嫌われてるんだよな。


「いや、だってこの人のおかげだし…………」


 気の弱そうなモッシュがもじもじと言う。


「で、今度は何を企んでんだ?」


「何もない。早く去れ」


 細身のノーブルが言った。


「つれないな。飯くらい一緒に食おう。奢るぞ?」


「断る!」


 ノーブルはめちゃくちゃ嫌そうだ。だから無理やり肩を組んで言う。


「遠慮するなって、さっきの話聞かせてくれ。てか話せ」


「…………はぁ」


 ため息をついて仕方なくといった様子で了承された。今の時間帯、食堂のような場所は飲んだくれで溢れているので、少し高そうなレストランに入る。


「なんでも食えよ。出所祝いだ」


 そう言いつつ、丸テーブルにどかっと座る。


「どこまでも勝手なやつだ」


 とノーブルが言いながらも、その横でモッシュがこれでもかと注文し続けている。先に飲み物が届いたので話をする。


「で、さっきの奴は?」


「知らん。勝手に人探しを頼んできただけだ」


 人探しか……別にまずい臭いはしないな。


「誰を探すんだ?」


 ノーブルは周りをキョロキョロと見回す。


「大丈夫。聞き耳をたててる奴はいない」


 そう言うと、一息ついて答えた。


「2人いる」


 ノーブルは指を立てながら話した。


「1人はとある武器。そして、もう1人はある子どもだ。情報提供だけで武器に関しては10万コル、子どもで50万コルだとよ」


 武器?なんか特別な武器でもあるのか?それに…………


「子ども?」


 なんで子どもを探すんだ?


 ノーブルが手招きする。どうやら、顔を寄せろとのことらしい。



「探しているのは、王の…………隠し子だ」



「なっ!?」


 すると、ノーブルがすっと立ち上がった。


「おい!待てよ!」


「これで本当に借りはチャラだ。行くぞお前ら」


「あれ?まだ料理が…………」


「馬鹿!早くしろ!」


 モッシュがヒューズに怒られながらも、お店を出ていった。


「…………この町に、何があるんだ?」


 そこから考えようとすると、モッシュの頼んだ料理がどんどんと運ばれ、テーブルを埋め尽くしていく。


「あぁ、くそ」


 金だけ置いて、向かいの落ち着いた雰囲気のバーへ向かう。ここは飲食店街で飲み屋が密集している。どこか静かに考え事をしたい。



 俺が店に入ると、アンティークな雰囲気のなかステージの上ではハットを被りきれい目な格好の男が鍵盤楽器を弾いていた。この世界で見るのは初めてだ。テーブル席は3席のみで満席のようだ。と、そこでカウンターに立つマスターが声をかけてきた。かなり背が低く、カウンターに隠れて顔しか見えない。そういう種族なのだろう。


「カウンターでもいいか?」


「ああ。蜂蜜酒を頼む」


 マスターは黙って俺の席に酒を置いた。席に着く。蜂蜜酒を飲みながら考える。


 王って、王様のことだよな?その隠し子がこの町のどこかにいる?そして、それを狙っている奴が情報を集めている。まさか氾濫に乗じて何かしようとしているのか…………? そういやクーデターを企ててるマードックという伯爵、まさかその王族の隠し子を狙っていたりするのか?いや、あり得なくはない。もしそうなら、そいつよりも早く隠し子が誰か特定する必要がある…………!

 なんでこうも、いろんなことが起きるんだよ…………まったく。


「口に合わん!」


 すると、この落ち着いた大人の雰囲気の店内に男の大声が聞こえてきた。


 うるさいな。


 カウンターに座る隣の2人組の男が文句を言っているようだ。どうやら安い店がいっぱいで、仕方なくここの店で飲んでいたが口に合わずむしゃくしゃしていたらしい。


「モーガン。仕方ないだろ?高い酒はお前が飲み慣れてないだけだ。考えて飲めば遥かにうめぇぞ?」


 そう言いながら、40歳くらいのおっさんがエールを一気にあおる。渋い良い声だ。


「っかぁ!!うめぇ!」


 ダンッ!と木でできたジョッキをカウンターにおく。


「あぁ?俺にはこんな酒、泥水とかわんねぇ」


 モーガンと呼ばれた男は、嫌そうに横目で酒の入ったジョッキを見る。


「それは言いすぎだモーガン。お前だってそれなりに儲かってるなら、こういう味も知っておくべきだろ?」


「俺は俺の好きなものしか飲まん!」


 そう腕を組んで断言する。


「相変わらず硬い頭じゃのう。はっはっは!」


 そう言いつつ、片方がモーガンと呼ばれた男をなだめている。普段なら気にも止めないが、おそらくこの2人ジャンの次くらいにやる。


 この町ならほとんどトップクラスじゃないか?古株なのだろうか?俺はこの町について知らないことが多い。今は情報を得るためにも、こいつらとの繋がりは持っておいた方が良いかもしれない。声をかけてみよう。


「おっさんたち。一緒に飲まない?この町に来たところでいろいろ教えてほしいんだ」


「ああ?俺は今虫の居所が悪いんだ。帰れ若造」


 モーガンと呼ばれた男が俺のことを見もせずに断る。


「ほぉ…………お前面白そうじゃの。ええぞ」


 そして、もう一人の男は俺を値踏みするように見た。この男はもう1人の大柄な男よりも、さらに頭一つ抜けて腕が立ちそうだ。


 ガンッ!


 モーガンと呼ばれた男が突然カウンターをグーで叩く。その音で店内の音楽が止まり、しーんとなる。


「何勝手に決めてんだガラン。俺はこんな雑魚と飲むつもりはねぇ」


 男の体躯で殴られたカウンターの表面は凹んでいた。


「いや俺が見るに、こやつは雑魚とは真逆の存在のように思うが。モーガンお前はもっと相手を見た方がええ」


「はんっ、俺からしたら、どいつもこいつもゴブリンみたいなもんだ」


「はぁ?俺からすりゃゴブリンはあんただよ」


 モーガンがギロリと俺を横目で見た。


「おっさんの言う通りだ。相手を見て言えよ?」


「なんだと?小僧」


 ガタンッとモーガンと呼ばれる男が立ち上がった。


 この男、背はかなり高い。2メートル近くある。そして、全身が分厚い筋肉に包まれている。その二の腕だけで丸太みたいだ。大きめの鼻で、決してイケメンとは言えない仏頂面と灰色の短髪。今はシャツ1枚の軽装で、筋肉でパツパツになっている。巨人族だった ゴードンほどでかくはないが、パワータイプだろう。


「そんなに気に入らないならお手合わせ願おうか?」


 俺は座ったままモーガンを見上げると、挑発も込めて笑って言った。


「かっかっかっ!!」


 ガランと呼ばれた男は大口を開けて笑っている。止める気はないようだ。この男は俺の実力を見るつもりだろう。こっちの男の方が少なくとも利口だ。


「上等だ!」


 大音量がビリビリと店を震わす。そして、それを上回る大声がカウンターから聞こえた。



「表でやれい!!!!」



 小柄なマスターが激怒していた。


「「すみません」」


 マスターの剣幕に俺とモーガンはへこへこと頭を下げた。




 店の前の通りは道幅5メートルくらいでやり合うには少し狭いくらいだ。俺とモーガンはそこで向かい合う。



「決闘だーーーーーー!!」



 騒ぎに気づいた周りの店の客が、声を張り上げ煽ると、続々と他の飲み屋から人が集まりだした。


「おいおい、あのガキわかってんのか? 相手はこの町で10指に入るモーガンだぞ?」


 そんな声が聞こえてきた。やはり、有名人らしい。これは期待出来そうだ。この町の冒険者のトップの実力が分かれば今後の氾濫の想定もたてやすい。


「おい」


 モーガンはその辺の男にあごをしゃくる。


「はいよ」


 男が引きずりながら持ち出してきたのは俺と同じ大きさくらいの大剣だ。これがすべて金属でできているとは、一体何キロになるんだろう。


 モーガンは大剣を受け取ると片手で持ち上げ、肩に担いだ。


「やるな」


 思わず声に出た。それを聞いて、連れのガランがニヤニヤする。


「ははは!楽しみだな!」


 ガランは声を上げた。


 外は魔石灯があり、店の明かりと相まってそれなりに明るい。野次馬たちも増え、すでに100人を越す。俺とモーガンの試合場を作るように人垣が円を作ると、やいやいとヤジを飛ばし始めた。後ろに下がるなと背中を押される。


 うっとうしいなおい。


「俺がジャッジをする。俺はこいつの知り合いだが公平に判断することを誓おう」


 飛び交うヤジのなか、ガランが宣言する。モーガンが背負うほどの大剣を正面に構えた。戦闘体勢に入ったモーガンはさらにでかく見える。


「始まるぞ!下がれー!下がれー!」


 その声で人が離れ、さらに場を広く空けていく。


「あのモーガンと、無名の冒険者だー!」


 無名だとよ。笑えるな。


「小僧、丸腰か?」


 剣を俺に向けモーガンが聞いてきた。


「ああ。心配すんな。こっちも得意だ」


 そう言いながら、拳を構える。


 やばっ、そういや刀ないままだった…………!


「ここまで来て言い訳は聞かんぞ?」


 モーガンの目に怒りが灯った。正中に構えていた大剣をより、力が乗りやすいように振りかぶって構えなおした。



「それではーーーーっ! はじめぇっ!!」



 ガランが合図をした。


 すかさず強化された思考加速を使ってみる。賢者さん曰く、これを使えば1秒が100倍に引き伸ばされて感じることができるとのこと。


 モーガンが突っ込んでくる。あの巨体だとは思えない速度だ。そして、肩越しに振りかぶる。そして、俺めがけて降り下ろした!なかなか速い。そこで思考加速を発動する。途端に周囲の動きがゆっくりになり、少し光量が落ちたように感じる。


 観客たちは止まっているかのように見えるが、モーガンの剣はこの遅くなった俺の視界の中を明らかな速度で大気を斬り裂き、突き進んでくる。


 ほぉ…………さすがにやるな。


 俺は右手を剣の前に差し出した。そして刃を掴み、ぎゅっと力を込めて剣を受け止める。


 ぎゅううううう…………!!


 おおおお!一度こういうのやってみたかったが、思ったよりキツイ!



「なんだと…!?」



 モーガンの大剣は俺の右手の人差し指と親指で挟まれ、止まった…………。


 野次馬たちですらヤジを忘れて静まり返る。


「あの、モーガンの大剣を…………?」


 さすがにガランも予想外の結果に狼狽えた。


「おいモーガンふざけてんのかよ!」


 1人の客が言った。


 だがモーガンはふざけていない。今も顔を真っ赤にして、プルプル震えながら全力の力を大剣に込め続けている。


「お、おまえなにもんじゃい!」


 審判をしていたガランがたまらず、警戒心のこもった目で問い掛けてくる。


「ただのC級冒険者だ」


「C級だと!?」


 途端に馬鹿にするなとモーガンの眉間にシワが入る。モーガンは両手で剣を握りなおす。


「ふんっ!」


「ぐっ……!」


 やばっ!


 ビキキキッ…………!


 一気に力が増した。俺の足元の地面にヒビが入る。そして、これでもなお拮抗した。


 余裕な風にしているが、実は全力で指に力を入れていた。ステータスの差があっても常にその出力を出せるわけじゃない。デコピンよりも蹴りの方が威力が高いように、指で摘まむよりも、両手で止めた方が楽なのだ。むしろ、なんでこれを指で止めようとしたんだ俺の馬鹿。

 それ程この男は強かった。だが、これで負けたらここまで見栄を張ったのにダサすぎる。そのまま大剣ごとモーガンを俺の方へと引く。


「うおっ!」


 前に体が崩れかけた瞬間に手を離し、体をひねり腰を入れた左拳を顔面にぶちこんだ!


「ぶっ飛べ……お、らあっ!!」


 メキメキメキ…………。


 拳が顔面にめり込み、そのまま振り抜く。



「ぶほああっ!」



 モーガンは勢い良く吹き飛ぶ。野次馬たちはとっさに屈むと、その頭上をモーガンの巨体は飛び越え、さらに10メートルほど吹き飛び、街灯の明かりから出てしまったため見えなくなった。


「モーガン!」


 ガランがモーガンを追って行った。やり過ぎたか?あいつなら大丈夫そうだけど。


 野次馬たち全員がガランを目で追い、結果を待つ。


 ガランがすぐに戻ってきた。


「気絶している。モーガンの負けだ」



「「「「うおおお!!!!!!!!!」」」」



 客が盛り上がり、俺に群がってくる。


「モーガンの一撃を片手で止めやがった!! すげぇな!」


 皆に背中をバシバシと叩かれる。一気に英雄になった気分だ。


「あだだだだ」


 頭を粗めにわしゃわしゃされる。


「これ飲んでけ!」


 知らないうちに酒をたくさん手渡された。さっきの店の小柄なマスターも不機嫌そうにしながら、店の扉にもたれ掛かって小さく拍手してくれていた。



「お前、見たことない顔だね。どこから来たんだ?」


 店のテラスに腕を組んで立っていた凛とした佇まいの髪を後ろでまとめ、前に流している女性が聞いてきた。


「コルトから」


「へぇ、そうかい」


 それだけだった。この女性も腕が立ちそうだ。


「おい、モーガンは大丈夫だったか?」


 モーガンが心配になって聞いた。


「大丈夫だ」


「そうか。それは良かった。やり過ぎたかと思ったんだが」


「してお前、モーガンを煽りよったな?悪人ではなさそうだが、何が目的で、何者だ?」


 このおっさんはよく見ているし、頭もキレるようだ。


「この町にいるのはー、ジャンから氾濫が起きるから手伝ってくれと頼まれたからだ。たまたま強そうな2人がいたんでな、どれくらいの戦力か気になったんだ」


 氾濫と聞いて周りの奴らが反応する。


「おいおい馬鹿にすんな」


 気に入らなかったのか野太い声の冒険者が野次馬の中からずいっと前に出てくる。


「頼まれただと?氾濫くらい俺らは何度も経験し乗り越えてきた。第一余所者が偉そうに言うことじゃねぇ。ジャンに頼まれたなんて嘘じゃねぇのか?」


 そう剣呑な目付きで言う男。


 ごもっともだ。だが、ガランの見解は違う。考え込んでいる。


「なんならモーガンの野郎が弱くなっ…………」


 別の男が続けて言おうとすると、ガランがその発言を遮った。



「だぁあっとれぃ…………!」



 ビリビリ……。


 ガランが一喝した。一瞬で静かになり、男は萎縮してしまった。 


「ジャンから頼まれたか。ここじゃなんだ。場所を変えて飲まないか」


 ガランが誘ってきた。


「ああ、ぜひお願いしたい」


「さぁ、終わりだ!引き上げろお前ら!!」


 ガランが民衆を帰れ帰れと両手であおぐ。






 その後、ガランと2人で1本隣の通りにある居酒屋へ行った。ここは店主の趣味なのか、様々な魔物の剥製のある変わった店だ。初めて見るミノタウロスや水槽入りのスライム、店内ど真ん中にはワイバーンの頭部までもがある。剥製の独特の臭いを感じながらテーブルへ向かい合って座る。モーガンはそのまま道に放置してきた。


 適当に飲み物を頼んでから話し始める。


「面白い店じゃろ?」

 

 ガランがニッと案外人懐っこい笑顔で言った。


「ここは普段は見られない魔物が見られると町の人に人気でな?まぁ、逆に冒険者はあまりここには来ん」


 なるほどな。だから選んだか。


「確かに、面白い店だな」


 そう店内を見回しながら答えた。


 ああいう剥製は冒険者から買い取るんだろうか。もしくは店主が狩ったとか?


 そして正面のガランを見る。ガランというとモーガンほどではないが、がっしりとした体格で、戦国武将のような凛々しい顔立ちをしている。先程の周りの反応を見ても、かなりの実力者であることは間違いない。


【賢者】おおよそですが、ガランで30BP、モーガンで23BPほどでしょう。ガランは通常のBランク冒険者の頂点にいると言えます。魔力操作や加護を得なければこれ以上はありません。


 なるほどね。このおっさんすげぇな。もうAランクにいつでも上がれるレベルってことか。


「で、お前は何者じゃ?」


 ガランはジョッキの中身を飲み干して問う。


「俺はワンダーランドのユウだ。ここへはコルトの町から王都へ行く途中にたまたま寄っただけだ」


「はて、コルトの町にお前のようなやつはいたか?コルトと言えば……アイツだ。斬炎のカイルだろう?」


「ああ、カイルのパーティは解散した。もうあそこにAランクはいない」


「あの野獣のような男がか?…………何かあったのだな?」


「話せば長くなるから止めとくが、あったと言えばー、かなりあったな」


 そう、斜め上を見て思い出しながら答えた。


「ああ、アイツのとこの副長、俺が引き取ったからまた今度会わせてやるよ」


「あそこの副長と言えばフリーだったな。それは優秀な奴を引き抜いたな。……っと、マスター同じのもう一杯追加で」


 ガランが酒を飲もうとして、空になったのに気付き注文する。


 飲み過ぎだろ。と思いつつ、一気に酒を煽って俺も追加を頼む。


「まぁな、うちは優秀な奴が多いよ」


「それは羨ましい。それでお前はジャンとも知り合いなのか?」


 ほんとみんなジャンのことを知ってるな。


「ダンジョンでいろいろあってな。町の防衛を手伝うことになった。氾濫のこと、町の人たちは知ってるのか?」


「そりゃ当たり前だろう。氾濫前はいつものことだがダンジョンが封鎖された。それにギルドから案内だって出てる。明後日、氾濫のことでギルドからこの町の有力なパーティに声がかかった。もちろん、俺にもな」


「なるほど」


 ここは冒険者の町、コルトの町のような衛兵はなく、ギルドが町の治安を維持している。冒険者だけで魔物を迎え撃つのだろう。


「氾濫について、なにか知ってるのか?」


「俺から詳しいことは言えんが、今回の氾濫は簡単にはいかないようだな。いつもとは違う。心しておいた方が良い」


「いつもと違う…………?」


 ガランが顎に手を当て考えている。


「なるほど。それでジャンの様子が違ったのか…………ん?」


 ガランが偶然視線をあげると俺の後ろの方を見て、何かに気付いたようだ。


「どうした?」


 ガランが見た方を振り返ると、少女が店内の隅っこの丸テーブルに座っていた。対面に座っている相手はこちらに背を向けフードを深く被っていてわからない。ガランが気にしたあの子、10~11歳くらいか?いくらなんでも酒を飲むには早いだろ。


「あれ?」


 というかあの子じゃないか?あの俺たちがこの町に来たときに屋台の果物を盗んでたやつ。前見たときとは違い、大きめの白色ダボダボシャツを着ている華奢な少女だ。


「ウルじゃ。こんなとこで何をしとる」


 ガランが首を伸ばして覗き込む。


「ウル?」


「ああ、ジャンがギルドで面倒を見ている娘でな。ギルド職員の娘だったそうなんだが、前の反乱でそいつが死んじまいよった。今はジャンに教えてもらったおかげか10歳でBランク冒険者になった100年に1人と言われる天才だ」


「はやっ!10歳でかよ!?」


 まじで冒険者だったのか。しかも10歳とは。


 振り返って見ると、お気に入りのキャップを脱いでテーブルの上に置いている。肩に届かないくらいの緩いウェーブのかかった茶色の髪をして、どこか不機嫌そうだ。


「そうだ。というかあの相手の野郎は誰だ?」


 ガランの目付きが厳しくなる。


 ガタイからして男だろう。だが、他人だしそこまで興味が湧かない。


「心配なのか?」


「…………ふん、まあな。俺らからすりゃ娘くらいの年齢だからな」


 ガランは少し照れるように言った。


「おっさん、子どもは?」


「おっさんじゃない。ガランと呼べよ。ユウ」


 おっさんと言われてムッとする。


「わかったよガラン」


「娘が2人いる。この町にな。だから今回がどんな氾濫になろうと、俺はなんとしてもこの町を守りきるぞ?一匹たりとも町へは入れん!」


 ガランは闘志を燃やしてそう言った。


 この人は信用できそうだ。人間ができてる。気に入った。

 

 それからしばらく2人で飲んで今度またギルドで会う約束をして飲み屋を出た。



◆◆



 その飲み屋からの帰り、ガランとも別れ、時刻は深夜1時を回った頃だろうか、目の前をフラフラと歩く男が見えた。


 あれは…………。


「ジャン?」


 後ろから声をかける。フラフラと疲れたように歩くのはジャンだった。髪はボサボサ、振り返った顔にも、やつれたような表情が浮かんでいる。


「あれ?ユウじゃないか。どうしたんだこんな時間に」


 ジャンは俺を見てニコッとした。


「それはこっちのセリフだ。お前、大丈夫かよ。あれから帰って休んだのか?」


「いや、まぁやらなきゃいけないことは山積みだからね」


 あははと疲れたように笑った。


 ダンジョンから戻ってから、俺が寝て食べて飲んでる間もずっとギルドの仕事をしてたのか?


「ちょっとは休めよ馬鹿。今から家に帰るのか?」


「いや、ちょっと食べ物の買い出しにね。ギルドの皆が頑張ってくれてるんだ。僕だけ休むわけにはいかないよ」


 本当に馬鹿かこいつは。徹夜でダンジョンを脱出して帰ってきた後だっただろ?


「ジャンおまえ、氾濫の前に倒れるぞ?」


「そうはいかない。倒れてる暇なんてないからね」


 力の抜けたように笑った。


「はぁ…………」


 俺は頭をかいた。


 こういうタイプたまにいるんだよな。どこまでもお人好しで自分を犠牲にする奴。言い換えれば、人にものを頼むのが苦手な奴。


「ジャン、戻れ」


 俺は少し高圧的に言った。


「な、なんだい?」


「ギルドに戻って寝てこいって言ってんだ」


「それは…………」


 ジャンが俺の提案に驚き言いよどむ。


「いいから!買い出しくらい俺が行ってきてやる」


 ジャンの背中を押して、ギルドに帰そうとするが。


「ダメだ。これは僕の仕事だからね」


 ジャンが俺を振り払った。


「お前なぁ!」


「ほら、早く行かないと皆が待ってるんだ!」


 この頑固者…………あぁもう、実力行使だ。


「すまん」


 そう言いながらジャンの首に延髄チョップする。


 シュッ!


「うっ!?」


 ジャンがガクンと崩れ落ちるのを支える。そして背中にジャンを背負った。普段のジャンならこの程度かわしたかもしれないが、今のジャンには見えてもいなかった。


「やっぱり限界だったんじゃねぇか…………さて、ギルドへ向かいますか」



 そうしてギルドへ向かって歩き出す。そもそもこんな時間にどこに買いに行くつもりだったんだよ。

 ぶっちゃけ、食べ物は買い出しに行かなくてもダンジョン探索の食料としてまだ大量に残っている。


 ギルド前に到着したが、まだギルド内は明々と魔石灯の明かりがついているようだ。そうして、大量の屋台メシを空間魔法から取り出し、ギルドの前に積んでから扉を開ける。


「おーい、差し入れだぞー」


 ギルド内には職員が過去の資料から氾濫状況を整理したり、どこどこに援軍を頼むとか、誰のパーティの戦力はどれくらいだの、防壁をどうするだの、慌ただしく動き回っていた。誰も俺に気が付くことはない。


「おい皆!手を止めろー!」


 俺が再び言うと、俺と背負われたジャンに気がついたようだ。


「誰?…………って!ギルド長どうされたんですか!?」


 皆背負われたジャンに気付いた。


「忙しいところすまんな。ジャンは働き過ぎだ。寝かしといてやれ」


「はいっ!」


 背中からジャンを下ろすとギルド職員たちが運んで行く。


「あの、ここまで運んでいただきありがとうございました!」


 そう言って、あほ毛の目立つ女の子のギルド職員が頭を下げた。


「いいって。あとな?これ、ジャンからの差し入れだ。こんを詰めても仕方ないだろ?全員今の作業を止めてメシにするぞ!」


「いや、でも食べてる暇なんて…………!」


 そういうギルド職員たちは天パっている。俺はギルド内全員に聞こえるように声を張り上げる。


「あんな?フラフラの状態でやった仕事なんかどうせ覚えてないし、後で見直すことになるんだ。全員休憩をとって作業はそれからだ!…………わかったな!?」



「「「「「「は、はい!」」」」」」



「じゃ、俺は行くから。ジャンも目が覚めたら、飯を食わせてやってくれ」


「あ、あの、差し入れありがとうございます!!」


「おう。じゃあな」


 それだけ言って自分の宿へと向かった。こっそり窓から宿の部屋に戻ると


「ユウ、出掛けてたのかい?」


 フリーが起きていた。


「すまん。起こしてしまったか」


「いや、たまたま目が覚めてたんだよ」


 フリーにしては珍しいな。


「フリー、俺はこの町を守るぞ?」


「ははっ、何を言ってるんだい。当たり前だろう?」


 寝言のようにそう言ってフリーはまた寝た。俺も酔いが回ってかそのまま寝てしまった。



こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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