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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
48/163

第48話 ウルという冒険者

こんにちは。

いつもありがとうございます。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。

第48話になります。


 そして翌朝


「起っきろー!」


 またまたレアの声で目が覚めた。ベッドから体を起こすと珍しくフリーも起きていた。まだ外は薄暗い。


「いや……まだ日も昇りきってないだろ」


 こいつら…………自分はよく寝たから早く目が覚めただけだろう。


 ジロッと睨むも、レアは気にする様子もなく元気よく答えた。


「私らは寝過ぎたんだよ!」


 そりゃあんたらはな。


「ちょっとレア? 隣の部屋もまだ寝てるんだから静かにしなさい」


 コンコンとノックしてアリスも部屋に入ってきた。


「はわわわ、ゴメンなさい」


「おい待て、俺は昨日の夜に外出てたんだよ。お前らと一緒にすんな」


「あ、そう言えばそうだったねぇ」


 フリーはカラカラと笑っている。


「それに、お前らが寝てる間に色々あったんだよ」


「「「へ……?」」」


 そこからガランとモーガン、そして3兄弟の話を3人にした。


「そりゃまた面倒なことが起きてるのね。でもこの町の有力パーティと知り合えたのはありがたいわ」


 アリスが壁にもたれ、ふうっとため息をついた。


「まさか王様の隠し子がこんなところにいるかもなんて…………でもそんなのわからないよね? この町だって人口は多いし」


「そうだよなぁ。せめてニーナがいてくれたら楽なんだが…………」


「ははは、情報屋がいればその男もあの3兄弟になんて頼っていないはずだよ?」


「確かに。フリーの言う通りだ」


「そうね。でも伯爵派閥がその子を狙っている可能性が少なからずある以上、優先度は低くても先に見つけておきたいわね」


「そうなんだよ。でも、手掛かりが全くないんだ」


 話し合いは行き詰まり、とりあえず氾濫について聞くためにギルドへ向かった。



◆◆



 ギルドは冒険者がチラホラと集まりだした時間帯のようだ。とりあえず受付嬢のところへ向かった。


「おはようございます。お早いですねユウさん」


 カウンターでは、金髪おかっぱの女性が出迎えてくれた。


「おはよ。あれ? 俺のこと知ってるのか?」


「はい、昨日はありがとうございました。何よりギルド長から聞いております。まずは上の階へどうぞ」


「はいよ」


 レアたちには下で待っといてもらい、ギルド長室へ入る。


「やぁやぁ、昨日ぶりだね」


 中に入ると、眼鏡をかけてギルドの制服を着たジャンが出迎えてくれた。ギルド長室はゾスの部屋よりも殺風景で、机が1つだけだ。

 ほとんどここで仕事はしないのだろう。ジャンは、パッと見はダンジョンの時と変わらないが、よく見ると目の下に隈ができている。


「昨晩は差し入れありがとうね。あの時間帯でどうやってあんだけの料理を用意できたのか気になるところだけど、それはまぁ置いといて。休ませてくれて助かったよ。町のことを考えるならまずは自分の体調もだね」


「そうだな。ただ俺も手荒なまねをしてすまん。それで俺が呼ばれたのは?」


「それはもう知ってのとおりダンジョンのことだね。ダンジョンにたくさんの縦穴があったと思うんだけど、実はあれのおかげで魔物がダンジョン内を移動しやすくなっててね。氾濫の時期が早そうなんだ」


「なるほどな。いつ頃なんだ?」


「5~7日後ってところだね。もうすぐで日付が確定するよ」


 思ったより時間はないようだ。


「そうか。もう冒険者たちに依頼は出したのか?」


「まだだねぇ。でも元々氾濫が近いことは既知の事実だし、個々で準備してくれてるよ。何より冒険者たちからすりゃ、氾濫は稼ぎ時だからね」


「ああ、そりゃそうか」


「だけどダンジョンの異変について、気付いている人は少ないようだね。どっちにしても冒険者たちは全力で氾濫に向けて用意してくれてるんだ。それ以上を求めることは出来ない。だからギルドは冒険者たちが普段以上の力を発揮できるようにサポートするまでさ」


「なるほどな。で、非戦闘員の人たちの避難はどうするんだ?」


「やっても無駄だと思うよ?」


「いや、万が一がある。避難させるべきだろ」


「もちろんお触れは出すよ。だけど、ほとんどの人は残るだろうね」


「へ? なんでだ……?」


 俺が不思議そうにしていると、ジャンは笑った。


「だってね? この町の人たちにとって、冒険者は強い魔物を狩って皆を守ってくれる憧れの的なんだ。信頼が厚い。むしろ最後まで冒険者をサポートしようとする。一緒に戦ってくれようとするはずだ。この町は皆が一心同体だから」


「冒険者がか……」


 そんな風に慕われることもあるんだな。


「だから説得は難しいんだ」


「なるほどな。それなら仕方ない」


「そう、それで報酬の件だけど、ちゃんとした契約をしとかないとと思ってね。はい、これが王都のギルド長とレオンへの紹介状」


 ジャンは白色と赤色2通の封筒を取り出した。レオンは王都の裏社会を牛耳っている人だったな。


「先にもらっていいのか?」


「うん。だって君は信頼できるから。このまま逃げたりしないだろ?」


「そりゃそうだけど……簡単に信用するんだな」


「簡単に、ではないよ。君の仲間たちからの慕われ方を見てればわかるからね」


 そう言ってジャンはニコッと笑った。


「それと、はいこれ」


 そう言って、机から取り出したのは吸い込まれそうになるくらいに美しく上品で、見事に真っ白な直剣だった。


「これは決して壊れない、強い不壊の特性を持った剣でね。うちのギルドに古くからある最上級のアイテムだよ。ダンジョンで見つかったもので、名は『アイギス』。ユウは今武器がないようだから必要だと思ってね。君に貸し出そうと思う」


「いいのか……?」


 そう聞くと、ジャンはニコッと笑って頷いた。


 ジャンが鞘からシャン…………! と半ばまで刀身を抜くと、その刀身すら白かった。


 そしてジャンは言った。


「本当はあげたいんだけど、さすがにこれはギルドの宝だからね。ただ、君がボスを討ってくれたら考えるよ」


 ボスを討ったらか…………。


「とりあえず今は受け取ってくれるかい?」


「……もちろんだ」


 ジャンが両手に剣を乗せて差し出した。


「ありがとう。必ず約束は守る」


 頭を下げて剣を受け取った。


 軽くて良い剣だ。

 ボスを倒せばこの剣が手に入る……。悪くない取引だが、剣がキレイ過ぎて俺には似合わない気もする。


「で? どうなんだ気になる敵の勢力は?」


 すると、ジャンがため息を吐いた。


「はぁ、ぶっちゃけ僕たちだけじゃ無理だね。町が助かるかはユウにかかってると言ってもいい。君がこのタイミングでこの町に来たのはまさに運命だ。ここの冒険者だけじゃ、100%手に余る」


 ジャンの大事な言葉の途中で下の階から、激しい歓声が聞こえた。こんな時に何を騒いでんだ、まったく。


「それほどか?」


「うん、僕がその剣を預けた意味を理解してほしい。それだけ僕たちは今追い詰められてるんだ」


 ジャンも必死なのだろう。


「わかった。大丈夫、俺たちに任せとけ」


 ジャンはほっと安心したように表情がゆるんだ。



◆◆



 責任重大だな…………いや、責任が重すぎる。胃が痛くなりそうだ。胃薬ってあるんだろうか?


 そう思いながら、1階への階段降りていく。


「そういや、何を騒いでたんだ?」


 ま、どうせどっかの馬鹿な冒険者が喧嘩でもしてんだろ。


 階段を後数段残して上から覗くと、なぜか数名を取り囲んで冒険者たちがわいわい盛り上がっている。その中心にいるのは、レア、アリス、フリーとアニキと俺を慕ってくれるブルートだ。


「なにしてんのお前ら」


 全員がザッとこっちを向いた。そして、目を輝かせる。


 コワイコワイ。


「なになになに!?」


「こ、これは…………ユウのせいよ!」


 人混みの中のアリスがそう言ったのが聞こえた。


「いや、違うよね?」


 てか、これの中心にいるのお前らかよ!


「ユウのアニキ!! ベルガルの亜種を一方的に倒し、しまいにゃデモンドラゴンすら屠ったてのはホントですか?」


 ブルートを含めた回りの数十人が詰め寄ってきた。なるほど、誰かが調子にのって戦果をばらしたのか。それが広まってこうなったと?


 そして、フリーは顔を手のひらで押さえ、他の冒険者たちはこちらを興奮した顔で俺の返事を待っている。


「え…………まぁ、うん」


「「「うおおおお~!」」」


 キラキラした眼差しで見てきた。


 確かに一般の冒険者からすると、ドラゴンの討伐は一生の目標みたいところがあると聞いたことがある。


「ほんと、なんですね?」


 近寄ってきた背の低い女の子の冒険者が憧れのこもった瞳で聞いて来る。


 うわ、これ。また持ち上げられるの? 


 チラッとアリスたちに目を向けると、3人ともサッと目をそらした。


 ほう…………。


「うん。でもそれやったの、ほとんどこいつらだから。俺はほとんど何もしてないからな」


 そう言ってアリスたちを指差した。


「「「いっ…………?」」」


 視線が集まり、アリスは口を開いてパクパクした後、キッと俺を睨んだ。


 そんな目で見るな。


「(無理無理、お前らが撒いた種だ。自分たちで刈り取ってくれ)」


 口パクとジェスチャーでそう伝えた。


「さすがです! ユウさん以外も実力者揃いとは!」


 アリスたちはすぐに冒険者たちにのまれ、見えなくなった。


 その騒ぎに隠れて、こそっと隠密を発動。きしむ扉をそぉっと閉めてギルドを出た。


「ん~!」


 思いっきり伸びをする。


「うん、うまいこと抜け出せた」


 しばらくかかりそうだし、どこかで時間を潰そう。昨日みたいに良い出会いがあるかもしれない。



◆◆



 そうして、ギルドのある通りをフラフラと歩き始めた。


「1人は気楽で良いよな。ふわぁ……あぁ」


 少し寝不足だ。のんびりあくびをしながら、町を見てまわる。


 ワーグナーは本当に冒険者だらけの町だ。

 100%ダンジョンのおかげで発展したんだろう。おかげで治安は悪い。町のど真ん中に立って360°見渡せば必ずどこか賑やかにケンカが起きている。だが、喧嘩した後すぐに一緒に飲み出すという、妙な仲の良さがある。


 どこもかしこも賑わっている。怪我をした冒険者が仲間に背負われて走り去れば、別の冒険者が迷子の子どもを肩車してお母さんを探している。

 

 楽しい町だ。滅んでほしくない。


「さて、どこへ行こう」


 腰に差した直剣アイギスを見るとワクワクしてくるが、あくまでこれは借り物。一生使えるようは主武器がほしい。これだけ冒険者が多ければ、武器屋だってたくさんあるはず…………!


 歩いていると、武器屋ばかりが並んでいる通りに来た。『ウォーズ通り』というらしい。いかにも戦い好きしそうな名前だ。

 思い思いに武器を台の上に並べ、上には日よけに布が張られた屋根がある。そんな屋台が道沿いにこれでもかとぎゅうぎゅう詰めで並んでいた。


「ほぉほぉ、ほう……」


 これだけの武器が並んでいれば、ウィンドウショッピングだけでもかなり楽しい。

 時間を忘れて夢中で武器を吟味していると、また荒ぶった声が聞こえてきた。だがそれは可愛らしい声だった。


「はぁ!? なんでそんなにするんだ! 5万で十分だろ!!」


 またケンカかと思ってみると、ダボダボの大きめの半袖シャツに七分丈のパンツを履き、紺色のキャップを被った女の子が、眼帯をしたオッサンの胸ぐらを掴んでいる。その騒ぎに人だかりができていた。


 少女がオッサンを脅すというシュールな絵面だ。面白そうだと思ったが、胸ぐらを捕まれているオッサンの慌てっぷりは半端ない。


「……あの子、何かあるのか?」


 近づいてみると、その少女から漏れ出る圧はなかなかのものだった。実力もあるだろうが、なんというか威圧感とも違う、威厳のようなものが感じられた。


「す、すまん。だが、このナイフは十分にそれだけの価値がある。わかってくれ」


 オッサンが必死に弁明する。


「はぁああ!? このなまくらが?」


 あ、どこかで見たことあると思えば、昨日ガランと飲んだ居酒屋にいたウルって子じゃないか? ジャンが面倒見てるとかいう。合ってるよな賢者さん。


【賢者】はい。間違いありません。


 はぁ、通りでおっさんがビビるわけだ。


「な、なまくらじゃねぇ……俺は自分の取り扱う商品には絶対の自信がある! B級冒険者だからって偉そうにすんじゃねぇ!」


 店のおっさんが意地で言い返した。


「へぇ…………」


 途端に女の子の目が据わった。店主の顔がギョッと恐怖にひきつる。


 いや、まさか…………でも一般人に向ける殺気じゃないよな。


 そう思った時、気付けば俺は走り出していた。

 女の子のところまではまだ20メートルほど距離がある。女の子は左手をすっとダボシャツの下、装備している腰のナイフに持っていく。


「本気かよ……っ!」


 人混みが邪魔だ。飛び越えるか…………!


 俺のいる場所から店主までの間に、結界で空中に足場を1つ作る。そして地面を思いっきり蹴った。

 ドゴンと地面が陥没し、その音に何事だとこちらに注目が集まるが、そこにはもう俺はいない。空中に飛び上がると体を反転させ、天井に着地するように結界に逆さまに着地した。


 よし、ここからなら遮蔽物はない……!


 足場にした結界をガラスのように蹴り砕きながら人混みを飛び越える。


 パシッ…………。


 少女のナイフがオッサンの首に触れる前に、その手を掴まえることに成功した。


「なっ、何すんだてめぇ!」


 キッ! と俺を睨む少女。


「馬鹿か! もう少しでこのオッサン死ぬところだっただろうが!」


 店主は今になって首もとにナイフがあったことに驚き、腰を抜かした。


「関係ねぇだろ、邪魔すんな! 死にてぇのか!?」


「おいおい、口悪いな。ジャンはどんな教育してんだ」


 俺はジャンにぼやく。ジャンの名前にウルという少女がピクッと反応した。


「何があったにしろ、やりすぎだ。このオッサンを殺そうとしたろ?」


 俺はヘナヘナとへたりこんだままのオッサンを指差しつつ言う。


「こいつが悪いんだ! 安物を高く売りつけようとするから!」


 ウルも店のオッサンを指差して叫んだ。


「ちっ違う! そのナイフは安物なんかじゃない!」


 店主が必死に弁明する。


 俺は鑑定でちらっとウルが言うそのナイフを確認する。ランクはB、十分な業物だ。


「そうだな。オッサンの言う通り、このナイフは値段相応だ。むしろ5万じゃ安いくらいだ。オッサンの名誉のために言うが、ここは間違いなく本物を取り扱ってる店だ」


 ウルを納得させるためでもあるが、商人は信用が大事だからこんなことで評判が下がれば気の毒だ。だから見物人にも伝わるように言った。


「お前も俺を騙そうとするのか!?」


 怒りというより、むしろ憎しみに近いように俺を睨むウル。


 様子がおかしい。なんだか妙にイライラしてるように見える。


 俺を攻撃しようとしたのだろう。腕を振り払おうとするが、離さない。


「まぁ待てよ」


「ちっ!」


 もう一度、力ずくで俺の腕を振り払ったウル。


 まじか、振り払われた……! 逃がすつもりがなかったから、無理に引き抜いて結構痛かったと思うが……。


 手首を押さえたまはま、駆け出したウルは人混みに消えた。


「あ、あんた助かった! ありがとう。恩に着るよ! 命の恩人だ」


 いかついオッサンが泣きながら礼を言ってきた。


 抱きつきに来たおっさんを、思わず寄るなと距離をとる。


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で迫ってくるな。


「いや、それはいいんだが、今の子は?」


「ああ、アイツはウルって冒険者だ。戦闘の才能があってあの年でBランクだと」


「へぇ」


 それはもう知ってる。


「普段からあんな喧嘩っ早いなのか?」


「いや、俺もそんな詳しいわけじゃねぇ」


「それもそうか。ちょっと気になるから行ってくる」


「おいっ!?」


 そうして俺はオッサンの店を離れた。

 すぐ近くの路地に入ると、高位探知を発動。おそらく、さっきの姿をくらましたのは隠密スキルだ。だが、ただの隠密くらい、高位探知の敵ではない。


「どこに向かってる?」


 ウルの反応は真っ直ぐにここから離れていく。建物を気にしないこの道筋、もしや屋根の上を移動してるのか? あのノースリーブにホットパンツという超軽装、忍者みたいだ。


 ダンッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ!


 俺は路地の両サイドの壁を交互に蹴ることで、屋根の上までひと息で登った。


「いた」


 千里眼を使うと、遠くに屋根の上を駆けるウルの背中が見えた。なかなかの身のこなしだが油断している。


「俺を簡単にまけると思うなよ?」


 俺も屋根の上をウルを追って走り抜ける。


 この方向、向かってるのはもしかして、ギルドか?


 距離を空けながら追っていくと、ウルが止まった。やはりギルドだ。

近づくと2階の窓からするりと入っていくウルが見えた。


「あそこは確か…………ジャンの部屋だな」


 さらに気配を殺してギルドの屋根の上に張り付く。すると、下から声が聞こえてきた。


「なんでだ! なんで俺が参加しちゃだめなんだよ!」


 怒りと悲しみがない交ぜになったウルの声。


 参加……なんの話だ?


「だめだ。ウル、君はまだ子供だ」


「子供じゃない! 俺は…………もうBランクだ!!」


「そうである前に、君は子供だって言っているんだ。氾濫はただの冒険とはちがう。皆命を落とす覚悟で挑むんだ。ウルにはまだ参加させられない」


「死ぬ覚悟だってある!」


 ガタン!


 物の倒れる音がした。


 相手はジャンか。なるほど。幼いウルは氾濫の防衛に参加させられない。そりゃそうだ。あの年齢の子供が命をかけて戦うなんて、早すぎる。


 しばらくしてウルが窓から飛び出してきた。


「くそおっ!」


 腕で目を擦りながら、路地に降りて走り去って行った。やはりジャンの説得はダメだったようだ。またさっきみたいに怒りに任せて誰かを傷つけようとしてはかなわない。というか、少し心配になってしまった。


「後を追うか…………」



◆◆



 ウルは日光の差し込まない薄暗い路地裏をトボトボと独りで歩いていた。


「なんでだよぉ……」


 時折、愚痴のような声が聞こえる。


 ウルは路地の先にある家2軒分くらいの空き地にたどり着いた。そこではウルと同じくらいの年齢の子供たち4人が、日の当たる場所ではしゃぎ回って遊んでいる。

 ウルは空き地の隅、日陰のところに膝を抱えて座り込むと、子供らを眺めながらぼーっとしていた。


 しばらくするとウルは足の間に頭を埋めて肩をふるわせて泣き出した。


「ひぐっ、えぐっ!」


 そんな姿を陰ながら見ていると、たまらず足が動いた。


 でもなんて声をかけて良いのか…………。


 俺が近くに行くとウルが顔を上げた。


「兄ちゃんか。さっきは悪かったな。何の用だよ」


 目を真っ赤にさせながらこちらを睨んできた。


「いや、どうしたのかなってな?」


「兄ちゃんには関係ねぇ。どっかいけよ」


 ウルは俺に向け道端の石ころを俺の足元に投げると、再び顔を埋め膝を抱えた。こうして見ると、年相応の小さな子どもだ。さっき武器屋のオッサンを脅していた冒険者と同一人物には見えない。


「あの子らに交ぜてもらいたいのか?」


 そう聞くも反応はない。


「それとも、ジャンと一緒に戦いたいのか?」


 ウルはビクッと反応したが顔は上げない。


「なんだよ。盗み聞きかよ」


 その格好のまま聞いてきた。気を悪くするかと思ったが、怒ることはなかった。


「すまん。気になったもんでな」


「いいだろ別に」


 拗ねたように伏せたままそっぽを向いた。


「そうだな」


 俺はウルの横に腰を下ろした。


「寄んな変態」


 ウルがお尻をずらして俺から距離を取った。


「へ、変態?」


 地味にショックを受けるが、持ちこたえた。


「……なぁ、あいつらと一緒に遊ばないのか?」


 俺は空き地で、キャッキャと言いながらはしゃぐ子供たちを見ながら尋ねた。


「いいんだよ。俺はあいつらとは違う。今まで魔物を殺すことしかしてこなかったから……」


 その先の言葉がウルからは出てこない。


「遊びたいのに、どう接して良いかわからんと?」


「…………うるせぇ! おせっかいはいらねぇんだよ!」


 ウルは顔を上げると、真っ赤にさせた目で俺を睨んだ。


「そんなつもりじゃない。あの子らもお前と同じくらいの年齢だろ? 一緒に遊んでみたらいいじゃねえか」


「兄ちゃんまで俺がガキだって言うのか?」


「一般的にはそうだな」


「俺はガキじゃ…………ねぇよ」


「そうだな。お前はガキじゃない」


「どっちだよ……!」


「ガキだけどガキじゃねぇ。そんな歳でBランク冒険者なんかやってるからややこしいんだよ、お前は」


「俺は普通じゃ、ねぇのか?」


 ウルは前で遊ぶ子どもたちを寂しそうに見ながら言った。


「普通の子どもではないかな。お前には人を守れる力がある。できることが多いってのはいいことだ」


「…………そうかよ」


「ジャンと一緒に戦いたいのか?」


「いいだろ別に」


「俺は反対はしないな。お前は選べる立場だし、戦うのも選択肢の1つだ。年齢なんか関係ねぇよ」


「そう……だよな」


 ウルは空き地へと目を向けた。

 

 空き地では、楽しそうに子どもたちが遊んでいる。男の子に革でできたボールをぶつけられた女の子が怒ってその子を追いかけていく。あと2人の男の子も追いかける。3人ともよく笑っている。

 

「…………なぁ、どっちも選べるなら俺はあそこに混ざっても良いのか?」


「そうしたいなら良いんじゃないか? お前が選べばいい」


「…………へっ、そうか」


 ウルは顔を上げて立ち上がった。


「おい、お前ら!」


 空き地で遊んでいた子供たちは手を止めてこちらをキョトンと眺めた。


 やっぱり、本当は一緒に遊びたかったのか。


「あ、あの…………」


 ウルはその先の言葉が出ないみたいだ。


 つい、ウルの背中を押した。


「っおい!? くそっ!」


 ウルは顔を赤くしながら


「お、俺も混ざっていいか?」


 子供たちは互いに顔を合わせるが


「良いよー? そっちのお兄さんも?」


「あ、俺も?」


 ウルが振り返って懇願するように見てきた。



◆◆



 1時間ほど、俺も入って日本で言うところのケイドロや缶けりをした。


 どうやら子供たちは遊びのレパートリーが少ないらしく、俺の提案で日本にいた頃の遊びを教えてやった。これが子供たちには良くハマったようだ。

 どうやら王都にも犯罪者を取り締まる組織があるらしい。そこのトップは皆の憧れらしく、ケイドロでは全員刑事役をやりたがった。


「おい! バカヤロ! 今タッチしただろ!」


「へーん! あたってないぜ!」


「嘘つけ! クソガキめ」


「「「ぎゃーああああああ!」」」


 俺に3人まとめて捕まり、抱えられた子どもたちを見てウルは楽しそうに笑う。


「あははははははははは!」


 ウルは手の抜き方がわからず、身体能力の差から子供たちはウルにさんざん捕まっていたが本人は、今までで一番子供らしい無邪気な笑顔をしていた。


「おし、そろそろお開きだな」


「「「ええー-!?」」」


 物凄く反対されたが、あまり遅くなって親御さんに心配をかけてもだめなのでウルと一緒に子供たちと別れた。


「じゃあねー! ユウー! ウルー!」


「おーーっす!」


 俺とウルは手を振りながら子供たちと別れた。


「なっ。おまえはあいつらとも仲良く出来るんだよ」


「うん、そうだな……!」


 ウルが笑顔で答えた。だがその時、帰っていく子供たちの声を俺とウルの高いステータスが拾う。


「ケイドロって面白いよな! 俺がジャベールだ!」


「僕もジャベールやりたい!」


 後ろからまだ子供たちの興奮する声が聞こえる。ジャベールというのは王都に実在する警官の名らしい。


「でも、ウルちゃんがジャベールじゃ、俺らすぐに捕まっちゃったな」


「ウルちゃん、スゴすぎだよ。ユウはダメダメだったけどね」


 おい。


 聞こえてきた感想に俺が微妙な顔をしていると、それを見てウルはケタケタと笑った。


「でも、なんていうかあたし、ウルちゃん少し恐かった」


 ピクッとウルの表情が固くなって肩が揺れた。


「なんか必死なんだよな。全然逃げられないし、捕まらないしなー」


「もうちょっとさ…………」


「俺も…………」


「次は…………」


 何かウルに振る話題を全力で考えた。


「なぁ! そういやウルはどこに住んで……」



「ーーーーあの子がいないともっと楽しいかも」



 ちらりと顔を見ると、ウルはポロポロと泣いていた。


 ウルが遊びにも必死なのは、幼い頃から何事にもそうしなきゃ生きてこれなかったからだろう。


「…………おいウル」


「ひっ、く! ぅぇっぐ!」


 ウルは両手で目を擦りながら泣きじゃくっていた。俺は目の前に回り込み、しゃがんで目を合わせる。


「あいつらがしょうもないことを言うのはな、ウルのことを全然知らないからだ。ウルは悪くない。お前がどんな奴かわかれば、態度も変わるさ」


「もういい! あんなこと言われたら、もう一緒に遊んでもらえないもん」


 ウルはそういうのに免疫がないのだろう。特に同年代に言われるのは違う。


「うっ、うっ、うええええん!!」


 ボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「あんなやつら…………もう知らない。友達なんているもんか!!」


「ま、まぁ待てよ。友達なら俺もそうだろ?」


「違う! 俺はおっさんと違って同じくらいの年の友達がいい!」


 ウルは目をぎゅっと瞑りながら首を大きく横に振った。


「ぅぐっ」


 俺はおっさんじゃねぇ。


「な、なら、めげずにもう一度ぶつかってみろ。まずは相手のことを考えないとな?」


「相手のこと…………?」


 ウルが赤くなった目で見上げてくる。


「そうだ。あの子らは魔物を倒したことなんてないだろう。そして、ウルはあの子らよりもずっと強い冒険者だ」


「だ、だって俺は……俺は、頑張ってここまで来たんだ!」


「ああ、間違いない。でも俺が言いたいのはそういうことじゃない。ウルは火竜と一緒にケイドロができるか?」


「そんなの無理に決まってるだろ! ぶつかっただけでも大怪我だ!」


 ウルが言いながら立ち上がる。


「そういうことだ。あの子らからしたらな」


「あ…………俺が火竜か」


 ウルが下を向いた。


 お前が一生懸命に生きた結果なのに、こんなの理不尽だよな。


「なら、なら俺はどうしたら良いんだ!」


「それは自分で考えなきゃな」


「う…………!」


 ウルがまた泣きそうになる。


「た、例えば…………人付き合いで大事なことがある。その人のために何ができるかってことだ。相手のことを考えられてこそ、人は成長できるんだ」


「そ、そんなの無理だ。俺は、あの子らのことを全然知らない」


「そうだ。何も知らない。なぜなら、まずお前は自分のことを話したか?」


「あっ…………」


 ウルの気分が沈み込む。


「だから、まずは自分のことを知ってもらえ。まずはそこからだ」


「…………」


「ウル、お前の強みはなんだ?」


「俺の…………? わからねぇ」


「お前があいつらよりずっと強いってことだ。お前が間違いなくあの子らにやってあげられるのは、友達になって、守ってやることだ」


「…………確かに、そうだな」


 こうして話してみると、ウルは年相応のただボーイッシュなだけの女の子だ。


 さて、ここからが本題だ。ウルはいくら強いからって心はまだ子どもだ。


「…………なぁ、ウルは氾濫の時、ここであいつらを守ってやってくれないか? 魔物が来たら子どもたちだって不安になる。その時お前が一緒にいてやれば安心するだろう?」


「それは嫌だ」


 ウルはきっぱりと断った。


「なんでだ?」


「それじゃ、町の防衛に加われないだろ!? 俺は赤ん坊の頃、ジャンに命を救われてここまで育ててもらったんだ! だからわかる! ジャンは今回の氾濫で命を捨ててまで町を守ろうとしているのが!」


 ジャンの緊張を感じたのか。

 確かにこないだジャンが言ってた。ギルドが避難をさせようとしたところで町に残る人も多いと。ジャンならそういう人達も見捨てないだろう。


「恩返ししたいのか?」


「そうだ! やっと、やっとここまで来たんだ! ジャンを手伝えるだけの力をつけた! でも…………でもまだジャンが俺を認めてくれない…………!」


 ウルは、また悔しそうに下を向いた。


「それは、実力がどうとかよりお前がまだ子どもだからだ。多分ジャンはそう考えてる」


「子どもだからなんなんだ! 俺は役に立てる!」


 ウルは俺の服を掴み、必死に訴えてきた。


「親からすれば、そういう問題じゃねぇんだ」


「年なんて関係ねぇだろ!? 戦えるかどうかだ!」


「違う」


「ユウはさっき、どっちを選んでも良いって!」


 ウルが両手とも拳を握りしめて言った。


「俺はな? 俺は確かにどちらでも選べると思ってる。ただ、ジャンはお前の親で、お前はジャンの娘だ。ジャンはお前を大切にしてる」


 あの優しいジャンのことだ。どうあっても首を縦に振るとは考えられない。


「親には、お前の成長を見せてやるだけで十分だ。ジャンだってお前からたくさんもらってるよ。恩を返すなんて10年早い」


「そんなはずない! これ以上迷惑かけたくなくて、俺がジャンから離れて1人で暮らしだしたら、ジャンは笑ってた!」


 ジャンが…………?


「…………本当に笑ってたのか?」


「本当だ!」


 ジャンが本当に心から笑うわけがない。じゃなきゃ、ウルが氾濫に出ることを反対したりしない。


「お願いだよぉ!」


「はぁ…………」


 深いため息が出た。


 ……必死に懇願するこいつに、何もしないのは無理だ。


「俺からジャンに言ってやることはできるが……」


 もし、こいつが戦いに来るようになったら面倒を見る余裕は俺にあるだろうか……。


「それでいい! 俺はジャンの役に立つことが出来たらそれだけでいい!」


「よく考えろ。お前が戦いに参加するだけで、ジャンがどれだけ心配すると思う!」


「だって、俺だってジャンのことが心配なんだ! 悪いかよ!」


「あぁ、もう……わかったよ。でも期待するなよ?」


 ぱぁっと顔を明るくするウル。


「頼むよ!」


「はぁ…………」


 そうしてウルと別れた。


「はぁ、嫌な約束しちまったなぁ…………言うだけ言ってみるか」


こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

評価やブックマーク、感想等お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎話とも終わりの引きが素晴らしくて、気になるままに次々読めました! [一言] これからも執筆頑張ってください!
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