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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
45/160

第45話 合流

こんにちは。いつも有難うございます。

また評価していただいた方、ブックマークしていただいた方、有難うございました。

前話からあまり期間は空いていませんが、第45話になります。宜しくお願いします。


 デーモンを倒し、気の抜けた3人は疲れが出たのか、その場に尻餅をついて座り込んだ。


「お疲れ様」


 さすがに傷だらけだったので皆に回復魔法をかけてやる。アリスこそ外傷はないが、レアは腕の骨にヒビと所々に裂傷、フリーは肋骨5本に全身皮下出血、言わずもがな重傷だ。


「いやー、なんとかなったねぇ!」


 怪我が全快すると、フリーはごろんと大の字になって寝転んだ。


「でしょー?私たちなら大丈夫なんだって!」


 レアもどうだとばかりに胸を張る。


「フリーも魔力操作の感覚掴めたの?」


 アリスはチラリとフリーを見ながら聞く。


「あいつに殴られたときになんとなくだけどねぇ」


 フリーは右手をぐっぱぐっぱしながら答えた。


 おそらくフリーの魔力操作もレベルアップしている。もしかすると、魔力操作には人によると、ある程度コツのようなものがあるのかもしれない。


 また、デーモンを倒しても3人の種族レベルは上がらなかった。あれだけやってもダメなのか。もう一押しのような気もするんだがな。とりあえずその件はおいといて


「こいつの角も良い素材になりそうだ」


 にやにやしながらそう言って、踏み潰したデーモンの頭の破片の中から角を拾って空間魔法にしまった。今度またフィルに武器を作ってもらおう。


「ふぅ、もうちょっと進んだら今日は終わりにしましょ?」


 アリスが疲れたように言った。


「そうだな。寝床を探しながら進むか」


 まぁ今日は終わりと言っても、ダンジョン内だと日時の感覚がわからないので、おおよそだ。


【賢者】今は18時過ぎです。


 あれ?わかるの?


【賢者】はい、私の計算能力が向上したため可能になりました。


 まじか。いつの間に。知らない間に賢者さんも成長しているっぽいな。


 




 デーモンの部屋を出ると、次の階層へ降りる階段があった。


「ここからは21階層だな」


 カツ、カツ、と響く階段を下りていくと、この階からは洞窟の雰囲気が変わってきた。鍾乳洞に加えて、壁や地面の色が黒ずんできている。それを皆も感じたようだ。


「なんか、嫌な雰囲気になってきたわね。空気が重くなって来たというか。体が重くなってきたと言うか」


「だな。すでにAランクのボスが出たんだ。Bランクの通常モンスターが出ても不思議じゃない。こっからは俺も出るよ」


「ふぅ、それは頼もしいわね」


「フリーもせっかく感覚を掴んできたんだ。まだ行けそうなら忘れないうちに練習しとけよ?」


 あの戦いの後だ。なかなか鬼かと思ったが


「それはそのつもりだねぇ。あいつと戦って自分の力不足を痛感したよ」


 そうだろうな。でもさっきの戦いでフリーが強くなったのは確かだ。レアとアリスもよくやってた。


「それは良いことだ。レアもさすがだったな。一発の威力もあるし、応用力もある。吹っ飛ばされたとき、ちゃんと風でガードしてただろ?毎度思うが、レアは防御もうまいな」


「でも、あれじゃ防ぎきれなかったよ。私、しばらく気絶してたみたい。あいつ、予想以上の力だった」


 レアはそう言って悔しそうに下を向く。


「アリスは魔法の発動までの時間が減ってきたな。地道に魔力操作を練習してたおかげだ」


「まぁね。でもけっこう魔力を使ったから、さすがに魔力が尽きたわ」


「おう、だからそろそろ種族レベルが上がればいいんだけどな、っと来たぞ!」


 ベルガルだ。亜種ではなく普通サイズのベルガルだが、それでもBランク下位だ。上の階層であれば、ボスクラスの魔物が2体だ。すでに戦闘体制で体が燃え盛っている。それが2頭、正面から幅2メートルほどしかない狭い通路を猛スピードで走ってきていた。


「右のは僕が行くよ」


 フリーだ。そう言いながら走って先頭に出る。


「じゃああたしが左のを」


 アリスももう魔法の準備が完了したようだ。


「ゴー!」


 向かってくる左のベルガルに対して、アリスの氷魔法が放たれた。太い、ガチガチに固められた高魔力の氷の槍だ。それが、螺旋回転しながらベルガルに突撃する。



 ギュィンッ…………ガガガガガガ!!



「ギャンッ!」


 ベルガルは避けるのも叶わず、空中で槍に口から肛門までキレイに掘り進められ、一瞬で大穴が空いた。そのまま地面を滑り動かなくなる。

 そして、もう1匹がフリーの目の前まで迫った。フリーはしっかりと身体強化した上で、武器にまで魔力を纏わさせる。向かってくるベルガルの正面に立つと、ぶつかる寸前、体をひねり、ベルガルの牙を避けながら上顎と下顎の間に刀を入れ、そのまま背骨にそるように半分に斬り分けた。


「おお、さすがだね!」


 レアが2人をほめた。Bランクの魔物、もし俺がやるなら自分の魔力でベルガルを覆って動けなくしてから握り潰すのが手っ取り早いか。最近戦っていなくて感覚を忘れそうだ。


 そうして何度か魔物とやり合いながら、いい感じに広い部屋を探した。何日も洞窟のようなダンジョンに閉じ込められていれば気も滅入ってくる。そこで少しでも解放感のある部屋を探していると、俺達が落ちてきたような縦穴があった。縦穴の底の部分のようだ。部屋の広さは学校の体育館の4倍ほどで天井が闇となって見えないくらい高い。


「「「「「ゴアゴアゴアゴアッ……!」」」」」


 そしてそこは、体長2メートルくらいの巨大なパラライズフロッグの巣と化していた。こちらには気付いておらず跳ね回っている。ゲコゲコとかなり耳障りだ。


「あんなのがいるけど、ここいいんじゃない?」


 アリスも良いと思ったようだ。カエルはいるが、ところどころヒカリゴケによって地面や壁が黄緑色の蛍光色に照らされ、きれいだ。


「うん、今日はここで寝よう」


「そうだね!ここならユウのお城も建てられそうだし!」


「お城じゃねぇよ。こんな危険地帯、少しでも安全で過ごしやすい環境をと考えたら、どうしてもでかくなるんだよ。とりあえず、あいつらを掃討するぞ!」


「「「了解!」」」


 その合図で全員一斉に駆け出した。パラライズフロッグは体表と長く伸びる舌の先から麻痺毒を分泌するCランクの魔物だ。皮膚は常にぶよぶよの麻痺毒の黄色く透明な液体で覆われており、なかなか厄介な特性を持つ。


 だが、いかに数が多いからと言って、デーモンに勝ったレアたちがCランクの魔物に手こずることはない。各自群れの真ん中へと飛び込むと、毒液を避け、はたまた風で弾き、はたまた凍らせることで一滴も肌に触れることはない。そうして5分もかからずに40匹のカエル駆除に成功した。死体は町の薬屋が良い値段で買い取ってくれるらしい。


「じゃ、ユウよろしく!」


 カエルの死骸が散乱する中にフリーたちが佇んで言った。


「おう!」


 俺は土魔法を発動させ、できるだけ頑丈な、寝室、見張り用の塔、風呂込みの4階建ての中世の城を建てる。外周には高さ4メートルの城壁を作る。イメージはドラキュラ城。黒い城壁に悪魔的な雰囲気がこのダンジョンにマッチしている。

 土魔法で大質量のものを作るのに慣れてきたためか、ここのダンジョンへの道中作ったものよりも、よりディティールをこれるようになり、ちょっとした趣味になりつつある。こうして俺が作った城で順番に警戒に当たりながら睡眠をとるのがここのところの習慣になりつつある。

 

「頑丈ではあるんでしょうけど、どうなのよこの見た目」


 アリスが城を見ながら、圧迫感のある見た目につぶやいた。


「このダンジョンらしさを加えてみた。強そうだろ?」


「そんなのいらないわよ。もう少しこう、なんと言うか、庶民的なのはないの?」


「それだと防御力がなぁ」


「できるんでしょ?」


「はい、できます」


 女の子たちにはウケが悪いようだ。まぁ、あのボスベルガルの部屋の前にいたへクターたちから後は、どの冒険者にも出くわしていない。だからこんな派手な城を建てられるってのもある。


「しかし、あたしらもこんな縦穴から落ちてきたのね」


 アリスが上を見上げながら言った。


「よく死ななかったわ。ほんと誰かが無茶するから」


「別に良いだろ?その方が早かったんだし」


 アリスがまだあの時のことを怒っている。


「まぁそれを言われるとね」


 とその時、


「ん?なんだあれ?」


 何か…………真上から4つの小さな点が落ちてくるのが見える。


 それは徐々に人の形をなし…………

 




「「「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………!!!!」」」」




「なになに?」


 まったく、デジャブだ。これは人間か…………?


 千里眼で見ると、メガネのオールバックが落ちてきていた。


「お、ジャンたちだ」


「ってユウ!!何をのんきに!」


「わかってるって」


 俺は手のひらを上に向け、


「斥力!」


 ジャンたちの落下のスピードがどんどん緩まっていく…………そして重力と斥力がちょうど釣り合い、地面から少し上で静止した。俺の目の前に浮かんだ状態で。ジャンたちは地面に平行に寝そべるような形で手足を広げて浮いている。


「やぁジャン」


「や、やぁユウ。早いね。もうこんな下の階層にいるなんて」


 ジャンが浮いたまま、ずれた眼鏡を直して返事した。


「いや、俺らも別のところの縦穴に飛び込んで近道したんだよ。楽でいいよなこれ」


「いや、これトラップだったと思うんだけど…………」


 あれ?同じレベル2だから仲間を見つけたと思ったのにな。


「待って、その前に下ろしてくれない?」


「あ、悪い悪い」


 ジャンたちを地面に下ろす。


「ふぅ。ありがとう、助かったよユウ」


「いや、いいんだ」


「で、ここはいったい何階層なんだい?」


「ここは21階層だ」


「もうそんなとこかい!?ずいぶんと落ちてきたんだな…………」


 ジャンが上を眺めながら言った。


「ジャンたちはどこから?」


 アリスが尋ねた。


「僕らは10階層で落し穴を4人仲良く踏み抜いてしまってね。滑り台を滑って放り投げられたあとはこの縦穴だったんだよ」


「いやいや、お前らはここ地元のダンジョンだろ?慣れてるんじゃねぇのか?」


 フリーたちも頷いている。


「そう、そこなんだよ!」


 ジャンが声を大きくして言った。


「ん?」


 俺たち4人は首をかしげる。


「このダンジョン、僕らが知るダンジョン『悪魔の庭』とは違ってきているんだ」


「どういうこと?それは魔物や道が違うということ?」


「そう。前までこんな縦穴のトラップはまったくなかった。しかも、ヘクターたちによれば、15階層でベルガルの亜種が出たそうじゃないか。あそこはそんな上位モンスターが出るような階じゃないんだ」


 あ、途中であいつらに会ったんだな。良かった無事みたいだ。


「へぇ。道まで違うのか」


「ちなみにユウたちは何か見つけたかい?」


「ああ。20階層のボスだが…………デーモンだったぞ?」


「デーモンだって!!!?」


 眼鏡をずり落としそうになりながら、ジャンはすっとんきょうな声を上げた。


「デーモンってAランクじゃないか!予想はしてたけど……最悪のパターンだね」


 ジャンがガックリと肩を落とした。


「最悪のパターン?どういうことだ?」


「…………ダンジョンボスがすげ替わったのかもしれない」


「そんな……まさか!」


 ジャンの仲間たちがざわめく。対してこっちは全然わかっていない。


「ん?ということは、前のボスは倒されて、より強いやつに成り代わったと?」


 そういや、さっきデーモンが竜がなんたらとかって言ってたか?


「そう言うこと。まぁそれも大変なんだけど、そこまで喫緊の課題というわけではないんだ。ただ、問題は…………」


「もしかして、氾濫の時期が近いってこと?」


 フリーが答えた。


「そうだよ」


「なんで氾濫とそれが関係するの?」


 レアが首をかしげる。


「階層ボスにAランクの魔物が出たってことはだよ?ダンジョンボスは確実にそれ以上の実力を持つ。そんな奴が氾濫を起こしたとなるとどうなると思う?」


「ワーグナーはBランクのダンジョン攻略に集まった冒険者が多い。Aランクダンジョンになって氾濫が起きたとなれば、強力になった魔物に冒険者たちが対応しきれない」


「そうだよアリスさん。まさにその通りなんだ」


 ジャンが頭を抱える。


 そんなことあり得るのか?


【賢者】はい。ダンジョンコアはダンジョン内の魔物が強ければ力を増します。それがダンジョンボスなら、より顕著に反映されパワーアップします。


 まじか。


「なるほど。なかなか厄介なことになりそうだな」


「なかなかなんかじゃない。かなりだよ!」


 ジャンが頭を抱える問題は多そうだな。しかし、ここで話を続けるのはなんだな。


「お、おう。まぁここまで来るのに疲れてるだろ。話は中で聞こうじゃないか。後ろの3人もどうぞ」


「中?て、うわぁ!!??」


 振り返ったジャンが、圧迫感のある真っ黒な城壁を持ち、30メートルはある見張り台という名の塔を持った無駄に壮大な俺たちの寝床を目の当たりにした。


「な、なにこれ!?これもダンジョンの異常かい!?」


「まさかこれこそダンジョンボスの城じゃ!?」


「まさか…………!」


「一体どんな魔物が住んでやがる…………!」


 ジャンたちは俺の寝床に圧倒される。だが、疲れていたはずのジャンたちは武器を構え直し目付きが変わり、一瞬で戦闘モードになった。魔術士の男は詠唱を開始し、補助魔法を発動する。ジャンたちが透明のベールに包まれる。


「いや、あのー、ジャンさん。これは…………」


 レアが言いにくそうに言う。


「まったくこんなところで談笑してる場合じゃなかった!」


「ジャン!」


「なんだい!?」


「ジャン、これ俺が作ったんだよ」





「「「「…………は!?」」」」





◆◆



 とりあえず俺の城の門をくぐり、ジャンたちを中へと招いた。俺たちは長テーブルのあるリビングダイニングにいる。部屋の広さは30畳以上でそのへんのホテルの一室よりも広い、光魔法で光源は補っている。さすがに土魔法でソファは作れなかったので、空間魔法に入れていたソファを置いた。天井のシャンデリアもそう、天井にフックのかけられる出っ張りを作り、そこにコルトの家具屋で仕入れたシャンデリアを引っ掻けるようにしている。いつか土魔法もレベルが上がればガラスとかも作れたらいいんだが。


「これがユウが作ったものだということは理解した。でもここまでする!?」


 変な緊張感を与えてしまったのか、そう言いながらジャンたちはオドオドと部屋のあちこちを視線が行き来する。



「ああ、趣味で」



「「「「趣味かぁ………」」」」


 言いづらそうに頷くだけだった。


 城、カッコいいと思うんだけどな。よく昔はヨーロッパの城に憧れて行きたいと思っていた。作ったこの城も良いと思うが理想と違うのは、今の土魔法じゃ、防御力を上げるために土の密度を上げると、どうしても色が黒くなってしまうことだ。だから悪魔城みたいだと言われるんだろう。そこが課題だな。


 そう考えながら、魔力操作で空間魔法に保管していた食糧を皿と一緒に黒い長テーブルに配る。ふわふわと浮いて、運ばれてくる料理にジャンたちは何か言いたそうだった。


「ユウたちは毎回ダンジョンでこんな暮らしをしているのかい?」


 ジャンが注がれたスープを口にしながら聞いた。


「…………暮らしてはねぇよ」


「いやだってねぇ」


「ユウ、これは言われても仕方ないんじゃない?」


「そうか?」


「あ、そうそう。お礼をいい忘れてたね。先程は助けてくれて有難う。危うく死ぬとこだったよ」


 あははと笑うジャン。肝は座っているようだ。


「で、問題はダンジョンの異変だったか?」


 俺がそう切り出すと、皆がきちんと座り直し真剣な顔になった。うちと向こうのパーティで向かい合う席の配置だ。


「もう何か起きていることは確定なんだろ?だから今後どうするか考えた方がいい。氾濫の時期は?」


 すると首を横に振りながらジャンが答えた。


「それは…………まだわからない。本来ならまだ数週間はあるはずなんだ。ただ、今回はそれを知るためにもう少し潜ってみる必要があると思う」


 情報不足か。だが地上の方では、そろそろヘクターからの情報がギルドに伝わってる頃だろう。ギルドの方でもジャンと同じ結論に至っていれば、何か対策をうつはず。


「なるほどな。で、時期がわかったところで実際、町の冒険者で対応できそうなのか?」


「それは、正直無理だと思う。Bランクはそれなりにいるけど、やはりAランクモンスターが複数出るとなると…………」


 ジャンがうつ向いた。


「だろうな」


「そもそも…………オーランドがいなくなっただけでも今回はかなり厳しいんだ」


 ジャンの戦闘スタイルは見たところ近接戦だ。氾濫時はオーランドが遠距離攻撃でバランスをとるつもりだったんだろう。


「それにAランクに対応出来そうな人間を王都から呼ぼうにも王都だって空いてるAランクは少ないだろうし、まず王都からじゃ多分間に合わない」


「それは困ったな」


「本当だよ。身近に戦力になる人がもっといればいいんだけど」


 と言いながらジャンと目があった。


「…………ん?どした?」


「そういや君たちはデーモンを倒したのかい?」


「当たり前だろ。だからここにいるんだが?」


「君たち4人で?」


「いや、こっちの3人だけで」


 俺は右側に座る3人を指した。


「ユウ抜きでかい!?それはすごいね」


「まぁな、うちは全員優秀なんだ」


 ジャンが俺をチラリと見た。


「ん?」


「今の話とこの城を見て、思いついたんだけど、君たちにお願いがある」


「ほう?」


「この町の外側にさらに防壁をつくってほしい。これほどの城が出来たんだ。不可能ではないだろ?」


 そうだろうな。俺でもそうする。


「ああ、なるほどね。それはできる」


「それともうひとつ頼みが」


「なんだ?」


 ジャンが緊張した面持ちで言う。


「僕たちと一緒に町の防衛戦に加わってほしい」


「なるほどな」


 それは全然良い。やっぱりアラオザルのように町が滅ぼされるのは二度と見たくない。だが、完全な慈善事業となれば次へと繋がらない。ならば、


「報酬は?さすがにただと言うわけにはな」


 これは最低限必要だ。アリスも頷いている。


「町がなくなれば元も子もない。出来ることならなんでもするよ」


「わかった。どう思う?」


 隣に座っていたアリスに聞く。


「報酬次第だけど…………そうね」


 少し皆で顔を会わせて相談する。


「…………確かにな。王都でのことを考えるなら、それが良い。そうしよう」


「ジャンさん、あたしたち王都へ行く途中なんだけど、向こうのギルド長は信頼にたる人?」


 できるだけ強く、位の高い信用できる人物が王都で味方にいれば心強い。


「ん?そうだねぇ。…………ギルマスのギネスさんは信頼できるよ。どうしてそれを聞くかは…………知らない方がいいんだろう?」


「そうだな。余計なことに巻き込まれたくなければ」


 勘が良い。賢明だな。


「ふぅ、じゃあ聞かないよ。で、ギルマスにどうすればいいんだい?」


「紹介状を書いてほしいの」


「それくらいならお安いご用さ。彼とは友人だからね」


 ジャンは得意気に言った。


「あと、他に王都にいて信頼できる人物は?」


「後は…そうだね。これは他言無用でお願いしたいんだけど…………」


 ジャンが声をひそめながら確認してくる。


「わかったよ」


「うん、僕は幼い頃王都のスラムに居てね。その時お世話になったのが、王都の裏社会のボス、レオンなんだ。彼にも紹介状書いてあげるよ」


「えっ!?あのレオンと面識があるのかい!?」


 フリーが驚いた。


「誰だそいつ?」


 知らんぞ。


「ユウ知らないの!?レオンと言えば、王族の次にこの国で力を持ってるとされる人物だよ」


「はぁ!?王族の次!?」


「彼は裏社会の怪物だからね。まさに首領さ。貴族ですら頭が上がらないんだよ」


 ジャンがそんな人物と知り合いだとは、ツイてる。


「ユウ!絶対!絶対にお願いすべきだよ!」


「もちろんだ」


「もし、それでも足りないと思ったら、追加でいくらでも報酬を出す。だから…………お願いだ!!」


 ジャンがテーブルにつくほど頭を下げた。


 こんな奴だから色んな人と繋がりがあるんだろうな。ただ、まだ情報が足りない。本当に防衛可能なのか。それが知りたい。そうアリスも考えていそうだ。


「ふぅん、今町はどういう状態なの?何か準備は始めてるの?」


 アリスが冷めた目をして聞くと、ジャンは顔を上げた。


「ヘクターに言付けた僕の手紙を読んで、ギルドが動いているはずだよ。でもまだまだ情報が足りない」


「ねぇ、そう言えば氾濫は、どうやって時期と規模を確定するの?」


「それは、ダンジョン内の魔物の数や魔力の高まり度合いによるよ。でも確かなのは氾濫の場合、ダンジョンコアのある最下層で産み出された魔物が各階層に配置されることなく、ダンジョンの入り口まで魔物が通路を埋め尽くすレベルで押し寄せてくるから、その魔物の波が入り口まで達するまでの時間を逆算するんだ」


 氾濫の場合は、ダンジョンコアが産み出した魔物は自力でダンジョン内をかけ上がってくるのか。ダンジョン内に配置する魔力を魔物の生産に回すということか。


「なるほどね。そのダンジョンコアから生まれた魔物の大群を見つけ出すためにあなたは下層に潜っているってことね」


「そう言うこと。いや、アリスさんってすごく頭の回転が早いね」


 ジャンが驚いたように言った。


「まぁな、うちの参謀だ」


「誰が参謀よ……!」


 そう言うが、アリスはまんざらでもなさそうだ。


「ねぇ私は!?」


 レアは教えてほしそうに自分を指差して聞いてきた。


「レアは、癒し系ハイテンションの猫担当だ」


 レアが嬉しそうにグッと拳を握った。


「やたっ!」


 レアの喜ぶところは謎だが、耳がピコピコと動いて可愛い。


「ねぇねぇ、僕は?」


 フリーも自分を指差しながら聞いてきた。


「お前は変態だ」


「担当もつけてくれないのかい!?」


 フリーはガン!とひどくショックを受けたようだ。


「それでもし、対処しきれない規模だったならどうするんだ?」


 フリーをスルーして話をする。


「急に話に戻るねぇ!?」


「フリーうるさい」


「その時は、町を…………す、捨て、捨てるよ。町人を皆つれて王都へ逃げ込むんだ」


 ジャンは苦しそうに言った。


「あはは、めちゃくちゃ嫌そうだよ」


 レアが眉を潜めながら苦笑いをする。


「当たり前じゃないか!僕はこの町が好きなんだ!」


 ジャンがムキになってテーブルを叩く。


「お前、真っ直ぐだなぁ。良く言われないか?」


「だから皆ジャンが好きなんだろうねぇ。羨ましいよ」


 お前は女子に逃げられるほうだもんな。


「ふん、人から好かれるなんて羨ましいわね」


「アリスちゃんはもっと人を信じないとダメだよ?」


「う…………わかってるわよ」


 アリスは痛いところを突かれたのか苦い顔をした。


 たまには損得抜きで考えてもいいとは思う。


「ジャン」


「な、なんだい?」


「いや、良い奴だなって思ってよ」


 ジャンの仲間たちも皆腕を組み、目をつむって頷いている。


 だからこの人たちもジャンに着いてきたんだろうな。


「ジャン、お前あの町を守るためにどこまでするつもりなんだ?」


「命をかけるよ。だってあそこが僕らの帰る場所だから」


 ジャンはためらいもせずに答えた。


「死んでもか?」


「死ぬことなんて恐くないよ。僕が本当に恐いのは、身近な人が悲しみに泣いてる姿。だって皆そうじゃないか!? 大切な人が泣いてる姿なんて死んでも見たくない。それが死ぬよりも恐い。笑っててほしい。だから、お願いだ!僕に力を貸してくれ!」


「へぇ、こんな人いるのね…………」


 アリスが不思議な生き物を見るかのような目でジャンを眺める。


「嘘だと思うか?」


「いいえ。初めこんなのは、皆の前で良い顔するための表向きの顔なんだと、そう思ってたわ。だから、またかと思って…………」


 アリスが申し訳なさそうにする。


「それでお前、ジャンのことになるとちょっと機嫌悪かったのか」


「そ、そんなんじゃないわよ」


「レアにも見透かされてたしな」


「そうだよ?」


 レアはじーっとアリスをニコニコしながら見る。


「あぁもう!わかったわよ」


「ジャン俺らは、お前を助ける。是非、ワーグナーを守る手伝いをさせてくれ」


 レアたちもニコニコしながらジャンを見る。


「ほんとかい!? やっと…………これで希望が見えたよ!」


 ジャンの目が涙で潤んできた。だがジャンは続けた。


「でも、死ぬかもしれないよ?それでもいいのかい?」


「俺らが簡単に死ぬか。それに死んだら死んだ奴が悪い」


「ははっ、なんて自分に厳しいんだろうねユウは」


「あ?お前ほどじゃねぇよ」


「どういう意味だい?」


「わかってねぇのか」


 俺は頭をかいた。


「とにかくだ。正式にワンダーランドは町の防衛に参加させてもらう。宜しくな」


「宜しく!頼む。ワーグナーを救ってくれ!」





「「「「任せとけ!」」」」





こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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