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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
43/159

第43話 異変

こんにちは。いつも有難うございます。

また、評価していただいた方、ありがとうございました。

第43話目になります。宜しくお願いします。


 ダンジョン一階層、アリスの短刀を手に入れたところまで来た。そのはずだが、壊れた壁は元通りになっていた。相変わらず鍾乳洞のような内部のため、壁も地面も濡れていてツルツルと滑って進みにくい。


 このペースで行っててもキリがない。最深部は26階層だろう?


「もうこの辺は雑魚だらけだから、俺も参加して飛ばしてもいいか?」


「そうだねぇ。うん問題ないよ!!」


 というわけで俺も探知と空間把握を併用し、雑魚モンスターを葬りながら走っていく。本当はもっとゆっくり行きたいが、王都へ行くこともある。修行にちょうどいい感じの階層まで突っ走ることにした。


◆◆


「アリス!次はどっちだ?」


 地図は大金をはたいて20階層まで買っている。それ以上はまだ売り出されてなかった。


「えーと、右よ!」

 

 アリスが地図を見ながら答える。


「了解!」


 分かれ道を右に曲がると、真っ直ぐな通路に出た。歩き始めてすぐ異変を感じた。


「あ!天井が!」



 ゴゴゴゴゴ…………!!



 レアの声に上を見ると、ゆっくりだが天井が落ちてきている。天井の高さは3メートルほど、この通路は70メートルはありそうだ。


 走っても間に合わないか?


 そうだな…………。


「どうしよう!戻る?」


 前方のレアが振り返った。


「いや、このまま進んでくれ。ほっ!」


 右手のひらを上に向け、斥力で食い止める。


「止まっ…………た?」


 アリスが身を屈めながら、恐る恐る上を見る。


「止めてるだけだ」


「あはは、ダンジョンのトラップを力技だよ…………」


 フリーが力が抜けたように笑う。


 そんなトラップも難なく突っ切る。俺たちが走り抜けた後は死体も回収しているので何も残らない。

 そうしてジョギングくらいの速度で走り続け、直径60メートルくらいの広めの大きめの部屋に行き当たった。部屋の前で立ち止まり、覗き込んで様子を見る。



「ガルルル…………!」


「ギァア!ギャア!」


「クロロロロロロロロ」


「ギャギャギャギャ!」



 魔物達がとにかく大量にいる。大きく口を開いて互いに牽制し合うも、殺し合いに発展することなく仲良く居座っている。それに、空間を埋め尽くすほどのものすごいうなり声だ。うるさい。


「ここはなんだ?」


 全員で身を隠しながら相談する。


「ボスモンスターのいる5の倍数の階層以外には大量にモンスターが出るフロアがたまにあるらしいね」


 フリーが答えた。


「それってもう2階層目が近いってことか?」


「ええ。2階層へ降りる階段はここを抜けた先よ」


 アリスが地図とにらめっこしながら答えた。


「普通は隠れながら行くか、適当に相手をしながら一気に通り抜けるのがセオリーらしい。まぁいちいち相手をしてられない数だしねぇ」


 なるほどな。


「んー、まだ気付かれていないし、魔法で殲滅する?少し時間をかければ上級クラスの魔法でもできるし」


 そうヒカリゴケに顔を照らされながらアリスが提案した。


「そうだな。アリスいけるか?」


「もちろんよ」


 アリスが壁にもたれたまま目をつむって魔力を練り始めた。


 おお、魔力の動きも進歩してきてるな。ここまで来る途中、ずっと練習してきたもんな。


 アリスがパチッと目を開いた。


「いくわ!下がってて!」


 準備が出来たアリスは部屋に飛び込む。一斉に魔物たちの視線がアリスへと集まった。アリス両手を付き出して一気に魔力を解放した。


「いけ!」


 一瞬冷たい風が吹き抜けたかと思うと、






 パキキキィィ……………………ィィン!!!!!!!!






 視界全てがまばたきをする暇に凍った。


 モンスターたちのうなり声で埋め尽くされていたフロアは、うなり声ごと凍ってしまったかのように。一瞬で静寂に包まれた。壁は氷の結晶がいたるところからそびえ立ち、魔物たちは時を止められたかのようにその瞬間の表情のままだ。まるで凍ってしまったことにすら気付いていない。そして、氷の中で壁のヒカリゴケが密かに光ることで、幻想的な景観を作り出していた。

 モンスターを全滅させたこともそうだが、その景色に皆が心を奪われた。


「はあっ…………!」


 吐く息が白い…………。


「アリスちゃん、すごい…………」


 皆がアリスの背後に広がる氷河の中にいるような光景を見ながら思った。


「ふん、まぁまぁね」


 アリスは部屋の方を向きながら照れたように言った。


 修行の成果がでてるのが実感できたのだろう。皆、それぞれ強くなっているようだ。しかし、ここまでくると、もはやAランク中位レベルの魔法だ。アリスは広域殲滅魔法に長けている。


 アリスが振り返って言った。


「さぁ、次へ行きましょ?」



◆◆



 1階層から2階層へと降りる階段を下っていく。たどり着いた2階層も同じような感じだ。モンスターの質も変わりなく、少しトラップが増えてきたかな?くらいで、なんというか面白味にかける。この鍾乳洞って景色も見続けていると代わり映えしない。


「なんか、この辺も飽きてきたな」


「だよねぇ」


 フリーが退屈そうに相づちをうったその時、


「おお?」


 俺の空間把握が右手の壁の向こう側に縦に長い空洞を見つけた。


 なんだこりゃ?


 近寄ってコンコンと軽く殴ってみると壁が振動する。そんなに厚さはない。破れそうだ。


「ちょい、ストップ」


 前に進んでいた3人を呼び止める。


「なに?どうしたの?」


「なにか見つけたのかい?」


「この壁の向こうに下に続く縦穴がある。見てろ?ほっ!」


 そう言って、肌色の鍾乳石でできた壁をやくざキックでぶち破る。



 ドゴォンッ!!!!



 簡単に壁を突き抜けた。


「ありゃ、ほんとだねぇ」


 皆が恐る恐る穴に近づき、しゃがんで下を覗き込む。


「これ、大分下まで続いてるなぁ」


「ん?」


 縦穴の上を見上げたレアが何かに気付いた。


「ユウこれ多分本来はトラップだよ。上の一階層からずっと下に落とされる罠だったんだろうね。ほら見て?」


 確かにレアが指差す上にもずっと縦穴は続いていた。


「ふーん、なるほどな。あ、そうだ」


 そこで思い付いた。


 これを使わない手はないだろ。


「なぁ、近道しない?」


 俺は下を覗き込みながら、3人に提案した。


「近道?どういう意味っ……………………って、あなたまさか!」


 アリスが気付いた。


「こんな雑魚ばっか、飽きたし」


「うそ?やだやだ、いやよ」


 アリスが本気で嫌な顔をしながらじりじり後ずさる。


「そんな逃げなくてもいいだろ?」


 ニヤッとしてにじり寄る。


「僕もちょっと遠慮したいかなぁ…………?」


 苦笑いのフリーも含め、3人を俺の魔力でしっかりと捕まえる。


「あははは…………は?」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!許して!!!!」


 アリスが涙を貯めながら首を振った。



「無理」



 3人を掴んだまま縦穴へ飛び込んだ。底の見えない暗闇にまっ逆さまに落ちていく。






 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!






 うん、さすが洞窟よく響くな。




◆◆




 長い浮遊感だ。


 落ち続ける。


 空気が顔を叩き、耳元でビュウビュウ風を切る音が鳴る。


「ひゃっほーーーーう!!」


 声が聞こえた方を見ると、手足を広げながら落ちているレアがすごく楽しそうに笑っていた。


 レアは絶叫マシンとか、大丈夫なタイプだな。


「ねぇ!これまだなの!?」


 隣で縮こまりながらアリスが叫ぶ。


「あ、見えた!もうすぐだよ!」


 レアが指差す先にゴツゴツした地面が見えた。


「ユウ!着地頼むよ!?」


 フリーに必死に頼まれた。


「おう!そこはちゃんと考えてるって!」


 ギュンッと地面が近付いてきたので、斥力でクッションを作る。徐々に落下速度が緩やかになる。


 アリスが隣でギュッと目をつむった。


 そして、地面スレスレで停止。


「着いたぞ」


 ふわっと着地した。


 アリスもステータス的にこれくらいできると思うんだがな。もともと後衛職は固定砲台ていう固定観念が良くない。むしろ、斬り込みながら大魔法を連発できるくらいになってほしい。



 膝をガクガク震わせたアリスが壁にもたれてへたりこんだ。


「お願い。ちょ、ちょっと休ませて…………」


「ぼ、僕もいいかい?」


 2人がげっそりと死にそうな顔で言った。


「おう」


 2人が壁にもたれて休憩だ。さすがに気の毒だ。


 下へ来ると、何か体が重い気がする…………?いや、気のせいか。


「さて、ここ何階層くらいだと思う?」


 落ちてきた上を見上げながら、問いかける。


「どうだろう?思ったより長かったよね?」


 レアが同じように上を見て答える。もう落ちてきた入り口は見えない。真っ暗闇が頭上には広がっている。


「10階層くらいには来たかな?」


「いや、もっと来てるんじゃない?」


「まぁ魔物と戦ってみたら大体は分かるんじゃないかい?」


 復活したフリーが答えた。


「確かにな」


「そういえば、あの高さ、C、Bランクの冒険者とは言え、戦闘職じゃなかったら即死だよね?」


 レアが思い出したように言った。


「当たり前よ。これ、近道じゃなくてトラップなんだから!」


 ま、それもそうか。これトラップだよな。


 というかアリスが怒っている。よほど怖かったのだろう。可哀想に…………。


 周りを見回すと一ヵ所人が1人通れるくらいの横穴が続いていた。


「とりあえず進んでみるか。俺が先頭に行くよ」


 細い横穴を一列に進んでいくと、天井まで20メートルはある大きな広間に到着した。


「あれは…………?」


 そこには14、5人の冒険者が集まっているようだ。コウモリ型の魔物の死骸が散乱しているところを見ると、今しがた殲滅されたところだろう。まだ他の冒険者がいる階層で若干安心した。


 何があったんだ?


 その集まっている冒険者たちの方へ歩いていくと、向こうもこちらに気がついた。


「すまん、ちょっといいか?教えてほしいことがあるんだが」


「あ?誰だおまえら、見ない顔だな」


 長い髪を後ろで縛った20代後半くらいのしょう油顔の奴が答えた。不思議な光り方をする一本槍を持っている。おそらく魔槍だろう。なかなか使えそうだ。


「俺たちはワンダーランドってパーティだ。俺はリーダーのユウ」


「ワンダーランド?聞かない名だな。それで?」


 いぶかしげに聞き返してくる。警戒されているようだ。この男のパーティ以外の冒険者たちも無遠慮な視線を向けてくる。


「ここは何階層だ?降りてたらわからなくなっちまった」


 少しおどけた風に言う。


「おまえら、それで今までよく生きてたな」


 呆れたように言われた。


「ほんとよ」


 疲れたようなアリスの声が後ろから聞こえた。 


「まぁな、運だけは良いんだ」


「はははっ、それも実力だな。ここは15階層だ」


「おお、もうそんな階層か!?ありがとう」


 13階層分も近道できたのか。そりゃ落ちる時間も長いよな。


「やたっ!大分近道できたねっ」


 レアがガッツポーズをして素直に喜んでいる。


「レア、あなたなんてポジティブなの」


 アリスがため息をついた。


「何の話だ?」


 男が首をかしげる。


「いや、こっちの話。であんたは?」


「ああそうだ。悪い遅れた。おれはへクター、Cランクだ。こいつら2人とパーティを組んでる」


 そう言いつつヘクターが後ろを親指でくいっと指差した。仲間達が適当に相づちをしてきた。


「へーい」


「おいっす!」


 1人は魔法使い、もう1人は大きなタワーシールドを持った大剣使いだ。ヘクター自身も話しやすそうなやつでよかった。


「それで?なんでこんなとこに大勢固まってるんだ?」


 集まっていた理由を聞いてみる。


「ああ、それがな。15階層のボスはCクラスのガーゴイルだったはずなんだが…………」


「が?」


「あれを見てみろ」


 へクターが指差す先、隣のフロアへつながる通路だ。そこを覗き込むと、半径60メートルくらいの部屋の中、全身が燃えている体高3メートルほどの黒い毛色の犬型の魔物がいた。


 見つからないよう、そそくさと元いた部屋へ戻る。


「でかいな」


「あいつはベルガルというBランクの魔物だ。とてもじゃないが、こんな層ででる魔物じゃない」


「へぇ?」


 要はいつもと違うボスが強くて進めないってことか。


「でもこんだけ人数がいたら倒せるんじゃないかい?」


 そう。ここには他パーティも含め15人はいる。不可能ではないはずだ。


「俺も最初はそう思ったんだが……ベルガルという魔物は本来1.5メートルくらいなんだ。でもあいつはその2倍はある。間違いなくベルガル亜種だ。実力的にはBランクでも上位だろう。ここにいる全員でかかっても、おそらく勝てない」


 ふぅん。とりあえず倒せばいいんだろう?


「なぁ、俺たちはダンジョンについては素人なんだ。あの魔物自体は倒しても問題はないのか?」


「あ、ああ問題ないが、それができないから困ってるって言っただろ?」 


 へクターが呆れたように言った。


「そうだったな。おい話は聞いてたか?ちょうどいい相手だ。行くぞ!」


 後ろを振り返り、合図する。


「はいよ~」


「まぁあたしたちがやるしかないでしょうね」


「はいはい」


 レアを先頭にスタスタと歩き始める。


「お、おいっ!お前ら、話聞いてたのか!?あいつはBランク上位だ!Aランクパーティくらいじゃないと殺されるだけだ!」


 へクターが心配して呼び止めに後ろから俺の肩を掴んだ。


「いいから、見てろって」


 振り返って笑いながらそう言った。


「お前ら…………わかった。勝手にしろ」


 他の冒険者たちをおいてボス部屋への通路をくぐる。


「じゃ、今回はあたしたちだけでいくわよ?」


 意気揚々と元気を取り戻したアリスが言った。


「ああ。もともとこのレベルのやつを待ってたんだしな」


「ええ。そしたらレア、フリー作戦はどうする?」


「そうだねぇ。見た感じ属性は火、犬型の魔物だから素早いだろうね。あとはあの大きさだし、噛まれたら不味いね。顎と爪にも気を付けよう」


「そうね。なら相性はいいし、私が隙をみて氷魔法を打ち込むわ」


「じゃあ、私が近接戦で削っていくから、アリスちゃんは魔法で遠距離攻撃、フリーさんはアリスちゃんを守りながらできたら遊撃って感じかな」


「はいよー」


「そうね。先手はあたしがやるわ」


「「了解」」


 アリスが目を閉じ集中して魔力を高めていく。アリスは魔力操作のおかげで詠唱は必要なくなってきたみたいだが、必要魔力を用意するのにまだ時間がかかるようだ。


 そういや、アリスの魔法って火竜にすら通じたんだよな。これ下手すりゃ1発で終わるんじゃね?


「いくわ」


 その声でアリスを先頭に3人がなだれ込む。アリスが先頭に立ちベルガルに近付くと、魔法を放とうとする。だが、


 前足を伸ばした体制で寝ているように見えるが、ガルベルは耳がピクピク動いている。


 あれは、俺たちに気付いてるな。あ、起き上がった。



「ガアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」



 ベルガルはアゴを90度くらいまで開いて、鼓膜を破ろうかというくらいの音量で吠えた。ビリビリと洞窟が振動するほど、すさまじい大声だ。


「ううっ」


 一番近くで聞いたアリスが頭を抑えて動けなくなった。


 あれじゃ、集中力が乱されて魔法が撃てないだろう。魔法は不発。レアも獣人で耳が良い分辛そうだ。動けるのは反射的に耳を塞いだフリーか。


 完全に出鼻をくじかれたアリスたちに、ベルガルは襲い掛かった。その巨体からは想像できない速度で走って来る。


「アリス!」


 ベルガルが先頭のアリスに飛び掛かる。フリーが走るが間に合わない!


 ベルガルはジャンプすると、その巨体でアリスを押し倒し噛みつこうとする。だがアリスたちを格下と思ったのか、分かりやすいテレフォンパンチだ。あれなら避けられるはずだ。


「なめないで」


 下を向いて耳を押さえていたアリスが、前に垂れた黒髪の隙間から鋭い目でベルガルを睨んだ。


 アリスはすっ……と無駄のない動きで横に一歩ずれ、ベルガルの射線からはずれると、こないだ見つけた短剣コールドエッジを抜いた。そして、魔力を込めて2メートルほどにまで刀身を伸ばす。


 そして、下から鋭くコールドエッジを振り上げた。


「せっ!」


 アリスがいた場所に空振りで着地したベルガルの横っ腹に刃を食い込ませる。


「ぐっ…………!」


 さすがにアリスの筋力では振り抜くことはできなかったようだ。浅いが長い斬り傷をベルガルは腹に負った。腹の傷はパキパキと凍り付き始める。


「キャンッ!」


 予想外の反撃にベルガルは部屋内を縦横無尽に跳びはね、痛がる。


 アリスの剣術は初めて見たけどスマートで無駄がない。だてにソロ冒険者をやってただけはある。


「しっっ!」


 そこへフリーがベルガルに向け10メートル以上離れた位置から鋭く刀を振り下ろし飛ぶ斬撃を放った。

 速度もあり、地面に深い斬り傷を残しながら進む斬擊を、ベルガルは動物的勘なのか咄嗟に後ろに飛び退くことでかわした。だが、右足の爪を指ごと切り落としたようだ。


「ギャン!?」


 ポタタタッ。

  

 足から血が滴る。これで、ベルガルは踏み込んで動きにくくなった。どうやってるかわからないが、普通に斬擊をとばせるフリーもどうかしてる。


 すると、これがベルガルの怒りに火をつけたのか、全身に火が燃え盛った!!



 ゴォウッッ!!



 ガルベルは全身を炎に覆われ、元々の黒色の毛色が見えている箇所はない。汗がにじむ。入り口近くで見ている俺ですらこれだ。あいつらはこんなレベルではないだろう。近くにいるだけで


 そう思っていると、アリスがまた魔力高めた。それも、どんどんと高めていく……。


 何をする気だ?


 すると、徐々に魔力を解放した。アリスの魔力が部屋を満たしていく。アリスの魔力が俺のところまで流れ、顔に触れた。


「冷たっ」


 ああ、なるほど。


 アリスは氷属性の魔力でこの部屋を満たし、部屋の温度を下げるつもりのようだ。そんな使い方できるのか。器用だな。


 おかげでレアとフリーの動きが良くなった。調子を取り戻したレアが風を纏い、今度こそ予定通りのフォーメーションで立ち向かった。やはり、ベルガルの速度はかなりのものだ。獣らしいバネのある動きで炎を引き連れながら部屋の中を縦横無尽に動き回る。


 だが、風を纏ったレアは涼しい顔でピタリとついていた。


「レアすげぇ!」


 実際、ベルガルはフリーとアリスにやられた傷で速度が落ちているとはいえ、移動するために足に溜めを作った瞬間レアはそれを読み、ほぼ同じタイミングで動き出している。しかも、アリスの氷の魔力と自身の風でレアの肌を撫でるような、ほぼゼロ距離のベルガルの炎を完全に無効化している。


 そして、レアが攻撃に移った。ガルベルが着地した瞬間を狙い、剣を体に向け左側面から振るう。だが、ベルガルも炎を一気に吹き出し、剣を押し返そうとする。


「くっ!」


 レアの剣はベルガルに届くも致命傷とはならない。悔しそうにするレア。それでも繰り返すことで、レアの攻撃は確実にベルガルに傷をつけていく。だが、ベルガルもまだ速度が落ちないため、大技は当たらない。


 そんな中、フリーはアリスを守りながら突きの斬擊をまるで銃弾のごとく飛ばしている。あの速度で動いているレアに、邪魔をしないようにベルガルに当てるフリーも神業だ。よく見えている。

 アリスは俺のバレットを真似て、氷のバレットで攻撃している。当たった箇所は凍り付くというおまけ付きだ。今はレアの援護に専念している。


 3人のレベルの戦闘技術の高さとコンビネーションにベルガルはこのままでは不味いと思ったのか、前足に炎を纏い、がむしゃらにレアを殴りつけようとする。


「ガアッ!」


 だが、殴り付けるために持ち上げようとした足をレアが瞬間的に超人的な反射速度で反応し、斬り裂く。今度は後ろに退いて距離をとろうと、後ろ足に溜めを作った瞬間、その足を斬られ体勢を崩される。


 レアのあれ、どうなってんだ?


 それほど速度と動体視力に余裕があるのだろう。ベルガル程度にはとらえられるわけがない。

 ベルガルは初動を全て押さえられ、一歩も動くことができない。足を動かす前に斬られ、文字通り何もできない。


 もはやフリーとアリスの出番はなく、2人とも俺と一緒に傍観していた。


「レアちゃん半端ないねぇ。あんなことできるのレアちゃんくらいだよ。あれでまだCランクだって言うんだから、ギルドもランク制度見直した方がいいんじゃないかい」


「ほんとね」


 あれは、『風の加護』の影響もあるのだろうか。わからないが、この時、レアの速度と反応スピードは俺に匹敵していた。


 一歩も動けず、口から火炎を吐き出そうとするが、その口を下から鋭くレアに長い脚で蹴りあげられ、口内が暴発!



 ドパァン!!



「グ……ガガ」


 口から黒い煙をモクモクと吐く。もはやベルガルの体の炎は消えかかっている。


「レアとどめだ!!」


「おーけー!」


 もはや動けないベルガルに対し、濃密な渦巻く風を纏った剣を降り下ろす!



 スパンッ…………!!



 ベルガルは首を斬り落とされ、


 ズンッ…………!! 


 首を失った胴体は横に倒れた。


「やったー!!」


 レアは嬉しさのあまりジャンプした。


 なんだったんだ? レアのあれ…………。


 レアのそばへと駆け寄る。


「怪我はないか?」


「うん、大丈夫だよ!」


「レア、あなた、あんな芸当ができたなんて、天才っているのね」


「ああ、あんなやり方、僕にもできないねぇ」


「そうかな??できそうだなと思って、やってみたらできたの」


「「「あははは」」」


 皆が乾いた笑いをした。


「どうだった?これくらいの相手の方が練習になるだろ?」


「うん。初めはまんまとやられたけどね」


「まぁ、対応できたしな。次同じ手をくわなけりゃいいさ」


「ええ」



◆◆



 そうして、入り口近くであんぐり口を開けながら戦闘を見ていたへクターのところへ戻った。


「お前ら何者だ?Aランク冒険者か!?」


「違う違う」


 このやり取りにも飽きた。


「お前ら、この後どうするんだ?」


「俺らは…………この先進むのはちと恐ええな。今のより強力な魔物が出たら間違いなく死んじまう」


 そう言ってヘクターたちは仲間と顔を見合わせる。


「そうか、もし戻るなら一度ギルドへ行ってこのことを報告しといてくれないか?」


 これこそジャンが欲しがってたダンジョンについての情報だろう。ギルドにだけでも先に伝えておきたい。


「そうだな。この町に関わることだ。責任もって伝えておこう。あんたらは?」


「俺らはジャンにダンジョンの調査を頼まれていてな。俺らはもう少し先まで進んでみる」


「そうか、まぁあんたらなら大丈夫だと思うが」


「ああ、ジャンも来てるらしいからな。どこかで合うかもしれんし」


「あ?ジャンも来てるのか?あいつまた潜りやがって…………たまには休んだ方がいいんじゃねぇか」


 ヘクターが心配そうに腕を組みながら聞いてきた。


「そんなにか?」


「あいつは大真面目で常に町のために働いてる。真面目すぎだ。たまには休まなきゃ、人間に休みは必要だ」


 日本人みたいな人なんだな。ジャンって。なんだか親近感が沸く。


「わかった。ここで会ったら無理をしてるようなら、一発気絶させて眠らせるよ」


「ははっ。是非そうしてやれ。じゃ気を付けてな」


「おう、あんたらもな」


 そこでへクターたちと別れ、俺達はベルガルを倒した部屋に戻ってきた。


「へぇ、あなたがあの人のことを気にかけるなんてね。そんなに気に入ったの?」


「いや?まぁそういやそうかな。頑張ってる人は助けてやりたいだろ?」


「ふぅ~ん」


 アリスがぼーっと自分の足の爪先を見ながら歩き出した。


「よし、こいつはとりあえず俺が持っとくぞ?」


「だね。頼むよ」


 ベルガルを空間魔法へ収納する。


「そしたらこの先は魔物を狩りまくるか!」


「やー!」


 レアが元気よく返事した。






 16階層に降り、どんどんと出会う魔物は片っ端から仕留めていった。さすがにこれくらいの階層にもなると、普通にランクCの魔物が出てくる。それでも3人は大きな怪我を負うこともなく、次々と魔物を狩る。


 俺はかすり傷程度なら、後ろから回復魔法を様子を見ながらかけていった。と言ってもダンジョンの気質か、なんだかんだ後ろから忍びよってくるセコい魔物も多く、俺も同じくらいの数を倒している。俺の場合Bランク程度の魔物は瞬殺だが。

 影に潜み、奇襲をかけてくるシャドーリザードや様々な下級魔法を飛ばしてくるレッサーデーモン。三半規管にダメージを与えてくるパルスバット。剣に取り付いたソードデーモンなるものもいた。剣ごとフリーが斬ってしまったので強かったのかわからない。

 また壁に擬態している黄土色のヘドロのような魔物もいた。皆の探知に反応はなかったようだが、俺の高位探知にはバリバリ反応したのでそっこう燃やした。なんだか良い素材になりそうだったので回収しておいた。


 魔物の中でもレッサーデーモンは知能が高く、状況に応じて魔法を使い分け、時には俺達が他の魔物と闘っている最中に攻撃を仕掛けてくる。非常にやりにくい相手だった。ただまぁ所詮下級魔法しか使えないので、まともに俺らとやりあえば力の差で瞬殺だった。



◆◆



 そうして8日が経過した。


 

 現在20階層ボスの部屋前。



 部屋と言っても洞窟なので扉はない。ボスの部屋を覗き込むと、人間の背たけくらいのキレイな立方体の大理石に腰掛け、足を開いてひじをつきながら堂々と眠っているデーモンの姿が見えた。その座り姿ですら貫禄が出ている。筋骨隆々だが引き締まり、スラッとしている。そして手足が長い。手を広げると4メートル、立ち上がったら3メートルくらいありそうだ。黒と灰色の間くらいの肌の色に、首から上は人間の骸骨。頭からはねじれながら真っ直ぐに伸びる2本の角がある。背中にはゆらゆらと漂う黒く濃厚なオーラが見え、一蹴りで大穴を穿ちそうなパワーが窺える。


「ね、ねぇあれは確実にAランクよ?ここが本当にBランクダンジョンならダンジョンボスクラスなのは間違いないわ」


 その堂々たる姿にアリスは腰が引けてしまっている。アリスはソロの経験が長いため、自分1人の力で確実に勝てる相手としか戦って来ない。格上を見慣れていないのだろう。


「だねぇ。さっきまでのレッサーデーモンと同じだと思ってたら痛い目を見るどころか、死ぬよ?」


 フリーも真剣な目でデーモンを観察している。フリーはこないだのバケモノに惨敗したのが悔しかったようだ。


 3人があのデーモンにはすぐには踏み出せずにいる。だから、煽る意味も込めて聞いてみた。


「じゃあ……俺がやってやろうか?」


 ピクッと反応した。


「待ってユウ。それはない」


 フリーがすぐにはっきり答えた。最近わかるようになったが、この感じ、ニコニコと言ってるがフリーは多分怒ってる。


「そうだよ。何事も冒険しなきゃ上にはいないんだよ?」


「自分でやるに決まってるでしょ?」


 さらにレアとアリスがムッとして言った。


「ならよし。やっぱり実践の中が一番成長するもんだ。ポイントは魔力操作だな」


「うーん、魔力操作はまだ完全に自分のものには出来てないんだよね」


 こないだスライムと戦った時はできてたがな?フリーはまだ満足いかないのだろう。


「ならまずは作戦を考えましょ。ユウも参加してよね」


「おう」


 4人でしゃがんで輪になる。首を上げると、皆の顔がよく見えた。


「まずはデーモンの実力ね。まずレッサーデーモンの上位種族と考えると、中級~上級くらいの魔法は少なくとも使ってきそうよ」


「だね。レッサーデーモンは爪と下級魔法くらいしか攻撃がなかったけど、あいつも見たところ武器は持ってなさそうだった。あの長い手足だと体術を使ってくる可能性もありそうだよ」


「確かに、あと気を付けるべきと言えば…………デーモンだし、レッサーデーモンを召喚するくらいはやってのけるかもしれないねぇ」


「ああ、なるほどな」


「まったく初めての相手ってのはやりにくいわね。何をやってくるかわからないし」


「それじゃ、初めは遠距離から様子を見ながら、レア、フリーはデーモンの攻撃を避け、アリスは二人が避けられないと判断した攻撃を防ぐ。大体の力がわかったら、攻めに転じよう。それくらい慎重でもいいんじゃないか?」


「そうね。攻めるときはどうする?」


「私!私、行きたい!」


 レアが元気良く手を上げた。


「僕も行くよ。レアちゃんばかりに良いところはさせられないねぇ」


 最近、フリーの活躍が見れてないしな。


「ここぞって時はあたしに譲ってよね?」


「それって結局全員突撃ってことじゃね?」


 すると、全員俺を振り返って声を揃えて言った。





「「「そう!」」」





 それでいいのか…………。


こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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