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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
43/161

第43話 異変

こんにちは。いつも有難うございます。

また、評価していただいた方、ありがとうございました。

第43話目になります。宜しくお願いします。


 ダンジョン1階層、アリスの短刀を手に入れたところまで再び到着した……そのはずだが、壊れた壁は元通りになっている。これがダンジョンというものなのだろう。


「なぁ、もうこの辺は雑魚だけだろ? ちょっととばすか?」


 そう、ここまで来るのに1時間以上かかっている。このペースで行ってても最深部の26階層まではまだまだだ。それに、俺たちの本来の目的は王都だ。


「うん、ちょっと退屈だよねぇ」


「問題ないよ!!」


 というわけで俺も探知と空間把握を併用し、修行にちょうどいい感じの階層まで突っ走ることにした。


◆◆


「アリス! 次はどっちだ?」


 地図は大金をはたいて20階層まで買っている。それ以上はまだ売り出されてなかった。


「えーと、右よ!」

 

 アリスが地図を見ながら答える。


「了解!」


 分かれ道を右に曲がり、真っ直ぐな通路に出ると、歩き始めてすぐ異変を感じた。


「あっ! 天井が!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。



 レアの声に上を見ると、ゆっくりだが天井が下降してきている。天井までの高さは3メートルほど、通路は向こう側まで70メートルはありそうだ。


「どうしよう!? 戻る?」


 前方のレアが進むかどうか迷って振り返った。


「いや、このまま進んでくれ」


 右手のひらを上に向け、斥力で天井を押し返す。


 さすがはダンジョンのトラップだ。結構重い。だけど…………っ!


「止まっ…………た?」


 アリスが身を屈めながら、恐る恐る上を見て、そして俺を見た。


「止めてるだけだから、早く行ってくれ」


「嘘でしょ……?」


「あはは、ダンジョンのトラップって止められるんだねぇ…………」


 フリーが笑った。


 そんなこんなでトラップも力業で突っ切ると、直径60メートルくらいの広い部屋に行き当たった。部屋の前で立ち止まり、覗き込んで様子を見る。



「ガルルル…………!」


「ギァア!ギャア!」


「クロロロロロロロロ」


「ギャギャギャギャ!」



 魔物達がわんさかと大量にいる。空間を埋め尽くすほどのものすごいうなり声だ。奴らは大きく口を開いて互いに牽制し合っているが、殺し合いに発展することなくただ居座っている。


「ここはなんなんだ?」


 全員で身を隠しながら相談する。


「ボスモンスターのいる5の倍数の階層以外には、大量にモンスターが出るフロアがたまにあるらしいよ。それじゃないかい?」


 フリーが答えた。


「それってもう2階層目が近いってことか?」


「ええ。2階層へ降りる階段はこの先ね」


 アリスが地図とにらめっこしながら答えた。


「確か……ここは隠れて進むか、適当に相手をしながらスピード重視で一気に通り抜けるのがセオリーだって。まぁ相手してられない数だしねぇ」


「んー、でもまだ気付かれていないし、魔法で殲滅するのはどうかしら? 試したい魔法もあるの」


 そうヒカリゴケに顔を照らされながらアリスが提案した。


「アリス、いけるのか? まぁ、仮に失敗したとしても俺がなんとかしよう」


「失敗しないわよ。見てて」


 すると、アリスが壁にもたれたまま目をつむって魔力を練り始めた。


 魔力の動きも進歩していた。この町までの道中も、ずっと練習してきたのを知っている。


 アリスがパチッと目を開いた。


「いくわ! 下がってて!」


 準備が出来たアリスは部屋に飛び込む。一斉に魔物たちの視線がアリスへと集まった。アリス両手を付き出して一気に魔力を解放した。


「いけぇ…………!」


 一瞬冷たい風が吹き抜けたかと思うと、






 パキキキィィ……………………ィィン!!!!!!!!






 視界全てがまばたきをする瞬間に凍った。


 魔物たちのうなり声で埋め尽くされていたフロアは、その声ごと凍ってしまったかのように一瞬で静寂に包まれた。

 氷の結晶が壁の至るところからそびえ立ち、魔物たちはその瞬間の自然な表情のままで、凍ってしまったことにまだ気付いていないかのようだ。

 氷の中では壁のヒカリゴケがまだ密かに光っているので、発光する氷となって幻想的な景観を作り出していた。


「はぁぁ…………!」


 吐く息が白い…………。


「アリスちゃん、すごい…………」


 皆がアリスの背後に広がる氷河の中にいるような光景を見ながら思った。


「ふん、まぁまぁね」


 アリスは部屋の方を向きながら照れたように言った。


 皆、それぞれ強くなっているとは思ったが、アリスが使ったのはAランク中位レベルの魔法になるだろう。


 そしてアリスが振り返って言った。


「さぁ、次へ行きましょ?」



◆◆



 2階層への階段を下りたが、ここも同じような感じだ。魔物の質も変わりなく、少しトラップが増えたかなというくらいだった。


「なんか、この辺も飽きてきたな」


「だよねぇ」


 フリーが退屈そうに相づちをうったその時、


「お…………!」


 空間把握が、右手の壁の向こう側に縦に長い空洞を見つけた。


 なんだこりゃ?


 近寄ってコンコンと軽く殴ってみると壁が振動する。そんなに厚さはない。簡単に破れそうだ。


「なぁちょっと」


 前に進んでいた3人を呼び止める。


「なに? どうしたの?」


「何か見つけたのかい?」


「この壁の向こうに縦穴があるぞ……ほら!」


 そう言って、肌色の鍾乳石でできた壁をやくざキックしてみた。



 ドゴォンッ!!!!



 簡単に壁を突き抜けた。縦穴を落ちていった瓦礫の地面との衝突音がなかなかしない。


「ありゃ、ほんとだねぇ」


 皆が恐る恐る穴に近づき、しゃがんで下を覗き込む。


「これ、大分下まで続いてるなぁ」


「ん?」


 縦穴の上を見上げたレアが何かに気付いた。


「ユウ、これ本来はトラップだったんだよ。上の1階層からずっと下に落とされる罠だったんだろうね。ほら見て?」


 確かにレアが指差す上にも縦穴は続いていた。


「なるほど。低ランク冒険者にはキツいトラップだな」


「こんなの、普通に死ぬわよ」


「……というか、これ逆に使えそうだな。なぁ、近道しないか?」


 俺は下を覗き込みながら、3人に提案した。


「近道? どういう意味っ……………………って、あなたまさか!」


 アリスが感づいた。


「弱い魔物ばかりだと効率がな」


「うそ? やだやだ、いやよ。ゆっくりダンジョンに慣らしていきましょうよ」


 アリスが本気で嫌な顔をしながらじりじり後ずさる。


「そんな逃げなくてもいいだろ?」


 ニヤッとしてにじり寄る。


「僕もちょっと遠慮したいかなぁ…………?」


 苦笑いのフリーも含め、3人を俺の魔力でしっかりと捕まえる。


「あははは…………は?」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 許して!!!!」


 アリスが涙を貯めながら首を振った。


「ちょっと無理だなー」


 3人を掴んだまま縦穴へ飛び込んだ。底の見えない暗闇にまっ逆さまに落ちていく。






「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」






 洞窟は声がよく響くなぁ。




◆◆




 長い浮遊感。


 落ち続ける。


 空気が顔を叩き、耳元でビュウビュウ風を切る音が鳴る。


「やほーーーー!!」


 声が聞こえた方を見ると、手足を広げながら落ちているレアがすごく楽しそうな表情をしていた。さすがは獣人。


「ね、ねぇ! これまだなの!?」


 隣で縮こまりながらアリスが叫ぶ。


「そんなこと言われても俺も知らん」


「ちょっと!?」


 マジギレしたアリスを遮るようにレアが叫んだ。


「あ、見えた! もうすぐだよ!」


 レアが指差す先にゴツゴツした地面が見えた。


「ユウ! 着地頼むよ!?」


 フリーに懇願された。


「おう」


 ギュンッと地面が近付いてきたので、斥力でクッションを作る。徐々に落下速度が緩やかになる。


 そして地面スレスレで停止し、ふわっと着地した。


「さぁ、着いたぞ」


 膝をガクガク震わせたアリスが壁にもたれてへたりこんだ。


「お願い。ちょ、ちょっと休ませて…………」


「ぼ、僕もいいかい?」


 2人がげっそりと死にそうな顔で言った。

 2人が壁にもたれて休憩しているのを見ると、さすがにちょっと悪い気がしてきた。しかし、下へ来ると、何か体が重い気がする…………いや、気のせいか?


「なぁ、ここ何階層くらいだと思う?」


 落ちてきた縦穴の上を見上げながら問いかける。


「どうだろう? 思ったより長かったよね?」


 レアが同じように上を見て答える。もう落ちてきた入り口は見えない。真っ暗闇が頭上には広がっている。


「10階層くらいには来たかな?」


「いや、もっと来てるんじゃない?」


「まぁ魔物と戦ってみたら大体分かるんじゃないかい?」


 復活したフリーが答えた。


「確かにな」


 周りを見渡すと、人が1人通れるくらいの横穴が1ヶ所空いていた。


「とりあえず進んでみるか。俺が先頭に行くよ」


 細い横穴を1列に進んでいくと、天井まで20メートルはある大きな広間に到着した。


「あれは…………?」


 そこには14、5人の冒険者が集まっているようだ。

 コウモリ型の魔物の死骸が散乱しているところを見ると、今しがた殲滅されたところだろう。まだ他の冒険者たちがいる階層のようだ。


 何があったんだ?


 集まっている冒険者たちの元へ歩いていくと、向こうもこちらに気がついた。


「すまん、ちょっといいか? 教えてほしいことがあるんだが」


「誰だおまえら、見ない顔だな」


 長い髪を後ろで縛った20代後半くらいのしょう油顔の奴が答えた。不思議と光っている1本槍を持っている。おそらく魔槍というものだろう。


「俺たちはワンダーランドというパーティだ。俺はユウ」


「ワンダーランド? 聞かないな。それで?」


 いぶかしげに聞き返してくる。警戒されているようだ。この男のパーティ以外の冒険者たちも不躾な視線を向けてくる。


「ここは何階層だ? 降りてたらわからなくなっちまったんだ」


 少しおどけた風に言う。


「お前ら、ダンジョンをなめすぎだろ。それで今までよく生きてたな」


 呆れたように言われた。


「ほんとよ」


 疲れたようなアリスの声が後ろから聞こえた。 


「まぁな、運だけは良いんだ」


「はははっ、それも実力だな。仕方ねぇな。ここは15階層だ」


「15!? もうそんな階層か! ありがとう!」


 13階層分も近道できたのか。そりゃ落ちる時間も長いよな。


「やたっ! 大分近道できたねっ」


 レアがガッツポーズをして喜んでいる。


「近道? 何の話だ?」


 男が首をかしげる。


「いや、こっちの話。であんたは?」


「そうだな、悪い遅れた。おれはへクター、Cランクだ。こいつら2人とパーティを組んでる」


 そう言いつつヘクターが後ろを親指でくいっと指差した。仲間達が適当に相づちをしてきた。


「へーい」


「おいっす!」


 1人は魔法使い、もう1人は大きなタワーシールドを持った大剣使いだ。


「それで、なんでこんなとこに大勢固まってるんだ?」


 集まっていた理由を聞いてみる。


「ああ、それがな。15階層のボスはCクラスのガーゴイルだったはずなんだが…………」


「が?」


「あれを見てみろ」


 へクターが指差す先、隣のフロアへつながる通路だ。そこを覗き込むと、半径60メートルくらいの部屋の中、全身が燃えている体高3メートルほどの黒い毛色の犬型の魔物がいた。

 見つからないうちに、元いた部屋に戻ってきた。


「でかかったな」


「あいつはベルガルというBランクの魔物だ。とてもじゃないが、こんな層ででる魔物じゃない」


 要は、いつもと違う強いボスが出て進めないってことか。


「でもこんだけ人数がいたら倒せるんじゃないかい?」


 そう。フリーが言うように、ここには他パーティも含め15人はいる。不可能ではないはずだ。


「俺も最初はそう思ったんだが……ベルガルという魔物は本来1.5メートルくらいなんだ。でもあいつはその2倍はある。間違いなく亜種だ。実力的にはBランク上位だろう。ここにいる全員でかかっても、おそらく勝てない」


 なるほど。通常個体ではないのか。


「なぁ、俺たちはダンジョンについては素人なんだ。イレギュラーがあっても、あの魔物自体は倒して問題はないのか?」


「あ、ああ問題ないが、それができないから困ってるって言っただろ?」 


 へクターが呆れたように言った。


「そうだったな。おい話は聞いてたか? ちょうどいい相手だ。行くぞ!」


 後ろを振り返り、合図する。


「はいよ~」


「仕方ないわね」


「はいはい」


 レアを先頭にスタスタと歩き始める。


「お、おいっ! お前ら、話聞いてたのか!? あいつはBランク上位だ! Aランクパーティでないと殺されるぞ!」


 へクターが心配して呼び止めに後ろから俺の肩を掴んだ。


「大丈夫。いいから見てろって」


「お前ら…………わかった。勝手にしろ」


 ヘクターは残念そうな顔をして手を離した。

 俺たちは他の冒険者たちをおいてボス部屋への通路をくぐる。


「今回はあたしたちだけに任せてよね」


 張り切りながらアリスが言った。


「ああ、頼むぞ」


 そうして3人で作戦が決まったようだ。

 早速アリスが目を閉じ集中して魔力を高めていく。

 魔力操作を覚えたおかげで詠唱は必要なくなってきたが、必要魔力を練り上げるのにまだ時間がかかるようだ。


 そういや、アリスの魔法って火竜にすら通じたんだよな。もしかすると1発で終わるか……?


「いくわよ」


 その声で3人がベルガルの部屋になだれ込んだ。

 アリスが先頭に立ちベルガルに近付くと、魔法を放とうとする。


 ベルガルは前足を伸ばした体制で寝ているように見えるが、耳だけピクピクと動いている。


「あれは……」


 気付いてるかもしれないと思った時、ベルガルは身体を起こした。



「ガアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」



 ベルガルはアゴを90度くらいまで開いて、鼓膜を破ろうかというくらいの音量で吠えた。ビリビリと洞窟が振動するほどの凄まじい大声だ。


「ううっ」


 一番近距離で聞いたアリスが頭を抑えて動けなくなった。あれでは集中力が乱されて魔法が撃てない。レアも耳が良い分辛そうだ。動けるのは反応して耳を塞いだフリーか。


 完全に出鼻をくじかれたアリスたちに、ベルガルは襲い掛かった。その巨体からは想像できない速度で走って来る。


「アリス!」


 ベルガルが先頭のアリスに飛び掛かる。フリーが助けに走るが間に合わない!


 ベルガルはジャンプすると、その巨体でアリスを押し倒し噛みつこうとする。だが動き自体は読みやすいテレフォンパンチ。

 アリスなら避けられるはずだ。


「なめないで」


 下を向いて耳を押さえていたアリスだったが、前に垂れた黒髪の隙間から鋭い目でベルガルを睨んだ。


 アリスはすっ……と無駄のない動きで横に一歩ずれ、ベルガルの射線からはずれると、短剣コールドエッジを抜く。そして、魔力を込めて2メートルほどにまで刀身を伸ばし、手首を返しながら下から鋭く振り上げた!!


「しっ!」


 アリスがいた場所に着地したベルガルの横っ腹に、刃を食い込ませる。


「ぐっ…………!」


 さすがにアリスの筋力ではベルガルの分厚く硬い筋肉と皮膚に力負けし、振り抜くことはできなかった。しかし、浅いが長い斬り傷をベルガルは腹に負った。傷はパキパキと凍り付き始める。ベルガルの体温を下げ、十分に動きを鈍らせるだろう。


 アリスの剣術は初めて見たが動きに無駄がない。だてにソロ冒険者をやってない。


「キャィンッ!」


 予想外の反撃にベルガルは部屋内を飛び跳ねては痛がっている。


「しっっ!」


 そこへフリーがベルガルに向け10メートル以上離れた位置から鋭く刀を振り下ろし飛ぶ斬撃を放った!


 ズガガガッッ!!


 速度もあり、地面に深い斬り傷を残しながら進む威力の高い斬擊を、ベルガルは動物的な勘で後ろに飛び退くことでかわした。だが、右足の爪を指ごと切り落としたようだ。


「ギャン!?」


 ポタタタッ。


 足から血が滴る。これでベルガルは踏み込みに力が入らなくなった。


 すると、これが奴の怒りに火をつけたのか、全身に火が燃え盛った!!


 ゴォウッッ……!!


 ベルガルは黒色の体毛ごと全身が炎に覆われ、まさに炎の塊となった。

 かなりの熱だ。汗がにじむ。入り口近くで見ている俺ですらこれだ。あいつらはこの程度ではないだろう。


「くうう…………!」


 3人とも熱に耐えかねて後退して距離を取る。

 すると、アリスがまた魔力高めた。それも、どんどんと高めていく……。


 何をする気だ?


 一気に解放するのかと思えばその逆だ。徐々に、少しずつ魔力を解放し、魔力が部屋を満たしていく。その魔力が俺のところまで流れ、指先に触れた。


「冷たっ」


 アリスは氷属性の魔力でこの部屋を満たし、部屋の温度を下げたようだ。


 おかげでレアとフリーの動きが良くなった。

 調子を取り戻したレアが風を纏い、本気のようだ。


 ベルガルの速度はかなりのもの。獣らしいバネのある動きで炎を引き連れながら部屋の中を縦横無尽に動き回る。だが、風を纏ったレアはそれに涼しい顔でピタリとくっついていた。


「レアすごいな…………!」


 実際、ベルガルはフリーとアリスによる傷で速度が落ちているとはいえ、動く直前、足に溜めを作った瞬間レアはそれを読み、奴と同じタイミングで動き出している。しかも、アリスの氷の魔力と自身の風でレアの肌を撫でるような、ほぼゼロ距離の奴の炎を完全に無効化している。


 そして、レアが攻撃に移った。ベルガルが着地した瞬間を狙い、剣を体に向け左側面から振るう。だが、奴も炎を一気に吹き出し、剣を押し返そうとする。


「くっ!」


 レアの剣は、皮膚をかすりはすれど致命傷とはならない。悔しそうにするレア。それでも繰り返すことで、レアの攻撃は確実に奴に傷をつけていく。だが、ベルガルもまだ速度が落ちないため、大技は当たらない。


 そんな中、フリーはアリスを守りながら突きの斬擊をまるで銃弾のごとく飛ばしていた。あの速度で動いているレアとベルガルに対して、ベルガルにだけ当てていくフリーも達人業だ。よく見えている。

 アリスは俺のバレットを真似て、氷のバレットで攻撃している。当たった箇所は凍り付くというおまけ付きだ。今はレアの援護に専念している。


 3人のレベルの戦闘技術の高さとコンビネーションにベルガルはこのままでは不味いと思ったのか、前足に強い炎を纏い、がむしゃらにレアを殴りつけようとする。


「ガアッ!」


 だが、殴り付けるために持ち上げようとした足をレアが超人的な反射速度で反応し、斬り裂く。続いて退いて距離をとろうと後ろ足に溜めを作った瞬間、レアがその足を斬ることで体勢を崩す。


 異次元過ぎるだろう。レアのあれ、どうやってるんだ?


「グッ、グルル…………!」


 ベルガルは初動を全て押さえられ、1歩も動くことができない。足を動かす前に斬られ、文字通り何もできなくなってしまった。


 もはやフリーとアリスの出番はなく、2人とも俺と一緒に傍観していた。


「レアちゃん、半端ないねぇ。あれでまだCランクだって言うんだから、ギルドもランク制度見直した方がいいんじゃないかい?」


「ほんとね」


 あれは、『風の加護』の影響もあるのだろうか。わからないが、この時のレアの速度と反応スピードは俺に匹敵していた。


 ベルガルは1歩も動けずに自棄を起こしたか、口から火炎を吐き出そうとするが、その口を下から鋭くレアに長い脚で蹴りあげらる。


「グガッ…………!」


 すると溜まっていた火炎が口内が暴発したようだ。



 ドパァン!!



「……ガガ」


 口から黒い煙をモクモクと吐く。もはやベルガルの体の炎は消えかかっている。


「レアとどめだ!!」


「おーけー!」


 もはや動けないベルガルに対し、濃密な渦巻く風を纏った剣を降り下ろす!



 スパンッ…………!!



 レアの風を纏い、切れ味が数段増した斬擊によってベルガルは首を斬り落とされ、首を失った胴体はズンッと洞窟内に倒れた。


「やったー!!」


 レアは嬉しさのあまりピョンピョンとジャンプしている。


「怪我はないか?」


「うん、大丈夫だよ!」


 そこにレアの実力に驚いたアリスとフリーが駆け寄ってきた。


「レア、あなたあんな芸当ができたの!?」


「ほんとだよねぇ」


「そうかな? なんとなくできそうだなと思って……」


「思って?」


「やってみたらできたの」


 そのレアの反応に、皆から乾いた笑いが出た。



◆◆



 そうして、入り口近くであんぐり口を開けながら戦闘を見ていたへクターのところへ戻った。


「お、おおおお前ら! Aランク冒険者なのか!?」


「違う違う。ところで、ヘクターたちはこの後どうするんだ?」


「俺らは…………この先進むのは、ちと恐ええな。今のより強力な魔物が出たら間違いなく死んじまう」


 そう言ってヘクターたちは仲間と顔を見合わせる。


「そうか、もし戻るなら一度ギルドへ行ってこのことを報告しといてくれないか?」


 これこそジャンが欲しがってたダンジョンについての情報だろう。ギルドにだけでも先に伝えておきたい。


「わかった。この町に関わることだ。責任もって伝えておこう。あんたらは?」


「俺らはジャンにダンジョンの調査を頼まれていてな。もう少し先まで進んでみる」


「そうか、まぁベルガルを倒したあんたらなら大丈夫だろうな」


「ああ、ジャンもダンジョンに来てるらしいからな。どこかで合うかもしれないし、その時は俺からも伝えておくよ」


「あ? ジャンも来てるのか? あいつまた潜りやがって…………たまには休んだ方がいいんじゃねぇか」


 ヘクターが心配そうに腕を組みながら聞いてきた。


「そんなにか?」


「あいつは俺から言わせりゃ、真面目過ぎるんだ。たまには休まなきゃいつか倒れるぜ? 人間に休みは必要だ」


 日本人みたいな人なんだな。ジャンって。なんだか親近感が沸く。


「わかった。ここで会ったら、一発気絶させてでも休ませるよ」


「ははっ。是非そうしてやれ。じゃ気を付けてな」


「おう、あんたらもな」


 そこでへクターたちと別れ、俺達はベルガルを倒した部屋に戻ってきた。


「あなたがジャンって人を気にかけるなんてね」


「いや、まぁな。頑張ってる人は助けてあげたいだろ」


「ふーん」


 アリスがぼーっと自分の足の爪先を見ながら歩き出した。


「そしたらこの先も魔物を狩りまくるか!」


「やー!」


 レアが元気よく返事した。


 16階層に降り、どんどんと出会う魔物は片っ端から仕留めていった。さすがにこれくらいの階層にもなると、普通にランクCの魔物が出てくる。それでも3人は大きな怪我を負うこともなく、次々と魔物を狩っていく。


 俺も様子を見ながら怪我があれば回復魔法をかけていった。と言ってもダンジョンの気質か、なんだかんだ後ろから忍びよってくるセコい魔物も多く、俺も同じくらいの数を倒している。


 影に潜み、奇襲をかけてくるシャドーリザードや様々な下級魔法を飛ばしてくるレッサーデーモン。三半規管にダメージを与えてくるパルスバット。剣に取り付いたソードデーモンなるものもいた。剣ごとフリーが斬ってしまったので強かったのかわからない。

 また壁に擬態している黄土色のヘドロのような魔物もいた。皆の探知に反応はなかったようだが、高位探知には反応したので火をつけて火葬した。よい土が手に入った。


 魔物の中でもレッサーデーモンは知能が高く、状況に応じて複数の魔法を使えば、俺達が他の魔物と闘っている背後から攻撃を仕掛けてくる。非常にやりにくい相手だ。ただまぁ所詮下級魔法しか使えないので、他の魔物を先に片付けてしまえばあとは力の差で瞬殺だった。



◆◆



 そうして8日が経過した。


 現在20階層ボスの部屋前。



 部屋と言っても洞窟なので扉はない。ボスの部屋を覗き込むと、人間の背たけくらいのキレイな立方体の大理石に腰掛け、足を開いてひじをつきながら堂々と眠っているデーモンの姿が見えた。

 座り姿ですら貫禄が出ている。筋骨隆々だが引き締まり、スラッとした体格だ。手足が長く、手を広げると4メートル、立ち上がったら3メートルくらいありそうだ。

 黒と灰色の間くらいの肌の色に、首から上は人間の骸骨。頭からはねじれながら真っ直ぐに伸びる2本の角がある。背中にはゆらゆらと漂う黒く濃厚なオーラが見え、一蹴りで大穴を穿ちそうなパワーが窺える。


「ね、ねぇあれは確実にAランクよ。ここが本当にBランクダンジョンならダンジョンボスクラスなのは間違いないわ」


 その堂々たる姿にアリスは若干腰が引けてしまっている。


「だねぇ。15階層のベルガルと同じだと思ってたら痛い目を見るどころか……死ぬかもねぇ」


 フリーも真剣な目でデーモンを観察している。


「じゃ、俺がやろうか?」


 俺が煽る意味合いでそう言うと、ピクッと反応した。


「待ってユウ。それはない」


 フリーがはっきり答えた。最近わかるようになったがこの感じ、ニコニコとしてるがフリーは多分怒ってる。


「そうだよ。何事も冒険しなきゃ上にはいないんだよ?」


「自分でやるに決まってるでしょ?」


 さらにレアとアリスがムッとしてそう言った。


「ならよし。やっぱり実践が一番。ポイントは魔力操作だな」


「うーん、魔力操作はまだ完全に自分のものには出来てないんだよね」


 こないだスライムと戦った時はできてたが、フリーはまだ満足いかないようだ。


「ならまずは作戦を考えましょ」


 4人でしゃがんで輪になる。首を上げると、皆の顔がよく見えた。


「まずはデーモンの実力ね。まずレッサーデーモンの上位種族だから、中級以上の魔法も使うでしょうね」


「そうだな。あとはあの体格……見たところ武器を持っていないから素手、もしかすると体術でくるかも」


「確かに。あと気を付けるべきと言えば…………デーモンだし、レッサーデーモンを召喚するくらいはやってのけるかもしれないねぇ」


「ああ、なるほどな」


「まったく初めての相手ってのはやりにくいわね」


「それじゃ、初めは遠距離から様子を見ながら、レア、フリーはデーモンの攻撃を避け、アリスは2人が避けられないと判断した攻撃を防ぐ。大体の力がわかったら攻めに転じよう」


「そうね。攻めるときはどうする?」


「私! 私、行きたい!」


 レアがハイハイと、元気良く手を上げた。


「僕も行くよ。レアちゃんばかりに良いところはさせられないねぇ」


 最近、フリーの活躍が見れてないしな。


「ここぞって時はあたしに譲ってよね?」


「それって結局全員いくってことじゃないか?」


 すると、全員俺を振り返って声を揃えて言った。




「「「そう(よ)!」」」




 それでいいのか。


こんにちは。

読んでいただき、有難うございました。

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