プロローグ
夢に見たことがある。
まだ見たことないようなモンスターが蔓延る世界。
登場人物は家族や友達。
魔法を使い、空を飛び、敵をなぎ倒し、どんな傷でもすぐ治す。夢の中ではなんだってできた。
ある日僕は思った。なぜこんな夢を見るのだろう。
夢をなぜ見るのかは科学的には判明されていないらしいけど、よく聞くのは記憶の整理を寝ている時にしているから夢をみるらしい。
現実では、空は飛べず地を歩き、倒すべき敵などいなく、怪我をする機会もほとんどない、平凡な生活を送っている。
そんな僕が魔法を使う夢を見るということは、無意識的に魔法に憧れを抱いているからなのかと考える。
そう思ってからは意識的に魔法に憧れを抱くようになる。具体的にした行動といえば、ただひたすらファンタジー系の小説を読み漁ること。
物語の中では、かっこいい主人公が魔法の力を存分に使い、時には人を助け、悪を挫き、自らの正義を全うする。読めば読むほど没頭し魔法という力に没頭し、人並みではあるが中学生の頃はオリジナルの呪文を考えたり、剣道もやっていないのに竹刀で素振りしたりと、突如異能の力に目覚た時用に日々研鑽したものだ。
もちろんと言ってはなんだけど、異能の力に目覚めることはなく、歳を重ねるにつれてそんなことをすることはなくなっていった。
気づけば僕も大学生。小説を読む生活だけは変わらないけれど、魔法ではなく勉学の研鑽へとシフトした今日この頃。人並みに友人と暖かい日々を送っていた僕に、突如異常が訪れる。
ある不思議なものが訪れた。異常とは突然現れるものだ。その人は大きな扇子を仰ぎながらこちらに向かって歩いていた。
背の高い、髪の長い女の人だった。
グローバル化の激しい近年でも見たことがない、腰まで届くとても長い金髪。顔はよく見えないが、日本人には思えない容姿からすれ違いざまに、流暢な日本語が聞こえた。
「どうぞお行きなさいな。そこにあなたが望むものが待っているわ」
誰に向かって言ったのだろう。
僕の他に周りには誰もいない。
自分と彼女の限られた世界で放たれた言葉。
勘違いでなければ僕に言ったのであろう。
「行くって、どこにですか?」
知らない人と話すのは苦手ではない。
何を言っているのかはさっぱりわからなかったが、気になったポイントだけ確認してみる。
少しだけ女性が笑った気がした。
そして彼女はこう答えた。
「上をご覧なさい。」
僕は上を見てみる。それはいつも見慣れた大きな空だった。
「--え?」
突如強烈な浮遊感に襲われた。空が遠ざかって行くのが見える。見慣れた空がどんどんと狭くなり、点になって行く。すぐに気づいた。僕は落ちているんだ。
「うわああああああっ!!」
そう長くない間に点は見えなくなり、僕は暗闇に放り出された。すぐに上も下も分からなくなり、唐突な睡魔に襲われる。現実逃避も兼ねて、その睡魔に逆らうことなく意識を飛ばそうと、僕はその感覚に従った。
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ぼんやりと聞こえてくるせせらぎの音。
耳馴染みのない鳥の声や風の音を心地よく聴きながら大地の温もりを感じる。
「もしもし、起きてください。朝ですよー。」
そう声をかけられて、僕は目を覚ます。
女性の声だ。とても優しい声色で、心が不思議と落ち着く。聴くだけでまるで耳に花が咲いたような気持ちになる。その声に惹かれるように、意識せずとも瞼が開きだす。
「お目覚めですね。おはようございます。」
目を覚ました僕は、周りを見渡す。
鬱蒼と生い茂る木々が遠くに見える。
自分の周りには愛らしい白い花々が咲き乱れる。
「……おはようございます」
仰向けに寝そべりながら、空を見る。どこまでも青く澄み渡り、雲ひとつない。
こんな日に散歩にでも出かけたら、さぞ心地よいだろう。
「よく眠れましたか?」
寝そべる僕を覗く女性は、肩を超えるくらいの長さの金髪をもち、その風に伴って優しく揺れている。歳の頃は20歳近くだろうか。女性の年齢を見分ける自信はないからわからないが、少なくとも僕よりは年上に見える。
「はい、よく眠れました。それで……あの……」
淡い水色のワンピースに身を包み、満面の笑みでこちらを見ている彼女。覚醒しない頭ではその笑顔は眩しすぎる。花でできた天然のベッドに寝転がりながら、眩しさのあまりに開かない瞼のまま、僕は目の前の見ず知らずの女性にこう問いかけた。
「ここはどこですか?」
それが、爽やかな風が香る、異世界生活1日目の出来事。




