65話
パトリック王太子殿下の私室に移動しソファーを進められましたが、パトリック王太子殿下が座るまで立った状態で待ちます。
何せ侍女の方々の目が光っていますし、フランツ様とベルンハルト様が目でまだ座るなと訴えかけてきています。そんなに目で訴え掛けてこなくても分かっていますよ。
パトリック王太子殿下がソファーに座ったのを確認した後に、進められていたソファーに座ると、侍女の方が目の前に香り豊かなお茶と甘いお茶菓子を出してくれました。
流石王族ですね。お茶もお菓子も一級品の高級な物です。
上位貴族でも中々口に出来ない品質では無いでしょうか?もう少し国民の血税の使い方を考えてほしいものです。
「宰相の件で陛下には退位してもらう事にします。
そこでミーナに確認したい事があるのですが、このまま私との婚約を進めても大丈夫ですか?」
「どういう事でしょうか?」
「陛下は毒殺されて、一応一命は取り留めましたが、もう執務をすることは難しい体になってしまいましたから。場が整うまでは極秘ですが。」
「それもですが、私との婚約は決定事項ではないのですか?」
「私としては、ミーナの事を慕っているのでこのまま婚約者としてあり続け、ミーナが成人したらそのまま結婚するのが望ましいです。
ですが、今まで市井の中で育ってきたミーナにとってはとても重荷になるのではないでしょうか?
陛下が独断で決めた国益のみを重視した事による婚約で、そこに人の思いがありませんから、ミーナが辛いなら私が何とかします。
それに、ミーナが慕っている者もいてもおかしくありませんからね。」
パトリック王太子殿下は顔を少し俯かせながら寂しげに話しています。私はなんと答えればいいのでしょうか?
ダンさんへの気持ちはまだ残っています。ですが、私の所為でダンさんが苦労するのは見たくありませんし、ダンさんは私の事を妹の様にしか思っていないかもしれません。
それに、王太子の婚約者として、貴族の荒波の中を生きていけるとも思えません。教育はされていても、所詮は平民として生きて来たのですから。
考えながら沈黙していると、パトリック王太子殿下が苦笑しながら頬をかいています。
「すぐに答えを出さなくても良いです。私の気持ちを知っていてもらえれば、今はそれで充分です。」
「…申し訳ございません。」
「ミーナの中でどうするか答えが出てからでいいので必ず教えて下さい。
それと、それまでの間はどうか婚約者として接する事を許して下さい。」
「パトリック王太子殿下がその様に私の許可を取る必要は無いかと存じますが…。」
「私が貴女に惚れているのですから、気にしないで下さい。と言いたいのですが気にされそうですね。
私の王太子と言う立場を他の者がいないところでは忘れて接して頂けませんか?
私も2人の時は、この外向けの話し方を辞めます。
難しいとは思うけど、少しずつでも良いから距離を縮めたい。私はミーナを大切にしたいと思っている。」
いきなり口調が変わったのでビックリします。2人の時と言ってませんでしたか?周りにはフランツ様もベルンハルト様も侍女の方々もいらっしゃいますが。
護衛や侍女はカウントされないのでしょうか?貴族とはそういうものなのでしょうか?
「パトリック王太子殿下のお気持ちは嬉しく存じ…思います。ですが…。」
「無理にとは言いわない。出来ればでいいよ。
それと、いつまでも‘パトリック王太子殿下’と呼ばれるのは嬉しくないから、どうかパディと呼んでくれないか?」
「えっと…、パ、パディ様?」
「ありがとう。」
パトリック王太子殿下がこちらに歩み寄って来てくれているのにいつまでも私が頑なになっているのはよくないですよね?
それにパディ様と呼んだらすごく嬉しそうな顔をしてくれました。年上のしっかりとした男性なのに可愛いと思ってしまいました。
パディ様はクーデレの要素がありそうですね。近くで見れるのは嬉しいですが、そのデレの部分が私に向かっていると思うと少し複雑です。こういうのは、遠目で見ているのが楽しいのですが…。
「もう一つ確認なんだが、ミーナはこれから王宮で生活する事は嫌だよね?」
「えっと…はい。まだ貴族になったと言う事にも慣れていませんし、出来れば家族と一緒に暮らしていたいです。
産まれたばかりの甥っ子とも一緒に遊びたいですし…。」
「では、大臣や貴族たちは黙らせます。シュテルネン侯爵の屋敷の方が王宮よりも安全だと思うしね。」
「そうなんですか?」
「王宮には日々多くの者が出入りするしね。どこに刺客が紛れ込むかが分からないし。」
確かに陛下がつい数日前に毒殺され掛けたようですし、次はパディ様の番ではないのでしょうか?そんな所で生活しているパディ様は大丈夫なんでしょうか?
「もしかして私の事を心配してくれている?
確かに私も命を狙われる立場ではある。だけど、私には弟が2人いるから替えはいるから問題ない。弟達も私に何かあれば代わりが出来る程度の教育はされているしね。」
「それは、寂しくはありませんか?
人の命は誰かと代える事が出来ない尊いものです。ご自身の命だとしてもその様に言うのはよくないと思います。」
「そういうものなのかな…。
陛下…父上にはご自身の子として見てもらった事が無いし、母上も子供は父上の関心を持ってもらう為の道具だからね。あの2人にとっては誰が後を継いでも関心は無いんじゃないかな。」
パディ様がまた苦笑いをしていますが、そんな事で済まされない程心に傷を負っていますよね?
王族とはそんな事が当たり前なのでしょうか?
何だかとても悲しい事です。血の繋がった家族に家族として扱って貰えないなんて。
私が少しでも、その傷を癒すことは出来るのでしょうか?
でも、ダンさんの事を思っている私にはそんな資格はありませんね。私がパディ様と共に歩んで行くことを決意出来たら、その時はパディ様をしっかりと支えて行きましょう。
だってパディ様は私の事を第一に考えてくれていますもんね。
「ミーナにそんな顔をさせたくてした話ではないんだけどね。
本当はもっとミーナと話をしていたいのだけど、帝国との戦争の事や宰相の事、陛下の退位への準備などがあるから、そろそろ執務に戻らないといけないな。
また時間を作るからその時にお茶をしよう。
ベルンハルト、ミーナをシュテルネン侯爵夫人が待つ客室まで護衛を。」
「はっ。」
そんな顔とは一体どんな顔をしていたのでしょうか?ベルンハルト様に促されてパディ様の執務室から退出します。
「パディ様、王宮に来る際は事前にお手紙をお送りします。」
「楽しみに待っています。」
その後ベルンハルト様にアマンダ義母様がいる客室まで送られてから、アマンダ義母様と一緒に王宮を後にしてシュテルネンの屋敷に帰りました。
そう言えば、お祖父様も父様も無事なのでしょうか?そして何の為に王宮に来たのでしょうか?
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