38話
騎士隊の隊舎に移動すると、騎士隊で文官の仕事に就いているアルノー兄様が待ち受けていました。
「ミーナ…と友人2人もこの書類にサインをして。
内容は、隊舎を利用するに当たっての規則が書かれているから、必ず一読してからのサインで。
内容で分からない点があれば聞いて。」
そう言いながら、アルノー兄様が書類を私達に手渡しました。
書類を読んでみると内容としては、隊舎内の備品・調度品を故意に破損した場合や故意でなくても、破損時の状況によっては弁償責任が発生する事、隊舎内で見聞きしたことは口外しない事、騎士の指示には従う事などが書かれています。
セシルとアンナは一読が終わった様で、書類にサインをしていますが、私は気になった事があるので質問をしましょう。
「アルノー兄様、質問ですがこの騎士の指示に従う事とありますが、同時に複数の騎士様から別々の指示が出た場合は、どうすればいいのでしょうか?」
「あー、その場合は指示を出した者の中で、階級・役職が上の者の指示に従ってくれればいい。」
「私は隊服を見れば分かりますが、セシルとアンナは見た目で判断は出来ないですよね?」
「そうね…隊服で違いが分かるものなの?」
「えぇ、違いますよ。主に左胸についている階級所属章で判断します。
アルノー兄様から説明してもらえないでしょうか?」
「わかった、一度しか言わないからよく聞いて。
まず、騎士団団長と副団長は、剣と盾とプフェートハービ(鷹)の4つを組み合わせたマークでそれぞれ色が、団長が金色、副団長が銅色。
他の隊はその4つの中から2つ~3つを組み合わせたマークになり、色で階級を表す。
今回3人とその家族の護衛任務に当たるのは、第1騎士隊と第2騎士隊になり、第1騎士隊が剣と盾の組み合わせで、第2騎士隊が剣と剣の組み合わせだ。
他の隊については、第3騎士隊が剣とハービ、第4騎士隊が剣とプフェート、第5騎士隊が剣とハービとプフェート、近衛が剣2つに盾の組み合わせになる。
階級は一番下が白から始まり、薄黄色・黄色・薄橙・橙で、役職は下から薄赤・赤・水色・青・薄紫・紫になる。
白が騎士見習い、薄黄色が見習い卒、黄色が3級騎士、薄橙が2級騎士、橙が1級騎士に当たる。
役職者はすべて、1級騎士から選出され、薄赤が副分隊長、赤が分隊長、薄青が副小隊長、青が小隊長、薄紫が副隊長、紫が隊長になる。
補足として、騎士隊所属の文官が剣とペンを組み合わせた者で黄緑色をしている。騎士隊文官長のみ緑になる。
覚えきれなかったら、ミーナに聞いて。」
「「ありがとうございます。」」
「それじゃあ、滞在してもらう部屋に移動するからついてきて。」
アルノー兄様が踵を返してスタスタと歩き出します。
相変わらずのツンツンぶりですね。中々デレないので嫌な奴と認識されてしまいますよ。
その証拠に、セシルとアンナが困惑した顔をしていますからね。
昔はもう少しデレていたのですが、一体いつからデレが少なくなってしまったのでしょうか。観察していてもデレが無いとつまらないのですが。
そんな事を考えていると、部屋に着いた様です。
一部屋ずつにセシルとアンナが案内されています。あれ、私はどこの部屋になるのでしょうか?
「この後ご家族も来られるので、一家族一部屋になる。2人は隣同士の部屋が都合がついたからここで過ごしてもらう。もちろん、家族が到着するまでは一緒に過ごしてもらって構わないし、護衛の騎士から許可が出れば、部屋を行き来してもらってもいい。
ミーナの滞在してもらう部屋は、ヴァグナーク隊長の使用している執務室と続き部屋になるからそのつもりで。
その部屋は、執務室との続き部屋だから、自由な出入りは出来ないから注意する様に。
ミーナ、まだ友達といたいだろうけど、叔父上が心配されているから一度顔を見せに執務室の方に移動してもらう。」
「「「分かりました。」」」
後で父様にお願いしてこちらの部屋に移動してきましょう。
ここまで護衛してくれた騎士様に礼をして、アルノー兄様の後を追い父様の執務室に向かいます。
何度か忘れ物を届けに来ているので、案内がなくても行けるのですが大人しくついていきましょう。
もうすぐ、父様の執務室に着くあたりでアルノー兄様がわたしの方をチラッと見てきました。何でしょうか?
「アルノー兄様どうかされましたか?」
「…いや、いきなり友達と引き離して悪かったなと思って。」
「仕事なんですから仕方がないじゃないですか。」
「そうなんだけどさ。
はぁ…、あの友達も突然の事で心細い筈なのに、申し訳ないな。
後でミーナも謝っとて。」
私もと言う事は、後でアルノー兄様も2人の部屋を訪れて謝ると言う事ですよね?どうされたのでしょうか?
「ミーナ突っ立ってると置いていくよ。叔父上が心配して待ちわびていると思うから早く来なよ。」
アルノー兄様はスタスタと歩いて行ってしまいます。待って下さい。
アルノー兄様に追いつくと、父様の執務室が見えきましたが、何故か人だかりが出来ています。父様に何かあったのでしょうか?
「あいつら、後で叔父上の鉄拳制裁が落ちるな。
…護衛任務以外の方は、職務に戻ってはいかがでしょう。すぐに戻る必要がないと考えていらっしゃる方は、名前を名乗って言ってくださいね。ヴァグナーク隊長に報告をしますので。」
アルノー兄様が氷の様な冷笑を湛えて、話掛けています。すると人だかりになっていた人々が焦った表情になりクモの子を散らす勢いで退散していきました。
アルノー兄様は文官ですよ、騎士様方が恐れることは無いと思うのですが…。
「ヴァグナーク隊長の娘のミーナ・ヴァグナーク嬢を連れて来たので、取次お願いします。」
「分かった。
ヴァグナーク隊長、お嬢さんがお見えになりました。」
すると扉が勢いよく開かれ、父様が飛び出して抱きしめられました。
苦しいです、父様。そして、恥ずかしいです。アルノー兄様はいいとしても、他の騎士様に見られてます。せめて、執務室の中に入ってからにしましょうよ。
「父様、苦しいです。」
「…すまない。部屋に入って休憩をしようか。」
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