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37話

残酷描写を含みます。

苦手な方はご注意ください。

また、今回は全体的に暗いお話になっています。

一度目を瞑り深呼吸をします。

今でもあの夜の光景は覚えています。何度も何度も夢に見て魘されてしまっているのですから。


「あの日…2年前の母様と過ごした最後の夜は、父様の夜番の日で、いつもは家にいたロイ兄様も魔法士団での研修で夜番に当たっていた日でした。

既に騎士団に入団されていたシルバ兄様は、騎士団の規定により隊舎暮らしをされていたので、父様もロイ兄様も夜番になると、家には私と母様のみになってしまいました。

その事を懸念された父様とルーカス伯父様が、家に護衛の方を数名派遣してくださったのですが、間が悪い事に、近所で大規模な火事が起こり、護衛の方を2人残して火事現場の応援に行くようにと母様が指示をしていました。

火事は夜中に終息をして、護衛の方も疲れを滲ませながらも戻ってこられ半数ずつに分かれて休憩を取って護衛の任務に当たってもらいました。

私も母様、その状況がひと段落した後に、それぞれ自室に戻って寝ることにしました。

しかし、ベッドに入って幾ばくもしない内に、階下から怒声と悲鳴が聞こえてきたのです。

あの時は、何が起こったのか分かりませんでした。

取り敢えずベッドから飛び起き、寝るときにはいつも隣に置いていた小刀を取り、夜着のままで部屋から出て、階下に向かいました。

するとそこに広がっていた光景に目を瞠りました。そこには護衛の方の死体と血の海が広がっていたのです。

何故、父様とルーカス伯父様が派遣した護衛の方が既に亡くなっているのか理解する事も出来ず、また、初めて目にする凄惨な光景に動く事も声を出すことも出来ませんでした。

私がそこでどれくらい固まっていたのかは正直分かりません。

2階から母様の悲鳴が聞こえてくるまで、血の海の中で佇んでいました。

母様の悲鳴を聞いて、慌てて2階の父様と母様の寝室に向かいながら、いつでも剣を抜けるよう柄を握りしめていました。

母様達の寝室に辿りつき、ドアを蹴破り中に入ると……首に剣を突き付けられて複数の男に辱めらている母様の姿が目に入りました。

私がドアを蹴破って中に入った為に、中の男達が私の存在に気が付いて、その内の1人が‘なんだまだガキか。こっちは痛めつけてから殺すか’と言って私に近づいてきました。

私は突然の事と、目の前の状況に頭が付いていかず、剣を鞘から抜いて、正眼に構えて‘母様から離れて’と叫びながら近づいてきた男に切りかかり、寸止めをしたのです。

私は、それで相手が止まると思っていましたし、正直人を殺す事に躊躇ってしまった為の選択でした。

しかし、それは大きな間違いでした。

その事を屈辱と感じた男達が、母様の…………」

「ごめん、ミーナもう話さなくていい!」

「…目の前で殺されたの?」

「……はい。目の前で、見せつけるように母様の首を切り落とし、胸に剣を突き刺し、四肢を切り落としました。

そして私に‘お前も直ぐにこうなるからな。恨むなら、中途半端に手を出そうとした自分とさる御方達の恨みを買っている父親と祖父を恨むんだな’と言っていました。

母様が目の前で残酷な殺され方をして、私も直ぐに同じ様に殺されるのかと思った時に私の中で何かが壊れたのでしょう。

男達の間を駆け抜け母様にした様に、首を落とし、胸を突き刺し、四肢を切り落として殺していました。

その後は、母様の死体に縋りつきながら泣き続け呆然と血の海の中に座り込んでいました。

事件が発覚したのは、夜番が終わり帰って来た父様とロイ兄様が家に入ってからでした。

正直、そこからの記憶は曖昧です。

ただ、騎士団で保護されて正気に戻った頃には、1ヵ月が過ぎていて母様の葬儀は既に執り行われた後でした。」

「「…………。」」

「幻滅しましたか?こんな恐ろしい事が出来る人間が友達だというのは嫌ですよね。

ごめんなさい。」

「っは、ちがうの。

私達、おじ様からミーナが学院を2ヵ月休んでいた間の事の説明をされたと言ったけど、そんなに詳しい内容を聞いていなくて。」

「おじ様たちが夜番で王宮に出仕している時に、賊が家に押し入っておば様を殺されて、ミーナがおば様の死体を発見したショックで寝込んでいるって聞いてたから。」

「まさか、目の前でそんな殺され方をしたのを見てたなんて知らなかったの。」

「私達の方が酷いこと聞いてしまったの。こんな事話したくなかった筈なのに…。」

「「ごめんなさい。」」

「ミーナ、お願い。私達の事を避けないで。」

「…私は今も心のどこかが壊れてしまってます。

こちらに殺意を向けてくる相手には、容赦は一切しません。平然と殺します。

最近は、大分感情をコントロールする事が出来る様になって、殺さずに生け捕りにすることも出来る様にはなってはきましたが、それも必要を感じた時ぐらいしか出来ません。

…そんな人間が側にいてもいいんでしょうか?」

「殺そうとする人間が殺されても文句は言えないでしょ。

私達は今日それを実感したよ。」

「そうよ。あのままだったら、私達はあいつらの都合で殺されていたんだもの。

ミーナに私達の代わりに手を汚させたんだもの。

私達も立派な人殺しだよ。」

「ミーナが一人で抱えこまないで。

頼りないと思うけど、私達が少しでも支えていくから。」

「辛かったら、話聞くから。いつでも話してね。

今まで気づいてあげられなくて、ごめんね。」

「………セシル・アンナ…うっ、ひっく……ありがとうございます。」


私は、初めてあの事件からため込んでしまっていた、胸の内の苦しさを吐き出した気分です。

それから騎士団の隊舎に移動するまで、私は泣き続けました。そんな私をセシルとアンナは、背中をずっと撫でてくれたり、頭をポンポンとしてくれていました。


「うわっ、なんだこの状況は!?」

「ダンにぃ、ノックしてから入って来なさいよ!」

「…ノックを何回しても返事が無いから、慌ててドアを開けたんだろ。

それより、騎士団の隊舎に移動してもらうんだけど、大丈夫か?」


ダンさんが何が起こったのかと疑問に思っています。

私はダンさんに、小さく微笑みをこぼしました。ダンさんは、2年前の事件の処理に携わっていて、色々話をしていたので、私の心の内を理解してくれている唯一の人でした。ですが、好きな人に弱い部分の全てを見せていなかったので、今まで心の内の苦しさが晴れる事が無かったのでしょうね。


ダンさんは私の小さい微笑みを見て、何かを感じ取ってくれた様です。

小さい声で、良かったなと言って、軽く頭をポンポンとして移動を促し、先頭に立って歩き出しました。

部屋の外には、小隊が待機していました。

部屋から出てくるのに時間がかかってしまって申し訳ありません。

お読み頂きありがとうございます。


3章に入ってから、ちょいちょい出ていた『あの事件』の概要の回でした。

本来はこのお話は予定していなかったし、マーガレットママも死んでいる予定では無かったのですが、ミーナが躊躇いも無く人を殺せる事に違和感があり、急遽作ったエピソードです。


次回は閑話の予定になります。

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