19話
手を繋がれたままお店に入って行きます。ダンさん恥ずかしいから手を離して下さいっ。
「いらっしゃいませ。ご入用は何にって、ダンにぃどうしたの?」
「俺は道案内。
おじさんかおばさんいる?この子のお母さんが高熱で倒れたらしいんだ。」
カウンターに座ってたのは私ぐらいの歳の女の子です。
女の子は私をみて微笑みを浮かべます。
「大変だったね、でも大丈夫だよ。わたしの両親は腕のいい薬師だから安心してね。
それに母さんが、さっき帰って来たから直ぐに診察をして薬を調合してくれるよ。」
「っありがとうございます。」
「泣かないで。
今母さん呼んでくるから。それまでここに座って待っててね。」
どうも母様が倒れてから、情緒不安定の様ですね。
椅子に座ると、ダンさんが頭を撫でてくれます。ちょっ、ダンさんやめてー。
「お母さんが高熱で倒れたのは貴女ね。直ぐに家に案内してもらってもいいかしら?
もし流行病だったら、初期の治療が早ければ死亡率が下がるようだから。」
「あの、お金とかは今お支払いした方がいいですか?一応、お金を持って来ているので。」
「ちゃんとした子なのね。
今は時間が惜しいから、後からでいいわ。
お金が足りなかったら、分割で何回かに分けて支払ってくれればいいから。」
「はい。
あの、ダンさん。一つお願いがあるのですが。」
「どうした?」
「兄達がいる、伯父の屋敷まで行って、この手紙を伯父に渡して貰えないでしょうか?門番にミーナからだと伝えてもらえれば大丈夫です。
伯父に話が伝われば、父にも連絡がいきますし、兄達も事情を知って直ぐに戻って来れるので。」
「わかった。その屋敷?って何処にあるんだ?」
「シュテルネン伯爵家なんですが、私は詳しい場所を知らなくて。
分かりますか?」
「シュ、シュテルネン伯爵家!?
…大丈夫、場所はわかる。じゃあ、ひとっ走りして届けて来るわ。
はぁ、それよりあいつら伯爵家の血が流れてるのかよ。そりゃ、強いわな。」
何か最後の方をボソボソ言いながら飛び出して行ってしまいました。
「じゃあ、私達も直ぐに行きましょうか。えっと…。」
「あっ、ミーナ・ヴァグナークです。」
「ミーナちゃんね。私はロッテ・アンダーソンよ。
セシル、まだ暫くは店番宜しくね。」
ロッテさんは大きな鞄を持ちながら、颯爽と走りだします。
家の方角を何故知っているのでしょうか?
取り敢えず、私も直ぐに追い掛けて走ります。
ロッテさん、なんでそんなに足が速いのですか?しかも、その走るのに邪魔になる様な鞄を持ったままで。
「ミーナちゃん、足が速いのね。余裕で追いつけるなんて。
家の場所は分かるから、安心してね。この近辺の家の配置は頭に入っているから。じゃないと、急患の時に直ぐに駆けつけられないからね。」
ロッテさんはプロですね。今までお世話になった事が無い家まで把握しているとは脱帽です。
道が不慣れな私が案内しなくて済んだので、早く家に着くことが出来ました。
ロッテさんを母様がいるリビングに案内します。
ロッテさんは直ぐに母様の容体を診察し始めました。
私が側に居ても邪魔になると思うので、キッチンへ行き、普通のお水とローネ水ーーレモン水ーーをそれぞれ水差しに入れ、冷水を入れた桶とタオルを用意しましょう。
それと、母様達の部屋の暖炉に火を入れて暖めた方がいいですね。
お水類を持ってリビングに戻ると、診察を終えたロッテさんがこちらを振り向きました。
「ミーナちゃん、それは?」
「えっと、体を冷やす用の冷水と飲み水です。」
「丁度、お願いしようと思ってたのよ。ありがとう。
でも、水差しが2つあるわね?」
「1つは普通のお水で、もう1つはローネの果汁を入れてサッパリさせたお水です。
あの、母様はどうですか?」
「…ミーナちゃん、ご家族が戻られてから、お母様のご容体はお話するわ。
それと、お母様をここで寝かせて置くのは、お母様の負担になるから、ベッドに連れて行きたいのだけど、いいかしら?」
「はい。部屋の暖炉に火を入れて来たので、少しは暖かくなってると思います。
でも、ロッテさんと私で母様を2階の部屋まで運べるでしょうか?」
「ふふっ、任せなさい。よっと。」
ロッテさんが母様を軽々とお姫様抱っこしています。
ロッテさんは明らかに小柄なのに、何処にそんな力があるのでしょうか?
「マーガレット!!」
「「母上っ!」」
母様をベッドに寝かせて、落ち着いた所で、階下が騒がしくなりました。
父様と兄様達が同時に帰って来たようなので、ロッテさんと階下へ降ります。
階段を降り切った所で、父様達会いました。伯父様とエマさんも一緒です。
「妻を見てくれた方ですね。ありがとうございます。
それで妻の容体は?」
「ご主人様ですね。
ここで立ち話もなんですので、何処か落ち着ける所でお話をしたいのですが。」
「あぁ、ではこちらへどうぞ。お前達はリビングで待っていなさい。
エマ、子供達を頼んだぞ。」
「畏まりました。」
父様達は大人だけで、応接室に入って行きますね。
ロッテさんがこちらをチラッと見たので頷くと、ロッテさんは父様達について応接室に入りました。
私達はエマさんに連れられて、リビングに向かいます。
どれ位経ったのでしょうか?
兄様達もずっと黙ったままで空気が重たいです。
「待たせたな。
ミーナ、1人にして済まなかった。不安だったよな。
あの薬師の方が言うには、ミーナの手当てが適切だったと褒めていたぞ。
それと母様だが……どうやら熱が出ても解熱薬を飲んで隠していた様で、その無理が祟って、今回の病が治ってからも、体がとても弱くなってしまうそうだ。
俺がもっと家に帰れていれば良かったんだ。そしたらマーガレットは……」
父様が自分を責めて泣いています。
見ると、兄様達も自分が気付けていればとっ言って泣いています。
でも、私が一番近くで母様を見ていたのに気付いてあげられなかったんです。自分がどうしようもなく、嫌いになります。
気が付けば、父様に抱きしめられながら泣いていました。
『ナディエージ様、どうか母様を回復させてあげて下しい。
父様と兄様達を悲しませないで。』
その後、母様は奇跡的に回復をして、ベッドで趣味を堪能する事にした様です。
母様曰く、今まで頑張って生きてきたご褒美で、趣味を堪能させてくれる時間をナディエージ神に貰ったのよと優しく微笑まれてました。
母様は我が家のムードメーカーですね。それまで暗かった雰囲気を一瞬で吹き飛ばしてくれました。
そうそう、私に初めてのお友達が出来ました。
ロッテさんの娘のセシルです。
母様の診察の時に時々着いて来ていて、今では診察が無い時にセシルだけで来てお喋りをする仲です。
そろそろセシルが遊びに来る時期です。早くセシルが来ないかしら。
お読み頂きありがとうございます。
この後に閑話を2〜4話入れたいと思います。
なので、本編の更新は明日になると思います。
申し訳ありません、




