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41 彼女はなぜ女として生まれてきた?

前書き



 彼女は当物語における、最凶(さいきょう)危険人物かもしれない?

(物理的な意味ではない)

 ――オッパイ、ブル~ンプル~ン


 今や故人となった某国の総統(フューラー)を扱った映画では、死の前に総統がそんな言葉を叫んでいた。

 むろん、彼の母国語でそれは至極真面目な言葉であったが、日本人が聞けばそうとしか聞こえない。

 だが、沢西健二――ケンジは確信した。


 あれは、プルンプルンじゃない。

 ――オッパイ、ボイ~ンボイ~ン


 今では自分の住処となっている【スプリングフィールド】、その店舗玄関前の通りにいた。そして店舗玄関口から出てきた女性の、とてつもない胸の巨大さにケンジの顔はにやけた。


 地球にいた頃。すなわち現実(三次元)であれば、彼はどれだけ胸が巨大な女性であろうと、所詮は三次元の存在なのだと割り切って、興味を抱くことなどなかった。


 ――いや、決して三次元の世界で手を出したら、警察沙汰とかになるのが怖かったから、諦めていたわけじゃないぞ……


 一瞬疑念が降りかかりそうになったが、慌てて頭を振って打ち消す。


 ここは異世界、二次元の世界なのだ。

 ここが理想郷であるからには、何をやっても許される。



「お姉さん、そこの巨乳のおねえさーん!」

 恥じらいなどまるで持ちはしない。

 ケンジは巨乳美女に向かって、手を振りながら真っすぐに突っ込んでいった。


「どわっ!」

 だが途中、道路の上を走ってきたネズミがいた。三次元世界でも、二次元世界に来てかも、体力は人並み以下。当然反射神経だってダメダメのケンジ。

 どうしてこんなところにネズミが!

 などと思う間もなく、とにかく踏まないようにだけ気を付けて、慌てて歩幅を変える。

 そしてどんくさいケンジは見事に足をもつれさせ、前へに向かってぶっ倒れた。


「なんですとー!」

 倒れながら叫び声を上げるケンジ。


 ――だが待てよ。もしかしてこれはスペシャルイベント!

 そうだ。俺はきっと巨大な膨らみの間に頭を埋めることになって、それでお姉さんが悲鳴を上げつつも、喘ぎ声を出してくれる。

 そのまま、俺は死んでしまっていい。

 そう、ここは理想郷(二次元)なのだから、それで俺は死ぬことができる!


 核心を抱き、ケンジはそのままお姉さんの胸めがけてぶっ倒れて行った。


 ――サッ


 だが、ケンジが胸へ大激突するより先に、目の前の巨乳美女がその場から体をずらした。


「へっ?」とか「えっ?」とか言う暇などなかった。

 ケンジはそのまま豊かで柔らかい胸に激突するどころか、まったいらでものすごく硬い石畳の地面に激突した。


「ギャフン!」

 情けない声を上げる。

 し、しかしまだだ。きっとお姉さんが、倒れた俺に向かって「大丈夫、君?」って優しい声をかけて……


 ――ゲシッ


 声の代わりに、後頭部を踏まれた。


「クソガキ。私に向かって倒れてくるんじゃないわよ。次やったら、脳天に鉛玉をぶち込むわよ」

「……」

 後頭部を押さえつけられ、唇は石畳の道路と悲しすぎるほど濃厚なキスをしている。ケンジは女性に何も答えることができない。


 ――てか、怖すぎ。やめてください!俺、そう言うのに耐性ないの。ただの脆弱な引きこもりオタクだから、恐喝とかマジ勘弁してください。



 だが後頭部の上に置かれた足がグリグリと動かされ、髪の毛がブチブチと言って頭から抜けてしまう。



 ――イヤー、髪が!この歳で後頭部が円形脱毛症とか嫌だー!


 ケンジは悲鳴を上げることもできないまま、巨乳美女に関わってしまった己の不運を嘆いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 別の日。

【海港都市ディール】に住まいを構え、討伐ギルドへの登録も終えたディーヴァ。

 もともと【ノインターシュ】での実績があったため、討伐ギルドへは移籍と言う形になった。そのため当日から高ランクの依頼も受けられる。

 といっても、まずは相棒である魔銃の弾を用意しておく必要がある。


 と言うわけで、愛するヤクモがいる魔銃販売店【スプリングフィールド】へ向かった。


「……ヤクモはいないの?」

 店について早々、ディーヴァは店内にいるのが男2人と言う現実にクラリときた。

 2人の男は、どちらとも銀髪の美女にしか見えないヤクモでない。

 1人はノインターシュの街で常連だったからよく知っているオトナー老。もう1人は冴えない顔と存在感のない中年男だった。


「ディーヴァよ。ここは地獄じゃ」

 そんな中、レジに立つオトナー老が疲弊した顔をしている。

「何が地獄なのよ?」

「この店の2階では、男が3人も暮らしておる。あと幼女が1名じゃが……どこにも美女がおらん。妙齢の美女は、どこにもおらん!」

 そう言い、目から涙を流し始めるオトナー老。


「鬱陶しいわよ、少しは年を考えて泣きなさい!」

 この爺さんは、エロを取ったら何も残らない存在なので、これは危険な兆候だ。

 ディーヴァはこれまで討伐依頼で培ってきた勘から、腰に装備していた魔銃(ハンドガン)に手を伸ばした。


「だからって、私の方に近づいたらどうなるか分かってるわよね」

「チッ、勘の良すぎる奴め……」

 臨戦態勢になっているディーヴァの姿に、オトナー老は忌々しげに舌打ちした。


 ――全く、この爺さんは女がいないと見境がないわね。……まあ、私だって人のことは言えないけど。


 性別こそ違うものの、女性に対しての考え方がある部分で似ている2人だ。




「でも、この店って今ではオトナー老のものなんでしょう。だったら従業員に新しい女の子を雇えばいいじゃない?」

「それがの。ワシって雇われ店長なの。……店員は自分で決めて雇ったらダメってことになってて……」

「ハアッ!?」


 オトナー老は、これでも魔銃ギルドの重鎮なのだ。そんな人間が雇われ店長に成り下がっているとは、とても考えられないことだ。


「リズとの件で、ワシ破産してしもうたろう。その時ヤクモくんから金の支援を受けまくったから、ヤクモくんに逆らえんのじゃよ」

「……」

 オトナー老の落ちぶれぶりに、ディーヴァは呆れ果ててしまった。



 しかし待てよ。

「そういえばリズのことだけど」

「……死んだそうじゃ」

「そうっ」

 小さく答えるディーヴァ。

 ディーヴァは魔銃ギルドに所属しているわけではないが、多少は知っている組織である。この組織の掟であれば、リズの運命は仕方のないことだろう。




 さて、ディーヴァがまだ【ノインターシュ】の街にいた頃。

 リズは、ディーヴァのお気に入りの女性だった。

 もともとリズは娼館で男どもの夜の相手をするために働かされていたが、同性愛者であるディーヴァは、そんな男だけが寄り付く娼館へ足を運び、そこで飛び切りのお気に入りとしてリズを贔屓にしていた。

 女同士であるが、娼館の経営者も正規の料金以上に金を弾むディーヴァを、喜んで受け入れていた。


 しかし後になってリズのことを知ったオトナー老が、彼女に一方的に惚れ込み、娼館に大枚をはたいて身柄を買い取ってしまった。

 それからリズは、オトナー老の店で従業員として働くようになってしまった。


 ヤクモがいなくなり、代わりにリズが店に出てくるようになった。

「ねえ、リズ。昔を思い出して、今夜あたり仲良くしましょうよ」

 そう言って、オトナー老の店で、ディーヴァはリズを口説いたりもした。


 だが、リズは、

「あんたみたいな最低女の相手を、なんでしなきゃいけないの。私はもう娼婦じゃないんだから、さっさと目の前から消えなさい!」

 と言い返されてしまった。


 娼館にいた頃は、仲良くしていたというのに、娼婦でなくなった途端に手の平を返された。

 さすがにディーヴァもショックだった。


 とはいえ、かつては愛した女が、今では死んでしまったという話は、何とも胸に来るものがある。




「人の女を横取りしておいて、店を潰されるは、殺す羽目になはで、最低の爺さんね」

「ムウっ、何も言い返せんわい」

 死んだリズのことを思い、2人はしばし沈黙した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、2人は店の奥にある『特別な客用の部屋』で魔弾の売買を行った。


 それから店の販売スペースに戻ってくると、ちょうどヤクモが帰ってきたところだった。

「ハーイ、ヤクモ」

「ヤクモくーん」


 女に飢えた挙句、禁断症状のせいで見た目が女でも中身が男のヤクモに、手を伸ばしてくるオトナー老。

 さらに、ヤクモの大の苦手とするディーヴァ。

 2人そろっての登場だった。


「ひいっ!」

 口から小さな悲鳴を漏らし、ヤクモは慌ててコウの背後に隠れた。

 店の前でコウとばったり会ったので、2人そろって帰ってきたところだった。



「ディーヴァ、久しぶだね!」

 背後に隠れてしまった従兄弟のことより、ディーヴァがいることに驚くコウ。

 働く先は同じギルドだが、まだ顔を直接合わせてなかった。なのでディーヴァが【ディール】の街に来たことを知らなかったコウ。

 男には興味のないディーヴァだが、コウとは昔のギルドが同じだったし、面倒事から助けてやったこともあるので、それなりに話が弾む。


「しかし、【ノインターシュ】にいたころと比べると、だいぶ成長したようね」

「ハハハ、そうですか」

 などと、コウは笑って返した。


 ――コウにドブサライなんてあだ名をつけられていた時期があったのが、まるで嘘のようだ。




「ところで、ディーヴァ。その頬の傷は?」

「ああ、これ?」

 話ついでに、【ノインターシュ】にいた頃にはディーヴァの右頬になかった傷跡のことに話題が行く。

「実はこの傷、ローザにつけられたのよ」



 コウとの間で話が弾んでいて、とりあえずディーヴァのターゲットにされてないと安堵するヤクモ。

 だが傍で、禁断症状を発症しているオトナー老もいる。

 ――この爺さんの病気も、早く解決させないとな。

 と、ヤクモは考える。



 そんな男同士のやり取りの傍で、ディーヴァとコウの2人は傷の話を進めていく。

「ローザって、【ノインターシュ】のギルドの受付の?」

「そうよ。ギルドの受付で、私の彼女だった子」




 かつて【ノインターシュ】のギルドでは、ディーヴァがギルドの受付に来るたびに、受付嬢のローザと濃厚なキスを交わし合っていた。

 周囲にいる他のギルド員から視線が集まりまくる環境だったが、それは2人の愛の表現を邪魔するどころか、かえって燃え上らせるための刺激(スパイス)になっていた。

 なんとも熱烈な関係にある2人だったが、オトナー老が【ディール】の街へ引っ越すのを境にして、ディーヴァも【ディール】の街へ移ることにした。


 街を移る前に、恋人同士で会ったであったローザとディーヴァは話し合った。

「ねえ、せっかくだからローザも【ディール】へ行かない?」

「【ディール】って、たしかあの男女が行った街よね」

「男女って、ヤクモのこと?」

「そうよ。あの性格が悪いオカマ男!」

 恋仲にあるのはいいものの、ディーヴァは貞操がすこぶる悪い。

 体こそ巨乳の美女だが、中身は男そのものと言っていい性格をしている。それも紳士的な性格でなく、それこそ古代の豪傑のごとく、女性1人で満足できるような玉でない(まあ、女なので玉はついていないが……)。



 どうもローザの中では、ヤクモの存在を恋敵と見ていたらしい。

 この話を現在傍で聞いてるヤクモは、苦虫をかみつぶしたような表情になる。

 ただ、それとは関係なしに、ディーヴァの話は続いていく。



「最低、私よりあんな男がいいなんて。見損なったわ!」

「何よ、私が他の女に手を出すなんて、今に始まったことじゃないでしょう!」

「女だったらまだましよ。なのに、よりにもよって男だなんて最低」

 そんな具合で、2人の間では言い争いになってしまった。

 

 結局話は収まることがなく、ローザは別れると言い切り、恋人関係に終止符が打たれてしまった。


 ただ、それで終わらなかった。

 ディーヴァが街を立つ最終日、ローザに詰め寄られた。

「お願、もう2度と会えないなら、最後にキスだけして」

 ローザの頼みに、ディーヴァは答えた。

 だが互いに口づけしようとしたところで、いきなりローザがナイフを振るってきた。戦闘経験の多いディーヴァだったので、何とか回避した。とはいえ、キスをしようとしていたところだったので、さすがにいつもより警戒が緩んでいた。

 そのせいで、避け損ねたナイフで頬を切られてしまった。




「ちゃんと治療すれば跡は残らなかったけど、残しておくことにしたの。だって、愛し合っていた(ローザ)からの嫉妬の跡よ。触ったら、またローザのことを思い出して、嬉しくなっちゃう」

 そう言って、ディーヴァは愛おしそうに頬の傷跡に手を添えた。



「……」

 無言になり、傷跡のいきさつを聞くんじゃなかったと思うコウ。

「変態女」

 ヤクモはいつも通りだ。ただし、ディーヴァが怖いので、コウを盾に使って、背中の後ろから言っている。

「うーむ。お前さん男として生まれとったら、とんでもない猛者になっておったぞい」

 最後にオトナー老だけは、感心するような、羨ましそうな声を出していた。


 この2人性別は違うが、女性に対する見解が非常に近い。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 沢西健二くん。

 彼はスペシャルな補正効果によって、いつものようにM街道まっしぐらですね~






 そして今回はディーヴァと、ついでに爺様の(ただ)れた女性話の回でした。


 ……なんでこんなキャラを私(作者)は作ったんだ?

 どっから、お前ら出てきた!?



 今となっては作者の乱心しまくっていた心理状態でなければ、生まれてくることがなかったキャラだと思っています。

 ……とか言いながら、こんな話をいまだに書いている作者ですが。



「心が汚れているのよ~」

 清らかでないのは確実なので、仕方のないことですね~

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