表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
責任の在処

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

第三十九話 ちぐはぐな男爵令嬢


 ウェンディがオルフの生存を知る鍵となった。それの意味する事は一つであった。

「つまりアーニャ、あなたはウェンディ嬢が偽物だと気づいたのね?」

「ええ、私は元のウェンディ嬢を知っておりましたから。それ程深い付き合いがあるわけじゃなく、顔見知り程度のものでしたが、それでも十分でしたわ」

 どうやら元のウェンディと余程の違いがあったらしい。時期を考えればそれも当然と言えるが。フランがウェンディとなったのが四年前のため、二年間ウェンディとして過ごしてきた事になる。二年間自体は長い時間だとは思うが、それでも他人になりきるには十分と思えなかった。

 私の微かな記憶にあるフランはただの純朴な少女である。学校でフランが演じていた高飛車なウェンディは、フローレル男爵が求めた貴族令嬢像だったのだろうが、元のフランからあまりにも違いすぎた。

 ただでさえ貴族の作法を学ばなければならないのに、性格すらも変えていかなければならないのだ。そんな簡単に行くわけがない。 

「二年前、一体どこでウェンディと会ったの?」

 ウェンディはソフィアと同じ学年のため、私やアルベルト、アーニャの一個下となる。二年前はまだ学校に在籍していない。だからアーニャは学校にやってくる前の彼女に出会ったのだろう。まだフランの面影を感じる時の彼女に。

「それが、何もない路地でしたの」

「と言うと?」

「ごめんなさい。そうとしか言いようがなくて。場所としては学校の正門に通じる大通りから一本入ったところ。店とかは特になくて本当に移動以外では使わないような道です。彼女、ウェンディ嬢は二年前、そんな路地でずっととある一点を眺めていましたわ」

「…………」

 何とも奇妙な行動であったが、私には心当たりがあった。

「これはセイファート家、ナタリア侯爵令嬢の話なのだけど、昔、彼女は公務の一環で炊き出しをしていたのよ。人が沢山集まるだろうから、なるべく他の人に迷惑かけない場所を選んだの。きっとそこかも知れないわ」

「アーニャさん、あなたが本来のウェンディを知っているように、私達はウェンディに成り代わった人物、フランの事を知っています。昔の彼女はいわゆる孤児で、幼い頃にナタリア様の炊き出しを受けていました」

 私の説明で足りない部分をソフィアが補ってくれた。

「……そういう事でしたのね。何故あんな表情だったのか今ようやく理解出来ました」

 アーニャは合点がいったという風に手をポンと叩いた。

「一体どんな顔をしていたの?」

「そうですわね。何かに焦がれているような、それでいて優しい顔でしたわ。数年前に会ったウェンディ嬢とは似ても似つかないくらい」

「……そう」

 嬉しさと寂しさが同時に去来した。やはりフランは、私が行った炊き出しを良き思い出としてずっと胸にしまっていたらしい。その時彼女が感じていたのは希望だったのだろうか。もはや分からずじまいだった。

「いつもの私なら避けていたでしょう。ホープ家は影のように生きる、そう決めておりましたから。それでも話しかけてしまったのは確かめたくなってしまったからですわ。このウェンディ嬢が何者であるかを」

 今でこそ攻めっ気が強いアーニャであるが、彼女の持つ慎重さは随一だ。学校では無難な生徒を演じ続け、成績も平均値をキープし続けていた。どうしてその時に限ってリスクを取る事が出来たのか。理屈じゃない何かがアーニャを突き動かした。根拠はないけど確信だけはある。それはすなわち、

「予感と言うものかしら?」

「そうかもしれませんわね。あの時私の中に生まれた違和感は、ここで無視してはいけないと言っていましたわ」

「実際話しかけてみて、どうだったのかしら?」

「私が話しかけるとウェンディ嬢は慌てた様子で住まいを正し、私の方に向き直りました。最初こそもたついておりましたが、そこからの変わりようは見事と言うしかありませんわ。彼女はあっという間に私が知るウェンディになっていました。ですが、ウェンディ嬢は一つ、致命的なミスを犯しましたの。顔見知りであるはずの私に初対面のように対応してしまったのですわ」

 フランとしてもホープ家アーニャ子爵令嬢について、知識は持っていたのだろう。でも顔とその知識が一致するかは別問題だ。さらに言えば不意打ちに近い形での出会いである。意図したものではなかっただろうが、アーニャが話しかけたのは、彼女の偽装を見破るのに最良のタイミングであった。

「この時点で私は確信しました。このウェンディ嬢は、ウェンディ嬢に似た誰かなのだと。でも相手に悟らせると厄介な事になる。故に私はこの偽ウェンディ嬢に倣って、初対面を装いましたの。後で裏を調べようと思いつつも」

 冷静で賢い選択だった。しかしどこか煮え切らない様子のアーニャを見て、私は話がまだ終わってない事を察した。

「本来なら無難に話を終わらせて、立ち去るべきだったのでしょうね。ただ私には最初見た素のウェンディ嬢の姿が焼きついておりました。だから最後にお節介を焼いてしまったのです」


 アーニャはそこからフランの意外な一面を語ってくれた。


「私はウェンディ嬢に『一ついいかしら?』と聞きました。そのまま別れる流れだったので驚いたのでしょう。『なんですの?』、そう聞き返す彼女の声はどこか焦りが見えました。今になって思えば何かボロが出てはいけないと必死だったのでしょうね」

 初めての貴族、それも子爵と言う格上、フランの緊張は頂点だったに違いない。

「それまで何と言おうか悩んでいた私でしたが、その懸命な姿が私の中の躊躇を消しました。言う言葉は自ずと決まりましたわ」

「……何て言ったの?」


「『最初のあなたの方が素敵だったわ』、と」


 それはとても素敵で、残酷な言葉であった。アーニャはウェンディの中にフランを見つけたのだ。自分を見つけてもらえたフランはきっと嬉しかっただろう。だがその時の彼女はすでにウェンディとなっていた。他人にフランを感じさせてしまったという事は、まだウェンディに染まり切れてない証明でもある。

「偽物のウェンディ嬢は何か堪えるように下を向きましたわ。どれ程側が上手くても、所詮その程度の者なのかと軽く失望したのを覚えています。しかし顔をあげた彼女からの返事は力強いものでした。


『それでも私に必要なのは今の姿なんです』、


彼女は私にそう言ってのけたのです」

 フランは自分が偽物であるとバレている事を悟ったに違いない。自分の甘さを痛感し、それでも啖呵を切って見せた。

「私はそれ以上何も言いませんでしたわ。彼女はもう決めてしまっていました。この道を進むと」

 未熟でもフランには強い覚悟があった。その行く末がウェンディとしての完璧な姿なのだとすると居た堪れなくなる。しかし私にはどうやったって彼女を救えなかっただろう。フランがソフィアを敵対視している以上、私はフランを敵として見るしか出来ないのだから。

「誰かに偽物である事を知らせると言う選択肢は元よりございませんでした。ホープ家は何より目立ちたくない家でしたから。


『見なかった事にしておきます』


私がそう言った事に彼女は戸惑った様子でした。私は元のウェンディ嬢は嫌いでしたが、不思議とこの偽物は嫌いになれなかったのです。しかし見ず知らずの人間に出来る事はここまでです。そして今度こそ別れる、その瞬間になって彼女は言いました。


『アーニャ様、ありがとうございます』、と。


あれはまぎれもなく彼女自身の言葉だったのでしょう」


 アーニャのフランの話はここで終わりを見せた。



「……聞かせてくれてありがとう」


 私は自然と感謝の気持ちを口にしていた。私が今更フランの事を知りたいなんて烏滸がましい事かもしれないが、在りし日の彼女を知る事は私の喜びの一つとなっていた。決して味方にはなれない関係だが、私としてもフランの事は嫌いじゃないのだ。

「私はナタリア様とあの子の間に何があったのかは知りません。ナンシー会長、あなたの方でこの話が良きものと思えるのであれば、是非ナタリア様にもお伝えください」

 アーニャの優しさが心に染みた。彼女はあえて詳しく教えてくれたのだろう。本来は違和感を持った、それだけで良い話なのだから。


「ええ、必ず伝えるわ」


 私がそう告げるとアーニャは満足そうに頷いた。




視点変更したい誘惑を振り切って、頑張ってナタリア視点で書き切った!

というわけでフランの過去を垣間見る回でした。

色々繋がってきて書いていて楽しいけど、ミスがないかのチェックも大変。


それでは次回またお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ