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オール・ライト 〜冒険者たちときっかけの女神〜  作者: 加藤貴敏


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「守護神」

向こうからやってくる冒険者たちが見えた。必死で逃げてきたようだった。3人の男女は、ニュークス達を見ると他の誰かがいることに安心したのか、その場に倒れこんだ。

「大丈夫ですか!?」

「オレは大丈夫、こいつを」

腹部を刺されたのか、出血している女性にリリアはすぐに治療魔法を施す。リリアの両手から発せられる緑色の光は少し暖かくて、女性はゆっくりと深呼吸する。

「あんたらもアンスケイラを?」

ケインの問いに、剣を杖にして立ち上がった男性は頷く。どうやら右足を動かせないようだった。だからニュークスはその男性に肩を貸し、大きな岩に腰掛けさせた。

「・・・でも、妨害された」

「妨害?マテリアルに?」

「何言ってんだ。冒険者だ。お前らだってSランク目指してるんだろ?Sランクってのは競争社会だ。弱肉強食だ。でも、妨害してきた奴はアンスケイラにやられた。いい気味だ」

女性を治療しているリリアを見て、剣の冒険者は疲れた顔でふっと笑った。

「お人好しだな。競争相手だぞ。オレらは。そんなんじゃどこの誰に出し抜かれるか」

「キングだったら!――」

ニュークスとケインが声を揃えた。

「キング・アルトゥスだったら、怪我人を見捨てない」

まだまだ青年の冒険者2人の表情は真剣だった。でもその青臭さを、剣の冒険者は笑うことは出来なかった。

「キングねぇ。オレもガキの頃はカッコよく見えたっけ。それで、仲間はお熱い青年に付き合わされてってか」

「おい」

ジャックスが剣の男性に詰め寄ろうとした瞬間、その腕を掴んだのはリリアだった。

「私だって自分の理想がある。好きで冒険してる。私は、守護神サンバリクみたいになりたい」

「へー、初めて聞いたな」

ベルナがボソッと呟く。剣の男性は、小さく眉間を寄せた。

「実はね、会ったことあるんだ。サンバリクに」

「えええ!」

それはニュークスもケインも、剣の男性も、みんなが驚いた。リリアは気恥ずかしそうに微笑む。

「どこで」

「5歳の時、家族で旅行して、スニッチャ地方のスカハンビアに行った時。迷子になっちゃって、でもその時、サンバリクが助けてくれた」


守護神とうたわれた、今は亡き冒険者。サンバリク。彼は間違いなく世界で1番のエンチャントマスターだった。常に人を助け、人の未来を護り、絶大な人望があった。彼の支援魔法は世界の宝とも称されるほどだった。



第17話「守護神」



「すごく深いエピソードがある訳じゃないんだけど、泣いてた私にお菓子くれたのは覚えてる。それで、困った人を助けられる立派な大人になれよって。覚えてるのはそれくらい。でもそれで、エンチャンターに憧れるようになって」

「セノはただのひねくれ者だから、気にしなくていいよ」

リリアに治療してもらってる女性がそう言えば、さっきまでの突っかかるようなセノの態度はしおれていく。それから傷口が塞がれれば、女性は安心したようにゆっくり深呼吸した。

「助けてくれてありがとう。2人の面倒は私が見るからもう大丈夫」

「うん」

「お礼に情報をあげる。最近、この洞窟で新種のマテリアルの目撃情報が出てるの。もし討伐でも出来たら、かなりのお宝に巡り合えるかもよ」

3人のチームの治療役だった女性が元気になったということで、ニュークス達は先に進んだ。1歩1歩進む度、異様な静けさを感じ始めた。さっきまではおそらくアンスケイラのものであろう雄叫びが聞こえていたのに、今ではまるで静寂。それから血の臭いがし始めた時、ニュークス達は倒れている男性を発見した。

「おい」

ケインに呼びかけには応答しない。右腕と右脚を失っていて出血もひどい。でも微かに息があった。

「大丈夫ですか?」

治療しながら呼びかけるリリア。やがて、緑色の光の中で男性はかすかに目を開けた。

「大丈夫ですか?」

「・・・・・っ・・・逃げろ」

「誰にやられた」

ケインが問いかけるが、男性はまだ眼差しも虚ろだった。ここはちょうど分かれ道の合流地点で少し広い。ニュークスは警戒しながら、分かれ道の奥に目を凝らす。

「アンスケイラにやられたのか?もしかしてこいつ、さっきの妨害のやつなんじゃ」

「・・・もっと・・・危ない、化け物・・・・・出やがった」

「まさか新種か!?どんな奴だ」

「アンスケイラも・・・そいつに・・・食われた」

「まじか。ここのヌシよりも強いってか。こりゃ楽しみだな」

「いや、一旦引き返そう」

そう言ったのはジャックスだった。

「なんでだよ。オレらだったら新種でもやれるって」

「そうじゃない。アンスケイラがやられる相手だ。依頼はキレイな全体納品。今は厳しいだろう」

「あ・・・いや、だったら尚更すぐ行くべきだ。新種よりも早くしないとだろ?」

「だから、このルートじゃない方がいい。中級コースでもアンスケイラはいる」

「いやでも、新種だって狩れたら、良い武器が作れるかも知れない」

「ケイン、お願い。この人、広場まで運びたい」

「ああ?」

ケインはベルナとニュークスの顔を伺った。どっちもジャックス達に同意しているようだった。

「・・・ああくそ・・・ふうっ・・・分かったよ」

最下部の入り口まで来ればもう安心。でもここで立ち止まってる理由もなく、そのままワープポートのある広場までやってきた。通報して救急隊に来てもらって、そして重症の冒険者は担架に乗せられ、ワープポートに消えていった。その直後だった、周囲の冒険者から拍手が贈られたのは。

「さすが、期待の新星ストームズ。冒険者の鑑だ」

確かに冒険者社会、しかもトップレベルともなれば競争は避けられない。でも皆、人の心がある。こういう時は、人として当たり前のことをするべき。そんなことくらい誰もが分かってる。称賛されて気分が良くない訳はないが、ケインはすぐに動き出したくてうずうずしていた。でもそんな時だった、ニュークス達の下に1人の中年男性が近づいてきた。銅色のペンダントをぶらさげていた。

「君達、新種のマテリアルは見なかったか?目撃情報を基に調査しに来たんだが」

「いえ、まだ見てません」

「そうか」

「でも近かったんじゃないか?さっきの怪我人、アンスケイラがやられたって言ってた。目の前で見てたんじゃ」

「なるほど。新種は確実にいるってことか、これはマズイ」

「え、何が」

「何がって、新種だぞ。つまり生態系が崩れる可能性が高い。一過性のものであればいいが、棲みかにして繁殖でもすれば、環境がガラッと変わってしまう。最悪、冒険者の憩いの特訓場でなくなるかも知れない」

「おいおい、そんな」

周囲の冒険者がどよめく中、そのSランクの男性は冷静に冒険者達を宥める。そしてしわくしゃのジャケットの内ポケットからカードを取り出してみせた。

「私は生態系保護管理局の者だ。これより新種の調査と、必要と判断すれば討伐を行う。現状の環境はしっかりと保護するから安心してくれ」

「おおー」

「さすがSランク」

そうして、作業服チックなカジュアル装備のSランク男性は颯爽と上級者コースに消えていった。

「マズいぞ、オレらも。おっさんに先越されたら新素材が。なあ!いいよな?やっぱり諦めたくない」

いつだって高みを目指すケイン。その姿勢に何度も背中を押されてきた。そうジャックスはベルナと頷き合った。

「もう重荷は降ろしたからな」

喜んで走り出していくケイン。

「頑張れよ!ストームズ!」

冒険者達に見送られながら、そうしてストームズも上級者コースへと進んでいく。

「リリ!」

「うん」


エンチャント。つまり支援魔法の基礎、それは身体能力の向上。それを習得すれば小学生でも50キロの荷物を担げる。そして世の中にはいろんなアレンジレシピが出回っている。基礎をマスターするのもいいし、自分だけの魔法を組み立てるのも冒険の醍醐味というもの。


まるでトレイルランニングのように走って、たった20分ほどで最下層に着いたニュークス達。でもSランク男性には追い付いていない。それから重症男性が居た地点までやって来て、分かれ道を前にする。

「なんだこれ」

地面を抉ったような跡、それを見つけたのはケインだった。きっとその先に何かある。そうニュークス達は手掛かりの方へと進んでいく。そもそもここは海底洞窟という名の地下迷宮。どこかとどこかが繋がってたり、その先に手強いマテリアルがいたりする。でもそこでニュークス達が見つけたのは、アンスケイラの遺体だった。しかも体の右半分が食われていた。

「こいつじゃないか?さっき言ってた食われたやつって」

「そうだな」

「近くにいるのか」

「でも、新種の活動範囲が広かったら分からない」

「足跡じゃない?」

リリアが見つけたのは、三本指と思われる窪みと、かかとと思われる窪み。明らかにアンスケイラのものではない。かと言ってここに棲む他のマテリアルのものとも違う。やがてニュークス達はとても広い空間に辿り着いた。「港」と呼ばれる有名な場所。海へと繋がっていて、海洋マテリアルにとって、文字通り、港として使われる空間。

「あっちだ」

アンスケイラの鳴き声がした。重機のエンジン音のような深く重たい響き。駆け出していくニュークス達。すると向こうからアンスケイラがやってきた。無傷の状態だった。でもそれを追いかけてくる存在があった。アンスケイラの2倍はある巨体を有するドラゴン系マテリアルだった。

「うっわ。あいつ」

向かってくるアンスケイラは逃げていた。人間なんか気にすることもなく、ニュークス達を通り過ぎていく。

「食われてたまるか」

ケインは小さな光から武器を取り出した。それは長い柄の先に、対になって斧とハンマーが付いた、ケインらしい重量級の武器だ。

「りり!250!」

「おっけー!」

すぐさまリリアが魔法を発動させる。レーザーポインターのように、一直線に赤い光がケインに入り込んだ。エンチャント、250パーセント。それはすべての身体能力が250パーセント上昇するというもの。ゲームセンターにあるパンチングマシーンによる測定では、成人男性の平均パンチ力はだいたい150キロがいいところ。

「うおおおらああ!」

振り回されるハンマー。増強された筋力と遠心力による打撃を、ドラゴン系マテリアルはガードした。

「だったら私は300だ!」

「うん!」

赤い光が入り込んだ瞬間、ベルナは凄まじくジャンプした。そしてそのまま猛スピードで、ドラゴン系マテリアルの懐にストレートパンチを叩き込んだ。洞窟内に響き渡る打撃音と、呻き声。ドラゴン系マテリアルは立ち止まり、怯んだ。そして目の前の2人の人間にようやく敵意を見せた。

「ウオオガア!」

直後にドラゴン系マテリアルは翼を大きくはためかせて飛び上がった。何故なら足元に魔法陣が浮かび上がったから。

「くっ」

拘束魔法から逃げられてしまったSランク男性がやってくる。

「君達」

「おっさん、オレ達だって新素材が欲しいんだ」

「2人とも、そいつは任せる。オレとジャックスでアンスケイラは仕留めておくから」

「おう!!」

Sランク男性は冷静に冒険者チームを見定めた。どうやら唯一の魔法使いはエンチャンターらしい。”エンチャントされた近接攻撃者”は、魔法使いよりも行動範囲が広く俊敏で、手数は少ないが判断が早い。確かに腕の良いチームだろう、と。

「共闘は許可する。無理はするなよ?」

「おう!」

「りり、250で」

「オレは200」

「りりはあいつらを見てて」

「うん」

250パーセント増強のニュークスがアンスケイラを追いかける。同時にスナイパーライフルを構えたジャックスはスコープからアンスケイラの背中を捉える。銃声は静かだった。銃弾が突き刺さった途端にアンスケイラの動きが鈍くなる。そこにニュークスが仕留めにかかった。狙うのは頭。逃げている生き物というのはパニック状態。つまり全くの無防備だ。楽勝だった、かに見えた。

「なにっ」

ニュークスの剣は、アンスケイラの頭には刺さらなかった。皮膚が硬すぎた。とりあえず頭を蹴り、ジャンプして離れる。何故ならアンスケイラが掴みかかってきたから。もちろんリサーチはしていた。とんでもなく皮膚が硬い相手だと分かっていた。けど比較的頭は皮膚が薄いとも書いてあった。アンスケイラが体をこちらに向けてきた。隙はもう無い。戦闘態勢だ。その瞬間に銃弾が2発突き刺さる。

「なんてタフなんだ。全く動けなくなるはずの神経毒だぞ。3発でも動いてやがる」

「グルルル・・・」

アンスケイラの喉が赤みを帯びた。すぐさまニュークスは小さな光から盾を取り出す。それは一見すると直径50センチの円盾だが、スイッチ1つで仕込まれていたプレートが飛び出し、それは直径150センチの大きな円盾となる。アンスケイラが吐き出したのは、火炎球。でもニュークスは後ずさりながらも何とかガードした。

「オレが引き付ける。銃弾で仕留めるしかない」

「あぁ」

ジャックスが小さな光から銃弾を取り出し、装填してる最中にもアンスケイラは火炎球を吐き出す。押されていくニュークス。そしてジャックスがスコープを覗いた時、アンスケイラはジャックスを見た。

「チッ」

横にジャンプするジャックス。後方支援のジャックスでも身体能力を増強させてるのはこの為。

「こっちだ!」

小さなボールを投げつけるニュークス。そのボールは、アンスケイラの顔に当たると破裂し、粘着性のある液体をまき散らした。なんか知らない変なものが顔を覆って、必死に取り始めるアンスケイラ。その直後、銃声が囁いた。銃弾が刺さると、アンスケイラは卒倒した。

「さっきの神経毒と、昏睡弾が相まってもう動けないだろう。昏睡弾には心臓の動きを止める毒もある。ゆっくり眠って死んでいくはずだ」

「さすが」

ニュークスとジャックスが合流した頃には、もうドラゴン系マテリアルは絶命していた。でもケインの武器の柄が折れ、斧も粉砕されていた。

「おう、来たか。危なかったけど、おっさんがいて助かった」

「いや、こっちも助かったよ。1人ではもっと手間取ってた」

その日の夜、リバナは個人事務所兼自宅の、庭に人工的に波を作り出してサーフィン体験が出来るプールのある大豪邸に居た。ウッドデッキにあるテーブルでスマホを見ていた。依頼完了の手続きをして満足げだった。ビデオ通話の相手はニュークス達。

「ニュース見たよ。ハプニングだったね。どうやらここいらの海域には生息してないマテリアルの亜種らしいけど、それでもアンスケイラと同時に討伐しちゃうなんてすごい。しかも迅速な人命救助も素晴らしい。さすが期待の新星だね。テストは文句なしの100点。魔法のレシピを教えてあげる。あとでメールで送るから、それを習得したら、深海チャレンジしたらいいよ」

「ありがとうございます」

スメベリー海岸にある少し高級なホテルのロビー。ニュークス達は静かに喜びを分かち合った。しかしそれからすぐに送られてきたメールに、リリアは愕然とした。

「むっず。こんなのすぐに覚えられるかどうか」

「全然時間かかってもいいよ。オレだって武器新調したいし」

ニュークスはふと夜空を見上げた。星空がキレイだった。

読んで頂きありがとうございました。

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