37.合法的無免許運転
服部さんも隼人も相当疲れたようだ。すぐにアンドレアに促されて車に乗った。
ミゲルの荒い運転で出発した。
「皆さんなんか・・老けましたか?」
「老けてないわ」
アンドレアの意外な発言に間髪入れず服部さんがツッコミを入れた。隼人ではなく服部さんがツッコミを入れるとはそれもそれで驚きだが、俺たちは相当階段にやられてるんだろう。こんな若い連中が老けたと言われることなんてそうそうないことである。
「あら、失礼しました。あの長い階段は厄介ですからね」
「本当ですよ~この僕もキツイですよ~」
「いや、でも服部さん。あれだけ長い階段を上らないとすべてのチョコレートヒルズを見渡せないんですよ」
「ん~あの景色の圧巻さは凄かったから説得力あるな~」
「苦労した先にしか絶景は現れないんです。神様は楽して満足はさせてくれません」
日本人的感覚とフィリピン的感覚が上手く混ざったような考え方だ。日本に精通しているアンドレアらしい解答といったところか。この発言に服部さんは目を見開いている。
「えぇ!?え、あ、はい!その通りですね!」
予想だにしていない返答だったらしく、返す言葉がパッと出てこなかったようだ。アンドレアが日系人であることを疑っていたわけではないが、改めて彼女の根底に日本人が存在していることがわかった。このアンドレアとはボホール島でお別れだから悲しいものだ。
「痛ッ!」
道の悪さは健在で、車の衝撃に気を抜いた隼人が一瞬浮いた。特にここら辺の道は悪路だ。もうこの道の悪さを感じられるのは明日まで。明後日の朝早くに日本に帰るからだ。今日のボホール島もそろそろ終わるはずだ。なんせ広い島内に散らばっている観光スポットを巡っているという観光方法なので、移動時間が昨日と比べて長い。観光スポットが昨日より少ない数しか回れないのだ。明日も移動時間が長いので1日がすぐ終わるはずだ。1つ1つを全力で楽しみたい。
「では、皆さん運転しに行きますよ」
アンドレアは明らかに説明不足な情報を口にした。多分次の目的地についてなのだろうが、どういうことだろう。運転するという断片的な情報だけでは推理することも不可。
「アンドレア・・・運転って?」
俺はもちろん疑問を投げた。
「それは着いてからのお楽しみにしておきましょう」
「期待させてくれますね」
「今から行くところお客さん連れてくと評判いいんですよ」
「それは楽しみですね~」
何を俺たちは運転するんだろう。
免許はちゃんと持っていることを頭の中で確認はしたものの、所持している免許は日本でしか効果を発揮しない。海外では全く意味のないものだと気が付いて焦っている。
こんだけアンドレアが期待をさせておいてまさか運転するものが原付とかではないだろう。それこそ自動車教習所みたいなところで原付を運転しはじめたら一番面白いかもしれない。ニコニコのアンドレアに声出して笑うミゲル。真顔で時速30/kmの原付で走る我々。場所は教習所。こんな絵面を俺は見たくない。土産話としての点数は高いという利点はあるだろうが、できればその状況は避けたい。
今日は基本的に移動時間が長いけども、次も長いのだろうか。
「アンドレア。そこまでは長いんすか?」
「いえ、近いですよ。寝ない方がいいです」
「あ、はい」
移動時間全部寝ていると思われている。否定はできない。寝ない方がいいと言われたなら流石に寝ない。
「皆サーーン!!着きましたヨーーー!」
「!?」
俺は全てを悟り、自らの意思の弱さを受け入れた。近いから寝るなと言われて寝ないと決めたのにも関わらず、その意思をないがしろにするかのように即効寝たようだ。
目を開けて頭を強制的に稼働させると、俺は念のため他の2人を見た。
「お前らもか・・・」
「グワッ・・」
誰かが寝ると睡眠を司る部分が同期するかの如くもれなく全員寝る。
「もう今日の移動時間記憶ないよ・・」
そう車の中で言い残して俺たちは車を降りた。
眠い目をこすると見間違いじゃなければ目の前にバギーが見える。いくら頭が冴えていないとはいえ見間違いするとは思えない。そして、次に頭が考えた疑問点はなぜ目の前にバギーが鎮座しているのかだ。事前にアンドレアから言われている情報を合わせると、答えは1つしかない、俺たちが運転するのはこいつだ。
「バギー!!!!???」
服部さんの驚きは至極真っ当な反応だ。
「これ免許いらないのか??」
隼人の疑問点も至極真っ当な意見だ。
「これは正真正銘バギーです。免許はいりません」
アンドレアによって俺らの疑問点は一瞬で片づけられた。これはバギーだし、免許はいらない。つまり、これを運転しろという声なき指示がなされた。
めちゃくちゃ楽しそうだという気持ちが心の底から湧き上がっている。
免許が必要ないというのは甚だ驚きだが、乗れる機会というものはあまりない。この絶好の機会を存分に楽しみたい。




