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38.天翔るバギー

俺たちは簡単なレクチャーを受けた。ミゲルもバギーに乗るらしく、通訳を兼任してくれている。


「では、皆さん!行きマース!」

「おぉーー!!!」


俺は習ったようにハンドルを捻った。すると、本当にバギーは前へと進んだのだ。操作方法はバイクと同じらしい。手元のハンドルでアクセルとブレーキを担うのだ。

思ったよりも速さが出る。バギーガイドが先頭を進み、俺たちはその後に列を成す。最初は森の中をひたすらに進むらしい。進んだ先に広場があるとのこと。


「うおぉぉぉぉぉ!」


服部さんが相当興奮しているのというのは後ろから伝わる。けたたましいエンジン音が鳴り響くのに、彼の声は鮮明に聞こえる。


「服部さん!楽しんでるね!」

「うぉぉぉ!!」


どうやら聞こえてないみたいだ。俺の声はよく聞こえにくいと言われる。そんな声がこのエンジン音の中聞こえるわけない。大きな声で呼んでみればどうにかなるか。


「服部さん!!楽しんでるね!!!」

「うぉぉぉ!!」


これはもう無理だ。諦める。声が届かなさすぎる。


「・・・・」


次は前を走る隼人が何か言ってる。


「隼人!聞こえない!何?」

「・・・・」


これはもう無理だ。諦める。声が聞こえなさすぎる。

この乗り物に乗ってる以上コミュニケーションが成り立たないらしい。

隼人には身振りで聞こえないことは伝えた。

すると、大人しく前を向いた。彼も伝えるのを諦めたのだ。


「うぉぉぉ!!」


そして、相変わらず後ろはうるさい。

森の中は簡単に土の道ができており、迷う心配はない。ただ、傾斜が急な場所があったりするので、面白い。


「ん?止まった」


前のガイドがあるところで止まった。俺は目を凝らしてよく見ると、とてつもない傾斜の坂があるのが分かった。坂と言うには短い。木の根っこが大きく隆起しているため、斜面になっているという言葉が適切か。これは登れるのだろうか。


「えぇ!!!」


ガイドは躊躇いなくアクセルを回してその斜面を登った。バギーが天に向かって走ったのかと思った。


「YEAH!!!」


ミゲルも躊躇なく行った。こうなると残ったのは我々のみ。行くしかない。まずは隼人だ。

(チラッ)

こちらに目をやってきたが、何を意味しているかは分からなかった。行ってきますという意味であっているのだろうか。


「ぎゃあ!」


隼人らしからぬ声が天に向かって発せられ、見事乗り越えた。こちら2人は拍手で称えた。次は俺だ。汗ばむ手を服で拭いてハンドルを握った。登るとなると急に斜面が高く感じる。恐怖も発生してきた。そんな恐怖を抱きながら俺はハンドルを回した。勢いよく発車したバギーはとてつもない角度で斜面を登り始めた。


「おぉ、お、おぉ!!ぶわぁぁ!」


凄まじいお尻への衝撃が斜面を登ったことを祝福する。無事に登れた。

ひと安心したが、まだ1人いる。

凄まじい形相でハンドルを握っている。意気込むかと思ったら、すぐに斜面に向かって発進しだした。肝が据わってるのかミゲル達同様、躊躇いなく突っ込んできた。


「うぉぉぉ!!」


飛んだ。いや、晴天に向かって走った。そう、スピードを出しすぎたのだ。服部さんのバギーはコンマ何秒の世界ではあるものの、地から離れていた。俺は目を見開いてその状況を見ているが、無事なのだろうか。


「服部さぁぁぁん!」

「服部ぃぃぃ!」

「ナイストライ!!デース!」


俺と隼人の心配を差し置いて、ミゲルは服部さんの素晴らしいジャンプに激励を送る。


「お、俺浮いたよね!?バギーと一緒に」


服部さん自身も浮いた感覚があるらしい。当人ならかなりの恐怖だったと伺える。


「浮いたね…間違いなく…大丈夫か?」


隼人は依然心配しているようだ。


「色々痛いけど無事だよ〜」

「大丈夫じゃねえじゃんそれ」

「鍛えられた贅肉のおかげでそれがクッションになったのさ!」

「そ、そうか…」


隼人は呆れている。ツッコミする気も起きないらしい。


「ハイハーイ!行きマスヨ〜!」

「はーい」


急斜面を全員無事に乗り越えられたことに安堵し、先に進む。

このとんでもない急斜面を経験すると、その後の道は何も怖くない。最初こそ慣れない運転にビビっている部分もあったが、あの斜面から運転に恐怖を抱かなくなった。何事も経験が大事だということだ。

間もなくひらけた場所に出た。

見た目で俺は全てを察した。ここは土のサーキットだ。1周70メートル程のトラックという感じだろう。


「ここで止まってくだサーイ!」


ミゲルの指示に従い、トラック内の芝生が生えたところで一時停止した。


「ここで思う存分グルグル走り回ってるくだサーイ!」


このトラック何周してもいいから、好きなだけバギー乗り回していいぞというメッセージだろう。そんなこと言われたらちゃんと乗り回したくなる。


「よし!走るぞ!」


そう俺が彼らに発破をかけて、各々サーキットインをした。森の中とは違い、思う存分スピードを出してもいいのだ。転ばなければではあるものの、全員免許を持っているのでそんな変なことはしない。多分。


「これは最高に気持ちいねぇ!!」


俺はわかりやすいくらいテンションが上がっている。四輪バギーで走り回るなんて男の子であれば誰だろうとテンション上がるだろう。

風が気持ちいい。バギーの疾走感はなんて心地いいのだろう。おしりの痛さを忘れそうだ。バイクは二輪だが、こちらは四輪。安定感があるから存分にスピードを出せる。俺はどこまでも走っていける。


「ハァ…ハァ…」


ありえないくらい疲れた。最初こそ調子に乗って乗り回しをしていたのだが、慣れない運転なので身体が適応できず、一気に疲れたのだ。身体に変な力が入っていたためだろう。


「クソ…こんなに疲れる予定では…」


隼人も想定外の疲れ方らしい。

トラック内芝生の部分で疲れているのは2人だけ。俺はテンションの高い声がするトラックの方へ目を向けた。


「うぉぉぉ!!」


なんで服部さんは何ともなくまだ走り回っているんだ。さすがにおかしい。


「なぁ隼人。あいつおかしくねぇか」

「ん、あぁバギーの才能あるんじゃない?」


隼人の脳に酸素が行っていないのか、適当な返事が返ってきた。


「お前めちゃくちゃ疲れてんな」

「いや、樹里もかなりそう見えるが?」

「全然!筋肉痛になりそうなくらいだよー!」

「良かったよ。ちゃんと疲れてるね。俺だけ疲れてるなんて嫌だからさ」


こちらは感想戦に入っている中服部さんは如何せん未だ走り回っている。彼の底知れぬ体力なのか才能なのか結論付けることは不可能ではあるが、存分に発揮している。

服部さんも俺らが走り終えたことを察知してこちらに戻ってきた。

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