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明日の約束・7月【4】












 お手洗いを済ませ、晴季と直哉とも合流する。夜なので、外は暗い。売店の中で待っている、と梛の携帯端末に連絡を入れた。

 晴季に飲み物を与えていると、直哉が「透一郎」と肩を叩いてきた。


「何?」

「梛ちゃん、ナンパされてない?」


 自分でもびっくりする勢いで振り向いた。売店の入り口のところで梛が三人組の男に捕まっていた。今日の梛はどこからどう見ても女の子にしか見えない。つまり、見た目はただの美女である。

 透一郎は若干足を引きずりながら梛の元へ向かった。

「私の妹に何か用かな」

「兄さん」

 三人組に声をかけたが、梛が反応して透一郎を支えた。男たちには妹が兄に縋りついたように見えただろう。男たちに向かって微笑むと、彼らは悪態をつきながら離れていった。


「余計なお世話だったかな」


 梛なら自力で振り払ってきただろう。助けたかったのは透一郎のわがままだ。梛は透一郎を支えたまま小首をかしげて透一郎の顔を覗き込んだ。

「いや、私だと殴っていたかもしれないからね。ありがとう」

 この妹にはそう言う優しいところがある。透一郎は「うん」とうなずいて透一郎は妹の頭を撫でた。

「姉さん」

 晴季が梛の腰にしがみついた。圭と直哉も近づいてくる。

「お前、シスコンもたいがいにしておけよ」

 圭が呆れたように言った。直哉も「びっくりした」と笑っている。

「梛ちゃん、可愛いから」

「可愛いと言うより美人だよな」

 直哉と圭の言葉に、梛は苦笑して「ありがとう」と答える。そう受け入れて流せるあたりが梛が男前だということだろう。

「梛ちゃんも大学生だし、男避けなら指輪とかがいいだろうけど、俺たちはなぁ。ちょっとなぁ」

「私たちは刀を握るからね。せいぜいブレスレットかネックレスかな」

 それらはやはり、指輪ほどの効果はないだろう。祐真なら喜んでペアリングでも選んでくれそうだが。


 刀を握る以上、梛も圭も手に何も着けないだろう。手袋を着けることはあるかもしれないが、邪魔になるものはつけない。現役なら透一郎もつけないだろう。だが、彼が刀を握ることはほとんどない。梛の手首を見る。彼女の手首には銀のブレスレットがついてる。『陽炎』の身分証だ。認識票でもある。圭も同じものをつけていた。かつては、透一郎も所持していたものである。

「兄さん? どうかした?」

 梛の左手首を見つめていたので、不審に思ったのだろう。声をかけられた。透一郎は微笑む。

「いや。香江に指輪もプレゼントしたことがないなと思って」

「ああ、いいんじゃない?」

 梛が笑ってそう応じた。違うことを考えていたとわかっているだろうに、そう答えた。本当に、妹に頭が上がらなくなってきている自覚がある。


 笑っていた梛がふと真面目な表情になり、外に顔を向けた。大勢の人間が、この売店に集まっている。土産屋やレストランも併設している、かなり大きな建物であるが、結構人口密度が高い。梛は女性にしては背が高いが、この中では埋もれてしまう。現に、ここにいる成人男性三人よりは小柄だ。ガラス張りの壁であっても外は見えないだろう。まあ、彼女には関係ないが。

「梛」

「来るな」

 梛が目を細めて言った。圭がすかさず「姿は」と尋ねる。

「大きな……トラ? 猫かな。窮寄に似ているけれど、違うと思う。数は三」

「三かぁ。梛ちゃん二体倒せる?」

「刀があればね」

 二体どころか一掃できる気がするが。武器があれば梛と圭がいる時点で戦力過剰である。

「今の状況だと、兄さんと直哉さんの方が戦力になるかもね」

 梛は笑いながらそう言い、売店の外に向かった。透一郎も晴季を連れて外に出た。中の方が安全なのかもしれないが、側にいないと透一郎たちが不安だ。

「梛ちゃん、今どの辺りだ」

「南西五キロ地点。今の速度だと、二分で会敵する」

「お、おお」

 圭が引いたようにうなずいた。どうしても、主な戦闘員はこの二人になる。


 きっかり二分。ガウ、と鳴き声が聞こえた。圭が悲鳴を上げる。

「いや、思ったより大きいんだけど!」

 確かに、勝手に大きめのトラくらいの大きさを想像していたが、自動車くらいの大きさがある。思ったより大きい……。

 悲鳴が上がる。人々が大きなトラを避けるように逃げ出した。今気づいたが、人面だ。

「うわぁぁああん!」

 透一郎にしがみついて泣き声をあげたのは晴季だ。確かに、九歳にこれは怖いだろう。中に置いておくべきだったか?

「はる、中に入っていなさい」

「やだ! 兄さんと姉さんの側にいる!」

 かたくなに晴季が透一郎から離れないので、梛が晴季を抱き上げた。さすがの彼女も、九歳の子供を抱き上げるのはかなり厳しい。実際、晴季を抱き上げたときによろめいた。

 直哉の魔術が人面トラを攻撃した。間髪入れずに透一郎の冷却魔法が放たれるが、足を凍らせただけで振り払われた。術関係になると、梛の干渉力は低い。


「うぉああっ!」


 圭が声をあげながら人面トラを投げ飛ばした。街灯が一本折れた。


 梛は直哉と共に術式を組んでいる。念動力の強い透一郎と圭とは違い、梛は術式を組まなければ無手で攻撃をすることができない。神式と西洋式であるが、大きく違わないだろう。お互いに干渉しあわないようにすることもできるだろう。

 透一郎の氷の槍も周囲を壊しながら人面トラを追い回す。しかし、慣れないのでうまくいかない。

「梛! 梛!」

「何!?」

 晴季を抱えたまま梛が透一郎に問い返す。梛の刀印が人面トラに直撃した。これは陰陽術のような気がする。依織に習ったのだろうか。

「僕が足を止めるから、斬れるか!?」

「了解!」

 間髪入れずに梛が返事をした。ちなみに、竹刀は圭が持っている。

「いるか!?」

「いい!」

 梛が手に持っているのは扇子だ。いたって普通の扇子である。ただ、梛の呪具でもある。


 梛は晴季を透一郎に預けると、人面トラを蹴り飛ばした。先ほどまで梛が攻撃魔法で追い回していた人面トラは直哉が拘束しようと必死になっている。

 図体が大きいくせに機敏に動く人面トラに対し、透一郎は行動範囲を狭めることで対応した。広い範囲に干渉して、氷で人面トラを追い詰めていく。地面が凍っていく。周囲を冷気に閉ざされて行き場をなくした人面トラが一瞬動きを止める。それを見逃さず、梛が閉じたままの扇子を一閃した。

 何度も言うが、本来、梛の能力はその手段を選ばない。何なら手刀でも切れるくらいだ。だが、彼女の中でも自分の能力を発動する条件があるのだろう。そこら辺を、とやかく言う気はない。実際、扇子で梛は人面トラの首を落とした。一度失敗して前足も落とされている。二撃目で倒したのだろう。


「わあぁぁあ! 兄さぁん!」


 晴季が悲鳴を上げた。直哉が取り逃がしかけたらしく、下がっていた晴季を人面トラの一体が襲おうとしている。確実に透一郎と梛の泣き所ついてきていた。

「はる!」

「兄さんしゃがんで!」

 背後の梛の声に従ってしゃがんだ。しゃがんだというか、こけた。何とか左手をついた。その頭上を梛が飛び越えていく。危なかった。しゃがまなければ絶対に踏まれていた。

「直哉さん、晴季をお願い!」

「え? え!?」

 そう言いながらも直哉は晴季を抱き込んだ。梛が扇子を開いて一閃する。風の刃が空間を切り裂く。そばの木を巻き込んで二体目の人面トラが倒された。胴体が真っ二つになった。間を置かずに圭も竹刀で人面トラを倒している。結局、梛が二体斬った。

「兄さん大丈夫?」

「ありがとう」

 梛に助け起こされながら、透一郎は笑う。大丈夫かと尋ねた梛の方が満身創痍だ。大けがはしていないが、受け身を取り損ねたような擦り傷もある。


「兄さぁん!」


 晴季が透一郎に抱き着いてくる。その頭を撫でて言った。

「中に入っていた方が怖くなかっただろうに」

 すると、晴季は真剣な表情で透一郎を見上げた。

「兄さんと姉さんの側の方が安全だもん」

 ぶは、と圭と直哉が噴出した。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


別に梛はナンパされたからと言って、相手を殴ったりしません。一応、念のため。


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