表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/156

番外編【4】












 無事に大学受験を乗り越え、合格を果たした梛は、明日香、律子とともに卒業旅行に来ていた。まあ、ちょっとしたお出かけである。西洋風の街並みのテーマパークに来ていた。現在は貸衣裳で探索中である。


「あたしらって和装はするけどさ、実はドレスとかってあんまり着る機会ないよね」


 と言って貸衣裳の店に飛び込んだのは明日香だ。律子も興味があったようなので、梛も一緒について行った。一人だけ仮装していると浮くから、と三人で中世風のドレスを着た。背の高い梛が着られる貸衣装はあるのか、と思ったが、あった。種類は少なかったけど。

「というか、よく考えれば、明日香ちゃんはドレスを着る機会はあるのでは……?」

 白い日傘を持った律子が首を傾げた。日傘は、写真を撮るときだけ開かれた。後は持っているだけだ。白いフリルの少女趣味な日傘である。弘暉が好きそう。

「まあ、他の人よりはあるかもだけど、こういう、いかにも貴族! って感じのは着ないじゃない?」

「着たいなら止めはしないけど、二度見は必然だろうね」

 梛が落ち着いて明日香にそう返した。明日香は正真正銘のお嬢様だ。梛や律子よりは、こういう格好をしなければならないフォーマルな場に出る機会がある。


「というか、梛もでしょ。透一郎さんに連れていかれないの?」


 明日香に聞き返された。透一郎は某医療器具メーカーの社長ではあるし、もっと言えば、怪異対応機密局のお偉いさんでもある。だから、透一郎自身はそう言った場に赴くだろうが。


「基本的に、私は関係ないからね。護衛に連れていかれたことはあるけど」


 透一郎は、妹を連れまわすような人ではない。まあ、少し前の兄妹の関係を考えれば、気軽にパーティーなどに誘えなかっただろう。

「今なら、私を連れて行くよりも香江さんを連れて行けってところだね」

「ああ、うん……そうね」

 明日香が複雑そうにうなずいた。まあ、初恋が透一郎らしいので仕方がないとも思う。なまじ香江のことも知っているので余計に複雑なのだろう。


「あ、えっと、二人とも、あそこに入りませんか!」


 律子が空気を読んでホラーハウスを指さした。妖魔退治をしている彼女らがそんなところに入ってどうするのだ、と言う感じだが、梛も「いいね」と同意した。明日香と手をつないでホラーハウスに入る。

 子供も入れるくらいのホラー具合なので、めちゃくちゃ怖いわけではない。作り物だとわかるが、前触れなく脅かされるのはさすがにびっくりする。今も右側の井戸から女性の幽霊が飛び出してきて、明日香が悲鳴を上げて梛にしがみついた。

「明日香、歩きにくい」

「梛ちゃんは全然驚きませんね……」

 梛の左手にいる律子も、梛のドレスの袖をつまんでいる。女の子っぽくてかわいらしいなぁと思うが、梛にはできない芸当だ。そして現状、二人に引っ付かれている梛は身動きがとりづらかった。

「いや、びっくりはしてるよ。顔に出ないだけで」

「なんかそれ、前にも聞いたわね……」

 明日香が梛を見上げながら言った。もはやポーカーフェイスが張り付いている梛は、驚いたくらいでは表情筋が動かないのだ。どうしようもないのだから仕方がない。


 最後に幽霊と写真を撮り、ホラーハウスを出る頃には衣装の貸し出し時間の終わりが迫っていた。その足で貸衣装屋に戻り、自分の服に着替えた。

「もう少し着てたかったなぁ」

「買うのはどうでしょう……?」

「そうなると、冷静な自分がどこに着て行くのよ、って言う」

「なるほど」

 明日香の言葉に、律子が笑って納得した。梛もなんとなく理解できるな、と思いながら二人の後について店を出る。少し歩いたところで、律子が梛のコートを引っ張った。

「あの子、どうしたんでしょうか」

「ん?」

 つられるように梛と明日香も律子の視線をたどると、運河を模した川沿いのベンチに、小さな女の子がぽつんと座っている。黄昏時で、周囲に親らしき人がいない。三人は顔を見合わせたが、最初に声をかけたのは明日香だった。


「お嬢さん。一人? 誰かと待ち合わせかな」

 迷子だとしても保護しなければならない。女の子と視線を合わせた明日香は、朗らかに尋ねた。女の子は何を言われたのかわからない、と言うように首を傾げた。

「誰と一緒にここに来たの? お父さん? お母さん?」

「……おばさん」

 ぽつんと女の子が答えた。その時、梛は女の子の目を見ていた。明日香の隣にしゃがみこみ、女の子の目を覗き込む。

「梛?」

「この目は」

「動かないで」

 梛は頭の後ろに鉄のようなものを押し付けられたのを感じた。銃だ。梛は両手をあげる。

「そこの彼女は離れなさい。お前は立って。ゆっくりよ」

 声音から梛たちよりいくらか年かさの女性と見えた。千里眼を使えば背後も確認できるかもしれないが、そこまでの状況ではないだろう。梛は両手を上げたままゆっくりと立ち上がる。明日香はびっくりしたように固まっていた。

「離れて」

「う、うん」

 梛に言われてはっとしたように明日香は動く。女の子は「おばさん」と梛に銃を突き付けている女性を見て声を上げた。


「お母さん、いた?」

「それがねえ、先に帰っちゃったみたい。おばさんと一緒に帰りましょ」

「ええ~。いっしょにはなび見るってやくそくしたのに!」

 女の子がむくれる。梛がその『おばさん』に銃を向けられている、と言うのを理解できないのだ。

「あんたたち、こいつの命が惜しければ黙っているのね」

 女は明日香と律子に脅しをかけるが、残念ながら、明日香はそれで黙るような娘ではない。

「ふざけないでよ! 二人とも解放しなさいよ!」

「うるさいわね! 撃つわよ!」

 女が梛の頭を小突き、律子がびくっと震えた。明日香は強気だ。

「好きにしなさいよ!」

「この……!」

 女が切れかけたとき、テーマパークのスタッフが二人駆け寄ってきた。


「何をしている!」


 律子が「あの、えっと!」と慌てるのに対し、明日香が叫んだ。

「『何している』、じゃないわよ! そこは『どうなさいましたか、お客様』でしょうよ、この偽物!」

 明日香がスタッフの一人を蹴倒した。梛に向いていた銃口が明日香に向かう。梛はその腕を跳ね上げた。空に向かって銃弾が放たれ、銃声が響いた。梛はそのまま女の腕をひねり上げて拘束する。スタッフ二人は明日香がのしていた。

「なんだ! どうした!」

「あー……」

 本物のスタッフが駆けつけてきて、梛はこれは説教コースだな、と確信した。















「誘拐防いだのに……」

「まあ、あのスタッフさん、骨折れてましたし……」

 テーマパークの管理事務所でこってり説教されてうなだれる明日香に、律子がなだめようと思ったのかそんなことを口にするが、フォローになってない。

 一応、誘拐は本当だった。あの女の子の母親が目を離したすきに連れていかれたようだ。女の子は『おばさん』と女を呼んでいたが、前から面識があったため、ついて行ってしまったらしい。計画的犯行だった。

 梛たちは成り行きで巻き込まれただけなので、後はお任せして説教を受けて解放された。本当は遊覧船で夕食のはずだったのだが、乗りそびれてしまった。

 もう仕方ないからパーク内のレストランで晩御飯にしようということになった。パスタをフォークで巻き取りながら、律子がふと尋ねた。

「そういえば梛ちゃん、あの子の目を覗き込んでましたけど、何かあったんですか」

「ああ……魔眼だな、と思ったんだ」

「魔眼?」

 首を傾げた律子に、明日香が「梛の目も魔眼だよね」とこそっと言った。梛は「そうだね」とうなずいた。

「魔眼と言うのは体質だからね。この頃はあまり見ないけれど、なくなったわけではないんだね。おそらく、千里眼の一種だと思うよ」

 見ただけでわかる魔眼は、今となってはめったにない。梛も同系統の魔眼だったからわかったに過ぎなかった。

 魔眼は時代が下るにつれ少なくなり、弱くなっている。梛の持つ千里眼・水鏡は、当代に残る魔眼の中でも、かなり強力な部類になるだろう。

「あの子はそのせいで連れ去られたのかな」

「おそらくね。私が目を覗き込んだら脅してきたわけだし」

 しれっと言ってのける梛に、明日香は顔をしかめた。

「梛……あたしら、本当に怖かったんだからね。撃たれるんじゃないかって」

「私だって怖くなかったわけではないよ。でもまあ、あの女に至近距離で人を撃つ覚悟があるとも思えなかったけど」

 だが、心配させてしまったのは事実だし、心配してくれるくらいには仲良くできているのだな、と思うと、梛は少しうれしかった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつだけだ。

梛は撃てる女。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ