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番外編【3】













 夜の街を駆けるのも久々だ。妖魔狩りを楽しむつもりはないが、戻ってきた、と言う感じがする。路地裏を駆けて追い越しざまに狼のような妖魔を斬った。刀を振って鞘に納める。


「おう。相変わらず速いな……」

「俺とか、戦闘員じゃないんだから手加減してよね……」

土御門つちみかどさんも『陽炎』でしょ」


 苦笑して梛は振り返った。本日の相棒は同級生の涼介と陰陽師の土御門だ。ちなみに、土御門は依織の兄弟子にあたる。妹弟子は『朧』所属だが、彼は『陽炎』所属のれっきとした戦闘員だ。そうは言いながら依織の方が強かったりするので、配属基準は謎だ。

「まあそうなんだけど……試験終わったから、梛ちゃんも絶好調だね」

「あとは結果を待つだけだからね。式部君は推薦組だっけ」

「一応な。お前の代わりに振り回された感があるんだけど」

 涼介から苦情をもらったが、梛は笑って受け流した。誰かが諸事情で抜けて、他の誰かが代理に出ることはよくあることなのだ。

「時の流れってのは早いな……卒業式いつ?」

「それは明後日だけど、見に来なくていいからね」

「俺は行かないけど、透一郎は行きそうだな」

「来なくていいよ」

「梛ちゃん、ちょっと透一郎に対して父親に対する対応してない?」

 土御門がいぶかしむように言った。そこまではいかないと思うのだが。晴季にとっては透一郎は父親代わりだが、梛は透一郎を父親と思うには年が近すぎる。まあ、兄にしては離れているほうだが。


「透一郎さんって、水無瀬そっくりのお兄さんだろ。めちゃくちゃ強かったらしいな」

 涼介が戦ってみたかったなぁ、とつぶやく。彼の弟弟子はかなりやんちゃで粋がっていたが、彼も戦闘狂的なところがあるのだろうか。

「めちゃくちゃそっくりなのは否定しないけど。まあ、今は私の方が強いね。おそらく」

 試合形式なら負けないだろう。殺し合いなら、ちょっとわからないが。土御門が「お前が基準じゃわかんねえよ」と突っ込んだ。


「ま、弘暉と祐真と彰次が三人がかりで勝てないくらいには強かったな」

「……それは人間なのか?」


 土御門の言葉に、涼介はいぶかしむように尋ねた。まあ、梛もちょっと思ったことなので、反論はしなかった。

「さて。次に行こう」

 土御門がそう言って梛と涼介を連れて次の現場に向かった。











 卒業式、透一郎はやってきた。やってきて、教員たちを恐慌状態に陥れた。

「何やってるの、兄さん……」

「ただ妹の卒業式を見に来ただけなんだけど」

 高校まで行くと、卒業式にやってくる保護者は少ない。だが、皆無ではない。透一郎はうまく紛れ込んでいたが、杖をついていたため、彼を知らない生徒や教員に親切にされたらしかった。

「文化祭のことを覚えていないんだろうか」

「少なくとも、梛と同じ顔をしているんだけどね」

 にこりと透一郎は笑って言った。左目に義眼を入れて、見た目には両目があるため、以前よりも梛と似て見えた。


「梛ちゃん、卒業おめでとう」

 相変わらず学校司書をしている香江にも声を掛けられ、梛は「こっちが本命か」となんとなく納得した。卒業証書を持った梛は香江に「ありがとう」と返す。

「よければ写真撮りましょうか」

 律子や明日香も両親が来ているため、側にいない。香江に甘えて、透一郎と写真を撮ってもらった。


「……同じ顔だわ」

「香江」

「香江さん……」


 写真を撮った透一郎の携帯端末の画面をまじまじと眺め、香江は言った。もうそれは聞き飽きた。

「梛ちゃんの制服姿も、見納めね」

 端末を透一郎に帰しながら、香江が言った。香江と高校でもあえなくなる。

「それ、祐真さんにも言われたんだよね」

「祐真ね……あの子も大概、むっつりだよね……」

「ああ、やっぱりあれはむっつりなんだね」

 なんとなくわかっていたが、透一郎の言葉で悟る梛である。透一郎は、余計なことを言ったかな、と苦笑した。香江はそんな兄妹を見て笑っている。

「梛ちゃんは婚約者がむっつりでいいの?」

「ちょっとおっとりしすぎかなとは思うけど。まあ、私の嫌がるようなことはしないからね」

「梛、その全幅の信頼が辛いこともあるんだよ」

 透一郎が梛の肩を叩いて言った。そこに、明日香と律子が駆け寄ってくる。


「梛!」


 その勢いのまま抱き着かれたが、梛の体幹はぶれなかった。そのまま明日香は透一郎を見上げる。

「透一郎さんもこんにちは。今日もかっこいいですね!」

「ありがとう。君が抱き着いてる子も、ほぼ同じ顔だけどね」

 笑って透一郎は明日香の誉め言葉を受け流す。律子もやってきて、透一郎は妹の友人二人にも「おめでとう」を言った。礼を言った後、律子が言う。

「梛ちゃん。クラスの子たちが、写真を撮ろうって」

「行こう行こう!」

 明日香に背中を押されて、梛は制服姿で最後の写真を撮りに行った。


 その夜、晴季が眠った後に、梛は透一郎に相談があると言われ、リビングでお茶を飲んでいた。

「今度、香江と出かけてこようと思うんだけど、いいかな」

 思いがけない相談に、梛は面食らったが、同時になるほどな、と思う。笑って尋ねた。

「泊りがけってことね」

「うん。一泊だね。私の足のこともあるから、それほど遠出はしないつもりだけど」

 聞けば、隣県だった。考える間もなく、梛はうなずく。

「いいんじゃない? 晴季のことは、私が見てる。任務も入れないように調整してもらうよ」

 学校が春休みに入ってからのことだ。香江は学校司書なので、長期休暇中の方が休みを取りやすいのだろう。当然だが、梛も休みなので晴季を見ていることができる。


「……何」


 透一郎が驚いた顔をしているのを見て、梛が眉をひそめた。透一郎は柔く微笑む。

「いや、即答だったなと思って」

 そう言って、透一郎は左手でカップを手に取り、お茶をすすった。梛は逆にカップをテーブルに戻す。

「前だったら相談もしてくれなかっただろうな、と感慨深くはあるね。前の兄さんなら、そもそも出かけるなんて言わなかっただろう」

「……そうだね」

 勝手に自分で決めて、勝手に完結していたのではないかと思う。同じく、梛も言わなかっただろうから、お互い様だが。

「兄さんはもっとわがままになっていいと思うし、あれだけ香江さんを泣かせたのだから、責任とれよ馬鹿兄貴、とも思う」

「急に口が悪くなったね」

「私ももう、子供じゃない。晴季だって、私たちが思っている以上にちゃんと物事をわかってる。外泊くらい、言ってくれれば、行ってらっしゃいって送り出すよ」

「……」

「私からも一つ、相談があるんだけど」

「何かな」

 最近すっかり涙もろいらしい透一郎が、涙をこらえる様子だったのに話しかける。

「私も、明日香や律子ちゃんと卒業旅行に行ってきたいんだけど」

 梛も一泊二日だ。そして、それほど遠出でもない。透一郎と香江よりは遠いが。

「うん。いいんじゃないかな。……君にも、あまり年頃の女の子らしいことをさせてあげられなかったね……」

「いや、兄さんにされたらそれはそれで怖いけれど。でも、まあ、兄さんが香江さんと恋人同士のままだったら、私は香江さんにいろいろ聞いていたのではないかな、とは思うよ」

 実際のところは、困ったときは祐真の母・都に尋ねることが多かったように思う。年上の女友達もいるが、聞くには年が近すぎた。


 一方の透一郎は、梛の言葉にダメージを食らったらしい。ごめん、とうなだれた。さすがに、少し、調子が狂う。

「もういいよ。過去はどんなに祈っても変えられないのだからね。過ぎてしまったことは仕方がない。私にも、そんな余裕はなかっただろうし」

「うん……そうだね……梛、割り切ってるね……」

「兄さんはもういいから立ち直りなよ。香江さん泣かせたらぶん殴りに行くからね」

 半ば本気で言うと、透一郎は「うん」とうなずいた。

「肝に銘じておくよ……」










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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