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声なき声を聞いて【11】













「お前、それ、梛のか?」

「む、わかるか」


 朝食の席での弘暉、依織のカップルの会話である。一応、昨日着てきた服はあるが、季節は夏。もう一度着るのはどうか、となったのだ。昨日のうちに乾燥までしておくべきだった。


「お前がその手のワンピースを持ってるわけないからな」


 その手というのは、まさかのモード系のワンピースである。依織はすっきりとしたデザインの服を着ていることが多い。長身の美女なので、スタイリッシュな感じが似合うのである。梛も同じだが、彼女は鍛えている分、依織より体格がいい。同じようにメンズライク的な服も多いが、体型を隠すような服もいくつかある。これはそのうち一つだ。

「最初はスラックスとシャツを借りたんだが、梛は足が長いな……そんなに身長、変わらないのに」

 不格好というほどではなかったが、裾を引きずりそうだったし、体格が合わなかった。ならばいっそと思って、ワンピースを貸したのだ。

「まあ、私の方が筋肉質だからね……私は依織ちゃんが細くてうらやましいけどね」

 女子っぽくない女子たちの女子っぽい会話に、弘暉と祐真が驚いて見せる。

「お前たちでもそう言うの、気にするんだな……」

 実際に口に出したのは弘暉である。まあ、祐真はおっとりしすぎて口を開けなかっただけかもしれないけど。

「女を捨てた覚えはない」

「なんでそうなるんだよ」


 弘暉、ツッコミに忙しい。


「依織ちゃん、可愛いでしょう。こういう服も似合うから、弘暉さん、選んであげなよ」

「お前も寝て起きたら絶好調だな。余計なお世話だ」

 弘暉のツッコミに、梛が笑う。梛が笑っていることに、祐真も弘暉も心なしか安心したようだった。

「……梛は和服が似合うと思う」

「よく言われるけど、どうしてこのタイミングになったの」

 おっとりしすぎだろう、とツッコミに回る梛。祐真がおっとりと首をかしげる。その隣で、一人ついて行けない晴季も首をかしげていた。さらに依織までもが、「袴姿がりりしくてかわいいよな」とうなずいている。梛は弘暉と顔を見合わせた。


「ずれてる」

「ずれてるなぁ」


 律子が梛と弘暉が似ている、と言っていたが、その通りなのかもしれないと思った。主に、好みの面で。

















 梛はいつも通り晴季と、さらに依織とともに学校へ向かった。今日も封書が入っていたが、弘暉に回収された。この二人は、この後、透一郎に会いに行くのだろう。心配をかけてしまったので、止められない。

 依織の術が働いているので、感知できなかった視線を感じる。わからないことが怖かったので、これなら避けようがある。晴季と初等部の前で別れ、依織とは高等部の前で別れた。

「依織ちゃん、ありがとう」

「ああ。また後で」

 微笑んでモード系ファッションの依織が手を振る。梛も笑顔で振り返したが、依織が梛によく笑いかけるものだから、微妙に弘暉の恨みを買っているのを梛は気づいている。


「あ、梛ちゃん、おはよう」

「おはよう、律子ちゃん」


 珍しく真っ先に声をかけた来たのは律子だった。明日香もその後ろから手を振っている。

「お兄ちゃんが、梛ちゃんのところに泊まったって」

「ああ、うん。祐真さんと依織ちゃんも一緒だったよ」

「何それ、お泊り会? 今、透一郎さんいないよね?」

 明日香も会話に入ってくる。梛はうなずいた。

「ああ、だから、弘暉さんたちも呼んだの」

「あたしたちでもよくない?」

 明日香の言葉に、律子も何度もうなずいた。梛は苦笑する。

「じゃあ、今度、みんなでお泊り会しようか」

「しよう!」

 これは勉強合宿になりそうだな、と思った。


 いつも通り授業を終えての帰り際。校門のあたりが騒がしいことに気づいた。主に騒いでいるのは女子生徒たちで。

「ああ、梛」

「何してるの、祐真さん」

 待ち人は祐真だった。待たれていたのは梛だった。明日香が「さすがに梛が相手だとぐうの音も出ないみたいねぇ」と感心したようにつぶやいた。祐真はいつも通りのおっとりした態度でうなずいた。

「うん」

「いや、うん、じゃわからないよ」

 思わずツッコミを入れると、手を取られた。

「梛を待っていた」

「見ればわかるよ」

「そうか。では行こう」

 いや、どこへ? 祐真が思慮深い性格なのは知っているが、結果だけを口にするのはやめてほしい。付き合いがそこそこ長いので、ある程度思考を理解できるが、限度というものがあるのだ。


「一緒に来てくれ」


 真剣に、真顔で言われ、梛は「わかった……」とうなずいた。背後で女子生徒たちが「きゃー!」と悲鳴を上げる。

「美男美女! 眼福!」

 これ、絶対明日香が言った。手をつないで、というより引っ張られて学校から離れる。喧騒から離れたところで、梛はもう一度聞いた。

「で、どこに行くの?」

「ああ。デートをしよう」

 きっぱりと言った祐真を見上げ、そのわずかに微笑んだ顔を見る。たぶん、ストーカー対策……というより、もはや捕まえてしまおう、という気概が見える。つまり、これはおとり捜査。我々には服務規定がない、と言ったのは弘暉だったか。彼の言ったことを、そのまま採用するのだ。


 梛はするりと祐真に身を寄せた。どこでストーカーが見ているかわからないので、彼だけに聞こえる声量で尋ねる。

「いいの?」

「ああ。大丈夫だ」

 そりゃあ、祐真がストーカーごときにどうにかされるとは思っていないが、楽しいことではない。大丈夫だ、と梛の頬を撫でた祐真に、梛も目を細めた。

「ありがとう」

 祐真自身も面白くはないから、さっさと片付けてしまおうということなのだろう。まさか昨日の今日でこうなるとは、思い立ったが吉日、とも確かに言うが。

「祐真さん」

「なんだ?」

「さすがに制服を着替えたい……」

 制服デートと言うものもあるが、それはカップルが二人とも制服だから成り立つのではないかと思う。その限りではないかもしれないが。祐真が制服の方がいいという変態なのならあきらめるが、彼はむっつりであっても変態ではないだろうと思っている。

「……そうだな」

 祐真は梛に同意した。祐真がどれだけ正統派美男子で優男だったとしても、女子高生の格好をした少女を連れ歩けば目立つ。私服を着れば、梛は大人びているから、ひとまず女子高生と成人男性が歩いているという犯罪っぽさからは解放される。


 ミモレ丈のフレアスカートに、ブラウス。いつもよりかわいらしい装いで、いつもより祐真に甘えて見せる。梛のキャラではないが、おとりなのなら犯人をあおるくらいの方がよい。

「ついてきてる……?」

「おそらく」

 認識阻害は依織の術のおかげで緩和されているが、呪符を取り上げない限りは完全に認識できない。梛は千里眼・水鏡のおかげで朧げに見えているが、視認したくないというのが心情で、それが正確な認識を阻害している。

 だが、ついてきているのは確かなようだ。祐真が飲み終わったドリンクのカップを取り上げる。それをゴミ箱に捨てながら、彼は言った。

「ひきつけるぞ。梛、絶対に守るから、信じてくれ」

「……うん。信じてるよ」

 祐真の手を取って手をつなぐ。甘えるようなしぐさに見えただろう。祐真がかすかに微笑んだ。

 二人はそのまま小路に入った。格段に人が少なくなる。梛は祐真の手を強く握った。大丈夫だ、というように祐真が梛の手を軽くたたいた。その時である。

「彼女から離れろ!」

 背後から声がかかった。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


さわやかイケメン風な梛と、正統派美女の依織でした。二人とも長身に設定してしまったので、差を出さなければならない……。


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