「迫る影」
準備が進む中、タクマが険しい表情で駆け込んできた。
「大変です。評議会の動きが活発化しています」
蓮は端末に目をやった。
「具体的には」
「複数の都市で不審な部隊の展開が確認されています」
タクマは資料を示した。
「規模から見て、単なる警戒態勢ではなさそうです」
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エマが険しい表情で付け加えた。
「国際仲裁機関にも緊張が走っているようです。マリアさんから緊急の連絡が入っています」
蓮は端末を操作し通信を繋いだ。
マリアの声には隠しきれない焦りがあった。
「蓮さん、評議会が正式な声明を出しました」
「内容は」
蓮が聞いた。
「均衡を乱す存在への警告、とだけ」
マリアは答えた。
「具体的な対象は明示されていませんがあなたたちのことだと思われます」
マリアは声を落として続けた。
「国際仲裁機関としても、今後の対応を検討しています。ですが正直、評議会相手にどこまでできるか」
「無理はしないでください」
蓮は答えた。
「こちらのことは、こちらで対処します」
「そう言うと思いました」
マリアは静かに続けた。
「ですが、何かあればすぐに連絡を。できる限りの支援はします」
「ありがとうございます」
蓮は通信を切った後、長く息を吐いた。
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ルシアが緊張した面持ちで言った。
「私たちの動きに勘づいたということね」
「保管庫の一件が知られたのかもしれない」
カインが低く言った。
「それとももっと前から目をつけられていたか」
蓮はしばらく考え込んだ後、静かに言った。
「どちらにせよ、時間は限られている」
彼は仲間たちを見渡した。
「封印装置の完成を急ごう」
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ジェイクが端末を確認しながら報告した。
「装置の基礎部分は完成しています。ですが起動にはまだ調整が必要です」
「どれくらいかかる」
「最短であと二日」
ジェイクは答えた。
「その間守り切れるか」
蓮は険しい表情でエマを見た。
「隠れ家の防衛を固めます」
エマは即座に答えた。
「ローレン、装備の最終確認を急いで」
「了解です」
ローレンが動き出した。
タクマが不安そうな表情を浮かべた。
「二日、持ちこたえられるでしょうか」
「持ちこたえるしかない」
蓮は静かに答えた。
「父が命をかけて残したものだ。ここで諦めるわけにはいかない」
ミナが端末を握りしめながら言った。
「私にできることがあれば、何でも言ってください」
「頼りにしている」
灯が彼女の肩に優しく手を置いた。
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その夜、隠れ家の周囲に異変が起きた。
見張りに立っていたクロが緊張した声で叫んだ。
「囲まれてる」
全員が武器を手に取った。
蓮が窓の外を確認すると白い装束の一団が遠巻きに隠れ家を取り囲んでいた。
「評議会の部隊か」
彼は低く呟いた。
先頭に立つ人影がゆっくりと前に進み出た。
仮面をつけた、あの使者だった。
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「工藤蓮」
仮面の人物の声が響いた。
「お前たちが持ち出した情報を返してもらう」
蓮は前に出た。
「渡すつもりはない」
「それなら、力ずくで奪うだけだ」
仮面の人物は静かに告げた。
その言葉と同時に周囲の部隊が一斉に動き出した。
「来るぞ」
ゼノンが武器を構えた。
「全員、持ち場につけ」
蓮は叫んだ。
ゼノンとカインが顔を見合わせた。
「久しぶりの共闘だな」
ゼノンが小さく笑った。
「悪くない」
カインも短く応じた。
二人は背中合わせに立ち、迫る部隊を見据えた。
ルシアが手早く端末を操作し、隠れ家の防壁を展開させた。
「これで、正面からの侵入は多少防げるはず」
「ありがとう」
エマが答えた。
タクマは装置の最終調整を続けながら叫んだ。
「絶対に、ここは死守してください」
「わかっている」
蓮は短く答え、武器を構えた。
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戦闘が始まった。
クロとゼノンが前線で敵の進行を食い止め、エマとローレンが後方から援護した。
カインも自らの知識を活かし、部隊の弱点を的確に指摘した。
「右翼の連携が薄い。そこを突けば崩せる」
「了解だ」
クロが素早く反応し、指示された箇所へと切り込んだ。
ルシアも制御端末を操作し、隠れ家周辺の防衛システムを最大限に活用した。
「これで時間は稼げるはず」
彼女は険しい表情で言った。
クロが敵の一団を切り伏せながら叫んだ。
「思ったより数が多いな」
「後方にも増援がいる」
ゼノンが冷静に状況を分析した。
「長期戦は不利だ。できるだけ早く数を減らす」
「了解だ」
クロは頷き、更に前へと踏み込んだ。
エマが端末で戦況を把握しながら指示を飛ばした。
「東側の防壁が薄くなっています。ローレン、補強を」
「向かいます」
ローレンが即座に動いた。
隠れ家全体が、一つの生き物のように連携して敵の猛攻を凌いでいった。
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蓮は仮面の人物と対峙していた。
「装置の情報を渡せば、それで終わりか」
蓮が聞いた。
「終わりはしない」
仮面の人物は静かに答えた。
「均衡を乱そうとする者はいずれ全て正される」
「正される、というのは処分のことか」
蓮は鋭く聞いた。
「言葉の意味はお前の解釈に任せる」
仮面の人物はそう言うと静かに武器のようなものを構えた。
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その武器から放たれた光の刃が蓮に向かって迫った。
彼はかろうじてそれをかわした。
「これが評議会の力か」
彼は息を呑んだ。
「見誤るなよ」
仮面の人物は淡々と告げた。
「これは末端の力に過ぎない」
蓮は歯を食いしばりながら体勢を立て直した。
ミオが静かに彼の隣に現れた。
『一人で戦わせません』
彼女の力が蓮の周囲に淡い光を纏わせた。
「この光は」
蓮は自分の体を包む温かい感覚に驚いた。
『レイヤー・ゼロで得た力の一部です』
ミオは静かに答えた。
『少しでも、あなたの助けになれば』
仮面の人物がその光を見て僅かに反応した。
「地下知性体の力か。興味深い」
「興味本位で近づくな」
蓮は鋭く言い返した。
彼は光を纏った拳を強く握りしめた。
先ほどよりも、体が軽く感じられた。
「もう一度だ」
彼は仮面の人物へと踏み込んだ。
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灯もまた前に進み出た。
「私も戦います」
「危険だ」
蓮が制止しようとした。
「兄さん一人に任せられません」
灯は真っ直ぐに仮面の人物を見据えた。
「私たちはもう逃げも隠れもしません」
その言葉に仮面の人物が僅かに反応した。
「灯という娘か。均衡を語る器としては興味深い存在だ」
「私は器なんかじゃない」
灯は静かにしかし力強く答えた。
「私は私です」
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戦況は膠着していたが隠れ家の防衛は着実に敵の攻勢を凌いでいた。
タクマが叫んだ。
「装置の起動準備、あと少しで完了します」
「時間を稼げ」
蓮は仲間たちに向けて叫んだ。
クロとゼノンが更に激しく敵を押し返していく。
カインが最後の一人まで指揮を執り続けた。
長い夜の戦いが静かに決着へと向かい始めていた。
蓮は肩で息をしながらも、仮面の人物から目を離さなかった。
「あと少しだ」
彼は低く呟いた。
灯とミオが並んで立ち、静かに戦況を見守っていた。
「兄さんたちなら、きっと乗り越えられます」
灯は自分に言い聞かせるように呟いた。
『そうですね』
ミオも静かに頷いた。
夜空の下、隠れ家を巡る攻防はなおも続いていた。
タクマの声が再び響いた。
「あと少しです、持ちこたえてください」
その声に応えるように、仲間たちの動きにさらなる力が宿った。
蓮は仮面の人物を見据えたまま、静かに息を整えた。
決着の時が、確実に近づいていた。
隠れ家全体を包む緊張が、最後の局面へと収束していくのを誰もが感じ取っていた。
タクマの端末に、装置の起動準備完了を示す光が灯った。
その瞬間が、静かに、しかし確実に近づいていた。
長い夜はまだ終わらない。だが、確かな希望の光が、闇の向こうに見え始めていた。
蓮は最後の力を振り絞り、仮面の人物へと向き直った。
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第99話 完




